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02.偽り夫婦 02
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離縁が出来ないなら、諦めよう、割り切ろう、愛さなくなれば傷つくことはなくなる。 そう思って、皇宮を飛び出し、休養地で5カ月の間過ごしていたにも関わらず、未だ私は紅の1つで傷ついた気持ちになってしまう。
「陛下から、豊穣の祝いの企画に他国の使者を多数招くからと、食料流通に係る企画と、会談における予測を、急ぎ作って欲しいと申し付けられたもので、その……忙しいのです」
紅のついた唇から視線を逸らすため、外の景色へと視線を向けながら、早く出て行って欲しいと訴えた。
「そう、それなら、仕方がありませんね。 そのような事情で、早く戻って来たのですね。アナタは幼い頃から丈夫ではありませんでした……。 余り無理をなさらないでくださいよ。 あぁ、本当に……陛下もアナタに無茶ばかりを言う、本当に困った方です。 皇宮の空気も、その繊細な身体に悪いと言うのに……」
穏やかな声で語られる気遣いだが、私はサリオン様の仕事も代わりにしているのだから、彼が父である皇帝陛下ばかりを悪く言うのは違うと言うものです。
サリオン様の指先は、私の頬をそっと触れ撫でる。
武芸の訓練等していないのが分かる滑らかな指先。
美しい親指と人差し指が首に回される。
「どうしたのですか? アナタは私のもの……誰か他の男に恋心を抱いたとでもいうのですか? そんなことをされれば、私は……私は……」
わずかに力が入れられれば、首に指が、爪が食い込む。 それでも、一切傷がつかないのは、サリオン様が力の加減に慣れているから。
「誰かに奪われるなら、このまま……」
私はただ静かに、怯えるように視線を伏せた。
「あぁ、可愛らしい。 いい子ですね。 怯えないでください、アナタは私を愛していればいいのですから。 他の者に興味を持たず、情をかけず、ただ私だけを愛してくれれば、私は正気でいられるのですから」
愛していると言えなくなった私は、小さな子猫のように身を小さくし、怯えて見せた。
「アナタが良い子にしている限り、アナタを害することはありませんよ。 夏の静養から戻って来たところですが、用事が済み次第南方の保養地に旅立っては如何でしょうか? 今年は、冬が早いと言う話ですし、寒い中を旅するのは不便ですから。 わかりましたね?」
サリオン様は延々と私に要求を突きつけ続けた。
私は、幼い頃、病弱だった。
獣人としての身体に、膨大な魔力を宿していたため、自らの身体を傷つけ続け、8歳を迎えるまで、マトモなに生活を送る事が出来ず、常に魔導士が側にいて魔力補佐をしてくれていた。 そして、その期間に魔術を学んだ。
真っ白な髪は元々だけど、金色だった瞳は色が落ち銀色へと変色した。 身体の成長は不十分で、力自慢の獣人が集う皇宮では、幼い子供と勘違いされるほどに小さく、細く、弱々しく、今にも息絶えそうに見えるらしい。
秋に舞い落ちる枯葉のように儚く見えるらしい。
魔力が落ち着き、身体が成長しきった今は、見た目はどうあれ魔術さえ使えば皇宮で行われる武闘会でも良いところまで行くのでは? と、私自身は思っているし、魔術師達も
『無駄な破壊行為はお止めください』
そう言う程度には認めているのですが、世間は私を弱くて、弱々しくて、存在すら許されない生き物であるかのように視線を向け、なぜ皇宮にいるのかとヒソヒソ声で語りだし、時には狩りを楽しむ獣のように追い立てられる事すらある。
それもこれも、サリオン様の妻となり8年目を迎えた今であっても、未だ社交界デビューを迎えていないため。 ラシーヌ公爵家から嫁いだ令嬢がサリオン様と婚姻したと言う情報は周知されていても、ラシーヌ公爵令嬢ラケシスがどのような人物か紹介する場を与えられていない。 社交の場に出る事を許されてはいない。
『アナタの体調を考えれば、社交の場は難しいでしょう』
そう言って、他の女性を伴いサリオン様は社交の場へと出向かれる。
でも、本当は知っている。
私を伴うのが恥、だから。
積み上げた実績が損なわれるから。
獣人として認められないから。
そう5カ月前に初めて知った。
だから傷つかない……。
私は自分が知っている情報を淡々と伝えた。
「リンス伯爵家のマロリー様とのお噂は耳にしております。 愛妾として正式にお迎えになられるのだと噂を耳にしました」
「そう、いけない子だね。 皇宮をそうやって動き回り、聞き耳を立てるなんて、はしたない行為だよ? だけど……説明が省けて丁度いい。 アナタが何時までも社交の場に出られないから仕方のない事なんだ。 理解できるよね?」
そう言いながら、私の首回りを撫でさする。
「はい……」
私は小さくうなずいた。
「陛下から、豊穣の祝いの企画に他国の使者を多数招くからと、食料流通に係る企画と、会談における予測を、急ぎ作って欲しいと申し付けられたもので、その……忙しいのです」
紅のついた唇から視線を逸らすため、外の景色へと視線を向けながら、早く出て行って欲しいと訴えた。
「そう、それなら、仕方がありませんね。 そのような事情で、早く戻って来たのですね。アナタは幼い頃から丈夫ではありませんでした……。 余り無理をなさらないでくださいよ。 あぁ、本当に……陛下もアナタに無茶ばかりを言う、本当に困った方です。 皇宮の空気も、その繊細な身体に悪いと言うのに……」
穏やかな声で語られる気遣いだが、私はサリオン様の仕事も代わりにしているのだから、彼が父である皇帝陛下ばかりを悪く言うのは違うと言うものです。
サリオン様の指先は、私の頬をそっと触れ撫でる。
武芸の訓練等していないのが分かる滑らかな指先。
美しい親指と人差し指が首に回される。
「どうしたのですか? アナタは私のもの……誰か他の男に恋心を抱いたとでもいうのですか? そんなことをされれば、私は……私は……」
わずかに力が入れられれば、首に指が、爪が食い込む。 それでも、一切傷がつかないのは、サリオン様が力の加減に慣れているから。
「誰かに奪われるなら、このまま……」
私はただ静かに、怯えるように視線を伏せた。
「あぁ、可愛らしい。 いい子ですね。 怯えないでください、アナタは私を愛していればいいのですから。 他の者に興味を持たず、情をかけず、ただ私だけを愛してくれれば、私は正気でいられるのですから」
愛していると言えなくなった私は、小さな子猫のように身を小さくし、怯えて見せた。
「アナタが良い子にしている限り、アナタを害することはありませんよ。 夏の静養から戻って来たところですが、用事が済み次第南方の保養地に旅立っては如何でしょうか? 今年は、冬が早いと言う話ですし、寒い中を旅するのは不便ですから。 わかりましたね?」
サリオン様は延々と私に要求を突きつけ続けた。
私は、幼い頃、病弱だった。
獣人としての身体に、膨大な魔力を宿していたため、自らの身体を傷つけ続け、8歳を迎えるまで、マトモなに生活を送る事が出来ず、常に魔導士が側にいて魔力補佐をしてくれていた。 そして、その期間に魔術を学んだ。
真っ白な髪は元々だけど、金色だった瞳は色が落ち銀色へと変色した。 身体の成長は不十分で、力自慢の獣人が集う皇宮では、幼い子供と勘違いされるほどに小さく、細く、弱々しく、今にも息絶えそうに見えるらしい。
秋に舞い落ちる枯葉のように儚く見えるらしい。
魔力が落ち着き、身体が成長しきった今は、見た目はどうあれ魔術さえ使えば皇宮で行われる武闘会でも良いところまで行くのでは? と、私自身は思っているし、魔術師達も
『無駄な破壊行為はお止めください』
そう言う程度には認めているのですが、世間は私を弱くて、弱々しくて、存在すら許されない生き物であるかのように視線を向け、なぜ皇宮にいるのかとヒソヒソ声で語りだし、時には狩りを楽しむ獣のように追い立てられる事すらある。
それもこれも、サリオン様の妻となり8年目を迎えた今であっても、未だ社交界デビューを迎えていないため。 ラシーヌ公爵家から嫁いだ令嬢がサリオン様と婚姻したと言う情報は周知されていても、ラシーヌ公爵令嬢ラケシスがどのような人物か紹介する場を与えられていない。 社交の場に出る事を許されてはいない。
『アナタの体調を考えれば、社交の場は難しいでしょう』
そう言って、他の女性を伴いサリオン様は社交の場へと出向かれる。
でも、本当は知っている。
私を伴うのが恥、だから。
積み上げた実績が損なわれるから。
獣人として認められないから。
そう5カ月前に初めて知った。
だから傷つかない……。
私は自分が知っている情報を淡々と伝えた。
「リンス伯爵家のマロリー様とのお噂は耳にしております。 愛妾として正式にお迎えになられるのだと噂を耳にしました」
「そう、いけない子だね。 皇宮をそうやって動き回り、聞き耳を立てるなんて、はしたない行為だよ? だけど……説明が省けて丁度いい。 アナタが何時までも社交の場に出られないから仕方のない事なんだ。 理解できるよね?」
そう言いながら、私の首回りを撫でさする。
「はい……」
私は小さくうなずいた。
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