お節介な婚約者がウザい!

迷い人

文字の大きさ
上 下
5 / 10

05.お節介な婚約者は、着飾りたい

しおりを挟む
 全てが良く分からないのだけど……。
 だからと言って流されるままで言い訳がない!!

「いや、そこ、なんで私が支払うのか良く分からないんですけど、なぜメアリー様の分も?」

「やはり貴方は頭が悪い。 もう少し学園に頻繁に通い社交性や社会常識を身につけられてはいかがですか?」

「どのような社交性や常識を身につければ、セザール様やメアリー様の衣装を私が作り贈る事に納得できるようになるんですか?」

「贈る? おかしなことを言う、まず贈ると言うのがオカシイ。 私が見すぼらしい恰好で社交界に出ては、お家の恥、貴方の恥も当然ですよ。 ですので、私の衣装を整えるのは貴方自身のためであって、誰かのためではなく貴方自身のためなのです。 それにメアリー様のドレスも同様です。 貴方とメアリー様が険悪なのは誰もが知る事実です。 ここで贈物をすれば、貴方は心身の穢れを払い、メアリー様のお世話させて頂くのだと言う事が周囲に周知できます」

「えぇ、嫌なんですけど」

「本当に……魔力による穢れとはここまで性悪にさせるのか……仕方がありません。 敬意や感謝等は必要ありません。 そこに貴方の好きなWinーWinが成立しているとでも考えて下さい。 それなら受け入れられるでしょう?」

 一気にまくしたてられ、そろそろ何を言っているのかマジわからないし、これって私が悪いの?まで思うようになってきた……あぁもうこうなるとメンタルやばいんだけど……。

 私は必死に冷静さを取り戻そうと思考を巡らせるのだけど……流石矢継ぎ早に私と違う価値観を見せつけられては混乱すると言うもの。

 はらはらとした様子で見ていた店主が口を出したのは、余程見てはいられない状態だったのだろう。

「セザール様がおっしゃっているのは殿方の甲斐性であったり、お家の見栄とかではないのでしょうか? であるなら、ララ様に依存するのはいかがなものでしょうか?」

 おかしな汗をかきながら店主が必死に私の味方をしてくれる。

 私が貴重な魔力布を納品する事ができる唯一ともいえる人間だからだろう。 それに、セザールが幾ら学園での成績が良くても社会的な影響力は持ち合わせておらず、店主の方が実際には力関係で言えば強いから、ギリ言える状態なんだと思う。

 セザールは眉間を寄せ明らかに不機嫌そうな顔をして見せた。 それでも大量の布を持ち、デザイナーを抱え、仕立てを行っている専門家と言えば庶民出身の爵位を持たぬ者が殆どで……セザールは苛立ちを飲み込むしかない。 仕立屋に嫌われては社交界では困るからね。

「勘違いしてもらっては困る。 うちは……」

 少し考え込んで言葉を選んだ……らしい。 そしてセザールは続ける。

「いや、貴族社会では未だ魔力に対して排他的な部分が多いのです。 そんな中でララを身内に持つと言う事はそれだけで社交界のはみだしものと言われても仕方がない事なのです。 それでどれほど私達家族が不便を強いられ虐げられたか……。 それを覆すために力を貸してくれたのがメアリー様なのです。 そして彼女は教えてくれました。 貴族の中に上手く溶け込み、魔導師と言う汚名を覆すだけの価値を提示しなければいけないのだと。 ならば、ララ自らでそのマイナス……汚点を正す事が出来ないのであれば、その応援をするぐらいは当然ではありませんか?」

 店主は黙り込む。

 それだけ、魔導師に対する風当たりは未だ強く、虐げて当然と言う風潮があり、社交界にララが出ればどんな風に嫌味を投げかけられるか分かっているから。

 そして、大人になり社交界に出るようになった際に、夫となるだろうセザールよりもララの方が明らかに注目を浴びる事、それが店主にとっては一目瞭然であったためである。

「確かにそういう面もおありでしょうが、女性としてララ様がセザール様をどう思われるか……」

 小声でボソボソと告げる。

 これ以上店主に言わせるのは気の毒というもの……私は、本心とはかけ離れた言葉を必死に絞り出すことになるのだ。

「私は良いのです。 社交界に馴染めるとは到底思えませんから」

「いえいえ、ララ様ほどお美しければ、そのお姿を見た殿方が目を奪われる事間違いなしですよ。 そうだ!! 折角です、公爵令嬢のお誕生祝いにお二人でご参加されてはいかがですか? 張り切って衣装を作らせて頂きますよ?」

 と……涙ぐましい努力をする店主。

「お気遣いありがとうございます。 ですが、その……私はメアリー様からご招待を受けていませんの。 爵位を受けていたのは祖父で、その爵位は一代だけ、祖父の功績にあたえられたものですから」

「なら、余計にセザール様に連れて行ってもらうべきです。 私共も貴族のパーティーに招待を受ける事があるのですから、セザール様のパートナーとしてお出になるのに、何の問題がありましょうか」

「いや、ララは参加しないでもらいたい。 主役であるメアリー様が嫌がっていますからね。 それにララのような品性に欠けた人間が公爵家のパーティーに出ては、パーティーの品位が下がると言うものです。 メアリー様は繊細なお心の持ち主です。 自らの身分も顧みず、男性の地位に乗っかり偉そうに社交の場に参加する娼婦等が不快だと常々おっしゃっていられますからね。 どうしても社交界に出たいなら、相応の礼儀作法を身に着けて下さい。 全てはそれからです」

 いや身に着けているし!! セザールが知らないだけだし!! では無くて……

「セザール様は、私を娼婦扱いしているんですか?!」

 流石にムカつき、セザールを見る目が座ると言うものだ。

「どこのチンピラですか。 そう言う所が品性が欠如していると言うんですよ。 娼婦であれば身分をわきまえ、周囲に媚びようと言う態度を見せますが……貴方は娼婦どころか娼婦以下ですよ」

「そこまで言って、衣装代を出してもらえると思っているなら、頭沸いているのではありませんか?」

「婚約者に向かって、そのような下品な言葉を使う事が問題だと言っているのに、なぜ理解できないのですか? 娼婦と言えどそのような言葉は使いません。 いえ、娼婦の方々はもっと丁寧で、優しく、甘く、男心をくすぐる、愛される努力を日々されている。 貴方以上ですよ」

「知りませんよ!! 私は私の言葉に正直に生きているだけです……が、セザール様のために完璧な淑女を演じますので、メアリー様の誕生パーティーに連れて行ってはいただけませんか?」

 こめかみピクピクさせながら私は言う訳だ……。

「それはいけません!! メアリー様はララを嫌悪しているのですから。 折角の誕生日です。 最高の気分で迎えられないなんて事になっては可哀そうではありませんか!! 何時まで子供の用に愚図愚図いっているのですか、コレでは何時までたっても話が先にすすまない。 いい加減にしてもらえませんか?!」

「わかりました。 メアリー様の誕生パーティーには参加しませんが、別のパーティーでは是非ご一緒していただきましょう。 セザール様と揃いのドレスを作ってくださいませ。 構いませんよね? セザール様」

「それまで礼儀作法とダンスを完璧にするなら連れて行って差し上げましょう」



 等と言っていたのだけど……。



 店主がすっごく張り切ってくれた私のドレスは、メアリー・ラングレー公爵令嬢の元にパーティー10日前に持っていかれ、サイズ直しがされ、メアリーの誕生日パーティではセザールのエスコートを受けていたとレイナ・ベルリーから聞く事になるのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

今夜で忘れる。

豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」 そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。 黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。 今はお互いに別の方と婚約しています。 「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」 なろう様でも公開中です。

この傷を見せないで

豆狸
恋愛
令嬢は冤罪で処刑され過去へ死に戻った。 なろう様でも公開中です。

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

(完結)あなたの愛は諦めました (全5話)

青空一夏
恋愛
私はライラ・エト伯爵夫人と呼ばれるようになって3年経つ。子供は女の子が一人いる。子育てをナニーに任せっきりにする貴族も多いけれど、私は違う。はじめての子育ては夫と協力してしたかった。けれど、夫のエト伯爵は私の相談には全く乗ってくれない。彼は他人の相談に乗るので忙しいからよ。 これは自分の家庭を顧みず、他人にいい顔だけをしようとする男の末路を描いた作品です。 ショートショートの予定。 ゆるふわ設定。ご都合主義です。タグが増えるかもしれません。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

公爵令嬢の白銀の指輪

夜桜
恋愛
 公爵令嬢エリザは幸せな日々を送っていたはずだった。  婚約者の伯爵ヘイズは婚約指輪をエリザに渡した。けれど、その指輪には猛毒が塗布されていたのだ。  違和感を感じたエリザ。  彼女には貴金属の目利きスキルがあった。  直ちに猛毒のことを訴えると、伯爵は全てを失うことになった。しかし、これは始まりに過ぎなかった……。

この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

めぐめぐ
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。魔法しか取り柄のないお前と』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公が、パーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー短編。 ※思いつきなので色々とガバガバです。ご容赦ください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。 ※単純な話なので安心して読めると思います。

処理中です...