罪人として生まれた私が女侯爵となる日

迷い人

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3章 貴族

16.次期当主として……?

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「どうしたのかな?」

 逃げるように帰って行ったクロードを気にかけ、オロオロするノーラ。

そんなノーラを横にエクスはこの程度であれば、大きな問題にもならないだろう……多分? と、心の中で苦笑い。

 黒狼のジンはと言えば、思っていたほどややこしい事にならなかった事に安堵した。

 ノーラはクロードの存在に気づいていなかったが、周囲を警戒していた黒狼とエクスにしてみれば敵意を隠そうともせずノーラにだけ向けていたクロードは何をしでかすか分からない要注意人物に他ならなかったから。

「良く分からないけど、私何か嫌われるような事しちゃったのかな? 謝った方がいいのかも……アミタ!!」

 困った表情を必死に隠していたアミタは、名を呼ばれてビクッと肩を震わせた。

「何でございましょう、ノーラ様」

「クロード様のその……心配だから、お見舞いに行きたいの!!」

「お見舞い、で、ございますか?」

「そう。 だって……お爺様の孫なんでしょう? クロード様は。 御身内なら仲良くしておいた方がいいはずなのに……私、泣かせてしまったようですし……」

 落ち込んだ様子で言うから、黒狼は溜息と共にボソリと呟いてしまうのだ。

「小さな女の子に泣かせてゴメンなんて言われた日には、情けなくて本気で泣きたくなるから止めてやれ。 アイツの事を思うなら忘れてやった方がいいだろう」

「でも……謝った方が良くない?」

「ノーラは何もしていないから、安心しろ」

 そう言いながら黒狼はエクスに何かフォローをしやがれと視線を向けていた。

「え~っと……。 そうですね。 小さくても彼は男ですから、私も忘れて差し上げた方が良いと思いますよ」

「なら、私は見ていなかったから安心してねって伝えた方がいいのかな?」

「それは見ていたし覚えていると言っているのと同じだ」

「なら、どうすればいいのよ!!」

「だから、気にせず向こうから声をかけて来るのを待てばいい」

「声をかけてこなかったら?」

 不貞腐れた様子でノーラは聞くけれど、エクスとすれば声をかけてくれない方が面倒で無くていいんだけど。 そう思わずにいられなかった。



 本当に知らないふりでいいのかな?
 そんな引っかかりを残したままのある日、来客が訪れた。

「お客様ですか?」

「えぇ、お会いになられますか?」

「会った方が良いのなら」

 こんな言い方になるのには訳がある。 お披露目が行われた翌日こそ静かだったけれど、翌々日ぐらいから大人の来客が増えだしていた。

 大体が私が当主になる事でどんな利益があるのか? と言う質問。 最初に訪れたヨハンさんだったかな? の時は凄く驚いて硬直してしまった。

 そして思い出したのは母。

 ここ最近は、甘やかされたばかりで、与えられてばかりだったけれど……母は私に自分の利益になる事をさせるのが好きだった訳で……。

「えっ?」

 なんて私は問い返したのだ。
 この戸惑いの間に、ヨセフだったかな?は、勝ち誇った顔をしてこう続けた。

「当主と言うものはですね「うわぁ~ ドン引きですねノーラ様」

 食い気味で、お茶を持ってきたエクスがそう言った訳で、私は安堵したのだ。 いや、そうしてくれないと……お兄ちゃんが、コイツ噛みついていいか? って顔でコッチ見てたんだもの。 窓の外から……。

 ちなみにお茶はいつもアミタが準備してくれるのだけど、多分部屋に入る際にさりげなさを演出するためにお茶を持ってきたんだと思う。

「ぁ、お茶、私が淹れるよ」

「ノーラ様が淹れるお茶を飲めるなんて感謝するといいですよ~~」

「そう言う事ではなく!!」

「え~~、私は余りお茶を淹れるのが得意じゃないんですけどねぇ~~」

 そう言って嬉々としてエクスは茶を淹れる訳だ。 私は遠慮しておいたけど……。

「にっがぁあああ!!」

「良薬口に苦しと言うではありませんか、貴方の頭に効果がある事をお祈りしております」

 そう言うと共に……いつの間にか部屋に入ってきていたお兄ちゃんが、首根っこもって外にポイッと窓から捨てた。

「いいのかな?」

「まぁ、いいんじゃないです?? そもそも次期当主だと現当主に定められた相手を、あんな風に馬鹿にする事自体がおかしいんですよ」

「そうだ、こんな子供から搾取する事を考えるより、どう支えるかを考える方が前向きだと言うものだ」



 なんて感じの事が幾度も繰り返された。

 なんか無駄に敵を作っているような気がしなくもないですけど、でもでも、私が当主になって何か良い事があるのか? って言われるのもなんだか違う気がするし……。



 もやっ?



 なんて回想を心の中でしていると、エクスが面倒そうに言うのだ。

「良い事を考えつきました、断ってしまいましょう」

「友好関係を築こうと前向きになるのが正しい方向なのではないでしょうか?」

 そう告げるのはアミタだ。

「とは言いますが、そもそも自分達に何をしてくれるのか?! って、迫る事自体間違っているんですよ。 そもそも侯爵家と言う広大な領地を所有する貴族だからこそ、何かあった際に資金の流用容易な訳で、それだけで大きな恩恵を得ているんですから。 それにノーラ様が正式に一族となる儀式を終えればソレだけで停滞していた神の加護が増えるはずですからねぇ」

「それだけど、なんで早く一族に受け入れると言う儀式を行わないのですかねぇ」

「それは……って、お客を放置しておいていいんですか?」

「あぁ、そうでした。 今回のお客様はノーラ様のためにも、お受けしたほうが良いと思いますよ。 年の近いお嬢さんですから」

「……と言うと、坊ちゃん関係でしょうが……「ぇ? お友達に、なれるかなぁ……」

 食いつくように言えば、エクスは困った感じで頭をかきながらいうのだった。

「余り期待しないなら、会ってみてもよいんじゃないでしょうか?」
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