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04.欲望だらけの皇帝陛下

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 剥いだ上掛けは、誰が見ている訳でもないのに冷静さを装いながら、フワリとヴィヴィの身体の上に戻し、そしてランヴァルドは視線を背けた。

 記憶にあるムチムチポンポン時代から、ずいぶんと成長したな。 感無量と言うやつだ。

 等と冷静さを演じてはいるが、股間の部分が明らかに熱を持っていた。 自らの反応にガキかよ!! と自嘲しつつ苦々しい思いで頭を冷やすようにピッチャーに入った水を頭から勢いよくかぶる。

 それでも……可愛かった、綺麗だった!!

 大人と言うには未熟すぎるが、女性として十二分に魅力的に思えた。 抱けるかと問われれば、当たり前だと答える……いや、むしろ、やらせてくださいと土下座してもいい!!

 生まれた瞬間から愛している。
 だが、性的欲求を覚えたのは初めてだった。

 正直、この14年枯れ果ててしまったかと思っていましたとも……。 まぁ、欲はないが出来ないかと言えば、出来ない訳ではなかったが、適当な女を抱いた手でヴィヴィに触れるのは抵抗がありストイックな生活を送ってきていた。

 アレベントソン伯爵夫人は、俺に起こった状況を『神の呪い』だと言ったが、それでも俺自身が幸福なのだから問題はない。

「もう……子供ではないんだな」

 溜息交じりにつぶやけば、声に反応したのか布団の中のヴィヴィがモゾモゾと動き出す。

 可愛い……。

 そう思う反面、少女らしくも未熟な裸体を思いだし、頭に血が上る。

 未熟さゆえの美しさ。
 そして愛らしい無邪気な寝顔。

 刺激を与えれば、その顔がどう喜びに歪み、甘い声で鳴くのだろうか?

 いやいやいやいや、落ち着け俺!! 何れ妻として迎えるにしても、相手は未だ子供だ。 だけど……10や12歳で嫁ぐ国とかも……ダメだ、他所は他所、うちはうちだ!!

 幾ら欲望を否定しても、ヴィヴィの姿は脳裏に焼き付いていた。

 骨格は未だ少女のものだが、白い肌は美しく、さわり心地良さそうな肌をしていた。 胸の膨らみは控えめではあるが、とても柔らかそうで、口に含めば砂糖菓子のように甘いのでは? と思ってしまうほど愛らしい。 華奢なウエスト、女性と言うには未熟な尻周り。

 むしゃぶりつきたいほどに欲情が刺激された。

 はぁ……。

 ベッドの脇に腰を下ろして片手で顔を覆う。

 大丈夫、鼻血は出ていない。
 少しばかり間抜けな確認。

 父親よりも過保護だった自覚はあった。 兄よりも懐かれている自身はある。 余りにも大切過ぎて女性として見ることはないのでは? と思っていたが……シッカリと欲情している自分に、安堵するやら困るやら。

 触れたい……。

 ヴィヴィの肌を連想させる月を眺めて溜息をつき、遠くを眺めてしまう。

「誰?」

 怯えた声が聞こえた。

 やばい!! そう思ったが……いや、少しばかり覗き見をしてしまったが、後ろめたいことは想像で抑えている。 大丈夫セーフだ!

「俺だ」

 静かに少しだけ恰好つけた感じの言い方をする自分に苦笑した。

「陛下!!」

 嬉しそうな声と共に、ためらうことなくヴィヴィは上掛けを退け、柔らかなベッドの上をピョンとウサギのようにランヴァルドの側まで移動し抱き着いてくる……全裸で……。

 月明かりの元バッチリと裸体を見てしまったランヴァルドは、抱きついてくるヴィヴィを抱きしめながらも、その体に視線を向けないよう気遣い、欲情を覚えた下半身を気付かれぬように少しばかり不自然な態勢でヴィヴィを抱きしめた。

「陛下、お酒臭い……」

 ムッとした様子でみあげられて、不満を告げられているのに頬が緩みそうになるのを引き締めた。

「悪い」

「陛下、髪が濡れている。 何かあったの? えっとタオル? あっ、お風呂沸かしてって言ってくる!」

 全裸のままで廊下へと続く扉に向かおうとするヴィヴィの腕をつかみ引き寄せ抱きしめる。

「その恰好でどこに行く」

「お風呂の用意をしてもらうの……、えっと、怒ってる?」

 何故と言う疑問が表情から読みとれた。 無邪気なのは可愛いが、これは困る。

「あ~~~、そうだな……その恰好を他の奴等に見せたら怒るな」

 ランヴァルドの言葉に、分かりやすくショックを表すヴィヴィと、ヴィヴィの反応に戸惑うランヴァルド。

「えっ? ヴィヴィは誰の前でも脱ぐのか?」

「ペスとか、アンナとか、いろんな人にお風呂で面倒見て貰ってる……あと、難しいドレスを着るときとか」

「ぇ、ぁ、あぁなるほど、侍女はいい。 だが男はダメだ。 ヴィヴィの裸を俺以外の男が、世話役以外の女もだな……。 もしヴィヴィの裸を許された人間以外が見たなら、ソイツの目を潰し、唇を縫いあわせ、指を切り落とす」

 色素の薄いランヴァルドの瞳が月明かりに怪しく光り、ヴィヴィは戸惑い怯えた。

「大丈夫、ヴィヴィが気をつけて生きさえすれば、無暗に不幸になる奴が増えることはないさ」

「うん……冗談だよね?」

「なぜ、そう思う?」

 全裸にも拘らず、膝の上に何時ものように陣取って座るヴィヴィの身体になるべく触れないように気を付けていた。

「唇を縫い合わされたら、ご飯が食べられないから死んでしまうもの」

 別に死んでも構わない……と思いながら、ピンク色のヴィヴィの唇へと視線が釘付けになった。 いやいや……ダメだろう……。

 ランヴァルドは密かに深呼吸を繰り返す。

「柔らかな食事なら、鼻から入れればいい。 だが、そんな心配よりも、裸を人に見せるな」

「うん、わかった……」

 そう告げるヴィヴィは、目覚めたばかりの頃の元気は失せ、チラチラと顔色を伺ってきているのが気にかかった。 脅し過ぎたか? そう思いながらも、素知らぬ顔で聞いてみる。

「どうした? 何かいいたそうだが」

「その……陛下は……愛妾に招かれた方が、お好きだから……私が嫌になったから、ご挨拶のキスをしてくれないのですか?」

 いえ、襲ってしまいそうだからです!!
 理性を保つためです!!

 なんて言える訳ない。

 だが、決して、そんな悲しい顔をさせるためでは……。

「そんなことは無い、ヴィヴィのことを世界で一番愛しているよ」

 笑顔は苦手だが、なるべく甘い声で囁いて見せる。

「なら、どうして……」

 不安なのは分かるが、何を言いたいのかわからなくて困ってしまう。

「ん?」

「愛妾は陛下の愛情を受けるために存在だって……」

 誰がそんなことを言ったのだと思えばイラついた。 王宮内に新入りが増えた以上、ヴィヴィを傷つける言葉を吐くものもいる可能性は配慮するべきなのかもしれない。 頬や額に何度も啄むようなキスをしていたが、良からぬことを考えていたのが悪かったのか、沈んだ声で謝られた。

「ごめんなさい……」

 大きな夕暮れ時のような瞳に水が溜まる。 何があった?! いや、俺は何をしてしまったんだ! 誰か助けてくれ! いや、今来られてもまずいが。

「なぜ、謝る」

「……」

「言うんだ」

「怒ってる」

「ぇ? いや、別に怒ってはいないが? あ……少しばかり忙しくてな、本当なら仕事を片付けてから来ればよかったんだが、どうしてもヴィヴィに会いたかったんだ」

 胸に触れないように、かつて可愛いムチムチポンポンを触れれば、柔らかな薄い肉がサラリと触り心地よかった。

 ぁ、ダメだ……俺……。

「本当?」

「あぁ、本当だとも」

 そう告げれば、ようやく笑ったが、俺は上手く笑えている気がしない。

 嫉妬に拗ねる様子も。
 触れる体温も、柔らかな肉も、滑らかな肌も、甘い声も……欲情を刺激してくる。

「その……相談に、乗ってくれるか?」

 呼吸が荒くなり、気付かれたのでは?と、ヴィヴィを見る。

「相談?」

「そう……少し大人の話だし、絶対に秘密にしなければいけない。 ヴィヴィが、そこまで大人かを確かめさせてもらう必要があるが……大人だと納得できれば、俺はヴィヴィに大事な秘密を相談できて、きっと心が軽くなるはずなんだが……テストを受けてくれるか?」

 ヴィヴィが嬉しそうにニコニコしながら首を上下に動かした。

 あぁ、可愛いな。
 それに比べて……俺は……。

「ヴィヴィ、今からのテストも、仕事の相談も、全部、例えペスと言えど内緒だぞ?」

「はい」

「なら、目を閉じてくれ」

 大人しく目を閉ざしたヴィヴィの唇に口づけた。 卑怯なやり方だとは分かってはいるが……耐えられ無かった。 口づけぐらいなら神も許してくれるだろう。

 チュッと触れ、唇を舐めれば、良い香りがした。 ソレを堪能しようと口づけを深くしようとすれば、ヴィヴィが身を引き逃げる。

「ヴィヴィは、やっぱり秘密を守るのは無理か?」

 甘く優しく耳元で囁けば。

 真っ赤な顔で首を横に振った。 口づけの意味は知っているらしい。

 再び口づけ唇を舌でこじ開けようとすれば、甘く開かれた唇は想像したよりも下端にランヴァルドを受け入れた。 そっと歯列を舐めれば擽ったそうに身をよじった。 舌先でヴィヴィの舌先を舐めれば甘い声が漏れた。 軽く舌先を吸い、舐め、甘く歯を当てる。 こぼれる声は何処までも甘く、生まれたときから知っているヴィヴィの知らない一面に心が震える。

 抱きしめた小さな身体に熱が持つ、柔らかな肌にジワリと汗が滲んでいく。 そっと肌にふれれば、

「ぁっ」

 身体が逃げようとする。

「悪い……」

 真っ赤な泣きそうな顔で首を横に数回振って見せ、そして俯いてしまった。

「その……愛妾の人にも……」

「相談とはソレなんだが」

「はい……」

 詳しく事実を話す訳にもいかない……。

「アレは凄く悪い女なんだ。 人をだまして王宮に入り込み、俺を脅してきた。 普通なら、処罰して終わりなんだが、南方連合6か国との関与をちらつかせ、また脅す」

「陛下を虐めるなんて!! 私が叱ってあげます」

「ちょっとまて、服を着ようか! ではなく、俺すら手玉に取るような悪女だぞ? ヴィヴィなんてころころころ~んだ。 だが、なぜ脅してまで近寄ったのか? と言う理由がわからない」

「陛下がお好きだからでは?」

「好きなら嫌われるようなことをしないだろう?」

「……なるほど……」

「そこまでして近寄ってきた理由はなんだ? と、今は調査中なのだが。 アレを愛妾として迎えたのは俺の意思ではなく、今は油断させて泳がせている最中なんだ。 とにかく、危険な女だから近寄るなよ!」

「でも……」

「残念なことに社交界にアレの味方をする者は多い。 近寄ればきっとイヤな思いをするだろう。 だから、気を付けてくれ、避けてくれ」

「はい」

 ヴィヴィは神妙な顔でうなずいた。



 そして……翌朝、ヴィヴィの部屋で眠ったランヴァルドは、侍女達に盛大に睨まれる事になるのだが、王の寝室の横、本来であればヴィヴィのための部屋にベントソン伯爵夫人が居座ってしまった事を聞けば、侍女はヴィヴィとの添い寝を溜息交じりに了承するのだった。

 ただし、手出しできないように一晩中見張りがつけられるが……。



 散々、ベントソン伯爵夫人に近寄るなと言われた2日後、ヴィヴィはベントソン伯爵夫人からお茶の誘いを受けることになる。
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