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1章 幼少期
22.寝床を求めて迷走中
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私が生まれたルヴィック家は、長く行商人を行っている一族だ。
王都から少し離れた山の中に所有地を持ち、大きな倉庫を幾つも持っているのだが、人が寝泊まりする屋敷は小さい。 一族の者の大半が国内を巡っており、一堂に会することなど無いためだ。
だが、今は国から色々な依頼を受けており、今までにない程の数の人間が集まっている……と、王宮で出会った叔父の妻の妹に当たる人が言っていた。
「寝る場所も確保できなくて大変な状態でうんざりよ」
睡眠は、交代でベッドを確保できればラッキー、大半が床で雑魚寝らしい。
それに加えて、既婚者には子供も付随する。
そう、何人もだ!!
きっと……とんでもない状況が繰り広げられているに違いない。 想像しただけで汗が流れる……。 そう言う場所に、物分かりの良い子供がいたらどうなるか? 前世、嫌という程に経験してきた。
「絶対に、実家に帰るものか!! とは言え、どうしたものかねぇ……」
王宮は四か国から訪れた賓客の対応に追われているから、空き部屋はない。 まぁ、家畜小屋でもいいんだけど、匂いがつくと面倒だし最終手段にしたい。
そして私は街と王宮を往復する馬車に乗せてもらい、街へと向かった。
宿に空きがないか幾つか見て回ったが、お一人様の子供に貸すような部屋は無いと言う。
「金は出すって言っているでしょう!!」
「大切な客人が止まっているのに、責任者のいない子供なんて止められるか!!」
「……気持ちは分かるけど、私は分別のある大人しい子だわ」
「大人しい子が、一人で宿に泊まろうとするか? 他国の人間に興味を絶対に示さないと言えるのか?」
うぐっ、考え込んだ瞬間に、首根っこ掴まれ追い出された。
無念……。
空き部屋を貸してくれと、良さそうな家に突撃するか? なんて思ったりもしたけれど、相手の安全性が保障されない以上、愛らしい子供が1人でいるなんて変態に売り払ってくれと言っているようなものだ。
「う~ん……ここはルンデル伯爵家かぁ……」
ケントが馬鹿をしたため、少しばかり関係性は複雑である。 が、私とケントの婚約で、借金を返し、一族の者は職を得て、良い縁組もあった。 ならば、部屋の1つや2つ提供して日々、王宮まで送り迎えをしたところでバチもあたるまい……。
そう、甘く考えていた瞬間もありました。
街で馬車を借りて送ってもらえば(当然前金)、ルンデル伯爵家の周囲を覆っていた木の板で作られた塀が石積みの強固な塀にされ、門扉が豪華な芸術品になり、古びた屋敷を隠していた背の高い木々が引っこ抜かれ、美しい冬の花々が咲き誇る。 そして……塀の外から見える屋敷の壁が綺麗になっていた。 カーテンが豪華になっていた。 豪華なテラスが出来ていた。
「アレは、なんですか!!」
と、声をあげれば御者が教えてくれた。
「伯爵家に美しい姫君を迎えられたそうですよ」
うん、嫌な予感しかしない……。
「そうですか……。 仕方ありませんね。 街に戻って下さい」
そして私は、その日孤児院の扉を叩いた。
「すみません頼る親が無いので面倒を見てください」
8歳でも小柄な私は、旅を終えて王都に戻ったばかりで、質の良い服を着てはいるが程よく薄汚れていた。
「えっと……ご家族は?」
「両親は(家に)いません」
「お名前は?」
「サーシャです」
「親の名前は、ヨハンとアリア」
まぁ、割と良くある名前だ。 そしてルンド国の8割の人は苗字を持たないので問題はない。 ルヴィックと言うのは、同じ商売をする一族の共通名称として使っているだけで、今のところ苗字のうちには入らないのだ。 今回の協議が成功すれば爵位を貰えてルヴィックは正式な家名になるらしいが、まだ先のことだ。
「そう……」
考え込むような素振りが見られたけれど、
くちゅん!
くしゃみをすればシスターは、大きな溜息と共に私を迎え入れてくれた。
「今は、お勉強の時間だから静かに待っていてくださいね。 ここは少し大きな子のための孤児院なのですから。 行儀の悪い子は追い出しますからね」
容赦のない発言がされたが、私の中身は分別の分かる大人だから問題ない。
この国は、他国に比べ孤児院も孤児の数も多い。
ルンド国は魔物が多からね。
他国と魔物の数を比較すると3倍程。 そして他国に出現する物と比べ倍の大きさと強さがある。 出現は予測できず、突然に出現し人を襲う。 親を亡くす子は多いため各地域に孤児院が設けられている。
地方の孤児院で、優秀だと認められた子は、王都の孤児院で教育を受ける事ができ様々なチャンスが与えられる。 なら、子供を孤児院に捨てる親が増えるのでは? と思う人もいるだろうけど、子供も労働力と考える人が多いのと、教育を受ける事で親を見下すような子になって欲しくないと言う人が多く、無暗に孤児院に捨てられる者はいない。
「お勉強の場を、見学させてもらえますか?」
「大人しく、邪魔をしないのであれば……」
「はい」
そして私は、子供達が集まる部屋へと向かった。
ざっと見て24人の子供達がいた。
年齢は10~15歳まで……なはず。
私が面倒を見てくれと言った時に、あらあらどうしたの? こんなに汚れた格好で、可哀そうに何があったの? なんて感じで小さな子供に対する同情的な雰囲気が無かったのは、教育機関としての性質が強いためだろう。
黒板に書かれた授業は、足し算、引き算、掛け算、割り算の複合問題で、状況を設定した応用問題で小学校5年以上ってとこかな?
「ふぅん」
なるほどねと言う感じ思えば、思わず声が出ていたようで、シスターが少しだけ嫌味たらしく言ってきた。 あら失敗したわと思ったが後の祭りだ。
「暇なら、他の子達が解くまで、アナタも前に出て解いてみてはどうかしら?」
「いいよ」
ここで優秀さを認められれば、将来宮仕えも夢じゃないし!! なんて心の中で独り言を呟き、私は黒板に書かれた問題を順次解いていったのだった。
何しているんでしょうね? 私?
王都から少し離れた山の中に所有地を持ち、大きな倉庫を幾つも持っているのだが、人が寝泊まりする屋敷は小さい。 一族の者の大半が国内を巡っており、一堂に会することなど無いためだ。
だが、今は国から色々な依頼を受けており、今までにない程の数の人間が集まっている……と、王宮で出会った叔父の妻の妹に当たる人が言っていた。
「寝る場所も確保できなくて大変な状態でうんざりよ」
睡眠は、交代でベッドを確保できればラッキー、大半が床で雑魚寝らしい。
それに加えて、既婚者には子供も付随する。
そう、何人もだ!!
きっと……とんでもない状況が繰り広げられているに違いない。 想像しただけで汗が流れる……。 そう言う場所に、物分かりの良い子供がいたらどうなるか? 前世、嫌という程に経験してきた。
「絶対に、実家に帰るものか!! とは言え、どうしたものかねぇ……」
王宮は四か国から訪れた賓客の対応に追われているから、空き部屋はない。 まぁ、家畜小屋でもいいんだけど、匂いがつくと面倒だし最終手段にしたい。
そして私は街と王宮を往復する馬車に乗せてもらい、街へと向かった。
宿に空きがないか幾つか見て回ったが、お一人様の子供に貸すような部屋は無いと言う。
「金は出すって言っているでしょう!!」
「大切な客人が止まっているのに、責任者のいない子供なんて止められるか!!」
「……気持ちは分かるけど、私は分別のある大人しい子だわ」
「大人しい子が、一人で宿に泊まろうとするか? 他国の人間に興味を絶対に示さないと言えるのか?」
うぐっ、考え込んだ瞬間に、首根っこ掴まれ追い出された。
無念……。
空き部屋を貸してくれと、良さそうな家に突撃するか? なんて思ったりもしたけれど、相手の安全性が保障されない以上、愛らしい子供が1人でいるなんて変態に売り払ってくれと言っているようなものだ。
「う~ん……ここはルンデル伯爵家かぁ……」
ケントが馬鹿をしたため、少しばかり関係性は複雑である。 が、私とケントの婚約で、借金を返し、一族の者は職を得て、良い縁組もあった。 ならば、部屋の1つや2つ提供して日々、王宮まで送り迎えをしたところでバチもあたるまい……。
そう、甘く考えていた瞬間もありました。
街で馬車を借りて送ってもらえば(当然前金)、ルンデル伯爵家の周囲を覆っていた木の板で作られた塀が石積みの強固な塀にされ、門扉が豪華な芸術品になり、古びた屋敷を隠していた背の高い木々が引っこ抜かれ、美しい冬の花々が咲き誇る。 そして……塀の外から見える屋敷の壁が綺麗になっていた。 カーテンが豪華になっていた。 豪華なテラスが出来ていた。
「アレは、なんですか!!」
と、声をあげれば御者が教えてくれた。
「伯爵家に美しい姫君を迎えられたそうですよ」
うん、嫌な予感しかしない……。
「そうですか……。 仕方ありませんね。 街に戻って下さい」
そして私は、その日孤児院の扉を叩いた。
「すみません頼る親が無いので面倒を見てください」
8歳でも小柄な私は、旅を終えて王都に戻ったばかりで、質の良い服を着てはいるが程よく薄汚れていた。
「えっと……ご家族は?」
「両親は(家に)いません」
「お名前は?」
「サーシャです」
「親の名前は、ヨハンとアリア」
まぁ、割と良くある名前だ。 そしてルンド国の8割の人は苗字を持たないので問題はない。 ルヴィックと言うのは、同じ商売をする一族の共通名称として使っているだけで、今のところ苗字のうちには入らないのだ。 今回の協議が成功すれば爵位を貰えてルヴィックは正式な家名になるらしいが、まだ先のことだ。
「そう……」
考え込むような素振りが見られたけれど、
くちゅん!
くしゃみをすればシスターは、大きな溜息と共に私を迎え入れてくれた。
「今は、お勉強の時間だから静かに待っていてくださいね。 ここは少し大きな子のための孤児院なのですから。 行儀の悪い子は追い出しますからね」
容赦のない発言がされたが、私の中身は分別の分かる大人だから問題ない。
この国は、他国に比べ孤児院も孤児の数も多い。
ルンド国は魔物が多からね。
他国と魔物の数を比較すると3倍程。 そして他国に出現する物と比べ倍の大きさと強さがある。 出現は予測できず、突然に出現し人を襲う。 親を亡くす子は多いため各地域に孤児院が設けられている。
地方の孤児院で、優秀だと認められた子は、王都の孤児院で教育を受ける事ができ様々なチャンスが与えられる。 なら、子供を孤児院に捨てる親が増えるのでは? と思う人もいるだろうけど、子供も労働力と考える人が多いのと、教育を受ける事で親を見下すような子になって欲しくないと言う人が多く、無暗に孤児院に捨てられる者はいない。
「お勉強の場を、見学させてもらえますか?」
「大人しく、邪魔をしないのであれば……」
「はい」
そして私は、子供達が集まる部屋へと向かった。
ざっと見て24人の子供達がいた。
年齢は10~15歳まで……なはず。
私が面倒を見てくれと言った時に、あらあらどうしたの? こんなに汚れた格好で、可哀そうに何があったの? なんて感じで小さな子供に対する同情的な雰囲気が無かったのは、教育機関としての性質が強いためだろう。
黒板に書かれた授業は、足し算、引き算、掛け算、割り算の複合問題で、状況を設定した応用問題で小学校5年以上ってとこかな?
「ふぅん」
なるほどねと言う感じ思えば、思わず声が出ていたようで、シスターが少しだけ嫌味たらしく言ってきた。 あら失敗したわと思ったが後の祭りだ。
「暇なら、他の子達が解くまで、アナタも前に出て解いてみてはどうかしら?」
「いいよ」
ここで優秀さを認められれば、将来宮仕えも夢じゃないし!! なんて心の中で独り言を呟き、私は黒板に書かれた問題を順次解いていったのだった。
何しているんでしょうね? 私?
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