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03.アナタの側に……

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 ケガをしたブラッドリーに休暇を与える事にした。
 侍女に甘やかされる彼を見るのが辛かったから。
 侍女にお礼と共に微笑みを向ける彼に怒りが沸いたから。

 見たくなかった。
 泣きたくなるほどにつらかった。

 侍女の世話に微笑み礼を言い、見舞いを貰えば女性に人気の品をお返しする。

 当たり前の事だ……。
 でも、苛立った。
 腹が立った。

「仕事をせずに何を遊んでいるの!!」

 そう感情のままに怒鳴れば……侍女達からの視線に侮蔑が混ざっていた。

 苛立つ……。

『アナタはクビ、自由に生きなさい』

 そうブラッドリーに言い切れるほどには、未練を断ち切る事が出来なかった。



 だから、



 新しい護衛と秘書を雇った。
 入念な調査と面接を繰り返し選んだ。

 1人は実家の没落のために目指していた騎士の道をあきらめた人。
 もう1人は王都大学の入学資金を稼ぎたい夢をあきらめきれなかった人。

 ドチラも優秀な人材だろう。

 同じ屋敷に居るけれどブラッドリーとなるべく顔を合わせないようにしたいのだと、新しい護衛と秘書に配慮するよう求めれば、彼等は上手く私の希望を満たしてくれた。

「侍女達の仕事ぶりを、報告なさい」

 見たくはない……。
 けれど、腹が立つ。

 余りにも仕事をおろそかにする人は、クビにするのは……それは嫉妬ではなく当然の事……。 そう当然の事よ。 だって、常識的な人は、仕事をする人はクビに等していないもの。

 ブラッドリーを避けるようにしながら、それでも無意識に私は彼を探してしまう。

 そして、侍女達は……私にわざと見せつけるような場所でブラッドリーと共にいた。

 ブラッドリーの前でわざとらしく転び抱きしめられる侍女を見た。
 お礼だからと初心を気取って頬に口付けする侍女を見た。
 私が無能を理由にクビにした侍女が憐れみを求めブラッドリーに頬でもいいのに口づけしてくださいといい、急に顔の向きを変えて唇同士の口づけをしているのを見た。

 私は、何時だって黙ってその場を去った。

 クスクスと馬鹿にし笑う侍女の笑い声を聞きながら。

 侍女に怒りを向ければ父に叱られ、気に入らない者全員をクビにしたいと言えば叱られた。

『貴族から頭を下げられ預かっているのだぞ!!』



 惨めなほどに笑われる日々は続き……。

 惨めで悔しくて悔しくて……ブラッドリーなんてなんとも思っていない!! と叫びたくなったが、ソレこそ惨めだから我慢した。



 疲れた……。
 自分の恋心に……。



「お嬢様、お手紙が届いております」

 疲れて、色々と嫌になっていた。
 惨めで、逃げ出したくなっていた。

 ブラッドリーを別の町に飛ばし、支店の責任者として使うよう父に相談しようかとも思った。

 そんな事を考えながら机に突っ伏していた私に声をかけたのは……新しい秘書ではなく、ブラッドリー。

 私は顔を起こし背を向ける。

「そう……。 手紙を届けてくれてありがとう。 でも、ソレはアナタの仕事ではないわ。 新しい秘書の子には高い給料を払っているの。 仕事を取り上げないであげて、」

「申し訳ございません」

「ブラッドリー……ケガの具合はどう?」

「良くなっております」

「嘘よ。 医者から聞いているのよ」

 私は淡々と告げた。

「それでも、良くなっています」

「そうね。 もう少し休みなさい」

 私はブラッドリーを見る事無く、届けられた手紙の封を開けて中身を確認した。

 背後から、ブラッドリーの溜息が聞こえた。
 彼はゆっくりと言葉を紡ぐ。

「ラナ様、私は耐えられない。 ラナ様が他の男と触れ合う姿を見るたびに、胸が苦しくなるんです」

 切なさの混じる声を遮り、私はつい馬鹿にするように軽薄に問うた。

「仕事を奪われそうだから?」

「……申し訳ございません。 身勝手な私を許してください。 そう……私は、私はただアナタが幸福であれば、それでいい……でも、最近のアナタは何時だって辛そうです……」

「そうね……ブラッドリー、アナタ、何か誤解をしているようだけど彼等は仕事をしているだけ。 私の感情は、私のもの……彼等の責任ではないわ」

 あえて言うなら、アナタのせいよ。

「えぇ、分かっています。 ですが、私だればもっとアナタに尽くす事ができます。 ずっと、ソレを示してきたはずです。 なのに、なぜアナタは他の男を側におくのですか!! 私を遠ざけようとするのですか!!」

「今更!! よく、そんな事を!!」

「私は……ただ、側に居てアナタに尽くしたいのです。 お願いです。 私の幸福を奪わないで下さい」

 それは彼の本心だし、強い好意を向けられていると言える。 だけど、私が欲しい言葉とは違うのだ。

「そうね、ありがとう」

 上の空……で返した。
 感情を表に出せば泣きそうだったから。

 彼が言っているのはあくまでも雇用主と従者の立場。 踏み込む事のない好意は新たな恋に踏みだす事もできない残酷なものだった。

「ブラッドリー、もういいわ。 下がりなさい」

 私のブラッドリーに対する好意は屋敷内で知らない者はいない。 侍女達はブラッドリーに相手にされない私を見て、語り合い、笑いものにして、自分達の自信に繋げる。

 年ごろなら男であろうと女であろうと、見目が良く才能のある異性に興味を持ち、興味を持たれたいと思うのは当然のこと。

 新たに雇ったアンディとカールの2人も外見は良く、そしてソレゾレの職務に対して高い才能を示している。 当然、若い侍女達は2人に対しても強い興味を持っていた。

 だからこそ、侍女達は私の無様な恋心を笑いものにしている事だろう。



 私は……誰も居ない事に安堵し、静かに泣いた。

 惨めな私に同情して……。
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