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17.皇帝の罪、皇子の傷
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私に向けられていたサリオン様の優しさを知り、彼の心の葛藤を知れば、一度は切り捨てようとした情も増すと言うもの。 増した所で、子供がいると聞かされればショックだった。
「前回会った時に聞かせてくれれば良かったのに」
「明らかに態度に出すだろう? 他の女を愛している癖に、なぜ!! って、別れたい、別れたい、別れたいってそんな目で見続ければ、その時点で幽閉されてアウトだ。 それに、その時点では裏付けがとれていなかったからな。 皇子と良い仲です。 皇宮で雇ってくださいと言う手紙は結構ある」
「そう言う手紙を出させた事が……」
「ない!! 俺に不満をぶつけるな八つ当たりだ」
「ごめんなさい……」
はぁ……と、私は溜息をつき、兄様の毛繕いをする。 毛繕いはされていても落ち着くが、していても気持ちが落ち着くのだ。
「……どうせ、私とサリオン様の婚約、婚姻は、利害関係からですし、女性関係が多い方でしたから、えぇ……やることしているのですから、隠し子の1人や2人いても……」
ブツブツと言えば、笑いながらダグラス兄様は意地悪く否定する。
「普段遊んでいる女達は貴族だからな、隠さずに表沙汰になるだろう。 そこは、政治的配慮と共に管理しているんだろう」
「ようするに、その女性は……政治的配慮を忘れ、ツガイの証を渡すような特別な相手だったと言う事ですね!!」
「だから俺に怒るな。 だが、まぁ、そう言う事だ。 本人がツガイとして妻とすれば、そこでラケは離縁を申し出る事ができる。 が、サリオンはツガイとして認めた相手が子を作った事を知っても、妻として迎える事はしないだろう」
「どうして? ツガイってもっとこう衝動的なものなのでは?」
「獣性が弱くなっている今、ツガイをどう判断するか? って、言う議論は、どの国でもあるんだがな。 現状は、ツガイって言っておけば、男女関係で無茶も通るよねって言う感じに過ぎない」
「そんな理由でアメリア叔母様が? 蔑ろにされたのですか?」
アメリア叔母様は兄様の母様。
「陛下は美貌の娘を妻にしたいと言う欲求以外には、何も考えていなかった。 というのが、兄貴の見解だ。 庶民の娘を側に置き寵愛を与えれば、皇妃と側妃に殺されるだろう。 それを避けるためには? よしツガイと言う事にしようってな」
「最悪……」
小さな声で呟けば、溜息と共に同意された。
「まぁな」
陛下が、私と仲が良かったダグラス兄様ではなく、サリオン様と婚約、婚姻を進めたのが、この庶民のツガイ様、サリオン様の母君が理由なのです。
皇家には『母系養育』と言う制度があって、これによってサリオン様は8つになるまで教育らしい教育を受けていなかったと言われています。
母系養育とは?
皇家の血は強くて当たり前。
では、母方は?
強さ、力の証を立てるために、子は母方で育てる事とされている。 だから、皇子でありながら、ダグラス兄様やライオネル兄様は、アメリア叔母様の再婚相手の家である我が家で育ち、自身で働けるようになり皇宮に皇子として戻りました。
ラシーヌ公爵家、ガムルステット公爵家、この2つの後ろ盾を得て皇子を育てたアメリア叔母様は、皇家とは縁を切った今でも、優秀な女性であると世間では評価されているくらいです。 ちなみに、側妃だった隣国の姫君は、バルテルス帝国と縁を切り子供は向こうの国の子として育てることを選択し、それ以降の交流は断っていると言う話です。
過去、皇族、貴族以外の庶民が皇妃の地位についたこともあったけれど、皇妃自身やその親が優秀な商人、学者、武芸者であったため、この母系制度に疑問が持たれた事はなったのでしょう。
問題が起きたのは、記録ではサリオン様が初めてなのです。
サリオン様は、自分が弱いからと卑下していた。
力の制御も必要ないと思われた。
私と婚約をするまで、力の制御をする必要が無かった。
今、改めて思い出せば……それを行う力が現皇妃様に無く、法を変えるほどの力、いえ、この場合は法を変えなければと考えるだけの頭が現皇帝陛下になかったのでしょう。
私、少し苛立っていますね……。
サリオン様は、私との婚約を得て初めて後ろ盾を持ち、力の制御を学ぶ事が出来る状況になったと言う事なのです。
「結局、陛下と皇妃様が悪いのではありませんか!! 身勝手に恋をして、生まれてくる子を放置したんですから!!」
「そう言えば、陛下は、自分は父親でありながらも、縁組を組ませる事で子育てに介入した。 出来る事は十分過ぎるぐらいにやったと返すさ」
コレを聞けば既に似たような問いかけはしたのでしょう。
どこまで無能な皇帝陛下なのだろう……。
そのような方を何時まで玉座に……。
流石にソレは言葉にできるはずもない。 出来るはずもないけれど……。
「いつまで、あのような陛下を……」
「そういうな。 何をするにも準備は必要だって事だ」
私は、唖然としながらダグラス兄様を見ようとしたが、ガッシリ抱え込まれ毛繕いされれば見ることが出来なかった。
「でも、サリオン様が悪くないと知れば、自分が弱いからなんて思わなくてもいいのでは? そうすれば、サリオン様は素直になって、本当に好きな方と幸福になれるのではありませんか?」
「アレは馬鹿ではない。 知らない訳じゃない。 アレの問題は、根っこの部分に強く母親に愛されたいと望みつつ、母親を恨んでいるところだ」
それは愛されなかったと言うこと。
「母親に愛されたいと望むから、皇妃を悪く言わず。 女性の誘いにたやすく応じる。 今、一番問題なのは……庶民の娘を自分のツガイだと証を立て、子まで作ったが、母親の失態を思えば、その娘を妻に望むことはせず金銭でけりをつけてしまうだろうことだ」
「頭が痛い……」
私が唸るように言えば、兄様は溜息をついた。
「だな」
「もっと、舐めて」
「……人型で言ってくれ」
「……エッチな事はいけないと思います」
ダグラス兄様は苦笑交じりに、私の毛繕いを優しく続け寝かしつけてくれた。
「前回会った時に聞かせてくれれば良かったのに」
「明らかに態度に出すだろう? 他の女を愛している癖に、なぜ!! って、別れたい、別れたい、別れたいってそんな目で見続ければ、その時点で幽閉されてアウトだ。 それに、その時点では裏付けがとれていなかったからな。 皇子と良い仲です。 皇宮で雇ってくださいと言う手紙は結構ある」
「そう言う手紙を出させた事が……」
「ない!! 俺に不満をぶつけるな八つ当たりだ」
「ごめんなさい……」
はぁ……と、私は溜息をつき、兄様の毛繕いをする。 毛繕いはされていても落ち着くが、していても気持ちが落ち着くのだ。
「……どうせ、私とサリオン様の婚約、婚姻は、利害関係からですし、女性関係が多い方でしたから、えぇ……やることしているのですから、隠し子の1人や2人いても……」
ブツブツと言えば、笑いながらダグラス兄様は意地悪く否定する。
「普段遊んでいる女達は貴族だからな、隠さずに表沙汰になるだろう。 そこは、政治的配慮と共に管理しているんだろう」
「ようするに、その女性は……政治的配慮を忘れ、ツガイの証を渡すような特別な相手だったと言う事ですね!!」
「だから俺に怒るな。 だが、まぁ、そう言う事だ。 本人がツガイとして妻とすれば、そこでラケは離縁を申し出る事ができる。 が、サリオンはツガイとして認めた相手が子を作った事を知っても、妻として迎える事はしないだろう」
「どうして? ツガイってもっとこう衝動的なものなのでは?」
「獣性が弱くなっている今、ツガイをどう判断するか? って、言う議論は、どの国でもあるんだがな。 現状は、ツガイって言っておけば、男女関係で無茶も通るよねって言う感じに過ぎない」
「そんな理由でアメリア叔母様が? 蔑ろにされたのですか?」
アメリア叔母様は兄様の母様。
「陛下は美貌の娘を妻にしたいと言う欲求以外には、何も考えていなかった。 というのが、兄貴の見解だ。 庶民の娘を側に置き寵愛を与えれば、皇妃と側妃に殺されるだろう。 それを避けるためには? よしツガイと言う事にしようってな」
「最悪……」
小さな声で呟けば、溜息と共に同意された。
「まぁな」
陛下が、私と仲が良かったダグラス兄様ではなく、サリオン様と婚約、婚姻を進めたのが、この庶民のツガイ様、サリオン様の母君が理由なのです。
皇家には『母系養育』と言う制度があって、これによってサリオン様は8つになるまで教育らしい教育を受けていなかったと言われています。
母系養育とは?
皇家の血は強くて当たり前。
では、母方は?
強さ、力の証を立てるために、子は母方で育てる事とされている。 だから、皇子でありながら、ダグラス兄様やライオネル兄様は、アメリア叔母様の再婚相手の家である我が家で育ち、自身で働けるようになり皇宮に皇子として戻りました。
ラシーヌ公爵家、ガムルステット公爵家、この2つの後ろ盾を得て皇子を育てたアメリア叔母様は、皇家とは縁を切った今でも、優秀な女性であると世間では評価されているくらいです。 ちなみに、側妃だった隣国の姫君は、バルテルス帝国と縁を切り子供は向こうの国の子として育てることを選択し、それ以降の交流は断っていると言う話です。
過去、皇族、貴族以外の庶民が皇妃の地位についたこともあったけれど、皇妃自身やその親が優秀な商人、学者、武芸者であったため、この母系制度に疑問が持たれた事はなったのでしょう。
問題が起きたのは、記録ではサリオン様が初めてなのです。
サリオン様は、自分が弱いからと卑下していた。
力の制御も必要ないと思われた。
私と婚約をするまで、力の制御をする必要が無かった。
今、改めて思い出せば……それを行う力が現皇妃様に無く、法を変えるほどの力、いえ、この場合は法を変えなければと考えるだけの頭が現皇帝陛下になかったのでしょう。
私、少し苛立っていますね……。
サリオン様は、私との婚約を得て初めて後ろ盾を持ち、力の制御を学ぶ事が出来る状況になったと言う事なのです。
「結局、陛下と皇妃様が悪いのではありませんか!! 身勝手に恋をして、生まれてくる子を放置したんですから!!」
「そう言えば、陛下は、自分は父親でありながらも、縁組を組ませる事で子育てに介入した。 出来る事は十分過ぎるぐらいにやったと返すさ」
コレを聞けば既に似たような問いかけはしたのでしょう。
どこまで無能な皇帝陛下なのだろう……。
そのような方を何時まで玉座に……。
流石にソレは言葉にできるはずもない。 出来るはずもないけれど……。
「いつまで、あのような陛下を……」
「そういうな。 何をするにも準備は必要だって事だ」
私は、唖然としながらダグラス兄様を見ようとしたが、ガッシリ抱え込まれ毛繕いされれば見ることが出来なかった。
「でも、サリオン様が悪くないと知れば、自分が弱いからなんて思わなくてもいいのでは? そうすれば、サリオン様は素直になって、本当に好きな方と幸福になれるのではありませんか?」
「アレは馬鹿ではない。 知らない訳じゃない。 アレの問題は、根っこの部分に強く母親に愛されたいと望みつつ、母親を恨んでいるところだ」
それは愛されなかったと言うこと。
「母親に愛されたいと望むから、皇妃を悪く言わず。 女性の誘いにたやすく応じる。 今、一番問題なのは……庶民の娘を自分のツガイだと証を立て、子まで作ったが、母親の失態を思えば、その娘を妻に望むことはせず金銭でけりをつけてしまうだろうことだ」
「頭が痛い……」
私が唸るように言えば、兄様は溜息をついた。
「だな」
「もっと、舐めて」
「……人型で言ってくれ」
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ダグラス兄様は苦笑交じりに、私の毛繕いを優しく続け寝かしつけてくれた。
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