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序章 次期当主

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「この子が私の跡継ぎ、ランドール侯爵家の次期女当主です」

 そう言って、今日から私のお爺様となったその人は、屋敷に住む人達に紹介した。

「父上!! なぜ?! そんなどこから連れて来たとも分からない娘を!!」

 黒に近い紺色の髪と瞳を持つ男性が叫び、7歳になったばかりの私につかみかかろうとすれば、お爺様はその逞しく鍛えた腕で私を抱き上げ、側にいた大きく黒い狼が唸り声をあげ威嚇した。

「黙れ、静かにしろ」

 お爺様……ネレル・ランドールが静かに睨みつければ男は引いた。 後から聞いた話によれば文句を言った男は、お爺様の息子で次期ランドール侯爵とされていた人物らしい。

「お義父様!! モラン様がどれほど次期当主となるよう努力なさって来たのか、弱体するばかりのランドール家を盛り上げようと尽力されていたことを、ご存じでしょう!! なぜ、そのような嫌がらせをなさるのですか!!」

 赤茶色の髪をした女が縋るように言った。 モラン様の妻にあたる女性ケイトだと後で説明を受ける。 そして、取り乱し叫ぶ2人の背後では、顔色悪く震える年配の品の良い女性。

「お母様からも何か言って下さい!! モランがどれほどの働きをしているか!!」

「貴方……」

 震える女性は、さっきから黙り込んだお爺様と視線を合わせる事は無かった。

 そして……取り乱す両親を横に、一人の男の子が私を睨みつけていた。 静かに、冷ややかに、その年ごろの男の子とは思えない情熱をもって……。

「簒奪者が……」

 小さな呻くような声が、はっきりと私の耳に聞こえた。



 男の子の名はクロードと言い、私が次期ランドール侯爵家の当主になる条件として、婚約者とされる男の子だ。



 決して望んだ立場ではないのに……そう逃げる事は出来ない。 何しろ、私にはもう戻るべき場所は無いのだから。
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