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02.彼は免罪符のように囁き私を利用した
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生かさず、殺さず、籠の鳥。
「妙薬も量が多ければ、価値が下がる」
そう言って、傷をつけられるのは月に数回とされた。
「僕は、君を人だと思っているけれど、大抵の人は君たちを狂暴な獣だと思っている。 余り勝手をしてはいけないよ?」
そうして穀物保管用に作られた塔の1つを改造し私を閉じ込められた。 信用など1度だってしていない。 だって、私を人だと言ったのは一瞬のこと。 彼は、獣の印を失くした途端、その態度は元に戻っていたのですから。
それでもペットに与えるには、豪華な衣食住が与えられたと言えるでしょう。
「いざという時に役に立たなければ意味がないからな。 もともと獣として生きていた君には過ぎた贅沢だろう感謝するといい」
触れることも近寄ることもない距離で彼は言う。
「これは君を守るためなんだ。 可愛い僕の獣。 愛しているよ」
彼は免罪符のように、そう呟く。
そんな上辺だけの甘い言葉に、私の心は揺れりしない。
「僕の愛おしい人」
塔に幽閉されて1年経った頃、彼は海の向こうから妻を迎える事になったと言う。
「私は妻を迎える事になったよ。 これは、貿易都市にとって必要不可欠な婚姻だ。 だから、許しておくれ、私が愛しているのは君だけだ」
「そう……おめでとうございます」
身体の多くを羽毛で覆われていても、一応女……ザレアが巨大な貿易先から妻を迎えた際には、毎日通ってきていたザレアの来訪は3日に1度となり、5日に1度となり、血を受け取る時だけ……10日に1度となり、そして花嫁を得て3カ月を過ぎた頃には、1日に1度欲する血は5粒に増えていた。
元々、不思議な力を持つ血、傷をつけても傷は直ぐに塞がってしまうのだから、5mm程度の血を5回ほど流したところで大きな負担はない。 だけど、塞がる傷だからといって痛くない訳ではない。 やがて渡す薬が血から生まれる赤い結晶と、涙から生まれる透明な結晶の2種類となった。
日々が過ぎれば、人が近づく事を許さなかった私の住まう塔の側まで人が訪れるようになっていた。
「若奥様のご実家の方々が到着してから、休む暇もないわ」
使用人達の愚痴が聞こえた。
「でも、うちの若様は凄いねぇ~。 怪我人を一瞬で治療させてしまう奇跡の宝石を生み出す事ができるんだから」
「魔物のケガレも、若様の力があれば一瞬で治ってしまう」
「若様がいる限り、私達は安泰だ。 忙しいのも若奥様のご実家の方々が落ち着くまでだろうから、皆頑張るんだよ」
何時からか、ザレアは聖人と呼ばれ、人々から敬われるようになっていたらしい。 彼の奇跡を受けようと、様々な地域から人が集まるのだと言う。
ザレアは、私の血と涙に救いを求める。
人々が聖人ザレアに救いを求める。
そして、救いを求める声が、日々大きさを増し、ザレアに求める要望も大きくなっていく。
「病を治してください」
「ケガを治してください」
「ケガレを治してください」
聖人として讃え崇められ、まるで人の世に降り立った神のように信仰を集めた彼は、とうとうこう求められたのだ。
「この都市へと向かってくる魔王をなんとかしろ!!」
そんな声が高まる中、ザレアは私にこう告げた。
「ラフィ」
「はい……」
「君のケガれた血に惑わされた結果、私は人々に追い立てられる事となった。 その罪の深さ、君は理解しているだろうか?」
「妙薬も量が多ければ、価値が下がる」
そう言って、傷をつけられるのは月に数回とされた。
「僕は、君を人だと思っているけれど、大抵の人は君たちを狂暴な獣だと思っている。 余り勝手をしてはいけないよ?」
そうして穀物保管用に作られた塔の1つを改造し私を閉じ込められた。 信用など1度だってしていない。 だって、私を人だと言ったのは一瞬のこと。 彼は、獣の印を失くした途端、その態度は元に戻っていたのですから。
それでもペットに与えるには、豪華な衣食住が与えられたと言えるでしょう。
「いざという時に役に立たなければ意味がないからな。 もともと獣として生きていた君には過ぎた贅沢だろう感謝するといい」
触れることも近寄ることもない距離で彼は言う。
「これは君を守るためなんだ。 可愛い僕の獣。 愛しているよ」
彼は免罪符のように、そう呟く。
そんな上辺だけの甘い言葉に、私の心は揺れりしない。
「僕の愛おしい人」
塔に幽閉されて1年経った頃、彼は海の向こうから妻を迎える事になったと言う。
「私は妻を迎える事になったよ。 これは、貿易都市にとって必要不可欠な婚姻だ。 だから、許しておくれ、私が愛しているのは君だけだ」
「そう……おめでとうございます」
身体の多くを羽毛で覆われていても、一応女……ザレアが巨大な貿易先から妻を迎えた際には、毎日通ってきていたザレアの来訪は3日に1度となり、5日に1度となり、血を受け取る時だけ……10日に1度となり、そして花嫁を得て3カ月を過ぎた頃には、1日に1度欲する血は5粒に増えていた。
元々、不思議な力を持つ血、傷をつけても傷は直ぐに塞がってしまうのだから、5mm程度の血を5回ほど流したところで大きな負担はない。 だけど、塞がる傷だからといって痛くない訳ではない。 やがて渡す薬が血から生まれる赤い結晶と、涙から生まれる透明な結晶の2種類となった。
日々が過ぎれば、人が近づく事を許さなかった私の住まう塔の側まで人が訪れるようになっていた。
「若奥様のご実家の方々が到着してから、休む暇もないわ」
使用人達の愚痴が聞こえた。
「でも、うちの若様は凄いねぇ~。 怪我人を一瞬で治療させてしまう奇跡の宝石を生み出す事ができるんだから」
「魔物のケガレも、若様の力があれば一瞬で治ってしまう」
「若様がいる限り、私達は安泰だ。 忙しいのも若奥様のご実家の方々が落ち着くまでだろうから、皆頑張るんだよ」
何時からか、ザレアは聖人と呼ばれ、人々から敬われるようになっていたらしい。 彼の奇跡を受けようと、様々な地域から人が集まるのだと言う。
ザレアは、私の血と涙に救いを求める。
人々が聖人ザレアに救いを求める。
そして、救いを求める声が、日々大きさを増し、ザレアに求める要望も大きくなっていく。
「病を治してください」
「ケガを治してください」
「ケガレを治してください」
聖人として讃え崇められ、まるで人の世に降り立った神のように信仰を集めた彼は、とうとうこう求められたのだ。
「この都市へと向かってくる魔王をなんとかしろ!!」
そんな声が高まる中、ザレアは私にこう告げた。
「ラフィ」
「はい……」
「君のケガれた血に惑わされた結果、私は人々に追い立てられる事となった。 その罪の深さ、君は理解しているだろうか?」
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