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1章 遺産
12.仕方がない
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薬剤室に2人の男性を従え向かう。
行きかう人たちは奇異な視線を向けてきた。
仕方がない。
王妃様の薬師を務めている関係上、殿下との関わりは同年代の女性と比べて格段に多く、否応なく人の視線を、嫉妬心を集めてしまう。 ソレは令嬢だけではなく、殿下と親しくなるために娘を使おうとする貴族当主達からも、日々痛い視線を向けられる原因となっている。
「視線凄いですね。
護衛付けましょうか?」
殿下がバカなことを言い出した。
アナタのせいですよ! アナタの!!
いや、ルーカス様のせいもあるか……。
「殿下が接触を避けてくれれば、問題の大半が解決すると思いますわ」
「今は、そういう訳にはいかないこと、知っていますよね? そして、そういう意味で言っているのではありませんよ」
視線を合わせることなく、正面を向き軽快に歩きながらボソボソと話す。 私が父の子であることを知る者は、王宮内でも多くはない。 父はかなり入念に薬師や魔女等の伝手を使い私と言う人間を偽ったのだ。 それでも自分がつけたシヴィルと言う名だけは持たせてくれた。
「違うとしても、荷物を私に戻していただけませんか? それだけで少しは視線の意味が、穏やかになるように思えますの」
「あぁ、なるほど……わかりましたよ」
ライオネルは、ルーカスの持つ箱の上に、自分が持っていた箱を重ねて持たせる。
「これで大丈夫」
「まぁ、いいですけど……」
「ところで、今日はどのような御用でいらしたのですか?」
「少し息抜きに、身体を動かそうとしただけなんですがね」
肩を竦められれば、なんとなく察しがついた。
「それは……なんと申し上げていいか……」
鬱陶しそうだなと思うけれど、もしかすると喜んでいるのかもと、適当に言葉を濁した。 薬剤室を前に、シヴィルは特殊な扉を開き、ライオネルとルーカスの2人に頭を下げる。
「お忙しいところ、わざわざありがとうございました」
ニッコリと微笑み両手を出しだせば、
「お茶の一杯も貰えないのですか?」
殿下がニッコリと微笑み返す。
「それは日を改めて、お願いします」
「何か問題でも?」
分かっていて聞いている……絶対に。
ライオネル殿下の胡散臭い笑みが、いつも以上に胡散臭い。 ただでは帰ってくれないらしいと諦めた私は、あえて理由をしっかりと言葉にした。
「閣下が来る前にお引き取り下さい」
「そこまで嫌わなくても」
ルーカスが苦笑交じりに言えば、私はただ無言で微笑みを浮かべた。 嫌いと言葉に出すほど子供ではないが、嫌いなのだから仕方がない。
「お茶をお出しすればいいのですね」
溜息とともに2人を薬剤室に招き入れ、扉を閉めた。 扉を閉めるとともに特殊な魔法ロックがかかろうとしたところ、扉が強引に開かれる。
「や、やぁ」
息を切りながら、閣下は自信なさそうな笑みを向けてくる。 これが本当に国一番の武人なのかと思えば、疑問に思えてくるのだが……パパに全く似てないとはいえ、パパの息子を間違えることはない……はず?
私はひきつった微笑みを閣下に向けたが、多分ギリギリのラインは保てたと思う……そう信じたい。 流石に、閣下はお帰り下さい等という大人げない事はしない。 小さく隠れて息をつき、薬剤室の事務所のソファに座るよう3人に進めた。
対面しあう2人掛けのソファ。 なぜ、殿下とルーカス様が隣り合うのか……。 まぁ、お茶をだして放置しておけば、問題ないわけだが……。
サクランボと桑の実をフレーバーに、紅茶をいれる。
「で、令嬢方はどうしたのですか?」
殿下が閣下に問えば、
「庭師に任せましたよ」
「「それは……」」
殿下とルーカス様が苦笑しあう。
少しだけ愉快な気分になってしまった私は、つい口をはさんでしまう。
「閣下が抱いて運んで差し上げれば、さぞお喜びになったでしょうに」
「シヴィなら、よろこんで運ばせてもらうが?」
「大丈夫ですわ。 私は荷物ではございませんから」
そう告げれば、困った顔で閣下は口を閉ざした。
しばらくの沈黙。
私もお茶の蒸らし具合を確認する。
先に口を開いたのは殿下だった。
「彼女に、護衛をつけようかと話していたのだが、適当な人間はいるかな?」
「必要ないだろう。 下手なことをして情報の出どころがばれるのは悪手だ」
すべてを伝えずとも即座の返事を返す閣下。
悪手となると言う言葉に、私の心臓の鼓動が早くなる。
「だけどね……万が一、万が一ですよ。 彼女の親が誰なのかばれたことを想定すると面白くない。 彼の持つ情報を恐れて、身を潜めていた者達も、活発に動き出していると報告を受けています」
「脅かすようなことをいうな」
閣下が殿下を睨めば、意に介さず殿下は言葉を続ける。
「もう少し彼女自身が積極的に味方を作ってくれるなら、私もここまで心配しなくていいんですけどね」
ドクンドクンと鼓動が大きく聞こえる。
父がいない……。
守ってくれていたものがなくなった……。
恐怖。
恐怖は私を幼い子供にしてしまおうと、手を伸ばしてくる。
「味方なら医局長や、先輩方がいらっしゃいますわ」
「仕事を抜きに、家名も抜きに、アナタの味方になってくれますか? アナタは自分が誰の娘であるか、告げる事ができるのですか?」
もし、父の子であると告げたなら……。
私は、売国奴の娘と叩かれるだろう。
商会をバラバラにし奪われた娘と笑われるだろう。
私の持つ情報を狙う者が現れるだろう。
私の持つ情報を消そうとする者が現れるだろう。
言えない……。
でも……今でも父の遺言の元で私の味方でいる人がいる。
それにパパだっている。
「……それぐらいいますわ……」
殿下が嫌味たらしい笑みを浮かべる。
「へぇ?」
深呼吸し呼吸と気持ちを整える。
「たとえば?」
「話す必要性はございません」
ドンっと、乱暴にお茶を出す。
イライラする。
怒りならいい。
だけど、恐怖はダメだ。
これは怒りだ……。
必死に自分に言い聞かせるが、気持ち悪くなってくる。
殿下と私の間に張り詰める空気。
ソレを壊す暢気な声。
「まぁまぁ、味方なら俺がいる。 俺なら、周囲の良い威嚇になるだろう? それに俺はシヴィを絶対に裏切らない。 何があっても味方でいる」
「なぜ! 閣下が私の味方なんですか!!」
嫌いだ……。
この人は、嫌い!!
そう思えば、声が自然と大きくなった。
「むしろ、なぜ味方でないと言うんだ?」
父のいない世界が怖い。
ずっと誤魔化してきた。
パパは優しいけれど、強くはない。
むしろ私がパパを守らなければって思う。
そう……私がしっかりしないと……。
「そうですね。
私と閣下は、兄と妹のようなものですものね」
すべてを飲み込み微笑みながら言う。
言ったつもりだった。
「どうした?」
閣下が妙に狼狽えている。
どうしたのだろう?
仕方がない。
面倒だから謝ってしまおう。
「申し訳ございません。 兄妹など、おこがましい発言をしてしまい申し訳ございませんでした」
「いや、それは……構わんのだが……なぜ、泣くんだ?」
オロオロとした閣下が立ち上がり、大きな腕で私を抱きしめた。
「えっと……そうだ……泣いてもいいが……理由を言え、解決してやるから」
「泣いておりませんわ」
「泣いているが?」
なぜ、閣下がオロオロと狼狽えているのでしょう?
「泣いてないもの!!」
「あぁ、もう、泣いてない泣いてない、だからどうしたか言ってくれ、言ってくれないとどうにもできない」
抱きしめてくる腕から逃げようともがくが、そっと添えられているだけの腕なのに、逃げる事ができなくて、蹴って殴って噛みついて。
「こら、辞めるんだ。 ケガをさせてしまう」
「馬鹿なの!!」
「馬鹿でいいから、大人しくしてくれないだろうか?」
オロオロと困り切った声で、懇願してきた。
イライラする!!
嫌いなのに、嫌いなのに!!
優しい言葉なんかかけないでよ!
「嫌い!! 大嫌い!!」
「うん知っている。 仕方がない。 俺が悪いんだから。 でも、俺はシヴィが好きだから、シヴィが俺を嫌うよりも沢山好きだから、大丈夫だ」
何を言われているのか理解できずに、ビックリした。 ビックリして顔を見上げたら、凄く照れくさそうにしている。
「大丈夫だ」
「何がよ」
苦笑しながら、頭を撫でてくる。
「馬鹿なの?」
「そうだな」
もう一度確認するように同じ言葉を繰り返す。
「嫌い」
「俺は好きだよ」
「呆れる」
「そうか」
沈黙……
そして、そっと席を立ち部屋を出ようとする2人。 多分、閣下も気づいているだろうが、何も言わない。 私も何も言わない。
「ごめんなさい」
「シヴィは何も悪いことはしていない、謝ることなんて何もない」
「パパを取ってしまって、ごめんなさい」
父に期待され、それに答えた閣下に嫉妬している。 嫌い……。 だけど、ソレは彼だって同じだろうと思う。 私は長く彼のパパを独占していた。 今でも、私の娘だとパパは私を大切にしてくれる。
だから、私達は嫌いあって当然なのだ。
「えっと、あ~~~、流石に父親を取られたってどうこう思うような年じゃないんだが……。 シヴィは偉いな」
何を突然に言っているんだ? と、顔を見上げれば、
「すぐに、ゴメンって言えて偉い」
ワシワシと頭を撫でてくる。
「何しろ、俺は10年もかかった。 初めて会った時、乱暴をして、驚かせてゴメンな」
再会から、何度目の謝罪だろう。
なんだか、仕方がないなぁ……と思えてくる。
仕方がないから、避けるのは辞めてもいいかもしれない。
この時の私は、彼の言う好きが家族に対するものだと思い込んでいた。 兄と妹でいいと言ったから。 彼はパパの息子なのだから、そう思っても仕方がない……、仕方がないことだったんですよ!!
行きかう人たちは奇異な視線を向けてきた。
仕方がない。
王妃様の薬師を務めている関係上、殿下との関わりは同年代の女性と比べて格段に多く、否応なく人の視線を、嫉妬心を集めてしまう。 ソレは令嬢だけではなく、殿下と親しくなるために娘を使おうとする貴族当主達からも、日々痛い視線を向けられる原因となっている。
「視線凄いですね。
護衛付けましょうか?」
殿下がバカなことを言い出した。
アナタのせいですよ! アナタの!!
いや、ルーカス様のせいもあるか……。
「殿下が接触を避けてくれれば、問題の大半が解決すると思いますわ」
「今は、そういう訳にはいかないこと、知っていますよね? そして、そういう意味で言っているのではありませんよ」
視線を合わせることなく、正面を向き軽快に歩きながらボソボソと話す。 私が父の子であることを知る者は、王宮内でも多くはない。 父はかなり入念に薬師や魔女等の伝手を使い私と言う人間を偽ったのだ。 それでも自分がつけたシヴィルと言う名だけは持たせてくれた。
「違うとしても、荷物を私に戻していただけませんか? それだけで少しは視線の意味が、穏やかになるように思えますの」
「あぁ、なるほど……わかりましたよ」
ライオネルは、ルーカスの持つ箱の上に、自分が持っていた箱を重ねて持たせる。
「これで大丈夫」
「まぁ、いいですけど……」
「ところで、今日はどのような御用でいらしたのですか?」
「少し息抜きに、身体を動かそうとしただけなんですがね」
肩を竦められれば、なんとなく察しがついた。
「それは……なんと申し上げていいか……」
鬱陶しそうだなと思うけれど、もしかすると喜んでいるのかもと、適当に言葉を濁した。 薬剤室を前に、シヴィルは特殊な扉を開き、ライオネルとルーカスの2人に頭を下げる。
「お忙しいところ、わざわざありがとうございました」
ニッコリと微笑み両手を出しだせば、
「お茶の一杯も貰えないのですか?」
殿下がニッコリと微笑み返す。
「それは日を改めて、お願いします」
「何か問題でも?」
分かっていて聞いている……絶対に。
ライオネル殿下の胡散臭い笑みが、いつも以上に胡散臭い。 ただでは帰ってくれないらしいと諦めた私は、あえて理由をしっかりと言葉にした。
「閣下が来る前にお引き取り下さい」
「そこまで嫌わなくても」
ルーカスが苦笑交じりに言えば、私はただ無言で微笑みを浮かべた。 嫌いと言葉に出すほど子供ではないが、嫌いなのだから仕方がない。
「お茶をお出しすればいいのですね」
溜息とともに2人を薬剤室に招き入れ、扉を閉めた。 扉を閉めるとともに特殊な魔法ロックがかかろうとしたところ、扉が強引に開かれる。
「や、やぁ」
息を切りながら、閣下は自信なさそうな笑みを向けてくる。 これが本当に国一番の武人なのかと思えば、疑問に思えてくるのだが……パパに全く似てないとはいえ、パパの息子を間違えることはない……はず?
私はひきつった微笑みを閣下に向けたが、多分ギリギリのラインは保てたと思う……そう信じたい。 流石に、閣下はお帰り下さい等という大人げない事はしない。 小さく隠れて息をつき、薬剤室の事務所のソファに座るよう3人に進めた。
対面しあう2人掛けのソファ。 なぜ、殿下とルーカス様が隣り合うのか……。 まぁ、お茶をだして放置しておけば、問題ないわけだが……。
サクランボと桑の実をフレーバーに、紅茶をいれる。
「で、令嬢方はどうしたのですか?」
殿下が閣下に問えば、
「庭師に任せましたよ」
「「それは……」」
殿下とルーカス様が苦笑しあう。
少しだけ愉快な気分になってしまった私は、つい口をはさんでしまう。
「閣下が抱いて運んで差し上げれば、さぞお喜びになったでしょうに」
「シヴィなら、よろこんで運ばせてもらうが?」
「大丈夫ですわ。 私は荷物ではございませんから」
そう告げれば、困った顔で閣下は口を閉ざした。
しばらくの沈黙。
私もお茶の蒸らし具合を確認する。
先に口を開いたのは殿下だった。
「彼女に、護衛をつけようかと話していたのだが、適当な人間はいるかな?」
「必要ないだろう。 下手なことをして情報の出どころがばれるのは悪手だ」
すべてを伝えずとも即座の返事を返す閣下。
悪手となると言う言葉に、私の心臓の鼓動が早くなる。
「だけどね……万が一、万が一ですよ。 彼女の親が誰なのかばれたことを想定すると面白くない。 彼の持つ情報を恐れて、身を潜めていた者達も、活発に動き出していると報告を受けています」
「脅かすようなことをいうな」
閣下が殿下を睨めば、意に介さず殿下は言葉を続ける。
「もう少し彼女自身が積極的に味方を作ってくれるなら、私もここまで心配しなくていいんですけどね」
ドクンドクンと鼓動が大きく聞こえる。
父がいない……。
守ってくれていたものがなくなった……。
恐怖。
恐怖は私を幼い子供にしてしまおうと、手を伸ばしてくる。
「味方なら医局長や、先輩方がいらっしゃいますわ」
「仕事を抜きに、家名も抜きに、アナタの味方になってくれますか? アナタは自分が誰の娘であるか、告げる事ができるのですか?」
もし、父の子であると告げたなら……。
私は、売国奴の娘と叩かれるだろう。
商会をバラバラにし奪われた娘と笑われるだろう。
私の持つ情報を狙う者が現れるだろう。
私の持つ情報を消そうとする者が現れるだろう。
言えない……。
でも……今でも父の遺言の元で私の味方でいる人がいる。
それにパパだっている。
「……それぐらいいますわ……」
殿下が嫌味たらしい笑みを浮かべる。
「へぇ?」
深呼吸し呼吸と気持ちを整える。
「たとえば?」
「話す必要性はございません」
ドンっと、乱暴にお茶を出す。
イライラする。
怒りならいい。
だけど、恐怖はダメだ。
これは怒りだ……。
必死に自分に言い聞かせるが、気持ち悪くなってくる。
殿下と私の間に張り詰める空気。
ソレを壊す暢気な声。
「まぁまぁ、味方なら俺がいる。 俺なら、周囲の良い威嚇になるだろう? それに俺はシヴィを絶対に裏切らない。 何があっても味方でいる」
「なぜ! 閣下が私の味方なんですか!!」
嫌いだ……。
この人は、嫌い!!
そう思えば、声が自然と大きくなった。
「むしろ、なぜ味方でないと言うんだ?」
父のいない世界が怖い。
ずっと誤魔化してきた。
パパは優しいけれど、強くはない。
むしろ私がパパを守らなければって思う。
そう……私がしっかりしないと……。
「そうですね。
私と閣下は、兄と妹のようなものですものね」
すべてを飲み込み微笑みながら言う。
言ったつもりだった。
「どうした?」
閣下が妙に狼狽えている。
どうしたのだろう?
仕方がない。
面倒だから謝ってしまおう。
「申し訳ございません。 兄妹など、おこがましい発言をしてしまい申し訳ございませんでした」
「いや、それは……構わんのだが……なぜ、泣くんだ?」
オロオロとした閣下が立ち上がり、大きな腕で私を抱きしめた。
「えっと……そうだ……泣いてもいいが……理由を言え、解決してやるから」
「泣いておりませんわ」
「泣いているが?」
なぜ、閣下がオロオロと狼狽えているのでしょう?
「泣いてないもの!!」
「あぁ、もう、泣いてない泣いてない、だからどうしたか言ってくれ、言ってくれないとどうにもできない」
抱きしめてくる腕から逃げようともがくが、そっと添えられているだけの腕なのに、逃げる事ができなくて、蹴って殴って噛みついて。
「こら、辞めるんだ。 ケガをさせてしまう」
「馬鹿なの!!」
「馬鹿でいいから、大人しくしてくれないだろうか?」
オロオロと困り切った声で、懇願してきた。
イライラする!!
嫌いなのに、嫌いなのに!!
優しい言葉なんかかけないでよ!
「嫌い!! 大嫌い!!」
「うん知っている。 仕方がない。 俺が悪いんだから。 でも、俺はシヴィが好きだから、シヴィが俺を嫌うよりも沢山好きだから、大丈夫だ」
何を言われているのか理解できずに、ビックリした。 ビックリして顔を見上げたら、凄く照れくさそうにしている。
「大丈夫だ」
「何がよ」
苦笑しながら、頭を撫でてくる。
「馬鹿なの?」
「そうだな」
もう一度確認するように同じ言葉を繰り返す。
「嫌い」
「俺は好きだよ」
「呆れる」
「そうか」
沈黙……
そして、そっと席を立ち部屋を出ようとする2人。 多分、閣下も気づいているだろうが、何も言わない。 私も何も言わない。
「ごめんなさい」
「シヴィは何も悪いことはしていない、謝ることなんて何もない」
「パパを取ってしまって、ごめんなさい」
父に期待され、それに答えた閣下に嫉妬している。 嫌い……。 だけど、ソレは彼だって同じだろうと思う。 私は長く彼のパパを独占していた。 今でも、私の娘だとパパは私を大切にしてくれる。
だから、私達は嫌いあって当然なのだ。
「えっと、あ~~~、流石に父親を取られたってどうこう思うような年じゃないんだが……。 シヴィは偉いな」
何を突然に言っているんだ? と、顔を見上げれば、
「すぐに、ゴメンって言えて偉い」
ワシワシと頭を撫でてくる。
「何しろ、俺は10年もかかった。 初めて会った時、乱暴をして、驚かせてゴメンな」
再会から、何度目の謝罪だろう。
なんだか、仕方がないなぁ……と思えてくる。
仕方がないから、避けるのは辞めてもいいかもしれない。
この時の私は、彼の言う好きが家族に対するものだと思い込んでいた。 兄と妹でいいと言ったから。 彼はパパの息子なのだから、そう思っても仕方がない……、仕方がないことだったんですよ!!
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