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3章 罪、罰、お仕置き、そして恩賞

64.セシル・ルンドの罰は、後悔から生まれる 01 

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 怒りに血が煮える。

 意識を強く持ち、正気を保つのに必死だった。

 下着キャミソール姿のサーシャを美しいと思った。 愛らしいと思った。 欲情すら覚え、生唾を飲んだ。 雄としての本能が反応した。

 大勢の人の声が聞こえた瞬間。
 正気を取り戻し、
 正気を失い、凶器に走りそうになった。



 セシルは忙しい日々を過ごしている。 忙しい日々に捻じ込むように詰め込まれた視察、エミリアは75%の確率で先回りし現れ、セシルの時間を浪費させてきた。

 仕事の邪魔なだけでなく、馴れ馴れしい様が不快だった。 余り賢そうに見えないにもかかわらず、彼女は自分が拒絶されない場を選び、2人キリになるような場を避け、先回りし現れる。

 王子と公爵令嬢という名は注目を集める。
 否、注目を集めるよう、群衆に仕込みをしているようだった。

 そうなれば、世間的に乱暴と思われるような言動は避ける以外はない。



 忙しいのに……。



 どれほど忙しいかと言えば、

 サーシャとの時間を設けられない程。
 食事の機会が作れない程。
 語らう余裕がない程。
 顔を見るための時間すら邪魔される程。

「私にとって、サーシャ以外を優先する必要等無いはずなのに……」

 酔えば仕事にならないから、煙草の本数ばかりが増えていった。 煙草は忙しい中で、サーシャへの恋慕に身を預け、思いを寄せるのに丁度良かった。

 それでも憂鬱そうに煙を吐いて見えるのは、きっと寂しいからだろう。

「煙草休憩を100回分減らせば、会いに行けるかもしれないじゃないですか」

 そう言いながら、嫌がらせのように喉に優しい茶を淹れるクロムに、愛想笑いと言う仮面を外し、苦々しく顔をしかめるセシルは言う。

「1日5本で数えたなら。 20日ですか……。 20日もあれば、1日くらい自由な時間を取れても良いと思うんですがねぇ~」

「もっと多いですよね? セシル様」

「サービスですよ」

 ニッコリ笑って言えば、クロムは肩を竦めていた。

「最後のひと踏ん張りです。 セシル様、頑張ってください」

 その言葉に、セシルは煙草の煙を返事替わりにした。



 忙しい日々を送っていたが、

 忙しいままにするつもりはなかった。



 そんな忙しい日々の中、取り潰しが決定しているルンダール公爵家のために、セシル個人が仕事の手を止めて行動すると言う事はあり得なかった。 各部署の責任者が不平不満を持って、なんとかしてくれと訴えてくれば……。

『それは、私が逐一指示を出さなければいけない仕事ですか?』

『ですが、どうすれば!! 公爵家の関係者ですよ』

『地位を剥奪されることが決まっている庶民に過ぎませんよ。 アナタ騎士上がりでしたよね? 隊長職が最後? なら、以前と同じと考えれば宜しいのです。 多少厳しい指導を行っていただいても構いません。 私が認めます。 この言葉を利用するといいでしょう。 ですが、どうしても無理、使いきれないようでしたら首にしていただいて構いません』

 横暴だと言う声も耳に入ってきたが、なぜルンダール公爵家の関係者ごときに振り回されなければいけないのか? そんな思いの方が強かった。



 処分しておくべきでした……。
 強引でも、乱暴でもいい。
 世間の噂など気にする余裕等無かった。

 どうせ王位に就きたい訳ではない。



 無能者を放置することがこれほどまで害悪になろうとは、想像もしていなかった。
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