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04.未来に夢を見る

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 秘書アンディ。
 護衛カール。

 2人は金に困っており、それは私にとってとても居心地の良い環境を作り出してくれていた。 何しろ2人とも最高の職場環境とも言える職についたのだ。 いつか、夢を追って職を辞する事があっても採用されて即クビにされる訳にはいかない。

 2人は、良くラナを気遣い、ラナの感情を配慮し、ラナの機嫌を損ねる事を上手く避けている。

 そんな2人は当然のように、私がブラッドリーに抱く感情を理解していたため、ブラッドリーが私に会いに来たのを見て、少しだけ部屋に来る時間を遅らせていた。

 ブラッドリーが執務室を去り30分。
 遅刻とすれば許容範囲を超えている。

 それでも、ソレを注意する気にもなれなかった。
 泣くのに丁度良かったから……。



 ミルク多めの紅茶が入れられた。

 何があったのか細かな事まで理解していなくとも、何かあった事は察せられてしまったと言う事……雇って間もない使用人の前で恥ずかしい。 だけど、見て見ないふりをしてくれる彼等に対する好意が上がるのも当然だろう。

 ソレは恋ではないけれど、人に好意を持てる自分に安心できた……。

「お嬢様、随分と顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」

「そ、そうかしら?」

 泣いた後が……気にされているのだろうか?

「なぜ、そんなに悲しそうな顔をされているのですか?」

「気のせいだと思いますわ」

 2人は私に触れない心の距離を測りながら、それでも気にかけてくれているのだろう。 

 ラナに仕える事を将来の希望としている2人は、私に恋されても困るだろう事を分かりやすく伝えつつ、ラナの機嫌を損ねないように気を遣ってくる。

 なのに……。
 なのに!! ですよ……。

 2人は、無責任に善人ぶり、良い人ぶり、私の繊細な部分にザラリと踏み込んできた。

 私は目を見開き、言葉が詰まった。

 揺らめいていた感情の波が……激しく乱れていた。

 躊躇いがちに……小声で囁いた。

「私は、ただ……彼に……」

 そう、彼に愛されたかっただけ……。 そう、言葉にしようとした。 言葉に出来なかったのには理由がある。

 彼は、ブラッドリーは、私を愛していると言った。
 幸福になって欲しいと言った。
 側にいたいと……そう言ってくれた。

 そこに悩み、嘆く必要があるのかと、無神経な人間なら……私の気持ちを理解せずに身勝手に言うだろう。 そればかりか……彼等が侍女達と仲良くなり、付き合ってしまったなら……私はいっそう笑い者にされるに違いない。

「お嬢様……お嬢様の悩みを聞くことは、私の仕事の一つですよ」
「ラナ様、お嬢様の心を守るのも護衛である俺の仕事のはずです」

 2人は視線を合わせ……そしてアンディが代表して言った。

「私達が、お嬢様を裏切れる訳ないじゃないですか……。 それに人に話す、それだけで気持ちが楽になる事もありますよ」

「私は……そう、私は……愛されたかったの……」

 逃げるように、私は視線を降ろした。

 苦痛に紛れた本音に、騎士を脱落したカールは私を慰めるように近づき、私の肩を優しく抱いて来た。

「ラナ様、アナタは優秀な商売人ですが、だからこそ、アナタは自分の年頃の娘が何を考え、何を求めているのか知らないのかもしれません。 世間には彼以上の男はいくらだっている。 ラナ様を本当に愛してくれる男が得られればラナ様の人生は一変するはずですよ」

 でも……

「彼は私が、他の男と一緒に居るのが辛いと……そう言ったのよ……」

「それは無責任にお嬢様を束縛しているだけではありませんか? とても無責任な行為なのですよ」

 大好きなブラッドリーを攻めているようで辛かった。

 それでも……。

 その言葉は私を救ってくれるような気がして、胸が高鳴った。
 新しい未来があるのだと興奮した。

「私も、普通に恋する事が出来るかしら?」

「きっとできますよ」

 側で私とカールの会話を聞いていたアンディが穏やかに、そして招待状の束を差し出してきた。
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