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09.公爵令嬢はピクニックに来たわけではない

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 エヴァは、呆れたように自分を背後から抱きしめるようにするフェイへと視線を向ける。

「過保護かな?」

「戦場に女主人1人放り出す臣下など、この世のどこに探してもいませんよ」

「そこは、恋人と言う言葉を使って欲しいかも」

「一応、部下の前なので……夜であれば幾らでも」

「副隊長!! 緊張感!!」

 そう声を荒げたのは、フェイの広い肩に止まっていたフクロウ。

「確かに緊張感がありませんね」

 エヴァは笑う。

「それにしても……気の毒に」

 巨体な馬は、獣人の1人であり跨っている力さえあれば、後は良いようにしてくれる。

「何がですか? お嬢」

「フェイのような巨体に乗られては、ドルフが気の毒過ぎる」

「若いもんが、この程度で根を上げませんよ」

 今回の進軍はフル装備での出迎え、戦いを前提とはしているが、肉体的戦闘ではなく口先三寸で言いくるめるための頭脳戦。 流石に7歳になったばかりの子供が大将であり、王国軍内部にもエヴァ派のものは多くいる。 相手に負ける気もないが、負ける気が無いからこそ、ヒステリックに戦闘行為が行われる可能性は否めなかった。

 エヴァ的には、最悪一緒に死んでも構わないと言ってくれる老人たちを伴うつもりだったのだが……。

「馬鹿な人達ですね」

「まぁ、獣人に小難しいことを求めてもらっても困りますよ。 もともとが感情の生き物ですから」

 フェイの言葉に、肩に乗っているフクロウも、いざとなれば盾になるのだと勇んでドルフの頭上を陣取っている亀も、彼等を運んでいるドルフもそろって肯定してみせた。

「仕方のない子達ですね」





 マトモに戦闘行為をするつもりのないエヴァは、進軍の行程に使われるだろう道沿い、隣の領地である草原で王国軍を待ち構えていた。 普通、そんなことをすればヒンシュクを買うのは間違いなしなのだが、領主が許可し、エヴァの軍に次期当主が参戦しているのだから何一つ問題はない。



 王国軍の数は3000程。
 戦争をするには少ないが、領主の娘を殺すためというには多い数と言えるだろう。



「魔法部隊、雷の準備を」

 静かな号令だった。

 だが、次の瞬間には稲光と音が揃って、レンホルム軍と国軍の間に落ち始める。 誰も傷つけるつもりはない。 ただ力を見せつけるためだけの行為だった。

 だが、未熟な馬は混乱する。

 容赦なく人間を振り落として逃げ出し、アチコチぶつかり、混乱が混乱を呼び、振り落とされた人間が馬に踏まれる等と言う事態も起きて、想像を超える大混乱が目の前に怒っていた。

「ば、馬鹿なの?!」

 怪我人を出す気等なかったエヴァが、恐れをなしてフェイに身を寄せていた。

「……馬鹿というよりも、信頼関係が結ばれていないのでしょう」

 そう答えたのは馬のドルフである。

「それに、普通であれば開戦の宣言もなく、先制攻撃を仕掛けることはないからな」

 フェイが苦笑交じりに説明をして見せた。

「それは、申し訳ないことをしてしまいましたわね。 でも、私は騎士でも戦士でもありませんから、仕方がありませんわ。 そもそもいわれのない理由で命を奪いに来た相手に正々堂々を求めるなんて事もないでしょう」

 なんて、ビビりながら言い訳のように話をしていれば、5頭の馬が、未だ雷が鳴り響く草原を駆け抜けてくる。

「卑怯者が!!」

 小さな少年が、精一杯声を張り上げる様子を見て、エヴァは笑っていた。



 エヴァの胸にどす黒い感情が渦まいた。



「お嬢様」

「わかっています」

 多分……今のエヴァは酷い顔をしている。

 大嫌いな2人から引き継いだあどけなさの残る幼い顔を見て、私の心の中は悪意に満ちていた。

「周辺を制圧。 少年を捉えなさい」

 その声は共にあった獣人たちの胃が冷えるほどに冷えたものであった。
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