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2章 青年期

43.依存という空虚は埋め難く 02

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 子供だったから、
 定められた仕事が他になかったから、
 寄り添っていても、違和感が無かったから、

 普通より距離が近かったのだと思う。

 大人になると共に、一緒にいる時間が減りだしたから。

 過度な幸福を当たり前だと思ってはいけない。
 分不相応な図々しさは嫌われて当然だわ。



 ケントからの謝罪も、愛も、嘘だとそっぽを向くのに、セシル殿下の報告だけが真実だと思うのですか!? アルマなどであればそう私を責めるだろうと予想できて、私は勝手に1人言い訳を心の中で叫んでいた。

 謎と言う空白にピースが嵌ったのよ。

 実際に言い合うのは面倒。 アルマは身の回りの世話をしてくれる侍女という役割だけど護衛であって、それ以上に幼い頃から一緒にいたから誰よりも遠慮がない。 嫌な事もガンガン言う、だから……あれ? この場合の嫌な事ってなんだろう。

 う~ん、第二王子やケントは信頼に値しません!!
 まぁ、そりゃぁ、そうなりますよね?
 私だってそう思う。

 でも……私は誰かに頼りたい。
 一人にされるのは、嫌だ。

 私は、寂しかった。
 セシル殿下が消えた事で生まれた空白を早く埋めたかった。

 誕生から16年。

 途中まで、私の心を支えていたのは前世の自分で、それが途中からセシル殿下に代わった事で、前世の日常生活、会社員、学生、両親との思い出が消えた。 それはきっと当たり前のことで不思議ではないのだと思う。 知識や情報を覚えているだけ幸運というもの。

 私は前世の記憶と、セシル様の存在に甘え、この世界で人間関係をまともに築いてこなかったのだ。 物分かりの良い子供としての私は、それは公私で言えば公の部分。

 両親や兄弟、祖父母との思い出がない。
 人としての下地が足りない。

「お嬢様、どうかなされたのですか?」

「なにも」

 大人な態度で私は、笑って見せた。

「本当、どうしたんですか? セシル様と同じような笑い方になっていますよ」

「幼い頃から一緒にいたから、似てしまったのよ」

 いわゆる営業スマイル。

「良い感じの林檎を貰ったんですが、美味しい物でも食べませんか?」

 そう言って林檎が差し出された。

 私が作るんかい!!

 そういう不満を叫ぶ気にもならず、私は調理場に立った。 私は、私と言う人間がどういう人間なのか分からなくなっていたのだ。



 長く、長く迷った結果。
 第二王子への返事を書こうとペンを握った。

『第二王子殿下には、騎士訓練を受け入れてくださった折にお世話になったんですよね。 とても良い方なんですよ。 良かったら、返事を書いて頂けませんか? 私はあの方が喜んでくださるとうれしいんです』

 手紙を仲介する神殿騎士の言葉。

 もともと民間人をスラムの人間を騎士として雇っていた王子、孤児達と懇意にしていても不思議だとは思わなかった。

 嬉しそうに良くしてもらっていると言われ、私も頼ってみようかなと言う気持ちになった。 彼がまとめていた紺兵に迷惑を受けた事を、この時はすっかり忘れていたのだ、ヴァーム侯爵の記憶と共に……。





 第二王子の面会。

 第四王子セシル殿下の世話になっているにもかかわらず、第二王子ゼノン様と会うと言うのは悪い事のように思え、私はヒッソリと人に隠れ神殿騎士とシスターたちの手を借り、ゼノン様と面会を果たした。

 箱庭の面会室は、真っ白な何もない箱の中で行われ、神官騎士が見張りとなる。 それでも第二王子に遠慮してか、会話の間は席をはずしてくれた。

 ゼノン様は、華やかな金色の髪と紺色の瞳をしていた。 背は高く、肩幅も胸の厚みもある。 金髪のグリズリー的な感じ?

 ゼノン殿下は私が面会室に立ち入ると、真っ先にテーブルに頭をぶつけんばかりの勢いで頭を下げて見せた。

「申し訳ない!!」

「えっと……殿下に謝って頂くような事は……ありません……」

 王族との会話に私は戸惑いつつ、ユックリと声にした。

「アンタが、幼い頃。 王族に接触を試みた時のことだ。 本当であれば、俺がアンタの相手をするはずだったんだ。 昔からルンデル伯爵家とは何かと縁があってな。 だが、当時の俺は訓練が忙しくて……いや、色々言い訳するのも恰好悪いと言うもんだな。 俺が、自分の時間を惜しんでセシルに面会を押し付けたんだ!!」

「えっと……」

 ゼノン殿下は、良く言えば快活なのだけど、早口、大声で話す人で正直ついていけなかった。 何を言われたのだろうかと、自分の中でかみ砕く間、無意味に愛想笑いを浮かべてしまう。

「あの、余りお気になさらないでください」

「そうはいってもだな。 もし、俺があの時、面会をしていたなら、今アンタは箱庭の中に閉じ込められる事は無かったはずだ。 俺は部下を見捨てたりしない、大切にする男だからな!! まぁ……部下の問題に関しては……、あぁ、そういえば……アンタには迷惑をかけてばかりだな。 元部下が酷い事をしてしまった申し訳ない。 あの件も、俺がアンタと面会し職務上の協力関係にあれば、起きなかった問題だ。 全てが、始まりから間違っていたと思わないか?」

「えっと……ですが、私は、余り社交的な方ではないので、箱庭での生活に余り不満はないんです。 なので、気になさらないでください」

「なんともありがたい!! だが、どうだ! 俺達がここで出会ったのは神が運命を巻き戻せと言っているとは思わないか?」

 いや、アナタに呼ばれたから来た訳で、それを運命というのはどうなのでしょう? というのをなるべく、自然に伝えるには、どうすればいいのだろう? そう考えているうちに、彼は次の言葉を語りだしていた。

「俺は、セシルとは違い、女癖は悪くない方だ。 甘い言葉でアンタを誑かす事はしないし、仕事に誠実であることを誓える。 どうだ、俺のモノにならないか?」

「私は、セシル殿下のモノなので……申し訳ございません」

「こんな、数分間の面談で答えを出せとは言わない。 少しばかり考えてみてくれ」

 そう言われた後は、定められた時間の間、外で何が流行っているのか? を、面白く話しをしてくれた。

「面会時間の終了となります」

「そうか……、可愛い子との会話は時間の流れが速くて困る。 良ければ、また面会に応じて欲しい。 次に会う時には、今、王都で有名な菓子を土産にもってこよう」

 そうやって、第二王子ゼノン殿下との面会は、回数が重ねられ、その都度……手土産の中にケントからの手紙を忍ばされていた。 そして……その間、セシル殿下に相談をする機会は与えられることはなかった。

 やがて、ゼノン殿下はこう告げた。

「どうだ、ケントと会ってみないか?」
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