絶対、離婚してみせます!! 皇子に利用される日々は終わりなんですからね

迷い人

文字の大きさ
上 下
15 / 37

15.兄様辞めてください!

しおりを挟む
 大きなベッドの上で、ラケシスはポツンと座り込んでいた。
 目からは涙が溢れているが、それは恐怖からではない。

 悲しかった。

 自分が大切にされていたのだと言う点だけを思えば、喜ぶべきなのかもしれない。 だけど、無邪気に喜ぶ気に等なれなかった。 

 悲しくて、悲しくて、ボロボロと涙が零れ落ちる。

 だけど、何がそんなに悲しいのかと聞かれたら、答える事は出来ない……ただ、悲しいだけだから。

 サリオン様は、皇族の中では確かに最弱かもしれませんが、貴族と比較してまで弱いと言う訳ではありません。 だから……私は、貴族達とサリオン様の関係を、良好なものだと思っていたのです。

 散歩の際に見つけたサリオン様は、よく貴族に囲まれ、穏やかな微笑みで貴族達の話に耳を傾けておいででした。 例え貴族の自慢話であっても、愚痴であってもです。 そして、貴族は細身で美麗な姿、穏やかで優しい微笑み、物静かに耳を傾ける姿に魅了され、ウットリと、時に分かりやすい欲情をその顔に浮かべている方もいました。

 愛されているのだと、ずっと思っていました。
 私と違い、人々に愛されているのだと嫉妬していました。

 それが、サリオン様には、哀れみ、同情し、見下し、馬鹿にしているように見えたなんて……。

 いえ……確かに、彼等のあの態度は、礼儀から外れたもの。 他の皇族の方々に見せる態度とは違ってはいます。 マロリー様の態度も……サリオン様の前で行われる言動には、度が過ぎている面もありました。 ですが、それを親しみとして受け入れられているのだと思っておりました。

 それを良い事と思っていた私と、悪い事と思っているサリオン様にコレほどの差があるなんて。

 誤解を解かないと。

 そう思って、記憶を探れば探るほど、貴族の態度は侮辱的なものに思えてきた。

「わ、からない……でも、あれでは」

 あれでは、余りにも切なくて、寂しくて……。



 ふわりと柔らかく大きな布地が頭上から降って来た。

 柔らかな感触が肌に触れ、その布地を抱きしめ、瞳を閉ざす。

「ラケ、ラケシス。 迎えに来た」

 ボンヤリと声のする窓へと視線を向けた。

 既に日は沈みきっており、曇りの空は星1つとすら輝いていない。 開かれたテラスの扉からは、冷たい風が流れ込み、宿泊施設を利用する大勢の者達の騒めきが聞こえた。

「ダグラス兄様……先ほどの、呼び出しは……」

 直ぐ横に立つダグラスを、ラケシスは涙で濡れた顔で見上げた。 ダグラスの長い指先が涙をぬぐい、その頬を手のひらで覆うように撫で、アゴを指先で上向かせ口づけた。

 乱暴な口づけだった。

 ザラリと舌で唇を舐めて、口内へと侵入すれば乱暴に唾液をこすりつけるように、薄い粘膜を舐め刺激し、大量の唾液を流し込んだ。

 ごほっ、

 うまく飲み込み切れずに咳き込むラケシスへの気遣いはなく、先ほどまでサリオンが口に含んでいた白い胸の膨らみをザラリと舐めあげ。 ピンク色の果実を口に含み、唾液を絡め吸い上げる。

「兄様、やっ、やめてください。 何を、ぁ、っん、ダメ。 強く吸わないで」

 怖かった……この状況をサリオン様に見られたらと思えば、怖くて、怖くて、小さく震える。

「お願い、止めて兄様!!」

 叫ぶ口に唇が押し当てられる。

「他の男の匂いが、不快だ」

 それは……分からない訳でもない……よく理解できる。 獣化できるものは五感が発達している、獣に近しい。 だからマロリー様とサリオン様の交じり合う匂いがイヤだった。

 だけど、私は……サリオン様の妻なのだ。

 サリオン様は夫婦だと言い聞かせながら、それでも罪悪感を抱きつつ私を抱こうとしていたし、私もイヤだと拒絶したけれど、今の状況こそがオカシイ。 それを告げようとすれば、ダグラス兄様は強く言った。

「逃げるぞ」

「ぇ?」

 ラケシスは首を横に振る。

「資料は作り終えたと聞いた。 陛下の依頼は果たしたはずだ」

「でも……」

「幽閉がイヤだから? 今までだって余り自由でもなかっただろう」

 聞いていたのか……そう思えば、突然の不躾な面会の願いは兄様が采配したことと確信できた。

「そうでもありませんよ」

 休養地では、割と自由に日々を過ごしてきた。 自由にのびのびと日々を送って来たのだと思えば、やはり涙がこぼれてきた。 私が嫌いで遠ざけていた訳ではなく、それもサリオン様なりの優しさだったのかと思えば、自分の馬鹿さに泣きたくなる。

「獣体をとれ」

「私は、逃げません」

 脅されてとか、自由を失う事を恐れてではない。 ただ……サリオンが気の毒に思えたのだ……。 いや、惨めにすら思えた。 だから……なんとかして差し上げたかった。 せめて慰めにでもなればとおもえた。 でも、このままで良いとも思えず、頭の中がグルグルする。

 ダグラスはラケシスの頬を撫で、銀色の瞳を見つめる。

「それは、アレが望む感情じゃない。 同情では意味がない。 アレが望むのは、自分が守らなければいけない弱いラケシスだ。 そんな哀れみや同情で上手くいくと思っているのか?」

「あんなの絶対にオカシイ、間違っています!」

「そうだな。 だから、弱者を気取るか?」

「私は、強くはないもの……」

 そういえば、滑稽だとダグラスは笑った。

 時間さえ稼いでやれば、千の雑兵を一気に倒す事ができるラケシスが弱いのか? と。 散々笑った後に、もう1度言った言葉は、強く命令口調だった。

「獣化しろ」

「嫌です」

「……わかった」

 ホッとするのも束の間。 私をベッドに倒し、抑え込むように両足の上に乗りダグラス兄様が上着を脱ぎだした。

「何、を?」

 恐怖ではなく、呆れと言う方が近い問いかけ。

「今から犯す。 俺の匂いをまとわりつけ、両足の間から俺の精を溢れさせるオマエをサリオンに見せつける。 きっと楽しいぞ、怒るだろうが、アレが怒った所で俺に敵う訳がない。 ただ、茫然と見るしかないだろう。 どうすることも出来ないアレの前でも犯してやるよ」

「……っ?!」

「さぁ、どうする?」

 太ももが撫で上げられ、シットリと濡れている両足の間に指が触れる。

「ラケは、乱暴にされるのが好きなようだな。 こんなに濡らして」

 入口あたりが指で撫でられれば、濡れた音が響いた。

「いや、ダメっ」

「ダメなのはオマエだろう? なんて酷い奴だ。 どこまでサリオンを傷つければ気が済む?」

 両足の間を撫でる指は、敏感な蕾に触れ撫で、胸を乱暴に揉みしだいてくるダグラス兄様から逃げようとしたが、柔らかなベッドに沈むほどにかけられた重みに、逃げ出す事もできない。

 扉の鍵が開かれる音が聞こえた。

「わかりました。 逃げます。 逃げますから止めてください」

 小さく呟いた声。

 そして開かれる扉。

「ラケシス!! 兄上、何をしておいでですか!!」

 悲痛な声だった。

「その子は、私の妻です。 兄上とて許しませんよ」

「オマエがか? 俺をどう許さないって?」

「返してください!!」

 サリオンが飛び掛かれば、ダグラスはラケシスを抱きしめ飛びのいた。

「他人の弱さにすがるな。 女の母性にすがるな。 甘ったれな坊ちゃん。 じゃ、シバラク留守にするが、追ってくんなよ。 下手な動きをしやがったら、ラケシスを無茶苦茶にし、動けなくなるまで犯しつくして、道端に捨てる」

「ダグラス兄様?! 何を!!」

 怖いとは思ってはいない。 ただ、サリオン様が心配だっただけ。

 ダグラス兄様は私の身体を薄い布地で覆い、小脇に抱きかかえて、テラスの窓から去ろうとする……だけれど……。 サリオン様は、ダグラス兄様が言っていた通り、身動きすることもできず、ただその表情に絶望を浮かべていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獅子の最愛〜獣人団長の執着〜

水無月瑠璃
恋愛
獅子の獣人ライアンは領地の森で魔物に襲われそうになっている女を助ける。助けた女は気を失ってしまい、邸へと連れて帰ることに。 目を覚ました彼女…リリは人化した獣人の男を前にすると様子がおかしくなるも顔が獅子のライアンは平気なようで抱きついて来る。 女嫌いなライアンだが何故かリリには抱きつかれても平気。 素性を明かさないリリを保護することにしたライアン。 謎の多いリリと初めての感情に戸惑うライアン、2人の行く末は… ヒーローはずっとライオンの姿で人化はしません。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

獣人公爵のエスコート

ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。 将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。 軽いすれ違いです。 書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。

少女が出会ったのは狼さん(色んな意味で…)でした。

ヴィオ
恋愛
みんなが知っている童話の「赤ずきんちゃん」と思わせておいてのオオカミちゃん(女)が狼さん(男)に襲われるお話?

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

私に番なんて必要ありません!~番嫌いと番命の長い夜

豆丸
恋愛
 番嫌いの竜人アザレナと番命の狼獣人のルーク。二人のある夏の長い一夜のお話。設定はゆるふわです。他サイト夏の夜2022参加作品。

大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜

楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。 ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。 さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。 (リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!) と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?! 「泊まっていい?」 「今日、泊まってけ」 「俺の故郷で結婚してほしい!」 あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。 やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。 ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?! 健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。 一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。 *小説家になろう様でも掲載しています

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...