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56.息子を思う母の決断

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 その日は、お城の人達全員が疲れ切っているため、通常業務とは別の作業を擁する他国との交流業務はお休みとなっていた。 とは言っても、食堂だけは休めませんけどね。

 まぁ、そんな訳で今日は久々のゴロゴロDayとはいえ、何もしなくていいと言われてもずっと植物と共に生きてきた人間としては困ってしまいますよね。 そんな訳で今日は料理をして遊ぶことにしました。

 何しろ、王様の執務室に前世のファミリー向けキッチンより少し大き目な感じの調理場を作ってもらいましたから、時々は使ってあげませんとね。

「オマエ等~~~、暇なら手伝え」

 書類をペシペシしながら王様が言うから、キッチンから顔だけだして私は言う。

「忙しいのです」

 そしてゼルも続く。

「私が手伝える訳ないでしょう? それに私も忙しいんです」

「オマエ等……」

 まぁ忙しいと言っても料理をしているだけなんですけどね。

 十数日間の間、多くの生育系、植物系、そんな感じの寵児達によって多くの穀物、豆類が実権的に作られたのです。 そして、中には非常に興味深い植物もあり、ソレの調理中なのですよ。

 私は小豆を砂糖で煮込んでおり、ゼルにはもち米を精米し水につけておいたものを、水を加えてすりつぶし、出来上がった白い液体を圧縮、脱水、粉状にしてもらい乾燥をさせてもらう予定です。 まぁ、いわゆる白玉粉と言う奴ですね。

 神力万歳。

 なぜ、魔法ではなく神力指定で褒めているかと言えば、指示が細かすぎて、魔法では対応できないためだそうです。

「あのなぁ……ここは子供の遊び場か?」

「美味しいは正義だよ。 よって私達は正義だぁ!!」

 元気に言えば近寄ってきた王様は笑いながら私の頭をコツンってする。

「楽しそうだな」

「楽しいですよ」

 王様もゼルも、アニーを始めとする侍女達、料理人の人達、沢山の人が私を大切にしてくれる。 あと……時々壁の中から顔を出す神様とかも……多分、気遣ってくれている?

 こう壁の中からにゅっと現れるから、面識のある闇の神様だったら、ポケットに入れてあるオヤツを口に放り込むんです。 そうすると、色々と面白いお話をしてくれます。 役に立つ話ではなく、あくまでも世間話程度の役立たない感じの話ですけどね。 結構面白かったりしますよ。

 そんなこんなでゼルの神力の力を借りながら、結局はゼルと王様、それにアニーを始め側にいる侍女全員集めて10人がかりで大福を作りまくりました。

「王様、いいんですか? 忙しいんですよね?」

「オマエ等2人が遊んでいる横で、俺だけに仕事をしろと?」

「遊んでいないです。 可能性の提示ですよ。 ゼルが一緒だと可能性が広がるのがいい!!」

「なんか使い方間違ってないか?」

「平和的、力の利用です。 脱!死神、そして目指すは神の料理人!」

 ちなみに今は大福を形成しながら、アイスを冷やしてもらっているのだけど、苦笑されてしまいました。 そして王様は肩をすくめて大きな手で私の頭を撫でまくってきます。

「まったく、いったいオマエ達は何処へ向かおうとしているんだ」

 そういいながら、王様が優しく笑うんですよ。

「世界平和!! まぁ、それはさておき、破壊系の神の力を生産系につかわせてもらっている手前、お礼をしたいのですが」

「後で、神殿に納めてこよう。 その方が早いだろう。 色々と力を借りたようだし」

「甘いのばかりでは、神様も困られるでしょうか?」

「どうだろう? そもそも神に食事を与えよう等と考えたことが無いからなぁ……」

「それは、とても不思議ですね。 私の前世では神はいませんでしたけど、信仰はあって、食べ物をお供えすると言うのは割とポピュラーな話ですよ」

「それは、まぁ、面白い話だな。 食は祈りよりも分かりやすい信仰として、存在の確定がしやすいようなことをいっていたし……しばらく続けられるか?」

「ゼルに手伝ってもらえば量産化もたやすいですし?」

「だから、オマエは何処に向かおうとしているんだ」

「とりあえず、しょっぱい白玉料理ってことで、雑煮を作る事でしょうか?」

 そう告げれば、甘い物苦手な侍女さん達がうっきうきしていました。 美味しいものってやっぱり正義ですよね?




 そんな平和でノー天気な会話をしている最中、聖女に連れられエスティ国へと辿り着いたオーターは絶望にかられていた。

 先んじて入れておいた連絡によって、留学中のアクアースの民が集められていたのだが、数百にもおよぶアクアースの民は、誰1人として『今の』故郷のために働こうと考える者はいない。

 数年、故郷よりも心地よい立派な建物、好奇心を満たす情報、飢える事の無い食糧、そんなものが揃っている。 そんな国に長く住み贅沢に慣れたから?

 いや……そもそもが、アクアースの法になった。
 アクアースと言う国は何時も極端なのだ。

 神を湛えよ。
 神に祈れ。
 清くあれ。
 正しくあれ。
 欲は捨てよ。
 人は神のために存在する。

 生活が安定している地位あるものであれば、神を優先する余裕もある。 だが、生活に追われる庶民はどうだ? 神を優先し生きる事は己を捨て、窮屈に身を置く事を意味する。

 では、聖国エスティ国はどうだ?

 最も多くの神の寵愛を得ている聖女が所属する国。 国民の全てが神の信徒であり、聖女の力を分け与えられている。 だが、聖女フィールは信仰、神、神力、人を全て分けて考えている。

 聖女の思想は、アクアースのように一線を越えず、長き年月に渡ってエスティ国を大国として維持していると言えるだろう。

 どちらが生きやすいか? なんて考えるまでもない。

 甘露を知って誰が泥水をすするだろう。

「どうしてだ!! オマエ達にだって家族がいるだろう! 仲良くしていた者がいるだろう!!」

「ですが、アクアースの民は死んだか獣オチになったのですよね?」

 留学生の1人が声を震わせながら問うた。

「あぁ、そうだ。 オマエ達は長い間この国で様々な事を学んだのだろう? 今のアクアースをどう導けばいいのか、誰か意見はないか!!」

 オーターは悲痛な声を上げ訴えるが、その反応は冷たい。

「獣に落ちた者は、肉体が魂の姿に変質すると言われていることを……ご存じでしょうか?」

「あぁ、そうだ。 その通りだ。 それを正しい姿と前提した場合、どうすればいい? どう生きればいい? 獣オチの国としてコレからどう生き残り、他国と渡り合えばいい」

 オーター自身は、国が厳しい食糧難であることを知らない。

「魂の姿に変わった者、獣に落ちた者の習性は、獣に近しくなります。 ですが、その生き方は人であった経験に頼るため、折り合いをつけるには多くの人間の支援が必要となり、非情に難しいとされています」

 淡々と留学生の1人が告げる。

「何を言っている? どういう意味だ?」

 オルグレンや華国をはじめ、大国とされる国では、獣オチが人として生きられるよう支援がなされる。 

 力のない小国はスレープ国のように処分がなされる。 支援のなされない獣オチは人を襲うからだ。 生きるためにやったのだと、獣オチからさして日も経っていない者は、仕方がなかったのだと救済を求めるが、誰もが食事のために人を襲い殺すような相手の言い訳を聞き入れるはずがない。

 だが、アクアースでは、獣オチは神に近づいた者として崇められた。

 それらを踏まえて、留学生の1人は彼等の王に淡々と感情を殺して告げる。

「生きているものの大半が獣オチとなった状況、彼等は人として生きる事はできません。 人として生きなければ、いえ……アクアースの法の元に生きる彼らは、獣と人との折り合いをつける事ができません」

「だから、どうすればよいのかと聞いている!!」

「彼等は、やがて奪い合い殺し合う。 そして他者を襲い傷つけているうちに獣オチは魔に落ちるか……心、生体、習慣、身体、それらのバランスを崩し自壊を始めるのです。 アクアースという国を立て直そうと考えるなら……それを待つ必要があると言っているのです」

 静かに留学生の1人が言った。
 それはオーターの身に起こった出来事の1つだった。

 助ける手段、リエルが手元にあることにより、ヒューバート王が選ぶことが出来なかった決断である。

「この裏切り者が!!」

 オーターが水の鎧をまとい、水の槍を手にとった。

「彼らを助ける手段はあるんだ!! それらはオルグレンが抱え込み、独り占めしている。 私に手を貸せ!!」

 オーターが自国のために脅迫めいた行動と発言をすれば、その瞬間に聖国の使者達がオーターを囲んだ。

「聖国では、神力を使った攻撃は禁じられております」

「私は、王だ」

「この国の王ではありません。 そして例えこの国の王であっても、全ての人は法の下で平等であります。 それがこの国のルールなのです」

 この日、アクアースは聖国エスティ国により、世界の敵として定められた。



 これらエスティ国の決定が、息子ヒューバートの負担を減らそうとする聖女フィールの思いやりであることを知る者は数人しかいない。
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