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03.聖なる者の責任を問う人々
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魔王は、魔物の群れを率いて旅をしていると言う。
この都市の者達にとっての魔王や魔物の存在は、遥か遠い地の物語であり、小さな子供の躾の一つでしかない。
『悪い子は魔王に浚われ魔物に変えられる』
それが、この都市に住まう者達の魔王に対するフンワリとした認識。
他の貿易港との流通が増えるにつれ、魔王は物語ではなく事実として語られるようになり、実際に故郷を追われた者の話を住民達は耳にするようになった。
それでも、遠い海の向こうの話でしかない。
海を越えて魔王から逃げてきたと者の話を聞けば、
「なんて気の毒なのでしょう。 些末な事しかできませんが、なるだけ力になれるよう都市の者達に働きかけましょう」
「着るものを分けましょう」
「食べるものを与えましょう」
「上掛けを与えましょう」
そういいながらも、我々の日常を脅かせば許さんと瞳で語り、自分達よりも弱く貧しい者達を見て、なんとなく気分が良いと思う者も少なくはなかった。
魔王の影響など、たったソレだけ。
なのに……。
ある日、突然に魔王の先触れが訪れた。
人々は魔物の声を聴いた。
夕焼けと共に行われた赤銅の翼をもつ小鳥が、人々に魔王の到来を予告する。
「告知、告知、魔王様が訪れる。
魔王様は興味を抱かれた。
恐れるがいい。
光栄に思うがいい。
逃げ惑うがいい。
魔王様の美に心浮かれて死ぬがいい」
大きな月を背にどこからともなく現れた赤銅の翼持つ鳥は、カチコチとゼンマイ仕掛けのような拍子をつけながら歌っていた。
その声を聴き、人は恐れそして恐怖にこう語りだした。
「魔王はルートを変えた」
「なぜだ?」
「なぜ、わざわざ海を越える?」
「あぁ、きっと聖人様の力を恐れたからだ」
「聖人様がこの地にいるからだ」
「全ては聖人が悪い!」
ザレアの住まう屋敷を囲む塀の向こうに人々は集まり、叫びだしたのだ。
「責任を取れ!!」
塀を壊さんばかりの勢いの群衆の前に、ザレアは身を現しこう告げた。
「私は、傀儡だ!! 真の聖女は彼女だったんだ!! 私は彼女に頼まれたに過ぎない!!」
そうして群衆の目の前に、美しく着飾ったラフィを突きだした。
「都合の良い事を言うな!!」
「考えてみてくれ、もし、彼女が聖女だと言って誰が信用すると言うんだ!!」
そう言って、ザレアはラフィの翼ある背を群衆に見せた。 一面柔らかな羽毛に覆われた肩から腰までを見せつければ、純白の美しい獣に人々は息を飲んだ。
「彼女は廃棄者でありながら、聖なる力を持つ者。 だが、彼女が人前に現れたからと言って誰がその力を欲するだろうか? 彼女が聖なる神の使いだと言えば、救える人も救えない!! 優しい彼女は悲しんだ。 悲しみ泣き暮れ、そして私に願ったのだ!!」
ザレアは上手に涙を流して見せる。
それを背から押さえつけられたラフィは馬鹿馬鹿しいと横目で眺めていた。 茶番に付き合いきれない。 等と思うが、長く塔に閉じ込められていたラフィの体力も筋肉も落ちていて、まともに歩く事すらかなわなくなっていたのだ。
「彼女は慈悲深くも優しい獣。 きっと我らを救ってくれるに違いない」
「廃棄者が聖女等と信じられるか!!」
「では、その証拠を見せよう!!」
白い羽毛が生えた背が剣で傷つけられた。
轟く叫びと共に流れる涙は透明な結晶となり、流れる血は深紅の結晶となる。
「彼女は聖女である。 きっと我らを魔王の到来から助けてくれる事だろう!! 皆のもの安心するといい!!」
ザレアの声に、群衆が歓声をあげた。
この都市の者達にとっての魔王や魔物の存在は、遥か遠い地の物語であり、小さな子供の躾の一つでしかない。
『悪い子は魔王に浚われ魔物に変えられる』
それが、この都市に住まう者達の魔王に対するフンワリとした認識。
他の貿易港との流通が増えるにつれ、魔王は物語ではなく事実として語られるようになり、実際に故郷を追われた者の話を住民達は耳にするようになった。
それでも、遠い海の向こうの話でしかない。
海を越えて魔王から逃げてきたと者の話を聞けば、
「なんて気の毒なのでしょう。 些末な事しかできませんが、なるだけ力になれるよう都市の者達に働きかけましょう」
「着るものを分けましょう」
「食べるものを与えましょう」
「上掛けを与えましょう」
そういいながらも、我々の日常を脅かせば許さんと瞳で語り、自分達よりも弱く貧しい者達を見て、なんとなく気分が良いと思う者も少なくはなかった。
魔王の影響など、たったソレだけ。
なのに……。
ある日、突然に魔王の先触れが訪れた。
人々は魔物の声を聴いた。
夕焼けと共に行われた赤銅の翼をもつ小鳥が、人々に魔王の到来を予告する。
「告知、告知、魔王様が訪れる。
魔王様は興味を抱かれた。
恐れるがいい。
光栄に思うがいい。
逃げ惑うがいい。
魔王様の美に心浮かれて死ぬがいい」
大きな月を背にどこからともなく現れた赤銅の翼持つ鳥は、カチコチとゼンマイ仕掛けのような拍子をつけながら歌っていた。
その声を聴き、人は恐れそして恐怖にこう語りだした。
「魔王はルートを変えた」
「なぜだ?」
「なぜ、わざわざ海を越える?」
「あぁ、きっと聖人様の力を恐れたからだ」
「聖人様がこの地にいるからだ」
「全ては聖人が悪い!」
ザレアの住まう屋敷を囲む塀の向こうに人々は集まり、叫びだしたのだ。
「責任を取れ!!」
塀を壊さんばかりの勢いの群衆の前に、ザレアは身を現しこう告げた。
「私は、傀儡だ!! 真の聖女は彼女だったんだ!! 私は彼女に頼まれたに過ぎない!!」
そうして群衆の目の前に、美しく着飾ったラフィを突きだした。
「都合の良い事を言うな!!」
「考えてみてくれ、もし、彼女が聖女だと言って誰が信用すると言うんだ!!」
そう言って、ザレアはラフィの翼ある背を群衆に見せた。 一面柔らかな羽毛に覆われた肩から腰までを見せつければ、純白の美しい獣に人々は息を飲んだ。
「彼女は廃棄者でありながら、聖なる力を持つ者。 だが、彼女が人前に現れたからと言って誰がその力を欲するだろうか? 彼女が聖なる神の使いだと言えば、救える人も救えない!! 優しい彼女は悲しんだ。 悲しみ泣き暮れ、そして私に願ったのだ!!」
ザレアは上手に涙を流して見せる。
それを背から押さえつけられたラフィは馬鹿馬鹿しいと横目で眺めていた。 茶番に付き合いきれない。 等と思うが、長く塔に閉じ込められていたラフィの体力も筋肉も落ちていて、まともに歩く事すらかなわなくなっていたのだ。
「彼女は慈悲深くも優しい獣。 きっと我らを救ってくれるに違いない」
「廃棄者が聖女等と信じられるか!!」
「では、その証拠を見せよう!!」
白い羽毛が生えた背が剣で傷つけられた。
轟く叫びと共に流れる涙は透明な結晶となり、流れる血は深紅の結晶となる。
「彼女は聖女である。 きっと我らを魔王の到来から助けてくれる事だろう!! 皆のもの安心するといい!!」
ザレアの声に、群衆が歓声をあげた。
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