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05.気まぐれを司る神の悪戯のように
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「何が守るよ!!」
私は、ヒステリックに椅子を持ち上げ壁に投げつける。
「今、生きていても、結局は殺す癖に!! 逃げてやる……何処に行っても、何をしても死ぬと言うなら、徹底的に逃げてやる」
2年間の生活は、多分そこそこ贅沢だったのでしょうが、自由を失い、何かを学ぶ機会も与えられず、ただ飼い殺しのペットのように過ごしただけ。 もし、同胞と呼ぶ廃棄者達が私の怒りを知れば、なんて恩知らずなと言うでしょう。
廃棄者は、丈夫で寿命が長いが子を作る事ができない。 人扱いされず、獣扱い、いえ時に獣以下の扱いが普通であるため、自らの命を安く見てしまう傾向がある。
「長老ならきっとこういうに決まっているわ!! なぜ、恩義ある者のために死ねない って!!」
暴れて暴れて椅子やテーブル、カップや皿などが、狭い室内にぐちゃぐちゃに散乱したが、もともと力がないのだから、扉どころか椅子もテーブルも木のカップも皿も壊れていない。
「あれ?」
疑問を覚えた。
散々暴れたのに、静かにしないかという怒声がない。 何時もであれば、良い生活をしている癖に何の不満があるんだと叱られると言うのに。
私は扉の側に身を寄せた。
「ねぇ、誰もいないの?」
扉はビッチリと密封されていて隙間らしいものはなく、外の様子はわからない。
「お守りしておりますよ。 聖女様」
軽く返された声は、聴いたことのない声で、何より廃棄者ではありえない口調だった。
「誰? 私はアナタを知らない」
「初めまして聖女様。 私は数日前にこの都市に来た者です」
「人?」
「いいえ」
「この都市の他にも、廃棄者はいるの?」
「ここでは、アナタのような方は、そのように呼ばれているのですか?」
「何も知らないのね」
「はい、何も知りません。 ですから、この都市の事を教えてもらえませんか?」
「私も、良くは知らないわ。 だって2年の間ずっと塔の中だったんですもの」
「それは、息も詰まると言うもの。 では、一緒にお散歩にでも行きますか?」
「変な期待を持たせないで頂戴、この扉の鍵は、あの男だけが持っているんだから」
塔の扉は、金属で出来た格子扉と、分厚い木の扉の2重扉だ。 例え、木の扉を壊せたとしても、金属の扉を開くのは無理だろう。
「そうですね。 逃げないと約束してくれるなら。 私が護衛についている時は散歩に連れ出してさしあげますよ。 何しろ、私はとても器用な男ですから。 そして、せっかく得た仕事を手離したくない小心者ですから」
「残酷ね……」
そう言えば、奇妙に人間臭い男は笑った。
「えぇ、私はとても残酷な男です。 でも、とても優しくもあるんですよ。 今日はとても月が綺麗だとは思いませんか?」
「そうね」
塔の上には小さな窓が幾つもつけられていて、そこから外を覗き見る事ができる。
「この都市から山沿いに少し進んだ先にある湖で、夜に咲く美しい花を見つけました。 一緒に見に行きませんか?」
私は……嬉しかった。
それはとても人間のようだったから。
少女達が語る物語の登場人物のようだったから。
「いいの?」
「逃げない。 そう約束してくれるなら」
声の主は、念を押す。
「分かったわ」
死を突きつけられた今、なぜ、そんな誘いに乗ったのか? 私は、私を思いやってくれる気持ちが嬉しかったのだ。 泣きたいほどに嬉しかったのだ。
木の扉は壊される事無く開かれ、そして金属の格子戸も開かれる。
「さぁ、散歩に行きましょうか? 聖女様」
男は、黒より黒い髪を長く伸ばし、黒い瞳の色白で背の高い男だった。 私には彼が人に見えた。
「人?」
もう一度問えば、彼は妙に品の良い笑みで笑いかけ、短く答えながら私に手を差し出した。
「いいえ、人ではありませんよ」
私は、ヒステリックに椅子を持ち上げ壁に投げつける。
「今、生きていても、結局は殺す癖に!! 逃げてやる……何処に行っても、何をしても死ぬと言うなら、徹底的に逃げてやる」
2年間の生活は、多分そこそこ贅沢だったのでしょうが、自由を失い、何かを学ぶ機会も与えられず、ただ飼い殺しのペットのように過ごしただけ。 もし、同胞と呼ぶ廃棄者達が私の怒りを知れば、なんて恩知らずなと言うでしょう。
廃棄者は、丈夫で寿命が長いが子を作る事ができない。 人扱いされず、獣扱い、いえ時に獣以下の扱いが普通であるため、自らの命を安く見てしまう傾向がある。
「長老ならきっとこういうに決まっているわ!! なぜ、恩義ある者のために死ねない って!!」
暴れて暴れて椅子やテーブル、カップや皿などが、狭い室内にぐちゃぐちゃに散乱したが、もともと力がないのだから、扉どころか椅子もテーブルも木のカップも皿も壊れていない。
「あれ?」
疑問を覚えた。
散々暴れたのに、静かにしないかという怒声がない。 何時もであれば、良い生活をしている癖に何の不満があるんだと叱られると言うのに。
私は扉の側に身を寄せた。
「ねぇ、誰もいないの?」
扉はビッチリと密封されていて隙間らしいものはなく、外の様子はわからない。
「お守りしておりますよ。 聖女様」
軽く返された声は、聴いたことのない声で、何より廃棄者ではありえない口調だった。
「誰? 私はアナタを知らない」
「初めまして聖女様。 私は数日前にこの都市に来た者です」
「人?」
「いいえ」
「この都市の他にも、廃棄者はいるの?」
「ここでは、アナタのような方は、そのように呼ばれているのですか?」
「何も知らないのね」
「はい、何も知りません。 ですから、この都市の事を教えてもらえませんか?」
「私も、良くは知らないわ。 だって2年の間ずっと塔の中だったんですもの」
「それは、息も詰まると言うもの。 では、一緒にお散歩にでも行きますか?」
「変な期待を持たせないで頂戴、この扉の鍵は、あの男だけが持っているんだから」
塔の扉は、金属で出来た格子扉と、分厚い木の扉の2重扉だ。 例え、木の扉を壊せたとしても、金属の扉を開くのは無理だろう。
「そうですね。 逃げないと約束してくれるなら。 私が護衛についている時は散歩に連れ出してさしあげますよ。 何しろ、私はとても器用な男ですから。 そして、せっかく得た仕事を手離したくない小心者ですから」
「残酷ね……」
そう言えば、奇妙に人間臭い男は笑った。
「えぇ、私はとても残酷な男です。 でも、とても優しくもあるんですよ。 今日はとても月が綺麗だとは思いませんか?」
「そうね」
塔の上には小さな窓が幾つもつけられていて、そこから外を覗き見る事ができる。
「この都市から山沿いに少し進んだ先にある湖で、夜に咲く美しい花を見つけました。 一緒に見に行きませんか?」
私は……嬉しかった。
それはとても人間のようだったから。
少女達が語る物語の登場人物のようだったから。
「いいの?」
「逃げない。 そう約束してくれるなら」
声の主は、念を押す。
「分かったわ」
死を突きつけられた今、なぜ、そんな誘いに乗ったのか? 私は、私を思いやってくれる気持ちが嬉しかったのだ。 泣きたいほどに嬉しかったのだ。
木の扉は壊される事無く開かれ、そして金属の格子戸も開かれる。
「さぁ、散歩に行きましょうか? 聖女様」
男は、黒より黒い髪を長く伸ばし、黒い瞳の色白で背の高い男だった。 私には彼が人に見えた。
「人?」
もう一度問えば、彼は妙に品の良い笑みで笑いかけ、短く答えながら私に手を差し出した。
「いいえ、人ではありませんよ」
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