【R18】聖女は生贄として魔王に捧げられました。 勝手に救われた気になっていますが大丈夫ですか?

迷い人

文字の大きさ
上 下
7 / 36

07.不幸なのに不幸ではなくて、

しおりを挟む
 疲れて座り込もうとする私を、男は膝の上に座らせてくれました。 でも……。

「地面に座りたかったのに」

 地面の温かさや冷たさを感じたかった。

「抜け出したのがばれるだろう?」

 言われてみればその通りだと思った。

「そうだね。 バレてしまったら、せっかくこの都市まで来て、仕事を得たアナタの人生が台無しになってしまうよね……」

 ハシャグばかりの自分が申し訳なく感じる。 男の表情を覗き込めば、ただニッコリと笑っていて、何を考えて居るのかわからなかった。

 怒っているのかな? 笑っているのに、そう思ってしまえば怖くなって、慌てて話しを変える事にした。

「アナタの名前、聞いて良い?」

「ルシェとでも」

「ルシェは何処から来たの?」

「アッチから」

 指さす先は森の向こうだった。

「そこでも、廃棄者が生まれるの?」

「旅をしていて知ったのは、何処ででも生まれるし、何処ででも変化はする。 だけど、大抵は処分されて、この街のように人間と一緒に生きているって言うのは珍しいかな。 いい都市だね」

 そう言われた途端に背筋がザワリとした。
 そんなことはない、自分達は辛いんだ!!って

「どうしたの?」

「よく、分からないの」

「何が?」

「私は2年間閉じ込められて辛かった。 でも、それ以前も狩りの練習だって追い回されるのが辛かった。 都市をつくる人間と同じように出来ないのが辛かった。 他の廃棄者のように強くないのが辛かった。 いつもいつもいつも辛いの」

「そっかぁ……」

 男……ルシェは空を仰ぎ見て、短く言葉を止めていた。 何時も、何時も、他の人なら、私の言葉の後にこういうのだ。

「でも、皆はオマエは恵まれているって言うの。 そう言われれば、今度はそう言われるのが辛かった」

「うん」

「私は、あの綺麗な塔の中で生きるより、余り綺麗でなくても、泥にまみれて友達とワイワイ賑やかにするのが楽しかった。 でも、その子達はもう私を仲間だって見てくれない……」

 何を言いたいのか分からなくなってきた。

 私は不幸だと思っているのに、他の人は幸せだと言う。 他の人が幸福に見えるのに、その人は自分を不幸だと思っているように見える。 グルグルグルグル同じように嫉妬しあい、背を向けてしまった。 答えの無いことを私は無意味に言葉にしているだけ。

 慌てて、また話を変えた。

「ルシェは、幸せ?」

 えっと、やっぱり変えてない?

「そうだなぇ~。 ラフィと散歩してこうやって空を眺めるのは幸せかな? 林檎食べる? 少し酸っぱいけど、果汁が多くて美味しいよ」

「もらう」

 林檎に齧り付けばシャクリと良い音がして、想像していた以上に果汁が溢れてきた。 ソレを見ているルシェはなぜかとても嬉しそうに見えた。

「ラフィは、幸せ?」

 穏やかに言われれば、自分が不幸ではないと知りコクコクと頷いて見せる。

「ラフィは、これからどうしたい?」

「ルシェのように、人間に見えるようになりたい。 そうして人間のように街を歩いて、いろんなものを見てみたい」

「うんうん、きっと出来るよ」

「本当?」

「本当。 まずは翼の消し方を覚えようか?」

 そう言われた。

 考えた事も無かった……翼が消せるなんて……。

 でも、ザレアの獣の印は、血の結晶を飲み消えたなら。 私も? そんな考えを読み取ったのかルシェは目元を笑わせた。

「ラフィの体液は、ラフィ自身には効果はないと思うけど? 既に身体の中にあるのだから」

「どうして、考えていることがわかるの?」

「顔に書いてあったから?」

「ぇ?」

「嘘だよ」

 私は笑いながら怒ったふりをする。

 楽しい、楽しい、楽しい!!



 また、楽しい事がありますように。


 私は、夜明け前に塔に戻り、ウトウトと眠る前に神様にお願いした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...