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前編

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 マーティンが戻った事を聞き、義母だった侯爵夫人は喜びと共に向かい出た。

 だが……マーティス室長を見て僅かに顔を顰めた。

 やんちゃで奔放なマーティンを愛する侯爵夫人は、真面目で面白みがないとマーティス室長に対する態度は何処か義務的なのですよね。

「何をしに来たのですか? マーティンが戻ったと聞きましたが?」

「マーティンは部屋に戻しました」

「なぜ? また……厳しい事を言っているのではないでしょうね。 あなたは自分を基準にあの子に期待すぎなのよ」

 侯爵夫人は室長の話を聞く前に、マーティンを擁護しだす。 これは余り気分が良く無いのでは? と、室長の顔を覗き見れば、少し私へ視線を向け、わずかに目元を笑って見せた。

「マーティンに子が出来ました」

「まぁまぁ、それは、喜ばしい事だわぁ!!」

 夫人は満面の笑みで私に走り寄ってくるのだけど、室長は私をその背に庇うように下がらせ、夫人はその様子に腹立たしそうな表情で室長を見、そして歩みをとめた。

「何よ……」

 嫌な予感でもしたのでしょうね。 声が、不安そうに揺れている。

「マーティンの子を身籠ったのは、ジェシカさんではありません。 アンジェです。 2人は、合意では無かったのだと騒ぎ立てたので、眠らせて部屋に運ばせました」

「あの子ったら!! アンジェとは縁を切れと言っていたのに……本当に……マーティンの子供ですの? あの女が適当に遊んで出来た子をマーティンの子だと言っているのではないの? あの子、まだ結婚したばかりじゃない!!」

「魔術解析を行った結果、ブライト家の血である事は確定しています。 母さんは、マーティンの子を私生児にするつもりですか? それとも、子供から母親を奪うつもりですか? 母さんは仕事量を減らしマーティンとの時間を作り幸せだったと言っていましたよね?」

 イライラと爪を噛み、そして……室長を何故か睨む。

「だけど……どうして、放っておいたのですか!!」

「2人は……乳姉弟です。 切っても切れない繋がりがあるのでしょう。 結婚しているのにそう言う行動に出たと言う事は、自分達の責任を理解していると言う事でしょう。 子供であるなら周囲の忠告に従う必要がありますが、もう2人は大人です。 本人達の判断を認めてやるべきでしょう。 それに……アンジェが嫌いだと言っても、彼女の腹にいるのは紛れもないマーティンの子、母さんの孫なのですから。 余り否定し、責めては、胎教に良くはありません」

「そうね……昔の過ちを正すなら……私達も前進すべきかもしれませんね……。 それで……その……ジェシカさん。 あなたは……その……辛い思いをさせてしまったようですね。 申し訳ない事をしました。 あなたのような子と親子になれたこと嬉しかったのだけど……ごめんなさい。 申し訳ないのだけど……その……」

 直ぐに孫へと意識を切り替えたのだろう。

 孫が出来ると言う喜びを、私に対する申し訳なさで必死に隠そうとして、時折失敗しながらも謝罪を続けている。

「大丈夫です。 私には、仕事がありますから」

「ぁ、マーティス。 彼女には十分な保護と、慰謝料を準備してやってくださるかしら。 孫のためにも、2人には早く結婚させないと……その、本当にごめんなさいね」

「それは、説得済です。 マーティンはジェシカとは関係を持っていなかったそうなので、懐妊を知ると共に神殿へ離縁の手続きをしてまいりました」

「あなたにしては……アッサリとしてるのね。 もっと非常識だと怒り散らすかとおもってました」

「怒り散らすだなんて……ジェシカさんの前で出来る訳ないでしょう?」

「そう、そうね……」

「ところで……母さん1つ相談があるのですが……」

「えぇ、何かしら? あぁ、そうだわ。 玄関先でごめんなさい……お茶とお菓子でも……本当にごめんなさい……ジェシカさん」

「いえ……。 大丈夫です。 マーティス室長が気遣って下さっていましたから」

「そう、良かったわ。 出来る事があるなら、何でも言ってちょうだい」

「それですが、マーティンの行動はシバラクは騒動になるはずです。 きっと騎士の資格も解任されてしまうでしょう」

「それは、困ったわね」

「それで、ジェシカさんを王都から逃がしたいのですが、別荘を使っても良いでしょうか?」

「えぇ、構いませんわ。 全てはマーティンのやらかした事、噂に晒されては可哀そうだもの。 彼女を気遣える使用人を選び同行させましょう」

「それと……職を失くすマーティンの事ですが」

「そうね……ほとぼりが冷めるまで他国に留学……はどうかしら?」

「私は、放置すべきではないと思います」

「……それも、そうですわね」

「ですので……もし、母さんが……私はマーティンに次期当主の座を譲ろうかと思います」

「マーティス室長!!」

 シーと人差し指を口元に当ててジェシカの声を控えさせ、母親が長考に入ったとみると、マーティスはジェシカに告げた。

「マーティンは治療師の才能がない事をコンプレックスで、騎士の道を選びましたが、ブライト家の当主条件には治療師である事と言う決まりはないのですよ。 それに

 ボソボソと語ってくれた。

「マーティンのコンプレックスは、家族に認められていない。 必要とされていないと誤解しているところにある……と、私は思っています。 どうか、これを機会に愛情をそそいでやってください」

「わかりました。 私が、責任もって2人を鍛え上げましょう!!」

「では、父には私が話をつけておきます」





 その後、私は侯爵家の別荘で静養を取る事になりました。

 離婚の報告は、結婚に拘っていた両親……どれほど嫌味を言われるのかとヒヤヒヤしていましたが……侯爵家の方から報告をしていただけるとのことでお願いをし、私は別荘へと直行となりました。

 両親が怒りに暴れ失礼な態度を取るのでは? と心配していましたが、そうならないような十分な慰謝料が提示されたようで、結婚の喜びが何だったんだと言うほどアッサリと許されたようです。 とは言え、次の嫁ぎ先を探し始め、マーティス室長に見合いの添え書き持って行って欲しいと頼んでいるのが……ちょっと……嫌。

 マーティス室長は、両親からの手紙をことづかり忙しい中、週に1度報告と手土産を持って来訪してくださっています。

「もし、ジェシカさんが許してくれるなら、私の方で見合い催促を止めるよう説得させて頂いていいでしょうか?」

 なんて言って頂けたので、二つ返事でうなずいてしまいました。

 本当、面倒ばかりかけてしまいます。

 でも、なんとなく、色々と気まずいですよね……マーティンの兄様だと考えると。



 そして……マーティンとアンジェですが。

 勉強大嫌い、自由大好きな2人は、ほぼ監禁状態で睡眠、起床、食事、一日の日程を管理され、次期侯爵、侯爵夫人の教育を受けているようです。

「余り逃げ出すので、とうとう魔法探知ようの首輪をつける事になったのですよ。 困ったものです」

 本当に困ったもので……私は苦笑いしかできません……。

「大人しく勉強をするからジェシカさんを、教育係として側に置いて欲しいと2人して懇願しておりましたが、私が止めるまでもなく、両親が怒り散らしていましたよ」

 と……マーティス室長は晴れやかに笑っていました。





 静養も1月が経ち……。

 何時までもこのままでいる訳にはいけない。
 私は、マーティス室長との話し合いを決意するのでした。










**********
 次回から溺愛R18な後編に入ります。
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