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14.夫婦ですが……今更そのような事を求められても困ります

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「お願いします。 出て行ってください」

 自分の身体を抱きかかえ、泣きながら訴えてみたが、両腕の間に腕を差し入れられ軽々と湯から持ち上げられた。 思わずボーゼンとしてしまったのは、獣体の時によくやられていたため脳が麻痺をしてしまったのかもしれない。

 わずかな間を持ち、

 いやぁあああああ、

 叫びは、軽く触れるだけの口づけによって防がれ、そして叫びが止まるのを待って唇が離れた。

「か、からだは……湯に入る前に、洗ったから、もう……いいの。 だから、放してください……」

 湯から上がったばかりで、身体の内側までヌクヌクなのに私は震えている。 そんな私の言葉を無視し、サリオン様は大きなタオルで私の身体を包みこみ、豪華なベッドの縁に座らせた。

「さ、りおん様?」

「ラケシス、私達は夫婦だと言う事を忘れていませんか?」

「で、でも……今まで、こんなこと……」

「それはアナタが子供だったから、ずっと大人になるのを待っていたのですよ? もう十分に大人だったとは」

 トンと軽く押し倒され、サリオン様の手の平が胸に触れる。

「で、でも、今までは、触れることすら、しなかった!!」

 子供のような反論だとラケシス自身も思っている。

「弱くて、触れると壊れてしまうのではと不安だったんですよ。 それに、アナタは私を怖がっていましたから」

 怖がっていた……そう言いながら、その声は何処か嬉しそうで、やわやわと柔らかな胸に任せるように触れただけの手に、指先に力がわずかに入れられた。

「私の事を無気味だって、言ってた!!」

 そう言えば、少しだけ考えこむ様子が見られた。

「あぁ、様子がおかしかったと思えば、聞いていたのですか」

 全く焦った様子も悪気もなく、何時もと変わらない……いえ、口元は何時ものように微笑んでいるのに、目は微笑んでいなかった。

 知られてはいけないと言われていたのに、ここまで来てしまえば、いっそ獣化できる事を伝えて嫌われてしまえばいいのでしょうか?

 ペロリと頬が舐められ思考が停止した。

「ぁ……な、何?」

「確かに、私はアナタを無気味だと思っています」

 もう好きではないと思っていても、面と向かって言われれば傷ついた。 それが顔に出ていたのでしょうか? チュッと宥めるように口づけられる。

「無気味ですよ。 当たり前ではありませんか……こんなに細くて、柔らかくて、白い生き物など見た事がありません。 どうなっているのですか? アナタの身体は? そう思うのは当然だとは思いませんか?」

 言われている意味が分からなかった。

「皇族の中で私は最も弱い事をご存じですか? 私がどれ程乱暴にふるまっても、どれだけ横暴であっても、人は私を哀れむのです……。 貴族の連中は、その程度の力も無いのかと見下すのですよ。 知っていますか? 皇族の持つ武器は幼い頃から特殊だと言うことを。 力を抑えるため、力を鍛えるため、力の使い方を覚えるため、特別なものが準備されている。 私にはソレが必要なかった。 力を抑えなくとも構わない程度の力しかないと判断されていたのです!!」

 興奮している……今は身体を撫でまわしている程度。 怒らせないように、味方の振りをして、……話をさせるだけ話しをさせて、それで落ち着いてくれれば……、そう言う期待に賭けたラケシスは状況を甘く見ていると言えるだろう。

 2人は夫婦であり、サリオンはあって当然の行為を求めているだけ。

「だから、マロリー様と分かりあえたと……」

 そう問えば、語っていた言葉は止まり、サリオン様はジッと私を見つめ溜息をついている。 余り私には見せない様子なだけに、自分の言動が成功か?失敗か? 息を飲んで言葉を待った。

「今は、アナタとのことを語っているのですよ? どうして、理解できないのでしょうか?」

 チュッと口づけられ、唇が舐められれば、次の快楽を求めるかのようにラケシスの唇は自然と開かれていた。 だが、サリオンはそれ以上、口づけを続ける事はなく、身体をそっと触れるか触れないかの距離で撫でる。

 くすぐったくて身をよじれば、クスッとサリオンは楽しそうに笑った。

「アナタだけなんです。 壊さないようにと注意をし触れなければいけないのは、何しろ加減を学んできませんでしたから。 アナタがいなければ、この国で私は加減など必要とすることはなかったから……だけれど、アナタがいたから、アナタの前だけでは、私は強いのだと思える」

 首筋に甘く歯があてられ舐められる。

「哀れまず、見下さず、私に怯えるのもラケシス……アナタだけだ」

 そう語る息が熱かった。

「私が、怖いですか?」

 怖いと言えば喜ぶのかと思ったから、首を横に大きく振った。

「良かった……。 余り力の加減は上手くはありませんが、なるべく優しくできるよう。 努力はしましょう」

 違ったのかと思えば、何が失敗したのかとラケシスは悩み、怯え、震えていた。 そんなラケシスの太ももを跨ぐようにし見下ろすサリオン。

 その表情は、恍惚。

「なんて、愛らしい子なんだ」

 嘘偽りのない言葉なのだと分かった。
 だけど、喜べなかった。
 あるべき夫婦としての行為。
 待ち望んだはずの行為。

 盗み聞きの誤解は解けた。
 だけど、受け入れられなかった。

 なぜかラケシス自身もわからなかった。

 身体を覆っていたタオルが外され、小さく細い身体を飾る両の胸は、全体のバランスを考えれば小さくはないのだが、柔らかな肉の塊はサリオンの掌にスッポリと収まってしまう。

「可愛いよ、ラケシス」

 柔らかく包まれた胸の感触を撫で楽しむように触れたサリオンは、そっと慎重に白く柔らかな肉を口に含んだ。 舌先で先端が舐められ、チュッと吸われれば、微かな痛みを快楽として反応してしまう。

「ぁ、いや、ダメ……」

 ラケシスの甘い否定に、サリオンは優しい声で宥める。

「なぜ? 私達は夫婦ですよ?」

 ラケシスは逃げようと、サリオンの身体を押しのけようとしたが、ビクリとも動かず。 それがまた楽しいのだと言わんばかりに、ラケシスのピンク色の果実を口に含みながら笑っていた。



 ドンドンと扉が激しくならされた。

「申し訳ございません!! こちらにサリオン皇子がいらっしゃると見かけたリーン国の王太子が面会を望まれておいでです!!」

 ドンドンと扉を叩く音と、同じ言葉が幾度も繰り返され、サリオンは大きな溜息をついた。

「折角の機会でしたのに……でも、今更慌てる事もありませんよね。 私達は夫婦なのですから」

 チュッと軽い口づけ。
 晴れた空のような青い瞳が優しく笑う。

「ラケシス、アナタは私の宝です。 愛していますよ。 直ぐに用事を済ませてきます。 待っていてください。 逃げたら……次にあった時には逃げられないようにさせてもらうだけですよ? 賢いアナタなら理解できますよね?」

 そう話すサリオン様は、やはり何時もと変わらない優しいままの微笑みだった。
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