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24.休暇 01

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 ダグラス兄様曰く……。

 ベルトの状態は、先に前管理人から聞いていたのだと言う。

 ただ、少しばかり過少報告がなされていたのか? シバラクの間に悪化したのか? サリオン様ではなく私が訪れたと言う事実に混乱していたのか? そこまでは分からないし、分かる気も無いが、想定されていたのとは違っていたと言う。

「聞いた話では、乱暴な聖人だったんだがなぁ」

 とりあえずは豊穣祭には、サリオン様のツガイとして連れて行く事が出来そうだと言うのは確実だろうと思う。

 そして、皇族から指名された本来の管理人はと言えば、管理を全うしようとした結果、ベルトの善性の前に排除されたと言う事だった。 本来の管理人による告発によって分かったのは、屋敷内を占領していた人間がやけに多かったのは、住民以外の者達が税を逃れるために、居住していたからだと言うこと。

「今は放っておくよう役人に命じてあるが、全てが終わった折には、脱税のみならず、皇族の所有物を荒らした罰を償ってもらう。 まぁ、その罰もサリオンの今後の采配次第ってとこか……」

 ニヤリとダグラス兄様は嫌な笑みを浮かべていた。



 そんな私達はと言えば、豊穣祭までしばらくのお休みを取って、南方貿易都市の商人ギルド御用達の宿屋で過ごしている。

 ダグラス兄様は相変わらず、眼鏡によって瞳の色を変えスペードごっこ。 そして私はと言えば、髪色を兄様とお揃いの黒に変えていた。

 本来であれば、約束通り恋人ごっこを楽しむ所なのだけど、どうにも私がチビなのと、ダグラス兄様が大きいのとで、兄妹、時には親子にすら見られてしまい、そういうムードにならないと言うか、ギコチナイ日々を送っている。

 まぁ……なっても困るのですけどね……。

 そう思うのは、発情の前兆を先日体験したから、触れられてしまえば……そう思えば怖かった。 だから、幼い外見を利用し、私は私を子供なのだと思い込ませていた。

「お嬢ちゃん、迷子かい?」

 商業ギルド経由で報告書のやり取りをしている兄様を待ち、広場のベンチに腰かけ果汁を飲んでいれば声がかけられた。

 若い男だった。

 貿易都市、商業都市、仕事を中心とする都市に小奇麗な子供が珍しいのか、行きかう人がチラチラ見ていたのだから、声をかける者の1人や2人珍しいものではないでしょう。

「いいえ、人を待っているの」

 視線をあげ、声をかけてきた男に答えれば、視線に入ってきたのはニヤニヤと笑っている。 重苦しそうに鍛え上げられた筋肉が自慢なのは良くわかる露出度の高い男。

 男は私の横、ベンチに腰を下ろし、ずりっと身体を寄せてきた。 人の視線があるのだから、下手な事もしない、迷子を案じただけでしょう。 そうは思うけれど、詰め寄られる距離がイヤで、じりっと逃げる。

「いやだなぁ、別にアヤシイ人間じゃないよ」
「アヤシイ人もきっとそう言うと思うわ」
「ずっと1人でいるから気になっただけ」
「人を待っているんです」
「へぇ、親?」
「いいえ」
「兄弟?」
「違いますわ。 恋人です」

 そういえば、大笑いされた。

「そりゃぁいい。 なかなかいい趣味だ。 是非その変質者の顔を拝んでみたいものだ」

 なんて大笑いしだす。
 一体何がしたいのでしょうか?

「ほぉ、では、拝ませてさしあげましょう」

 ダグラス兄様は気配を殺し近寄り、背後から男の頭をむんずっと掴んだ。 そのまま片手だけで持ち上げるのだから、きっとかなり頭が締め付けられているわね。

「ぎゃぁああああああああ、やめやめやめてくれ、オレはただ小さな子が1人でいたから、あだだ、気になってただけだだっ、ちょ、マジ止めてて、お願い」

「小さな子が、1人でいたら気になったと?」

 確かにそこだけを聞けばアヤシイけれど、

「兄様……乱暴は良くないわ」

「本当止めて、オレ、ここの自警団所属の者だから。 聞いてくれればわかるから」



 そして、実際に自警団所属の人だった。

 最近では、子供による犯罪が増えているらしく、探りを入れに来たそうだ。 子供相手の犯罪の場合、ソレは加害者なのか? 被害者なのか? 声をかけて自分がまきこまれるのでは? 等と考えるため子供同士が言い争っていても、大人達は見て見ぬふりをするらしい。

「そんな訳なんです。 保護者の方は必ず付き添いをお願いします」

 念押しがされ、解放に至った訳だけれど……。



「兄様、報告の方はどうでしたの?」

 自警団本部を出てからの兄様は無言で、ただ繋がれた手だけが妙にシッカリ指を絡められ、くすぐるように指先や手のひらを撫でてきて、私はモゾモゾする手を誤魔化すように、兄様に話しかけたのですが……返事はなく、兄様といえば、屋台の食べ物を買い込んでいく。

「兄様、聞いておりますの?!」

 不満を告げれば、人の姿のままで小脇に抱えられ、食べ物を両手にした兄様が宿屋へ戻って行く。

「私は荷物ですか……」

 宿に戻り、扉を閉め、鍵を閉められた。
 何か重要な事でも? と思うのも当然だと思う。

「ラケ」

 声が……固い。

「何かありましたの兄様?」

「あの男に、恋人を待っていると言っていたな」

 聞いていたのかと思えば、顔が一気に熱くなった。

「ぁ、えっ、その……悪かったわね!!」

「いや……嬉しかった……ようやく、そう言う風に見てくれたんだな」

 感慨深げに抱きしめられれば、私は黙るしかできず、おずおずと兄様の背に手をまわせば、そのまま抱き上げられ、兄様はベッドの縁に座り、私を膝の上に向かい合うように乗せる。

 ベルトのいた保養地から離れたその日、何時ものように獣体で毛繕いをしていたが、どこか控えめな様子で、あの日から兄様が私にこうシッカリと触れたのは初めてのことだった。

「あぁやって、あの女と話しているのを、サリオンを奪い合う様子を聞けば、俺のではないと突きつけられているようだった」

 取り合ってないよ?!

 抱きしめてくる兄様に、余計な言葉は発言せずに飲み込めば、身体を引き寄せ密着してくる。

「えっと、兄様は、ずっと小さな頃から私を大切にしてくれていたわ。 今も……」

「ソレはそうだが、何時までたっても兄様だからなぁ……」

「小さな頃から、そう呼んでいますもの……」

 妙な気恥ずかしさを覚えると言うか、こう控えめな態度を取られては……兄様が兄様でないようで、不安と言うかなんというか、

「兄様、その……」

「なんだい?」

 見上げた顔から、眼鏡を取り上げ、金色の瞳が露わになれば、少しほっとできて、私は自然と微笑んでいた。

「ラケ、口づけをしようか?」

「ぇっ……」

 短い言葉は言っている私自身が拒絶に聞こえて、慌てて違うのだと焦った。

「ち、違うの。 その……、あの……刺激を受けると……発情期が来てしまいそうで」

 兄様の金色の瞳が、まん丸になって私を見つめていた。
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