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12.その世界の人にとっては重要なこと

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 どういう状況なのかと言えば、

 私を抱きかかえたまま倒された旅商人さんは、私の下敷きになっており、旅商人さんのお腹のあたりに私は座っている状態で放心。 で、王様はと言えば、旅商人さんの腕を彼の頭上で束ねて、はい! 拘束完了。 そんな感じ。

 困った様子で、王様を見れば笑っている。

「好きにすればいい。 嬢ちゃんがいなければ、繋がっていなかった命だ。 煮て食うなり、焼いて食うなり、性的に食うなり、好きにしてくれ」

「何を考えているんですか!! 王様、王様ですよね」

「残念なことに、コレがこの国の国王陛下だ」

「王に向かってコレとはなんだ、コレとは」

 軽く笑いながら王様は言えば、溜息交じりで旅商人さんは返していて、抑え込まれているけれど効果があるのかないのか?

 それはともかく、嫌がらせのような行動をとったのは、特に目的があったとかではなく……、王様がいった、興味が無いとか、勘違いするなとか、そんな言葉にイラっとしたからだけで……こんなことをされても困ってしまうのです。

「陛下、手を退かしてください。 リエルさんが困ってます」

 王様が苦笑交じりに拘束をとけば、旅商人さんは私を抱きしめた。 ささやかな不信感がグルグル脳裏を巡らせていれば、耳もとで優しく囁かれた。

「好きですよ」

 そう言われて思い出す。

 好きだから一緒に来て欲しいと言われたこと。 ただの知人として彼はわざわざ私に会いに来てくれた彼は、私に好意を伝え、一緒に逃げようといってくれたんだ。

「王様は、意地悪です……私を混乱させる悪い人だ」

「可愛い子は、イジメたくなるんだ」

 王様が穏やかに笑いながらいい、そして真面目な声で旅商人さんに向かい言葉を続けた。

「とはいえ、うちの騎士団の制服は、強度は金属鎧と変わらない。 幾ら着心地が布地の服と変わらないといっても、寝間着代わりにするもんじゃない。 それほど警戒しなければいけない間柄なら、嬢ちゃんを手離せ、でないと嬢ちゃんにも失礼だ」

「それは……ただ、見られるのが怖かっただけで……」

 すごく深刻そうだから、私は笑いながらふざけて言う。

「鱗とか? 顔とか?」

「鱗も、顔も生えていませんよ。 ただ、その……神の印が……」

「それは、神の寵児と呼ばれる方全員にあるのでは?」

 教育を受けていない私でもその程度は知っている。

「数が違うんだ……」

「身体中にいろんな神様の印がビッチリと埋められている?」

 神の印が複数って、転生時に神様が順番にハンコを押していく感じなのでしょうかね? ソレを想像したら笑いそうになって我慢した。

「まぁ、そんな感じですね」

「どんなのか見たいな」

「余り気分の良いものではありませんよ」

「ソレを見たゼルの両親は、ゼルを殺そうとした」

 王様の声に、旅商人さんはビクッと身を震わせた。

「でも、生きているってことは思い直したんでしょう?」

「いや……、生まれたばかりの赤ん坊だったゼルは、相手の恐怖、狂気、殺意を増幅させたんだ。 ただ、ジッと両親を見つめただけで、相手は恐怖に捕らわれ抑えきれない殺意を狂気のままに自分に向けた」

 旅商人さんが視線を落とし顔を逸らす。

「……」

「やっぱり王様は意地悪だと思う」

「そうか?」

「そうですよ。 余り旅商人さんを虐めないでください。 彼は私に優しくしてくれたんですから」

 王様は真顔を崩して優しく笑って見せ、私の頭を撫で優しく言う。

「あぁ、ゼルは悪くない。 彼等が心に愛情を持ったなら、愛情は返され幸福な気持ちに心が満たされただろうからな」

「王様は、どんな気持ちになったの?」

「そうだな……寝物語としてなら、語ってやってもいいぞ?」

「私を置き去りに話をしないでください」

 力のない声で旅商人さんが言う。 

 私と言えば、私を抱きしめる旅商人さんのサングラスに私は手を伸ばしていて、旅商人さんはソレをよけていた。

 私は、自分の心が知りたかったのだ。 不確かで不安定で……だけど、優しく腕の中に保護されている私のこの気持ちはなんていうんだろうって。

「リエルさん? ダメですよ」

「私が旅商人さんを殺そうと考えているとでも言うんですか?」

「いえ、そうは……、その名前で……」

「ぇ、あ、つい、習慣で」

 そう微笑み誤魔化し、私は彼のサングラスに手をかけた。



 けど、何も変わらなかった。



 じっと、瞳を見つめてみたけれど、

「王様と同じ瞳」

「まぁ、兄弟だからな」

 王様の軽い言葉を私は聞き流してしまいそうになった。

「そっかぁ……ぇ?」

「でなければ、いくら神の印があるからって、ここまで面倒はめんよ」

 そういって笑いながら、王様も旅商人さん……ゼルの瞳を覗き込んでいた。

「あぁ、なるほど、にじみ出ている神力の影響が消されている。 本当に神力を消すんだな」

 唖然とでもいうのか、そんな感じで王様は私を見る。

「なるほど……これは確かに宝物だ」

 そんなことを言いながら、王様はゼルの腕の中にいる私の頬にキスをした。

「さぁ、嬢ちゃん。 こっちにおいで」

 私の両脇に手が差し入れられ、ゼルの腕の中から王様は私を引っ張りだそうとすれば、ゼルは明らかに嫌がって、私を抱きしめる。 優しく強く逃がすまいと。

 ずっと大人だと思っていたのに瞳が見えると言うだけで、ずいぶんと子供っぽく見えるのに私は小さく笑ってしまう。

「まさか、鎧を着たまま一緒に寝るって言う訳でもあるまい。 嬢ちゃんだって初めては肌と肌を触れ合わせたいだろう? その熱をじかに肌に触れたいと思わないか?」

 甘い甘いくすぐるような囁きと共に、王様の手はスルリと服の中に入り込み、私の肌に触れていた。 硬い手の感触と私よりわずかに高い体温は、それだけで何かを刺激するようで……、

「くすぐったい!!」

 私は誤魔化す。

「それにこういうのは後に行くほど、言い難くなるもんだ。 例え、大したことのない内容だったとしてもな」

 私を抱きしめていた腕の力をゼルが抜けば、スルリと王様の腕の中に納まってしまった。

 ゼルは小さく溜息をつく。

「嫌いに、ならないでくださいね……」

 流石に、見ない事には良いも悪いも約束できない訳で、だからと言って、視界的に問題があれば服をきたまますればいいじゃないか! なんて言える訳ない……。 私にだって恥じらいと言うものがある訳ですよ。 むしろ恥じらいの化身ぐらいに考えて欲しいものです。

「嫌いにはならないと思うよ」

 私は苦笑交じりに曖昧な言葉を選んだ。

 ベッドから降りて、彼は服を脱いでいく。 襟元の宝石に手が触れれば宝石は淡く輝いて見せた。

「魔道具」

「あぁ」

「噂では、ゼルは強いって聞いたけど? 厳重ね」

「まぁ……色々面倒な時代になるからな」

 難しい事は分からないと、私は王様の言葉を聞き流した。

 目の前では上半身を脱ぎ終えたゼルの姿があった。 細い余計な肉が一切ない身体、薄い筋肉は美しい。 身体を見せつけるように、ゼルが自嘲気味な笑みで両手を広げて見せた。

「これが、誕生と共に親に殺された原因ですよ」

 余りにも全身に幾何学的に美しく配置された模様は、アールデコ調の美しい装飾品のようにも感じた。

「タトゥー?」

 私の呟きに、王様がとう。

「なんだ?」

「ぇ、あ……、その……どこかの本で読んだことがあるの。 身体に絵を描く人達のことを」

「そんな大それたことをする奴がいるのか?」

 そうか、神の加護を持つものは特別なものとして優遇されるから、身体に模様を刻む事は周囲を偽り利益を得る事になる、それより何よりも神に対して不敬となる。 だからこの世界にはタトゥーを彫る者はいないのか。

「物語の中ですよ」

「あぁ、なるほど……とはいえ、実際にそう言うことがあってもおかしくないのか……」

「放置は勘弁してもらえますか? 虚しくなります」

「ぇ、あ、ごめんなさい。 あの、非常によく鍛えられた素敵な身体だと思います」

 正直な感想なのだけど王様が笑い出し、それによって腕の中から逃れる事ができた。 そしてゼルは困惑していながら、私に近寄り、私の手を取りその体に触れさせた。

 その体は冷たかった。

 私は指先で、筋肉をなぞるように撫でれば、小さなうめき声と、不機嫌そうに眉間が寄せられ、そして溜息がつかれた。

「ダメ?」

「いえ……ですが、コレ一つ一つが、悪神と呼ばれる存在からの加護だとしても、同じ事が言えるのですか? 同じように触れる事ができるのですか?」

 つめ寄られて押し倒されて……いえ、悪神とかどうとかいうよりも……凄く目の毒なんですよ……。

 見つめられ、ソレが恥ずかしくて胸がどきどきするのは、瞳に宿る力のせい? そうではないと聞いているのに、恥ずかしくて何かのせいにしてしまいたくなってしまう。

「とりあえず、落ち着いてください。 仕方ないじゃないですか、私にはソレの意味が理解できないのですから、怖がることも嫌がることもできませんよ」

 大人の男性が見せる泣きそうな表情に、私は困り果てとりあえず抱きついた。 そうすれば顔は見ずに済むかと言う思いとは別に、逞しい身体は……それだけで色っぽいと思うの、そっと私は、抱き着いたどさくさに紛れて本人に隠れて口づける。

「リエル……」

 色香の漂う声で名を呼ばれ引き離されたと思ったら、押し倒されていた。

「あ~~~、うん、まぁ……とりあえず、後は若い者に任せて、年寄りは失礼しよう。 あぁ、婆さんが来るまで休みをくれてやる。 観光でもなんでも連れて行ってやるといい」

 そうして王様は、優しい笑みと共に手を軽く振って見せた。

「王様?! ぇ、あの……その……」

「いやなら、嫌って言えばいい。 嫌がる事はしない。 逆に嫌でないなら弄ぶように嫌だと言うなよ。 融通が利かない奴なんだから」

 そう言いながら笑うけど、それを本人の前というか後ろで言うのはどうかと思う。 私の視線は部屋を去る王様を追っていて、そんな私の耳もとに囁かれた。

「やっぱり、私に触れられるのは嫌ですか?」

「ぇ、その……良いけど……乱暴なことはしないでね」

 優しく触れるゼルの唇は、是か否か……答えらしい答えも貰えないまま、私は目を閉ざした。
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