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18.魔王の願い

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 日が昇り、日が沈む。
 魔王の到来から15日が経過していた。

 魔物の住まう屋敷に住まう事が出来る訳ない。
 魔物の世話等出来る訳がない。
 いつ、殺されるか怯えながら、生きろと言うのか!!

 そう、ザレアの側近は、ザレアに何とかしろと要求した。

 心情的には理解できるけれど、ザレアに何が出来るというのか? ザレアの監視として身を隠していた魔物が影から姿を現す。

『我らは意味もなく殺しはしない。 だが、敵は容赦なく殺す。 敵は殺して食う。 食っていいと言われている。 敵に情けをかけても良い事などないからな。 それに、その粗悪な感情によって味付けられた肉は悪くはない』

 闇から生まれた巨大な虎は、ニタリと笑って見せ、悲鳴が屋敷に轟いた。

「仕事は、優秀な男だったのですがねぇ……」

『そうか、それは申し訳ない事をした。 まだ生きている……姫君の力でなんとかならんのか?』

 なぜかオロオロとするあたり、部下より余程可愛げがあるようにザレアには思えた。 もう、感覚の全てが狂っているような気がする。

 それでも、ザレアは勧められたままに救いを与えるように血の中に倒れる男に話しかけた。

「アナタは強き者に敵意を持ち、命を落としかけています。 ですがそれはラフィの命の欠片で救う事ができる」

 血濡れの中で、男はぴくぴくと動くだけ。

「だけどね。 アナタがここで生き残ってしまえば、ラフィは再びアナタを助けるために、試練を受けなければならなくなるのですよ。 それは魔物との共存社会のためであり、アナタのためではないとはいえ、私はあの子に無駄な試練を増やしたくないのです。 魔物との共存に同意できぬと言うなら、今生き残ってもアナタを待つのは死です。 ラフィの命を、苦難を無駄にしたくはないので、魔物達との共存を拒否するなら、そのまま死んでください」

 ザレアは優しく微笑んだ。

「アナタはとても仕事が出来る男です。 上司にあたる私に意見を言えるのも好ましく思っていましたが、これからの未来に意味がないなら、死んでください」

 もう一度繰り返した。

 男は喋れない。
 喋る余力は残されていない。

 ソレを知りながらザレアは男に問う。

「どうしますか?」

 側にいる魔物は呆れたように告げる。

『生きたいと、忠誠を誓うと言っている』

「おや、そうなのですか。 ありがとうございます。 貴方がいなければ私はきっと彼が死を望んでいると誤解したまま、送り出してしまったことでしょう。 これを彼の胸に突っ込んでくれますか?」

 そう穏やかに微笑みながら、ラフィの生み出した血の結晶を虎に渡そうとすれば、虎はヤレヤレと溜息をつきながら屈強な身体を持つ男の姿を取り、血濡れの男の心臓に結晶を埋め込んだ。


 魔物達は、魔王と言う絶対的な存在から与えられたルールには従順であり、それこそ虎の魔物が言った通り、彼等は意味もなく殺したりはしない。

 彼等の言い分を聞くには、

『挨拶をしたら、敵意を向けられた。 殺意を向けられた。 話し合いも出来ない相手を生かす理由はない。 殺して食らえば腹は満ちるのだから。 オマエ達は会話のできぬ家畜に敵意を向けられ情をかけるのか?』

 そう言われれば、反論の言葉をザレアは思い浮かばなかった。 そして、もし思い浮かんだとしても、絶対に説得できるだけの材料がない限り、敵対と誤解を受ける事はしてはいけないと自らに言い聞かせたのだった。



 魔王とザレアは盟約を交わした。
 魔物と人との共存を。

 とは言え、ザレアも廃棄者と呼ばれるものなのだが、魔王との折り合いをつけることができる唯一の者としれば、それは人にとって差別するべき廃棄者ではなく、聖人なのだ。

 会談の時、魔王はこう告げた。

『我らが、人と魔物の共存を望んでおり、敵対意識をみせぬ限り命を奪わない。 と言っても、人は信用することはないだろう。 裏で集まり、どうやって退治すべきかと考える。 退治せよと、力ある者に訴える。 退治するために人を集め出す。 いつもいつもいつも!!』

「魔王殿」

『申し訳ない……だから、白の姫には民の救いの象徴となってもらう』

「ラフィに……何をさせようと?」

『前領主が言っていた通り、彼女が生み出す欠片1つで民1人の命とする。 我々魔物が人との共存を望んでいると言っても信用しないが、誰かが命をかけ、試練を受け、人の命を救ったとするならどうだ?』

「確かに、生かされている理由が明確であれば……」

『聖女と呼ばれる者が、争いを好まず、共存を望み願う。 そこに魔王である俺が試練を与える』

「ですが……。 それではあの子の精神が」

『分かっている。 だから、力の使い方を覚えさせる。 それまでは我ら魔物の到来を外部に漏らす事は許さない。 それを破る者は、我々の敵であると判断し処分する』



 そのような会話が交わされ……領主館では人の使用人は両手で数えられるほどまで減ったのだった。
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