私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人

文字の大きさ
上 下
15 / 21

15.その招待状は、人を不幸にする

しおりを挟む
「戦う準備も覚悟も、私はいつでも出来ています」
 
 迷いなくミアがそう言うと、魔王は小さくため息をつく。
 
「どうしてそう好戦的なのか。魔族には好戦的な者が多いが、私が王である間は私の治世に従ってもらう。これからは融和の時代だ」
「融和、とは」
「戦争をしても無駄に血を流すだけで、損ばかりで何の益もない。そういったことはやめ、魔界と人間界の友好を保ちたいのだ。
最終的には自由に行き来が出来るようにし、交易を行い、互いの益になるような関係にまで持っていきたい」
 
 先代の魔王が好戦的だったのに対し、現魔王は平和主義者だ。平和主義者というよりも、合理主義者というべきか。
 
 魔族は好戦的な者ばかりだと思われがちだが、わずかながらに現魔王のように人間との友好を望む者も存在する。
 
「ですがお父様、それは難しいのではないでしょうか。恐れながら申し上げますが、お父様のお考えに賛同する者は少ないでしょう」
 
 魔王の考えにも一理あるが、ミアの言うことももっともだ。いくら魔界では魔王の発言が絶対とはいえ、一般市民は元より魔王の側近や幹部も人間を憎んでいる者が圧倒的多数派である以上、人間との友好を実現するのは容易いことではない。
 
「そこで、人間界を統べる王と協議した結果、お前と勇者が婚姻を結ぶということになったのだ。王族たる我々が率先して人間と交流し、手本となる。しからば双方のわだかまりもとけ、いずれは民の間でも交流が進んでいくだろう」
「ですが!」
 
 理想を述べる父にミアは頭に血が上ってしまい、とっさに右腕を勢いよく横に振ってしまった。
 
(この私が人間風情の妻となる、だと?)
 
 ミアは魔族よりも人間の方が劣っていると思い込んでいる。そんな人間との結婚は、ミアにとって絶対に避けたいこと。
 
 しかし、ミアとて同類が無駄に血を流すことは本意ではない。何といって父に反論していいのか分からず、所在なく上げた手を下ろす。
 
「何も私と勇者様が婚姻を結ばなくとも、お兄様もいらっしゃるではありませんか。お兄様も人間などを妻とする気は毛頭ないでしょうが……」
 
 どうにか反論する材料を探していたミアだが、小声で兄の存在を告げることで精一杯だった。魔王の子はミアだけではなく、ミアの二つ年上の兄もいる。
 
「無論、お前の兄にも人間の姫と結婚してもらう。妻となる人間は、見目麗しく気立ても良い娘だと告げたら、あれは喜んで承諾したぞ」
 
(あんの、クソバカエロ兄貴!)
 
 兄と二人でどうにか父を説得できないかとミアは考えていたのだが、頼みの綱の兄が結婚に乗り気とあらばどうしようもない。ここにはいない兄に、心の中でこっそりと悪態をつくほかなかった。
 
「あれには人間の姫と結婚してもらい、姫は魔界で暮らすこととなった。それでは公平ではない故に妹のお前は勇者と結婚し、人間界で暮らしてもらう。
なに、心配するな。勇者は姫と同様美青年で、年もお前と同じで似合いだ。きっとお前も、彼を気に入るだろう」
 
(年も同じで美青年? そういう問題ではない! 私が人間界で暮らすだと? ああ……っ、考えただけでゾッとする……!)
 
 勇者の妻となるだけでなく、婚姻後は人間界で暮らすということを聞かされ、ミアは唇を噛みしめる。
 
「すでに心に決めた者がいるのであれば別だが、そういったわけでもなかろう?」
「それは……」
 
 心に決めた者がいるのかと問われ、ミアは口ごもる。
 
 ミアも年頃の娘。異性には興味があるが、ミアの好みは自分よりも強い男だ。
 
 魔王の娘であるミアより強い男もそうそうおらず、いたとしてもミアよりもずっと年上の男しかいない。あいにくミアは年の離れた男は守備範囲外であったため、十八年間生きてきて一度も恋をしたことがなかった。
 
「やはり心に決めた者はいないのだな。
では、問題ないな。魔界と人間界の友好のため、勇者と結婚してくれるだろう、私の愛しい娘ミアよ」
 
 うつむいているミアを見た魔王は、ミアに好いた者がいないと判断したらしく、勇者との結婚を勧めてくる。
 
「……はい」
 
 口調こそ穏やかではあったが、無言の圧をかけてくる父に逆らえず、結局ミアは不本意ながらも頷いてしまった。
 
 かくして、人間嫌いでプライドの高い魔族の姫ミアと、人間界を統べる王の息子でもある勇者との結婚が決まったというわけである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私の完璧な婚約者

夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。 ※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?

112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。 目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。 助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

処理中です...