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2章
19.彼女達の思い 02
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村に戻った私が避難所に逃れていた住民に、魔物は退治されたと伝えれば、それは既に村中の者が知っていた。 村長の奥さんが余りにも私を心配したため、村長自身が私の後を追っていたのだと言う。
「少々量が多いですが、後始末の方をお願いできますか?」
そう告げた男は村長に自らの名前を『コウ』と名乗った。 王国軍と共に行動しているあたり、第二皇子であることは疑いようはないのですけどね。
アンセラム・コウ・ラファルグ
それがこの国の殿下の名であり、セカンドネームを使っているのか……と、私は表情を変えることなく考えていれば、目の前の村長は、不安そうに、何処か怯えたような顔でコウにうかがいを立てる。
「……対価の方は……如何ほどでしょうか……」
消え入りそうな声。
魔物からは、高価な魔石が取れるが、戦闘と共にケガレを身に受けるリスクを負う。効率よく倒せば受けるケガレは減るが、ケガレの量に関係なく神殿でケガレを浄化しようとすれば、その対価に魔石を求められる。 そのため、倒した魔物から取れる魔石が、魔物退治の対価となることはない。
大都市ですら、依頼料に困窮するような数の魔物であった。 存在を隠し、国や領主との接点を持たず、税も払ってこなかった村だ。 国のために国軍が動くのは当然だ!! 等と言える訳がない。
むしろ今までの税を一括で払ったうえで、魔物退治費用を払えと言われても文句を言えない状況なのだ。
村長の顔色は土色で唇は紫色に染まりプルプルと小刻みに震えていた。 命あっての物種というが物には限度がある。
無表情に感情のこもらぬ声で男は言う。
「それは彼女の身体で払ってもらう事にする」
思わずギョッとしながら、男、コウの顔を見上げてしまった。
突然に腰に腕を回され抱き寄せられれば、私はふらりとバランスを崩しコウに身体を預けるような態勢となり、そのまま口づけされる。 ソレを聞いて、ソレを見て、村人の大半、フィンやラキですら安堵の息をはく始末。
また、売られた?!
仕方がないとはいえショックは小さくはない。
ただ救いもあった。
村長の奥さんだけは違っていたのだ。
「そ、そんな!! その子は我が子も同然! 無体な事だけはやめてください!!」
悲痛な奥さんの表情。
仕方がないだろうと語る村長や村人の視線。
村長は、
「やめないか!!」
そう叫び、村人達はくってかかろうとした村長の奥さんを抑え込んだ。
そうやって、気遣ってくれる相手がいれば、私も諦めがつくと言うものだ……知らない間柄でもない、相手の好意に付け入るのは、心苦しいけれど……、心配はいらないと言うところを見せたかった。
喧騒の中での口づけから唇を離される。
私は、離れた冷たくなっていた唇に自分の唇を寄せた。
冷たいコウの唇を甘く噛み、噛んだ跡をペロリと舐め唇を離せば、驚いたような視線が周囲から、そして目の前の男から向けられる。
「私に一目惚れをしたから、カッコいいところを見せたかったのではないのですか?」
そう笑ってふざけて見せれば、コウは真顔のままシバラク考え込んで。
「それは違う。 魔物は元々倒すつもりだった。 ただ、ソレを理由にすれば、脅してでもオマエを手に入れる事ができるのでは? そう思ったというのが正しい。 まぁ、魔物がいようといまいと、この村は……村人はこの国への不法滞在者、例えこの国の民だったとしても、民の責務を果たしていない。 脅しの理由は十分だろうがな」
そして噛みつくように口づける。
抵抗できる訳などない。
「せめて美しい夢を見させてくれませんか?」
そう笑いながら、愛おし気な素振りでコウを見つめ身を寄せた。
私はコウに対する発言が、厳しい物にならないように最善の注意を払う。 何しろリリアとしての人生を終えた理由が彼に対する正直すぎる発言が原因だったから……同じ失敗は避けたい。
同時に、私を娘のように大切にしてくれた女性を安心させたかった。 だが……奥さんの不満は収まらず、
「……貴族に惚れても……」
「エバ、彼女がいいと言っているんだ」
そう言って村長が奥さんの言葉をさえぎり、村長が言う。
「雨に濡れ風邪をひいてもいけない。 馬はそのまま放置すればいいからもう行きなさい」
そう言われて私は避難所を後にする。
「少々量が多いですが、後始末の方をお願いできますか?」
そう告げた男は村長に自らの名前を『コウ』と名乗った。 王国軍と共に行動しているあたり、第二皇子であることは疑いようはないのですけどね。
アンセラム・コウ・ラファルグ
それがこの国の殿下の名であり、セカンドネームを使っているのか……と、私は表情を変えることなく考えていれば、目の前の村長は、不安そうに、何処か怯えたような顔でコウにうかがいを立てる。
「……対価の方は……如何ほどでしょうか……」
消え入りそうな声。
魔物からは、高価な魔石が取れるが、戦闘と共にケガレを身に受けるリスクを負う。効率よく倒せば受けるケガレは減るが、ケガレの量に関係なく神殿でケガレを浄化しようとすれば、その対価に魔石を求められる。 そのため、倒した魔物から取れる魔石が、魔物退治の対価となることはない。
大都市ですら、依頼料に困窮するような数の魔物であった。 存在を隠し、国や領主との接点を持たず、税も払ってこなかった村だ。 国のために国軍が動くのは当然だ!! 等と言える訳がない。
むしろ今までの税を一括で払ったうえで、魔物退治費用を払えと言われても文句を言えない状況なのだ。
村長の顔色は土色で唇は紫色に染まりプルプルと小刻みに震えていた。 命あっての物種というが物には限度がある。
無表情に感情のこもらぬ声で男は言う。
「それは彼女の身体で払ってもらう事にする」
思わずギョッとしながら、男、コウの顔を見上げてしまった。
突然に腰に腕を回され抱き寄せられれば、私はふらりとバランスを崩しコウに身体を預けるような態勢となり、そのまま口づけされる。 ソレを聞いて、ソレを見て、村人の大半、フィンやラキですら安堵の息をはく始末。
また、売られた?!
仕方がないとはいえショックは小さくはない。
ただ救いもあった。
村長の奥さんだけは違っていたのだ。
「そ、そんな!! その子は我が子も同然! 無体な事だけはやめてください!!」
悲痛な奥さんの表情。
仕方がないだろうと語る村長や村人の視線。
村長は、
「やめないか!!」
そう叫び、村人達はくってかかろうとした村長の奥さんを抑え込んだ。
そうやって、気遣ってくれる相手がいれば、私も諦めがつくと言うものだ……知らない間柄でもない、相手の好意に付け入るのは、心苦しいけれど……、心配はいらないと言うところを見せたかった。
喧騒の中での口づけから唇を離される。
私は、離れた冷たくなっていた唇に自分の唇を寄せた。
冷たいコウの唇を甘く噛み、噛んだ跡をペロリと舐め唇を離せば、驚いたような視線が周囲から、そして目の前の男から向けられる。
「私に一目惚れをしたから、カッコいいところを見せたかったのではないのですか?」
そう笑ってふざけて見せれば、コウは真顔のままシバラク考え込んで。
「それは違う。 魔物は元々倒すつもりだった。 ただ、ソレを理由にすれば、脅してでもオマエを手に入れる事ができるのでは? そう思ったというのが正しい。 まぁ、魔物がいようといまいと、この村は……村人はこの国への不法滞在者、例えこの国の民だったとしても、民の責務を果たしていない。 脅しの理由は十分だろうがな」
そして噛みつくように口づける。
抵抗できる訳などない。
「せめて美しい夢を見させてくれませんか?」
そう笑いながら、愛おし気な素振りでコウを見つめ身を寄せた。
私はコウに対する発言が、厳しい物にならないように最善の注意を払う。 何しろリリアとしての人生を終えた理由が彼に対する正直すぎる発言が原因だったから……同じ失敗は避けたい。
同時に、私を娘のように大切にしてくれた女性を安心させたかった。 だが……奥さんの不満は収まらず、
「……貴族に惚れても……」
「エバ、彼女がいいと言っているんだ」
そう言って村長が奥さんの言葉をさえぎり、村長が言う。
「雨に濡れ風邪をひいてもいけない。 馬はそのまま放置すればいいからもう行きなさい」
そう言われて私は避難所を後にする。
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