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3章 罪、罰、お仕置き、そして恩賞
78.カロリーネの罪と罰
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「先日ぶりですね」
月が影を潜めた夜は、星が美しく輝いていた。
彼女、イルモ国の元第五王女カロリーネの隠れ家を知るのは難しくは無かった。 彼女の願いを誰が聞き入れるか? 誰が彼女のナイトに成り得るか? ソレは誰よりもケントが良く知っていた……。
珍しく、私を罵る事なく、何人かの名前を挙げてくれた中に、彼女の逃亡を手伝う人が存在していた。
役に立つこともあるんだな。
そう思えば、セシル様が、
『アレはねペットですから。 気にしないでください』
なんて屋敷の片隅に飼っておくのも、納得しなければならないのが……複雑な気分にさせられる。
豪華な馬車、美しいドレスを身に纏った女性。 夜逃げを目論んでいるようには見えないが、彼女の目的は他国への移住だ。
クロム改め第一王子だったアレスが王位についた事で、元王子にはいくつかの選択が与えられた。
王弟殿下として王族として活動する。
公爵として家名を貰う。
母系筋の分家となる。
全てを捨てた上で戸籍を確保する。
王弟殿下となれば、王位継承権は下がるが継続し与えられ、騎士団も継続所持することができる。 ただし、国王陛下に絶対の忠義を必要とされる。 安定した生活のために、仕事を選べないよという奴だ。
第二・第三王子は、王弟殿下としての立場を選んだ。 第三王子はともかく、第二王子まで王族であることを選ぶとは思わなかった。 だって、自称『王以上の実力者』だし?
そして、忠誠の証として国王陛下は、同母の弟に与えた使命は、
『先王と共に逃げた国賊を殺害し、マグラ国を滅ぼし奪われた富を取り戻せ』
超難関であるが、
『アナタの計画は余りにも無意味で杜撰。 騎士団をお任せするには到底至りません。 ですが、国取りの異形を成し遂げ、国賊の処刑を成功させれば、例えその後なんら働きが無くとも、人はアナタを認めます。 コレはアナタのためですよ』
なんてことを言ってのけたのだ。
そして……ゼノン殿下に与えた忠誠の使命は
『イルモ国の遺産』
そこに書かれているものの大半は、既に箱庭の知識にあるものと予測できるから、多分……処理的には封印で、あくまでもゼノンの忠誠を計るためだと思う。
王弟殿下に『遺産』を奪われるなら、カロリーネは逃げ出すだろうなぁ~って思った私は、彼女の逃亡を静止しようと訪れた訳なのです。
ギョッとした顔で私を見るカロリーネに、私は優雅な動作で礼をして見せた。
「何か用? 私は忙しいのよ!」
「8年もの間、ゼノン殿下の世話になっておりながら、黙って男と逃げていくのは余りにも薄情なのではありませんか?」
「コレは、私のよ!!」
ひしっとバックを抱きしめている。
「では、コレでどうでしょう? 私に御譲りいただけませんか? ただで奪おう等と言う事は考えておりません。 この国で生きて行くために必要なものは提供しましょう。 カロリーネ様個人に爵位を与えるのは難しいですが、お見合いの場であれば幾つか提供いたしましょう」
20代後半、未だその美貌は陰るどころか妖艶さを増して益々美しくと言うところだが、贅沢をすることを生業のようにしてきた女性を喜んで妻に迎えようと言う者は、なかなかいないだろう。 そこは……地獄の沙汰も金次第的な?
そもそも、彼女が遺産さえ渡していれば、ゼノン殿下の立場も確保できたのだ。 彼女が逃げた今、ゼノン殿下はとても微妙な状況に置かれている。
「いや、私はこれで王族に返り咲くの」
「国が失われたのに?」
「えぇ、そうよ……そう、そうね。 良い考えがあるわ!! お金は要らない。 その代わり私を王妃にしてちょうだい!!」
良い考えがる!! そう嬉々として言う人の言動は、大抵背筋がヒヤリとするようなものが多いと、私の経験が語ったが、彼女の提案もとんでもないものである。
「それは、無理ですよ。 あの夫婦は仲が良いですし、凄くお似合いですから」
というか……、何処の世界に第一王子夫婦が、第四王子に夫婦で仕えるってんだ!! まぁ、結果としてはソレが上手く回っていたけれど、あのノリについて行くのは、余程の変わり者で無ければ難しいと思う。
「なら、嫌よ」
「平和的な提案がなされているうちに、受けて頂ければありがたいのだけど……」
私は溜息をついた。
彼女がNoと言い続けた際に行きつく先は、
私がNoと言い続けた時に行きつく場。
そう考えれば、多少の同情心もあったのだ。
どうせ逃げるなら他の国に行けば良かったのに……あぁ、でも、そしたらイルモ国の二番煎じ、三番煎じを繰り返すだけなのかな。
気分が落ち込む私に彼女は言う。
「いやっていったら、いやよ!! 何よ、自分がちょっと可愛くて、才能があるからって、偉そうに上から目線で!!」
「ちょ、うわぁ……初対面時を考えたら、言われたくないんですけど~~。 まぁ、でも、セシルに愛されているから、あの件は許して差し上げますわ」
なんて言えば、奇声を上げながら襲い掛かって来て、アルマに制圧されてしまった。
「お嬢様……ナイスファイト」
「いえ、そういうつもりは……、むしろ、ケントとは本当に相性が悪いから、お礼を言いたいくらいなんだよ?」
「何よ、何よ、なんでもかんでも良いものを根こそぎ奪っていって!! 私なんて、誰も愛してくれないのに!!」
「アナタを愛していた人もいたと思うわ。 それがアナタの望んだものか知らないけど。 それにさ、アナタが奪ったんでしょう? アナタの母親の知識も、賛美も……」
カロリーネが黙り停止した。
長老会の配下の諜報部隊が仕入れた話だ。
元々、贅沢知識はカロリーネの母がもたらしたものだったそうだ。 商人出身のカロリーネの母は、それなりに経済的なものを考えながら知識を解放し、王に妻として望まれ、そしてカロリーネが生まれた。
彼女の母は上手くやっていたらしい。
王の寵愛を得て、貴族の賛美を得て、贅沢を得たと、カロリーネは思っているかもしれない。 だけど、違う……違うよね?
言わせて貰うなら、この世界でありえない程の贅沢を受けたとしても、異界の前世を持つ者は納得できない。 生まれ持った美貌、綺麗な宝石、綺麗な服。 私達が焦がれるのはそんな贅沢ではなくて……
前世の日常だと思う。
魔法が発展していても魔力が少ないイルモ国では、どれほど頑張っても得る事が出来なかっただろう。
カロリーネにはソレが理解できない。
まぁ、私の勝手な想像だけど。
とにかくカロリーネは、母の知識ファイルを見つけた時、寵愛と賛美と贅沢を全て奪おうとして、事故に見せかけ母親を殺害したのだと、当時彼女達の元で働いていた者が語っていたそうだ。
「ねぇ、理解の出来ないファイル。 読む事も出来ないファイルになんでそんなに執着するのよ」
表紙にかかれた文字は日本語で、この世界の人間には読む事が出来ない。 ただ、中身には絵が添えられていたのと。
天ぷらを作る → 衣に重曹と小麦粉が必要。
パンケーキを作る→ 重曹と小麦粉が必要。
天ぷらを作る過程で、パンケーキの翻訳の一部が完了するなんて感じで、ファイルを学者が読み解いたのだと言う。
残念なことに、カロリーネは贅沢をしたいだけで、創作意欲がある訳ではないから、そのファイルをこの国に持ち込んでも、大きく内容が広まると言う事は無かった。
「煩いわね……。 コレは私のよ。 アンタになんか渡さない!! 渡さないんだから!! 母様も嫌い……自分ばっかり、自分ばっかり沢山与えられていた。 なんで、なんでよぉおおお!!」
うん、訳がわからん……。
「むしろ、与えられない方の人が多いと思う」
「煩い!! 絶対に手離さないんだから!!」
「そっか……なら、仕方ないね……私は行くね」
後味の悪い終わりにシュンとしてしまう。
非協力的な文化的破壊者への最終処分は1つだ。
脳の破壊。
ただ、彼女自身が知識を持つ訳ではなく、ファイルに書かれているだけだと言う事で、長老達に説得の余地を貰ったのだ。 無駄だったけど……。
「お嬢様行きましょう。 後ろを振り返ってはいけませんよ」
私は、カロリーネの
「渡すものか!! オマエ等に渡すぐらいなら燃やした方がましだ!!」
と言う絶叫から歩き去っていく。
同じ世界からの転生者が、何を考えていたか少し知りたかったなぁ……。
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彼女、イルモ国の元第五王女カロリーネの隠れ家を知るのは難しくは無かった。 彼女の願いを誰が聞き入れるか? 誰が彼女のナイトに成り得るか? ソレは誰よりもケントが良く知っていた……。
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そして、忠誠の証として国王陛下は、同母の弟に与えた使命は、
『先王と共に逃げた国賊を殺害し、マグラ国を滅ぼし奪われた富を取り戻せ』
超難関であるが、
『アナタの計画は余りにも無意味で杜撰。 騎士団をお任せするには到底至りません。 ですが、国取りの異形を成し遂げ、国賊の処刑を成功させれば、例えその後なんら働きが無くとも、人はアナタを認めます。 コレはアナタのためですよ』
なんてことを言ってのけたのだ。
そして……ゼノン殿下に与えた忠誠の使命は
『イルモ国の遺産』
そこに書かれているものの大半は、既に箱庭の知識にあるものと予測できるから、多分……処理的には封印で、あくまでもゼノンの忠誠を計るためだと思う。
王弟殿下に『遺産』を奪われるなら、カロリーネは逃げ出すだろうなぁ~って思った私は、彼女の逃亡を静止しようと訪れた訳なのです。
ギョッとした顔で私を見るカロリーネに、私は優雅な動作で礼をして見せた。
「何か用? 私は忙しいのよ!」
「8年もの間、ゼノン殿下の世話になっておりながら、黙って男と逃げていくのは余りにも薄情なのではありませんか?」
「コレは、私のよ!!」
ひしっとバックを抱きしめている。
「では、コレでどうでしょう? 私に御譲りいただけませんか? ただで奪おう等と言う事は考えておりません。 この国で生きて行くために必要なものは提供しましょう。 カロリーネ様個人に爵位を与えるのは難しいですが、お見合いの場であれば幾つか提供いたしましょう」
20代後半、未だその美貌は陰るどころか妖艶さを増して益々美しくと言うところだが、贅沢をすることを生業のようにしてきた女性を喜んで妻に迎えようと言う者は、なかなかいないだろう。 そこは……地獄の沙汰も金次第的な?
そもそも、彼女が遺産さえ渡していれば、ゼノン殿下の立場も確保できたのだ。 彼女が逃げた今、ゼノン殿下はとても微妙な状況に置かれている。
「いや、私はこれで王族に返り咲くの」
「国が失われたのに?」
「えぇ、そうよ……そう、そうね。 良い考えがあるわ!! お金は要らない。 その代わり私を王妃にしてちょうだい!!」
良い考えがる!! そう嬉々として言う人の言動は、大抵背筋がヒヤリとするようなものが多いと、私の経験が語ったが、彼女の提案もとんでもないものである。
「それは、無理ですよ。 あの夫婦は仲が良いですし、凄くお似合いですから」
というか……、何処の世界に第一王子夫婦が、第四王子に夫婦で仕えるってんだ!! まぁ、結果としてはソレが上手く回っていたけれど、あのノリについて行くのは、余程の変わり者で無ければ難しいと思う。
「なら、嫌よ」
「平和的な提案がなされているうちに、受けて頂ければありがたいのだけど……」
私は溜息をついた。
彼女がNoと言い続けた際に行きつく先は、
私がNoと言い続けた時に行きつく場。
そう考えれば、多少の同情心もあったのだ。
どうせ逃げるなら他の国に行けば良かったのに……あぁ、でも、そしたらイルモ国の二番煎じ、三番煎じを繰り返すだけなのかな。
気分が落ち込む私に彼女は言う。
「いやっていったら、いやよ!! 何よ、自分がちょっと可愛くて、才能があるからって、偉そうに上から目線で!!」
「ちょ、うわぁ……初対面時を考えたら、言われたくないんですけど~~。 まぁ、でも、セシルに愛されているから、あの件は許して差し上げますわ」
なんて言えば、奇声を上げながら襲い掛かって来て、アルマに制圧されてしまった。
「お嬢様……ナイスファイト」
「いえ、そういうつもりは……、むしろ、ケントとは本当に相性が悪いから、お礼を言いたいくらいなんだよ?」
「何よ、何よ、なんでもかんでも良いものを根こそぎ奪っていって!! 私なんて、誰も愛してくれないのに!!」
「アナタを愛していた人もいたと思うわ。 それがアナタの望んだものか知らないけど。 それにさ、アナタが奪ったんでしょう? アナタの母親の知識も、賛美も……」
カロリーネが黙り停止した。
長老会の配下の諜報部隊が仕入れた話だ。
元々、贅沢知識はカロリーネの母がもたらしたものだったそうだ。 商人出身のカロリーネの母は、それなりに経済的なものを考えながら知識を解放し、王に妻として望まれ、そしてカロリーネが生まれた。
彼女の母は上手くやっていたらしい。
王の寵愛を得て、貴族の賛美を得て、贅沢を得たと、カロリーネは思っているかもしれない。 だけど、違う……違うよね?
言わせて貰うなら、この世界でありえない程の贅沢を受けたとしても、異界の前世を持つ者は納得できない。 生まれ持った美貌、綺麗な宝石、綺麗な服。 私達が焦がれるのはそんな贅沢ではなくて……
前世の日常だと思う。
魔法が発展していても魔力が少ないイルモ国では、どれほど頑張っても得る事が出来なかっただろう。
カロリーネにはソレが理解できない。
まぁ、私の勝手な想像だけど。
とにかくカロリーネは、母の知識ファイルを見つけた時、寵愛と賛美と贅沢を全て奪おうとして、事故に見せかけ母親を殺害したのだと、当時彼女達の元で働いていた者が語っていたそうだ。
「ねぇ、理解の出来ないファイル。 読む事も出来ないファイルになんでそんなに執着するのよ」
表紙にかかれた文字は日本語で、この世界の人間には読む事が出来ない。 ただ、中身には絵が添えられていたのと。
天ぷらを作る → 衣に重曹と小麦粉が必要。
パンケーキを作る→ 重曹と小麦粉が必要。
天ぷらを作る過程で、パンケーキの翻訳の一部が完了するなんて感じで、ファイルを学者が読み解いたのだと言う。
残念なことに、カロリーネは贅沢をしたいだけで、創作意欲がある訳ではないから、そのファイルをこの国に持ち込んでも、大きく内容が広まると言う事は無かった。
「煩いわね……。 コレは私のよ。 アンタになんか渡さない!! 渡さないんだから!! 母様も嫌い……自分ばっかり、自分ばっかり沢山与えられていた。 なんで、なんでよぉおおお!!」
うん、訳がわからん……。
「むしろ、与えられない方の人が多いと思う」
「煩い!! 絶対に手離さないんだから!!」
「そっか……なら、仕方ないね……私は行くね」
後味の悪い終わりにシュンとしてしまう。
非協力的な文化的破壊者への最終処分は1つだ。
脳の破壊。
ただ、彼女自身が知識を持つ訳ではなく、ファイルに書かれているだけだと言う事で、長老達に説得の余地を貰ったのだ。 無駄だったけど……。
「お嬢様行きましょう。 後ろを振り返ってはいけませんよ」
私は、カロリーネの
「渡すものか!! オマエ等に渡すぐらいなら燃やした方がましだ!!」
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