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11.王様は私を甘やかしたいらしい
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遅いな~~~。
王様に頭を冷やしてこいと言われた旅商人さんは大人しく浴室へ向かっていった。 だけど、なかなか戻ってこない。
死神と呼ばれる不確かな存在。
そんな存在に浚われた時の、諦め。
そこからの安堵。
緊張していた時はいい、だけど……一度安堵し甘えてしまえば心は一気に弱くなる。
旅商人さんの部屋にセットされたテーブルとソファ。 そして食べ物に飲み物。 ベッドに座りこみそれらが次々運ばれる様をボンヤリとみていた。 全ての作業を終え、仮面をかぶった侍女達が出て行くのを無機質に眺めていた。
「ここに来るんだ」
私を呼んだのは、最初に持ちこまれた一人掛けのソファに座っている『ヒューバート・ロス・オルグレン』この国の王様。
怖い。 そう思った。
怯えるなら、相手に従うべきだと思う。 だけど私は動けなかった。 両手足を恐怖という鎖に繋がれたかのように。 王様は少しだけ考えこんだように黙り込み、私に向って歩み寄ってきた。
なに?
声に出させずに見下ろす王様を見上げれば、両手が差し出され軽々と抱き上げられた。
「怯えなくていい。 俺は女には優しい男だ」
どこか皮肉気な雰囲気の口元、だけど声は何処までも甘く優しい。 王様が私の目元に口づけてくる。 触れる唇は優しいけれど、抱き上げた高さと腕の力から逃がす気はないと訴えているかのようだ。
「うそ……」
「ほんと」
妙に気安く感じる甘い声、耳もとで囁き鼻先で耳をなぞりくすぐってくる。 ビクッと震える私を抱えたままソファに腰を下ろす。
「お腹すいてないか?」
甘い甘い声。
王様は、果物をフォークで刺し口先に持ってきた。
「口を開けるんだ」
口先の甘い匂いに空腹なのだと気づき、口を開いた。 ユックリと口の中に入ってくる食べ物は、イチゴのような形なのに熟した桃のように甘く果汁が多い。
「んっ」
口元からこぼれてしまった果汁を舌先で拭おうとしたら、ペロリと甘い果汁が舐められた。
「ぇ?」
驚いて私は王様の顔を始めてマジマジと見た。 旅商人さんの目元はサングラスで隠されているけれど、それでも2人はとても良く似ているように見えた。 ただ、王様の方が堂々と落ち着いていて安心感があるように見えた。
「初めて、俺を見たな」
ユックリと話す声は耳に心地よく、旅商人さんよりも少しだけ声が低い。 2人の似ているところ、2人の違っているところ、ソレをマジマジと見ていれば、顔が近づいてきて唇が優しく触れた。
「良い子だ」
小さな子にするように抱きしめ、背が撫でられれば、口づけも特別なものではなく、父親が幼い赤ん坊にするような、そんな情愛的なように感じて、あえて拒絶する気にもならなかった。
「良い子だ」
王様は繰り返し、抱きしめて背を撫でる。
「少し、この世界のことを話そうか?」
私は、虚ろな様子でうなずいた。
「この世界は神によって作られ、支配されている。 国に与えられた加護、人に与えられた加護。 加護の恐ろしいところは、神の力は人間にとっては過分であり毒になることだ」
「毒?」
神なのにとおもえば不思議に感じた。
王様は酒の入ったグラスを持ち上げる。
「神の寵児の定義とは、神から神力を与えられた者とされている」
神力とは
・神の与える力
・活用せず停滞させれば魂に癒着し精神異常発生
・人が活用する際は、神力のままでは活用できず魔力転化が必要
・神力が肉体に漏れ出れば、その肉体そのものが毒となる
・その毒が第三者に付着すれば、魔物化してしまう
・毒性のある神力を魔力転化し安全活用しないのは、神力を魔力に変化させた場合、20~30倍に膨れ上がり魔力暴走の原因となるため
処理方法
・自らを教祖とした信者を集め、力を分散する
・魔石として排出、魔道具への付与
と言うことらしい。
「昔、死にかけたアイツを助けた時、血に触れた覚えはないか?」
旅商人さんはずっと恩義を感じてはくれていたけれど、何しろ小さな頃の話だし、森に死体が転がり、餌にされているなんてのは、そう珍しい話でも……。
「あ……れ……?」
遠い遠い記憶……。
赤い赤い水たまりの中に倒れる旅商人さんの周りには、見た事の無い生き物が倒れ、ボコボコと何かが……息づき隠れて……。
「ぇ……」
「別に思い出さなくてもいい。 忘れた方がいいと、幼い嬢ちゃんが判断したことだ」
額と額がコツンとぶつかる距離で、ニッと笑われれば、その笑みに考え事が霧散し消えた。
「とても、印象的な目」
光の加減で金や赤に見える。
「怖いか?」
「なぜ? 赤い目の人も、金色の目の人もいますよ?」
「あぁ、そうだな。 良い子だ」
額をコツンとしたままで、頭が撫でられチュッと軽く口づけられる。 嫌な感じがしなくて、逆に戸惑ってしまう。
「……命を救ったって言われていたけど、私、治療とかしてないと言うか、何か出来るような年齢ではなかったと思うのだけど」
「嬢ちゃんは神力を打ち消してしまうそうだ。 まぁ、魔力にまで劣化させれば普通に効果はあるようだが」
私は状況が理解できないと、言葉にせずに首を傾げた。
「あの日、アレは限界を迎え魔王化寸前までくるっていて、被害が出るまえに退治しようと聖女とその一団が討伐にきていた」
「物語みたい」
「現実は、そんな良いもんじゃないさ。 魔王化の影響受けた、城の人間が聖女とその一団に反撃し、全面戦争になりかけるわ。 まぁ、それはいいか……あれから、アイツは定期的に嬢ちゃんの所に出向いて神力の調整をしていたってことだ。 だが、ある日を境に嬢ちゃんが消えた。 結果として神力の使用と、嬢ちゃん探しのために、くすぶっていた戦争の火種を大戦レベルまで拡大させやがった」
「王様なのに他人事」
「生憎と、本気になったアレを抑えるのは俺には無理でね。 出来るのはどう後始末をつけてやるかの帳尻合わせだけだ」
「それに、聖女様は、戦争を起こさない」
「加護を与えた神の性質が違う。 アレに加護を与えたのは知識と破壊に傾倒する神々だからな」
「でもでも、戦争を辞めたのもオルグレン国だよね?」
オルグレン国が中心となった停戦協定からの和平会議だとイザベラから聞いている。
「それは、嬢ちゃんを見つけた後だ。 そんな訳でお嬢ちゃんは、アイツにとっては当然、俺の国や民にとっても恩人ってわけだ。 だからどんなワガママでも聞いてやろう」
甘い甘い囁きは悪魔のようだと思った。 この世界では悪魔と言う言葉はないけれど。
「で、何か望みはないのか?」
「そう言われましても……」
「初めてが、童貞野郎だと不安だから、俺にトロトロにとかして欲しいとか」
明らかにからかい交じりの口調と共に、頬が舐められた。 からかっていると言い切る理由なんて簡単だ。 視線の先に唖然としている旅商人さんの姿が見えたから。
ところで、風呂に入る前よりも入った後の方が、キッチリと騎士の制服(上官用)を着こみ、髪もセットされ、サングラスまで装備済だ。
「お出かけ?」
「出かけはしません……が、えっと……どこか行きたいところあります?」
戸惑いが垣間見えるが、旅商人さんは何時もこう。
「特にないのですが……とりあえず、この居心地の悪い場所から移動できると嬉しいです」
そう言えば、明らかにほっとした様子で、王様の膝の上から抱き上げてくれた。
「居心地悪いとは失礼な。 王の膝の上などそうそう上がれるものではないぞ?」
そう言いながら笑っている。
「座りたい場所でもありませんよ……」
「ずいぶんと、仲良くなったようですね」
「人見知りをするオマエとは違うからな。 ところで、嬢ちゃんじゃないが、なぜ風呂上りの自室でがっちり着込んでいるんだオマエは?」
「それは……」
「女として見ているなんて勘違いするなよ? 的な威嚇とか?」
王様が楽しそうに言うけれど、別に女性として求め愛されるとか、そういう物語のようなことを期待していた訳では……ないですよ!! だから別にショックとかそういうのはないですし。
「甘い言葉で誘いだして、興味がないとは酷い奴だな」
「そんな訳では!! ただ、私の身体は見ていて余り気分の良いものではありませんから」
「えっと、イボカエルのような?」
「……ぇ、流石にソレはないです」
「甲殻類的な殻があるとか、鱗が生えているとか?」
首が横に振られた。
「実は、身体に幾つも顔が生えている」
「顔って生えるもんなのか?」
王様が横で笑いながら聞いてきた。
「なら、実は中身がからの骸骨!! で、抱き合うと骨が刺さる」
「どんな体を想像しているんですか……」
唖然とする旅商人さんと、笑い続ける王様。
「なかなか素敵な想像力じゃないか」
「私、遊ばれています?」
情けない声で旅商人さんがきくから私も笑う。
「見せられないっていうから。 ちなみに顔とイボカエルは嫌だけど、それ以外なら問題ありません」
「なかなか懐の広い嬢ちゃんじゃないか」
「で?」
胸ぐら掴んで顔を寄せてみれば、ふいっと顔が背けられた。
チュッと私は向けられた頬に触れるだけの口づけをしてペロリと舐めてみる。 私を抱える手に、少しだけ力が入ったような入らないような? そんな感じだけど、旅商人さん自身は直立不動で硬直していて、
どうすればいいのか分からず途方にくれて、チラチラと王様を見れば、ソファに突っ伏して笑われていた。
「いや、可愛いなぁ~」
「だって、わからないんだから仕方ないでしょ」
「分かった。 ゼルの側を手伝うんじゃなく、お嬢ちゃんを手伝えばいいんだな」
立ち上がった王様は、私ごと旅商人さんを抱き上げてベッドに放り投げた。
た、体力馬鹿?
王様に頭を冷やしてこいと言われた旅商人さんは大人しく浴室へ向かっていった。 だけど、なかなか戻ってこない。
死神と呼ばれる不確かな存在。
そんな存在に浚われた時の、諦め。
そこからの安堵。
緊張していた時はいい、だけど……一度安堵し甘えてしまえば心は一気に弱くなる。
旅商人さんの部屋にセットされたテーブルとソファ。 そして食べ物に飲み物。 ベッドに座りこみそれらが次々運ばれる様をボンヤリとみていた。 全ての作業を終え、仮面をかぶった侍女達が出て行くのを無機質に眺めていた。
「ここに来るんだ」
私を呼んだのは、最初に持ちこまれた一人掛けのソファに座っている『ヒューバート・ロス・オルグレン』この国の王様。
怖い。 そう思った。
怯えるなら、相手に従うべきだと思う。 だけど私は動けなかった。 両手足を恐怖という鎖に繋がれたかのように。 王様は少しだけ考えこんだように黙り込み、私に向って歩み寄ってきた。
なに?
声に出させずに見下ろす王様を見上げれば、両手が差し出され軽々と抱き上げられた。
「怯えなくていい。 俺は女には優しい男だ」
どこか皮肉気な雰囲気の口元、だけど声は何処までも甘く優しい。 王様が私の目元に口づけてくる。 触れる唇は優しいけれど、抱き上げた高さと腕の力から逃がす気はないと訴えているかのようだ。
「うそ……」
「ほんと」
妙に気安く感じる甘い声、耳もとで囁き鼻先で耳をなぞりくすぐってくる。 ビクッと震える私を抱えたままソファに腰を下ろす。
「お腹すいてないか?」
甘い甘い声。
王様は、果物をフォークで刺し口先に持ってきた。
「口を開けるんだ」
口先の甘い匂いに空腹なのだと気づき、口を開いた。 ユックリと口の中に入ってくる食べ物は、イチゴのような形なのに熟した桃のように甘く果汁が多い。
「んっ」
口元からこぼれてしまった果汁を舌先で拭おうとしたら、ペロリと甘い果汁が舐められた。
「ぇ?」
驚いて私は王様の顔を始めてマジマジと見た。 旅商人さんの目元はサングラスで隠されているけれど、それでも2人はとても良く似ているように見えた。 ただ、王様の方が堂々と落ち着いていて安心感があるように見えた。
「初めて、俺を見たな」
ユックリと話す声は耳に心地よく、旅商人さんよりも少しだけ声が低い。 2人の似ているところ、2人の違っているところ、ソレをマジマジと見ていれば、顔が近づいてきて唇が優しく触れた。
「良い子だ」
小さな子にするように抱きしめ、背が撫でられれば、口づけも特別なものではなく、父親が幼い赤ん坊にするような、そんな情愛的なように感じて、あえて拒絶する気にもならなかった。
「良い子だ」
王様は繰り返し、抱きしめて背を撫でる。
「少し、この世界のことを話そうか?」
私は、虚ろな様子でうなずいた。
「この世界は神によって作られ、支配されている。 国に与えられた加護、人に与えられた加護。 加護の恐ろしいところは、神の力は人間にとっては過分であり毒になることだ」
「毒?」
神なのにとおもえば不思議に感じた。
王様は酒の入ったグラスを持ち上げる。
「神の寵児の定義とは、神から神力を与えられた者とされている」
神力とは
・神の与える力
・活用せず停滞させれば魂に癒着し精神異常発生
・人が活用する際は、神力のままでは活用できず魔力転化が必要
・神力が肉体に漏れ出れば、その肉体そのものが毒となる
・その毒が第三者に付着すれば、魔物化してしまう
・毒性のある神力を魔力転化し安全活用しないのは、神力を魔力に変化させた場合、20~30倍に膨れ上がり魔力暴走の原因となるため
処理方法
・自らを教祖とした信者を集め、力を分散する
・魔石として排出、魔道具への付与
と言うことらしい。
「昔、死にかけたアイツを助けた時、血に触れた覚えはないか?」
旅商人さんはずっと恩義を感じてはくれていたけれど、何しろ小さな頃の話だし、森に死体が転がり、餌にされているなんてのは、そう珍しい話でも……。
「あ……れ……?」
遠い遠い記憶……。
赤い赤い水たまりの中に倒れる旅商人さんの周りには、見た事の無い生き物が倒れ、ボコボコと何かが……息づき隠れて……。
「ぇ……」
「別に思い出さなくてもいい。 忘れた方がいいと、幼い嬢ちゃんが判断したことだ」
額と額がコツンとぶつかる距離で、ニッと笑われれば、その笑みに考え事が霧散し消えた。
「とても、印象的な目」
光の加減で金や赤に見える。
「怖いか?」
「なぜ? 赤い目の人も、金色の目の人もいますよ?」
「あぁ、そうだな。 良い子だ」
額をコツンとしたままで、頭が撫でられチュッと軽く口づけられる。 嫌な感じがしなくて、逆に戸惑ってしまう。
「……命を救ったって言われていたけど、私、治療とかしてないと言うか、何か出来るような年齢ではなかったと思うのだけど」
「嬢ちゃんは神力を打ち消してしまうそうだ。 まぁ、魔力にまで劣化させれば普通に効果はあるようだが」
私は状況が理解できないと、言葉にせずに首を傾げた。
「あの日、アレは限界を迎え魔王化寸前までくるっていて、被害が出るまえに退治しようと聖女とその一団が討伐にきていた」
「物語みたい」
「現実は、そんな良いもんじゃないさ。 魔王化の影響受けた、城の人間が聖女とその一団に反撃し、全面戦争になりかけるわ。 まぁ、それはいいか……あれから、アイツは定期的に嬢ちゃんの所に出向いて神力の調整をしていたってことだ。 だが、ある日を境に嬢ちゃんが消えた。 結果として神力の使用と、嬢ちゃん探しのために、くすぶっていた戦争の火種を大戦レベルまで拡大させやがった」
「王様なのに他人事」
「生憎と、本気になったアレを抑えるのは俺には無理でね。 出来るのはどう後始末をつけてやるかの帳尻合わせだけだ」
「それに、聖女様は、戦争を起こさない」
「加護を与えた神の性質が違う。 アレに加護を与えたのは知識と破壊に傾倒する神々だからな」
「でもでも、戦争を辞めたのもオルグレン国だよね?」
オルグレン国が中心となった停戦協定からの和平会議だとイザベラから聞いている。
「それは、嬢ちゃんを見つけた後だ。 そんな訳でお嬢ちゃんは、アイツにとっては当然、俺の国や民にとっても恩人ってわけだ。 だからどんなワガママでも聞いてやろう」
甘い甘い囁きは悪魔のようだと思った。 この世界では悪魔と言う言葉はないけれど。
「で、何か望みはないのか?」
「そう言われましても……」
「初めてが、童貞野郎だと不安だから、俺にトロトロにとかして欲しいとか」
明らかにからかい交じりの口調と共に、頬が舐められた。 からかっていると言い切る理由なんて簡単だ。 視線の先に唖然としている旅商人さんの姿が見えたから。
ところで、風呂に入る前よりも入った後の方が、キッチリと騎士の制服(上官用)を着こみ、髪もセットされ、サングラスまで装備済だ。
「お出かけ?」
「出かけはしません……が、えっと……どこか行きたいところあります?」
戸惑いが垣間見えるが、旅商人さんは何時もこう。
「特にないのですが……とりあえず、この居心地の悪い場所から移動できると嬉しいです」
そう言えば、明らかにほっとした様子で、王様の膝の上から抱き上げてくれた。
「居心地悪いとは失礼な。 王の膝の上などそうそう上がれるものではないぞ?」
そう言いながら笑っている。
「座りたい場所でもありませんよ……」
「ずいぶんと、仲良くなったようですね」
「人見知りをするオマエとは違うからな。 ところで、嬢ちゃんじゃないが、なぜ風呂上りの自室でがっちり着込んでいるんだオマエは?」
「それは……」
「女として見ているなんて勘違いするなよ? 的な威嚇とか?」
王様が楽しそうに言うけれど、別に女性として求め愛されるとか、そういう物語のようなことを期待していた訳では……ないですよ!! だから別にショックとかそういうのはないですし。
「甘い言葉で誘いだして、興味がないとは酷い奴だな」
「そんな訳では!! ただ、私の身体は見ていて余り気分の良いものではありませんから」
「えっと、イボカエルのような?」
「……ぇ、流石にソレはないです」
「甲殻類的な殻があるとか、鱗が生えているとか?」
首が横に振られた。
「実は、身体に幾つも顔が生えている」
「顔って生えるもんなのか?」
王様が横で笑いながら聞いてきた。
「なら、実は中身がからの骸骨!! で、抱き合うと骨が刺さる」
「どんな体を想像しているんですか……」
唖然とする旅商人さんと、笑い続ける王様。
「なかなか素敵な想像力じゃないか」
「私、遊ばれています?」
情けない声で旅商人さんがきくから私も笑う。
「見せられないっていうから。 ちなみに顔とイボカエルは嫌だけど、それ以外なら問題ありません」
「なかなか懐の広い嬢ちゃんじゃないか」
「で?」
胸ぐら掴んで顔を寄せてみれば、ふいっと顔が背けられた。
チュッと私は向けられた頬に触れるだけの口づけをしてペロリと舐めてみる。 私を抱える手に、少しだけ力が入ったような入らないような? そんな感じだけど、旅商人さん自身は直立不動で硬直していて、
どうすればいいのか分からず途方にくれて、チラチラと王様を見れば、ソファに突っ伏して笑われていた。
「いや、可愛いなぁ~」
「だって、わからないんだから仕方ないでしょ」
「分かった。 ゼルの側を手伝うんじゃなく、お嬢ちゃんを手伝えばいいんだな」
立ち上がった王様は、私ごと旅商人さんを抱き上げてベッドに放り投げた。
た、体力馬鹿?
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