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1章 幼少期
06.スパイ防止法は存在しない 02
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そうこうしながらも、私達はアポイントメントも無しに国のお偉いさん達の元に乗り込んだ。 いわゆる国王陛下と愉快な仲間達の元にだ。
顔面に怒りの面を作っている私達に空気を読まず陛下は言う。
「この国の持て成しは気に入って頂けましたかな?」
ご機嫌な様子でイルモ国国王は、玉座から立ち上がり私達……いえ、セシル殿下に歩みよりながら問いかけてくる。
「ふざけていらっしゃるのですか! 私共が何をしにこの国に訪れたのか、理解しておられるのですよね?」
セシル殿下の少女めいた姿から発せられる声は厳しい。
「何か、ご不興を買うような事でも行いましたかな?」
理不尽だと、イルモ国国王の声と顔が訴えている。
「そうですか……イルモ国国王陛下は、私共に恥をかかせるほど、提案させて頂いた経済的和平協議がご不満なのですね。 気づかずに申し訳ございませんでした」
怒りを顔に残したまま、殿下は仰々しく頭を下げて見せた。 私は飄々と殿下に告げる。 何しろ私は下品な商人娘と言う立場だ、少々暴走気味な発言も仕方がないとされるだろう。
「殿下、殿下はこの国との貿易は望んでおりませんでしたよね?」
「はい、我が国にとって、この国で生産される者の全てが分不相応、必要とする取引等ありません」
「はっはははははは、殿下は子供ですな。 欲を知らぬ。 欲は良い、人を強くし、活力を与える。 欲望を汚いとお思いですかな? それで国が成長するとお思いなら、その青さで経済的和平を取り扱うのはまだ早いのではありませんかな」
私は殿下を守るように一歩前に出て告げた。
「陛下がなんとお思いであろうと。 和平協議は目前まで来ているのですよ。 そして……青く若いからこそ、私共は陛下にこう告げる事が出来るのです。 誰も彼もが貴方に頭を下げると思わない事です。 殿下への侮辱、心の刻ませて頂きます」
そして殿下もまた言葉を続ける。
「今日中に私共は、この国を失礼させてもらう事としましょう。 今なら……甘露も毒に変化する前。 未熟である私共は、分不相応な相手との話し合いは避けるべきと、退散時を心得ておりますからねぇ」
殿下の発言。
私の発言。
殿下の決定。
そして、慌てるイルモ国の要人達。
毒として届けられた美男美女達は、その日のうちに引くようにと指示が出された。 1対1の交渉ではなく6か国が集まり経済交渉を行うのだ。 入念な準備をし各国を巡っていた私達はあらゆる意味で優位な状況であり、情報を持つ。
文官や商人、身の回りの世話をする者が篭絡されては、優位性がひっくり返されかねない。
既に篭絡されている者もいたようだけれど、国に帰り次第、重要な役から排除しますからと言っておけば、運命を語っていた者達も、労力の無駄だと一瞬にして冷たい態度になるのだから、傍から見ていて面白かった。
だけど1人だけ、態度を改めない者がいた。
国王陛下の言動に左右されない者がいた。
イルモ国の第5王妃、私と同様に商家に生まれた母を持つカロリーネ姫だ。 彼女だけは命令ではなく、彼女の意思であると、だからこそ……私、サーシャにも認められたいのだと、頭を下げてきたのだ……。
「永遠等求めません……ただ、一時の思い出だけでもいいのです。 お願いします」
「この方は、オマエのような商人風情とは違い、この国の姫君だぞ!!」
カロリーネ姫とケントの言葉が、私に向けられた。 純愛を大声で演じる様に人々が集まれば、私が悪人とされ始める。
下げる頭の口元が……ニヤリとしている気がした……のだけど、気のせい?
ボソボソと私を悪人扱いする人々の中に、イルモ国の重鎮を見つけ、冷ややかな視線を向ければ、重鎮たちは慌てたように姫君の両脇を確保し、腕をとり、持ち上げ、去って行った。
「何をしますの!!」
カロリーネ姫の叫びが聞こえた。
「姫君!! 大切な、お話がございます」
「神に定められた運命を邪魔するなんて!!」
「早く、コチラにおいでくださいませ!!」
「良縁を結べと、口うるさく言っていたのは、そなた達でしょう!! 私は、上手くやってみせる。 上手くサーシャ様とも付き合いをして見せるんだから!!」
そんな叫び声が聞こえれば……勘弁して欲しいと思うのも当然だろう。
若さとは……短慮と言う意味だったかしら?
そこは、特別な客間。
庶民の生まれでありながら、ルンド国第四王子セシルと同格とするよう求められたサーシャ・ルヴィックのため整えられた部屋な筈であった。
来訪初日、翌日……。
美しいドレスを手に来訪したカロリーネ姫は、サーシャの元に居座った。
「神に選ばれた運命、きっと私達には3人で仲良くやっていくための道が示されているはずですわ。 まずはお互いを理解するところから始めましょう」
美味しい菓子、香の良い茶、綺麗な服、愛らしい装飾品、様々な物を手に機嫌を取りカロリーネは私にまとわりついた。
サーシャが眠りについた後も……居座った。
寝落ちした後も居座り続けた。
サーシャをそっとベッドに運んだのは、護衛騎士であり、婚約者であるケント・ルンデル。無防備に無邪気な寝息を、ケントとカロリーネ姫は覗き込み、視線を合わせて微笑んだ。
そんな日が2日続き
そして3日目。
サーシャ・ルヴィックの婚約者であるケント・ルンデルと、うっとり見つめあい、微笑みあい、徐々に近寄る2人の距離が、手と手を取り合い、肩が触れあっても尚、居座り続けたのだった。
顔面に怒りの面を作っている私達に空気を読まず陛下は言う。
「この国の持て成しは気に入って頂けましたかな?」
ご機嫌な様子でイルモ国国王は、玉座から立ち上がり私達……いえ、セシル殿下に歩みよりながら問いかけてくる。
「ふざけていらっしゃるのですか! 私共が何をしにこの国に訪れたのか、理解しておられるのですよね?」
セシル殿下の少女めいた姿から発せられる声は厳しい。
「何か、ご不興を買うような事でも行いましたかな?」
理不尽だと、イルモ国国王の声と顔が訴えている。
「そうですか……イルモ国国王陛下は、私共に恥をかかせるほど、提案させて頂いた経済的和平協議がご不満なのですね。 気づかずに申し訳ございませんでした」
怒りを顔に残したまま、殿下は仰々しく頭を下げて見せた。 私は飄々と殿下に告げる。 何しろ私は下品な商人娘と言う立場だ、少々暴走気味な発言も仕方がないとされるだろう。
「殿下、殿下はこの国との貿易は望んでおりませんでしたよね?」
「はい、我が国にとって、この国で生産される者の全てが分不相応、必要とする取引等ありません」
「はっはははははは、殿下は子供ですな。 欲を知らぬ。 欲は良い、人を強くし、活力を与える。 欲望を汚いとお思いですかな? それで国が成長するとお思いなら、その青さで経済的和平を取り扱うのはまだ早いのではありませんかな」
私は殿下を守るように一歩前に出て告げた。
「陛下がなんとお思いであろうと。 和平協議は目前まで来ているのですよ。 そして……青く若いからこそ、私共は陛下にこう告げる事が出来るのです。 誰も彼もが貴方に頭を下げると思わない事です。 殿下への侮辱、心の刻ませて頂きます」
そして殿下もまた言葉を続ける。
「今日中に私共は、この国を失礼させてもらう事としましょう。 今なら……甘露も毒に変化する前。 未熟である私共は、分不相応な相手との話し合いは避けるべきと、退散時を心得ておりますからねぇ」
殿下の発言。
私の発言。
殿下の決定。
そして、慌てるイルモ国の要人達。
毒として届けられた美男美女達は、その日のうちに引くようにと指示が出された。 1対1の交渉ではなく6か国が集まり経済交渉を行うのだ。 入念な準備をし各国を巡っていた私達はあらゆる意味で優位な状況であり、情報を持つ。
文官や商人、身の回りの世話をする者が篭絡されては、優位性がひっくり返されかねない。
既に篭絡されている者もいたようだけれど、国に帰り次第、重要な役から排除しますからと言っておけば、運命を語っていた者達も、労力の無駄だと一瞬にして冷たい態度になるのだから、傍から見ていて面白かった。
だけど1人だけ、態度を改めない者がいた。
国王陛下の言動に左右されない者がいた。
イルモ国の第5王妃、私と同様に商家に生まれた母を持つカロリーネ姫だ。 彼女だけは命令ではなく、彼女の意思であると、だからこそ……私、サーシャにも認められたいのだと、頭を下げてきたのだ……。
「永遠等求めません……ただ、一時の思い出だけでもいいのです。 お願いします」
「この方は、オマエのような商人風情とは違い、この国の姫君だぞ!!」
カロリーネ姫とケントの言葉が、私に向けられた。 純愛を大声で演じる様に人々が集まれば、私が悪人とされ始める。
下げる頭の口元が……ニヤリとしている気がした……のだけど、気のせい?
ボソボソと私を悪人扱いする人々の中に、イルモ国の重鎮を見つけ、冷ややかな視線を向ければ、重鎮たちは慌てたように姫君の両脇を確保し、腕をとり、持ち上げ、去って行った。
「何をしますの!!」
カロリーネ姫の叫びが聞こえた。
「姫君!! 大切な、お話がございます」
「神に定められた運命を邪魔するなんて!!」
「早く、コチラにおいでくださいませ!!」
「良縁を結べと、口うるさく言っていたのは、そなた達でしょう!! 私は、上手くやってみせる。 上手くサーシャ様とも付き合いをして見せるんだから!!」
そんな叫び声が聞こえれば……勘弁して欲しいと思うのも当然だろう。
若さとは……短慮と言う意味だったかしら?
そこは、特別な客間。
庶民の生まれでありながら、ルンド国第四王子セシルと同格とするよう求められたサーシャ・ルヴィックのため整えられた部屋な筈であった。
来訪初日、翌日……。
美しいドレスを手に来訪したカロリーネ姫は、サーシャの元に居座った。
「神に選ばれた運命、きっと私達には3人で仲良くやっていくための道が示されているはずですわ。 まずはお互いを理解するところから始めましょう」
美味しい菓子、香の良い茶、綺麗な服、愛らしい装飾品、様々な物を手に機嫌を取りカロリーネは私にまとわりついた。
サーシャが眠りについた後も……居座った。
寝落ちした後も居座り続けた。
サーシャをそっとベッドに運んだのは、護衛騎士であり、婚約者であるケント・ルンデル。無防備に無邪気な寝息を、ケントとカロリーネ姫は覗き込み、視線を合わせて微笑んだ。
そんな日が2日続き
そして3日目。
サーシャ・ルヴィックの婚約者であるケント・ルンデルと、うっとり見つめあい、微笑みあい、徐々に近寄る2人の距離が、手と手を取り合い、肩が触れあっても尚、居座り続けたのだった。
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