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1章 幼少期

16.市場調査 03

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 高級宿の一室を借り、結界用の魔道具を発動させる。

 食事は屋台飯で済ませてしまったため、宿の売りであるカフェから色々とケーキ類を買い込み、お茶にすることとした。

「美味しい……」

 チーズケーキ、フルーツケーキ、チョコケーキをアルマとシェアする。 チョコケーキはビターな感じで苦味が強く今の幼い身体では受け付けないため、皿をススッとクロムの方へと向けた。

「甘いものはちょっと」

「甘く無いからちょっと」

 私がクロムの口調を真似て言えば、小さくクロムは笑って見せた。

「私がいただきますよ」

 そう言ってお茶だけを飲んでいたセシル殿下が言いながら、チョコケーキを引き寄せ、両手をテーブルの上で組み、セシル殿下は宣言をした。

「さて、仕事の話をしましょうか? サーシャ、貴方の意見を」

「ルンド国の民には、この国の人達は手に負えない。 いえ……違う……どうなのでしょう?」

「どうしましたか?」

「えっと」

 もちゃもちゃしているうちに、立ち上がったセシル殿下が私を抱き上げ、膝の上に乗せた。

「し、ご、と」

「えぇ、でも、ほら、緊張ばかりしていても仕方がないでしょう? もっとこうリラックスして雑談のように話してくれていいのですよ?」

 そう言って愛らしい少女のような微笑みを向けてくる。

「わかったわ。 えっと、私達が進めようとしているのは暴力ではなく、経済的平和です。 それが達成されたなら、この国の人達は大きな利益を得る事になるでしょう。 美容、食文化、この国の利点とされる多くが生活の快適性と言う奴ですから。 でも、えっと、アルマ、そこにあるルームサービスのメニューを持ってきて」

「はいは~い」

 まぁ、ホテルのルームサービスと言えば通常の商品よりも高く設定されているものだ(前世では)。 だけど、商品クオリティが高く、特別感の演出と考えれば妥当とされている。

「1回の食事の代金としては高いですよね?」

 王族として出し渋る程ではないでしょうが、自国含め5か国を巡り様々な物を見て回った私達であれば、それらが他国の物価と比べかなり高いとわかるはずです。

「ですね……」

「多分、美味しいと思うんです。 城で出されていた料理もそうですが、食糧事情が悪いルンド国だけでなく、そのほかの国と比較しても、この国の料理は美味しいんですよ。 なので、この価格は味に相応しい価格と言えなくはありません。 ただ、屋台を見ても分かる通り、彼等は身内と外では商品価格を変えてくる傾向があります」

「ありましたねぇ……あえて突っ込みはしないように言われていたのでしませんでしたけど」

 アルマが苦笑交じりに言えば、クロムも眉間に皺を作りながら頷き呟く。

「柔らかく食べやすい肉だったが、肉の串焼きがなぜあそこまで高い?」

「肉に関しては、まぁ……私も幾つか柔らかくする方法を知っていますが、下処理に必要な材料と手間と時間を考えれば、価格が上がるのは当然ではあるんですよ。 ただ問題なのは、他国の人間であれば値上げをしてもいいよねと言う考え方。 でもそれ以上に問題なのが、美味しいものを食べたいと言う欲求です」

「値段よりも欲求の方が問題。 という事ですか?」

「そうなるのでは? と、私は思う訳なんです」

 そして、私は言葉を続けた。

 石鹸、入浴剤、シャンプー、トリートメント、化粧水等の美容製品。 一度使って効果を知れば、使う者と使わない者に差が生まれる事を知る。 使う方が周囲の反応が良いと知れば使わずにはいられないでしょう。

 住まいの利便性に関しては、面倒を使用人に任せている王族・貴族には変わらないから良いとします。 ですが、魔道具を見せつけ得意になる者が1人いれば、我も我もと後に続く事が想像できる。 そうなると失業者を出してしまうことになるでしょう。

 そう説明した。

「食事は?」

「食事は、日持ちをする品を見たことはないので……、ルンド国に影響を与える事は無いと思います。 影響を受けるとするなら、この国に招待をされた場合ですね。 拠点をこの国に移そうとする者がいるかもしれません。 でも、そうなると生活費に困ります。 残された手段としては……この国で兵士として勤める事ですねぇ……」

「どういう事ですか? お嬢様?」

「えっと、例えば武勇で誉れ高い、王子達がこの国に招待を受けるとしましょう」

「はい」

「うわぁ、美人。 ピチピチで色気むんむんうはぁ~」

「サーシャ……」

 私を抱っこするセシル殿下が、両頬をつまんで引っ張って来た。

「ふわぃ、で、美味しいご飯、優雅な生活、これはいいと思っても、招待を受けた期間は面倒を見て貰えたとしても、その後はどうなるでしょうか?」

「……自腹?」

 答えたのはクロム。

「はい、ですが、高級宿ですらこの値段です。 城での生活を維持するとなれば、どれほどの金銭が必要となるか? 働きもしない者達のために本国がホイホイ金を寄越すでしょうか?」

「する訳ありませんよ」

「ですよね。 となれば、彼等の取るべき手段は腕の立つ戦力としてこの国に仕える事になります」

「それは、良くないですねぇ……」

「まぁ、庶民レベルで言えば、金が無い、欲が満たされない、なら暴れて奪えばいいよね。 とより原始的な行動をとるのでは? というのが心配なのですよ。 ソンナ色々から、私が出した結論が、この国とは文化的レベル差が大きすぎるため、交流はしない方が良いと言うことです」

「とはいえ……そのまま伝えて通る訳はありませんよね」

 そう呟きセシル殿下は少し考えこんだ。

「国全体が人間性として問題があるとして、今回の協議への参加要請は取り下げさせていただきましょう。 同時にこの国を敵国認定し本国に警戒を促す。 で、いいですね」

「はい。 ルンド国の民も暴力で奪うのではなく、商談や経済交流が当たり前になった頃に、改めて国交を結ばせて頂く。 が、今のところ妥当ではないでしょうか?」
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