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11.揺れる乙女心は、風前の灯火?
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ラナはブラッドリーの膝の上に乗せられ、抱き支えられていた。
馬車の振動からは逃れたけれど……ローブ越しに感じるブラッドリーの身体を想像してしまい……ヤバイ。
「一人で、大丈夫です」
「フラフラな状態で、そんな訳がありませんよね? それほど時間はかかりませんから、大人しくしていてください」
アンナ姿を見ても、それでも……こんな風に優しくされれば、隠したはずの恋心が顔を出してきて……好きだなって……幸せだなって、当たり前のように身を任せてしまうのだ。
「ぁ……」
「どうかなさいましたか?」
「ブラッドリー?」
「なんでございましょう、お嬢様」
「何時もと、匂いが違う……」
何時も身にまとっているのは微かな香りで、今日は妙な癖のある匂いだった。 そう言えば、過去にも何度かそう言う事があったような気がする。
「そうですか?」
こんなにも分かりやすく違うのに、まるで気のせいだとでも言わんばかりにサラリとながしてきた。 ジッとブラッドリーを見れば、怪しく目元が笑って見せ……視線を背けなければ、私の身体を落とさないよう密着させ、右手で頬を撫で、顔を寄せて来た。
「気のせいですよ」
頬を撫でる手がユックリと下がり首に触れ、筋張った指先が首にまとわりつくように回された。
薬のせいなのだろう……力など欠片も入れられていないのに、息苦しさを感じてしまう。
「泣かないで下さいお嬢様。 危険は去りました」
頭の中がボンヤリとしている。
きっと色々と考えているせいだ。
殿下と呼ばれていた巨体の男が、ブラッドリーに怯えて居た。 自分は偉くて愛されていて当然だと言っていた男がだ……。
「あの……」
「なんでしょうか、お嬢様」
聞いてはいけない……。
脳裏でそんな言葉を繰り返していたのに、私は口に出してしまう。
「さっきの人は知り合いなの? いいの? あんなことをして……」
「何のことでございましょう?」
飄々とした声と表情に……私は諦めた。
そう、踏み入って良い訳がない。 そう言う配慮も出来ずに何が商売人だ!! と、自分に言い聞かせた。
聞かない方がいい。
聞かない方がいい。
「気になさらないで下さい。 ただ、私より先に生まれただけの姑息な無能者ですよ。 居なくなったと知られれば、国を挙げて祝いをあげられるような……そんなツマラナイ存在です」
ニヤリと嬉しそうにブラッドリーがいい。 その、危険な無邪気さが……あの巨体で子供のように幼く見える醜悪な存在に、似ていると思ったから……私自身驚き……そして考えてはいけないのだと自分に幾度となく言い聞かせた。
「それより、お嬢様は平気ですか?」
「えぇ……ドレスはダメにされたし、オカシな薬を飲まされはしたけれど、ケガはないわ」
「何も、されませんでしたか?」
「どうかしら? 良く覚えていないわ……それに……」
私は少しだけ深刻な表情を浮かべ、声を潜めて言う。
「あの人達は、もういないのでしょう。 それは、何も無かったも同じよ」
それに対するブラッドリーの返事はなく……馬車は進む。
そして、小振りとも言える、書斎をそのまま家にしたような小振りな屋敷へと連れてこられた。 ラナは姫抱きされたまま馬車を降りれば、見た事もない御者が恭しく頭を下げる。
「お嬢様の身体を温めるため、湯の準備を」
「了解いたしました」
男は恭しく頭を下げそして先に建物へと入って行った。
清潔で実務的な部屋のソファに下ろされる。
そこは明らかに高い地位にあるものの雰囲気を纏っていた。
「ブラッドリー、私、とてもつかれているの」
「そうでしょうともお嬢様」
何時もなら、言葉にせずとも私の要求を……その恋心に応じる以外の事だったら、なんだって言葉にせずとも察してくれるのに。 もう眠ってしまいたいのだと言う単純な願いすら気づいてくれない……。
声を少しだけ荒げて強要してみようか?
そう考えながら、ブラッドリーの様子を伺えば鋭い視線のまま、僅かに口角を上げ私を見ている。
そんな表情なんて、私は知らない。
「申し訳ございませんが、お嬢様の身に万が一の事がないか確認させて頂きます。 お休みになるのはその後になさってください。 万が一の事があればすぐに医師を招かねばいけませんから」
「ケガは無いと言っているでしょう」
呆れるように言えば……果実酒を薄めたものが渡された。 果実酒と言っても甘い訳ではないのだから成人を迎えた後も好んで飲む事は無いない。 それでも、今日は色々と嫌な事があり過ぎて、飲んで眠って忘れるには丁度良いかと、一気に飲み干した。
「薄くて酔えそうにないわ」
「今から、お風呂に入るのに酔ってどうするのですか?」
「ぇ?」
「身体を清め、その身に万が一の事が無いかチェックするのには丁度良いでしょう?」
「そう……早く、して欲しいものだわ……」
ブラッドリーへの恐怖は消えたわけではない。
ブラッドリーへの恋心も失った訳ではない。
自分が諦めようと決意する以前なら、そこに関係性の変化を期待したはず。 でもね……どうせ、どうせ……美人で優し気な侍女が出てくるのよ……分かっているんだから。
ブラッドリーは数えきれないほど、ラナの期待を裏切っていて……ラナと言えば、
どうせ、どうせ、何時ものパターンでしょう。 わかっているんだから。 そんな事を考えながら拗ね……そして敏感になる身体をどう誤魔化すべきか……まさかケガと勘違いなんてないですよね? 等と考えていた。
小振りな屋敷の割に広い浴室だった。 ブラッドリーの身体は大きい方だし、地位と権力と実績を持っている人なら広い風呂があっても不思議ではない。
まぁ、それはいい……
「ぇ?」
私は、もう一度、今度は声に出して疑問と困惑を音にした。
可動式の広い背もたれ、肘置きがついた最低限の骨格しか要していない大きな椅子にラナは全裸で座らせられていた。
「なぜ……」
「それは、僭越ながら、私がお嬢様の身体をお調べし、清めさせていただくからですよ」
馬車の振動からは逃れたけれど……ローブ越しに感じるブラッドリーの身体を想像してしまい……ヤバイ。
「一人で、大丈夫です」
「フラフラな状態で、そんな訳がありませんよね? それほど時間はかかりませんから、大人しくしていてください」
アンナ姿を見ても、それでも……こんな風に優しくされれば、隠したはずの恋心が顔を出してきて……好きだなって……幸せだなって、当たり前のように身を任せてしまうのだ。
「ぁ……」
「どうかなさいましたか?」
「ブラッドリー?」
「なんでございましょう、お嬢様」
「何時もと、匂いが違う……」
何時も身にまとっているのは微かな香りで、今日は妙な癖のある匂いだった。 そう言えば、過去にも何度かそう言う事があったような気がする。
「そうですか?」
こんなにも分かりやすく違うのに、まるで気のせいだとでも言わんばかりにサラリとながしてきた。 ジッとブラッドリーを見れば、怪しく目元が笑って見せ……視線を背けなければ、私の身体を落とさないよう密着させ、右手で頬を撫で、顔を寄せて来た。
「気のせいですよ」
頬を撫でる手がユックリと下がり首に触れ、筋張った指先が首にまとわりつくように回された。
薬のせいなのだろう……力など欠片も入れられていないのに、息苦しさを感じてしまう。
「泣かないで下さいお嬢様。 危険は去りました」
頭の中がボンヤリとしている。
きっと色々と考えているせいだ。
殿下と呼ばれていた巨体の男が、ブラッドリーに怯えて居た。 自分は偉くて愛されていて当然だと言っていた男がだ……。
「あの……」
「なんでしょうか、お嬢様」
聞いてはいけない……。
脳裏でそんな言葉を繰り返していたのに、私は口に出してしまう。
「さっきの人は知り合いなの? いいの? あんなことをして……」
「何のことでございましょう?」
飄々とした声と表情に……私は諦めた。
そう、踏み入って良い訳がない。 そう言う配慮も出来ずに何が商売人だ!! と、自分に言い聞かせた。
聞かない方がいい。
聞かない方がいい。
「気になさらないで下さい。 ただ、私より先に生まれただけの姑息な無能者ですよ。 居なくなったと知られれば、国を挙げて祝いをあげられるような……そんなツマラナイ存在です」
ニヤリと嬉しそうにブラッドリーがいい。 その、危険な無邪気さが……あの巨体で子供のように幼く見える醜悪な存在に、似ていると思ったから……私自身驚き……そして考えてはいけないのだと自分に幾度となく言い聞かせた。
「それより、お嬢様は平気ですか?」
「えぇ……ドレスはダメにされたし、オカシな薬を飲まされはしたけれど、ケガはないわ」
「何も、されませんでしたか?」
「どうかしら? 良く覚えていないわ……それに……」
私は少しだけ深刻な表情を浮かべ、声を潜めて言う。
「あの人達は、もういないのでしょう。 それは、何も無かったも同じよ」
それに対するブラッドリーの返事はなく……馬車は進む。
そして、小振りとも言える、書斎をそのまま家にしたような小振りな屋敷へと連れてこられた。 ラナは姫抱きされたまま馬車を降りれば、見た事もない御者が恭しく頭を下げる。
「お嬢様の身体を温めるため、湯の準備を」
「了解いたしました」
男は恭しく頭を下げそして先に建物へと入って行った。
清潔で実務的な部屋のソファに下ろされる。
そこは明らかに高い地位にあるものの雰囲気を纏っていた。
「ブラッドリー、私、とてもつかれているの」
「そうでしょうともお嬢様」
何時もなら、言葉にせずとも私の要求を……その恋心に応じる以外の事だったら、なんだって言葉にせずとも察してくれるのに。 もう眠ってしまいたいのだと言う単純な願いすら気づいてくれない……。
声を少しだけ荒げて強要してみようか?
そう考えながら、ブラッドリーの様子を伺えば鋭い視線のまま、僅かに口角を上げ私を見ている。
そんな表情なんて、私は知らない。
「申し訳ございませんが、お嬢様の身に万が一の事がないか確認させて頂きます。 お休みになるのはその後になさってください。 万が一の事があればすぐに医師を招かねばいけませんから」
「ケガは無いと言っているでしょう」
呆れるように言えば……果実酒を薄めたものが渡された。 果実酒と言っても甘い訳ではないのだから成人を迎えた後も好んで飲む事は無いない。 それでも、今日は色々と嫌な事があり過ぎて、飲んで眠って忘れるには丁度良いかと、一気に飲み干した。
「薄くて酔えそうにないわ」
「今から、お風呂に入るのに酔ってどうするのですか?」
「ぇ?」
「身体を清め、その身に万が一の事が無いかチェックするのには丁度良いでしょう?」
「そう……早く、して欲しいものだわ……」
ブラッドリーへの恐怖は消えたわけではない。
ブラッドリーへの恋心も失った訳ではない。
自分が諦めようと決意する以前なら、そこに関係性の変化を期待したはず。 でもね……どうせ、どうせ……美人で優し気な侍女が出てくるのよ……分かっているんだから。
ブラッドリーは数えきれないほど、ラナの期待を裏切っていて……ラナと言えば、
どうせ、どうせ、何時ものパターンでしょう。 わかっているんだから。 そんな事を考えながら拗ね……そして敏感になる身体をどう誤魔化すべきか……まさかケガと勘違いなんてないですよね? 等と考えていた。
小振りな屋敷の割に広い浴室だった。 ブラッドリーの身体は大きい方だし、地位と権力と実績を持っている人なら広い風呂があっても不思議ではない。
まぁ、それはいい……
「ぇ?」
私は、もう一度、今度は声に出して疑問と困惑を音にした。
可動式の広い背もたれ、肘置きがついた最低限の骨格しか要していない大きな椅子にラナは全裸で座らせられていた。
「なぜ……」
「それは、僭越ながら、私がお嬢様の身体をお調べし、清めさせていただくからですよ」
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