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57.新しい生活 01
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ドーラが去った後、ラースが足音を忍ばせ部屋へと入ってくる。 シアが眠る布団の横に腰を下ろし胡坐をかき、そっと頬を触れて小さく声をかけた。
「起きているだろう?」
「分かった?」
シアはチラッと片目だけを開き、笑って見せる。
「そりゃぁ、まぁな」
今はまだ動かし辛い手でラースに抱き起して欲しいと腕を差し出せば、肩の部分をそっと押さえるようにしながら優しく言うのだ。
「寝てろ」
「なら、もふもふして」
「……」
ラースとしてはいい加減、モフモフ無しの触れ合いにも発展したいところだが、今は別のモフモフが出張って来るので油断が出来ない。
『ラースが嫌なら俺がもふられよう!!』
等とポジティブに獣生活をおくっている奴がいる以上、獣化するしかない。 ってか、本当はソロソロ人型になれるだろう……とか思っている。
不承不承獣姿になれば、ズリズリと身を寄せてくる。
「手、まだ良くならないのか?」
「ん~~、魂の方でやられているから……。 色々と思考錯誤して賢者仲間に回復してもらっているんだけど、こういう経験ってないらしくて難航しているの」
「ふぅん」
見た目には綺麗に治っているように見え、匂いを嗅ぎラースは腕や手を丁寧に舐め始めた。 クスクスと笑う声があるのだから感覚もあるのだろうと安堵する。
「くすぐったいよ」
「なら、退かしてみるといい。 力は入れてないぞ?」
指先を口の中に入れて、菓子を転がすように指先を舐めた。 ぴちゃりぴちゃりと舐める指先は、愛情表現の一つである事に気づいてくれているのだろうか? と、笑うシアにラースは心の中で溜息をついた。
「食べ物でも頼んでこようか?」
「別に腹が減っている訳じゃない」
「そう? うわぁ、手がべちゃべちゃだよ」
「悪い。 つい、美味しそうで」
「やっぱり、お腹が空いているんじゃない」
「違うよ」
「ねぇ、最近休めている?」
手をべちゃべちゃになるまで舐めたのは確かにラースだが、その手を毛皮で拭こうとするから、ラースは飛びのくようにその場を離れて濡れタオルを準備する。
「あ~~、人に戻ってる」
「戻らないと、タオルが絞れないだろう。 ほら、手を出せ」
腕に手のひらに、指の間まで丁寧にタオルで拭いた。
「こんな事、しなくても……」
そう遠慮がちにシアが告げるのは、このままいけば……ラースが未来の王だから。
「するさ、何を置いてもなぁ」
王になりたいかと言えば、別にそんな欲はない。 出来るならジルと旅した先をシアと共に旅をしたいぐらいに思っている。 だけど、シアは好きだ。 シアを手にするためには、王になるしかないと言うなら王になろう。
ラースがよしよしとシアの髪を撫でれば、それこそシアは猫のように目を細め身を任せてくる。 欲しい……。 誰かに譲れるはずなどない。
「ところで……何をしているんだ?」
ラースの指を口に含み、ガジガジと甘く噛み、そしてチュッと吸い上げ舌先で舐めてくる。 柔らかい舌がネットリとラースの指に絡みつけば、性的なものが刺激され……ラースは溜息をついた。
「どうしたの」
ペロリと濡れた指から、唾液を拭いとるように舌を動かす。
「果物でも食べるか?」
「……う~ん、一緒に食べてくれるなら」
「なら、食べようか?」
膝の上でシアを撫でながら、小さなフォークに刺した果物を口まで運べば、可愛らしい口が開けられ食べ物を放り込み。 ユックリと流れる時間。 シアの口元を濡らす甘い汁をラースは人型のままでペロリと舐めれば、シアはビックリしたように目を大きく見開いた。
「何時も、しているだろう?」
「人の姿では、余りしないわ」
「いや?」
「いやではないけど、変な気分……」
怯えているのが分かったから、そっと頬すり出来る高さまで持ち上げて、頬同士をすり合わせた。
「子守歌でも、歌うか?」
そう問いかければ、幼さの混ざる愛らしい微笑みを浮かべ、怯えが……消えた。
「うん」
切ない男心と言うべきか……溢れる欲情と言うべきか……それを、抑え込むように、シアを喜ばせるためだけに……ラースはもう一度獣の姿を取って歌いだす。
甘く優しい歌声に、外からよく似たランディの声が絡まってきて、シアは嬉しそうに微笑み、そのままユックリと眠りに落ちて行った。
「起きているだろう?」
「分かった?」
シアはチラッと片目だけを開き、笑って見せる。
「そりゃぁ、まぁな」
今はまだ動かし辛い手でラースに抱き起して欲しいと腕を差し出せば、肩の部分をそっと押さえるようにしながら優しく言うのだ。
「寝てろ」
「なら、もふもふして」
「……」
ラースとしてはいい加減、モフモフ無しの触れ合いにも発展したいところだが、今は別のモフモフが出張って来るので油断が出来ない。
『ラースが嫌なら俺がもふられよう!!』
等とポジティブに獣生活をおくっている奴がいる以上、獣化するしかない。 ってか、本当はソロソロ人型になれるだろう……とか思っている。
不承不承獣姿になれば、ズリズリと身を寄せてくる。
「手、まだ良くならないのか?」
「ん~~、魂の方でやられているから……。 色々と思考錯誤して賢者仲間に回復してもらっているんだけど、こういう経験ってないらしくて難航しているの」
「ふぅん」
見た目には綺麗に治っているように見え、匂いを嗅ぎラースは腕や手を丁寧に舐め始めた。 クスクスと笑う声があるのだから感覚もあるのだろうと安堵する。
「くすぐったいよ」
「なら、退かしてみるといい。 力は入れてないぞ?」
指先を口の中に入れて、菓子を転がすように指先を舐めた。 ぴちゃりぴちゃりと舐める指先は、愛情表現の一つである事に気づいてくれているのだろうか? と、笑うシアにラースは心の中で溜息をついた。
「食べ物でも頼んでこようか?」
「別に腹が減っている訳じゃない」
「そう? うわぁ、手がべちゃべちゃだよ」
「悪い。 つい、美味しそうで」
「やっぱり、お腹が空いているんじゃない」
「違うよ」
「ねぇ、最近休めている?」
手をべちゃべちゃになるまで舐めたのは確かにラースだが、その手を毛皮で拭こうとするから、ラースは飛びのくようにその場を離れて濡れタオルを準備する。
「あ~~、人に戻ってる」
「戻らないと、タオルが絞れないだろう。 ほら、手を出せ」
腕に手のひらに、指の間まで丁寧にタオルで拭いた。
「こんな事、しなくても……」
そう遠慮がちにシアが告げるのは、このままいけば……ラースが未来の王だから。
「するさ、何を置いてもなぁ」
王になりたいかと言えば、別にそんな欲はない。 出来るならジルと旅した先をシアと共に旅をしたいぐらいに思っている。 だけど、シアは好きだ。 シアを手にするためには、王になるしかないと言うなら王になろう。
ラースがよしよしとシアの髪を撫でれば、それこそシアは猫のように目を細め身を任せてくる。 欲しい……。 誰かに譲れるはずなどない。
「ところで……何をしているんだ?」
ラースの指を口に含み、ガジガジと甘く噛み、そしてチュッと吸い上げ舌先で舐めてくる。 柔らかい舌がネットリとラースの指に絡みつけば、性的なものが刺激され……ラースは溜息をついた。
「どうしたの」
ペロリと濡れた指から、唾液を拭いとるように舌を動かす。
「果物でも食べるか?」
「……う~ん、一緒に食べてくれるなら」
「なら、食べようか?」
膝の上でシアを撫でながら、小さなフォークに刺した果物を口まで運べば、可愛らしい口が開けられ食べ物を放り込み。 ユックリと流れる時間。 シアの口元を濡らす甘い汁をラースは人型のままでペロリと舐めれば、シアはビックリしたように目を大きく見開いた。
「何時も、しているだろう?」
「人の姿では、余りしないわ」
「いや?」
「いやではないけど、変な気分……」
怯えているのが分かったから、そっと頬すり出来る高さまで持ち上げて、頬同士をすり合わせた。
「子守歌でも、歌うか?」
そう問いかければ、幼さの混ざる愛らしい微笑みを浮かべ、怯えが……消えた。
「うん」
切ない男心と言うべきか……溢れる欲情と言うべきか……それを、抑え込むように、シアを喜ばせるためだけに……ラースはもう一度獣の姿を取って歌いだす。
甘く優しい歌声に、外からよく似たランディの声が絡まってきて、シアは嬉しそうに微笑み、そのままユックリと眠りに落ちて行った。
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AIイラストを、裏設定付きで『作品のオマケ』へと移動しました。キャラ紹介として、絵も増えています。お暇な方、AIイラストが苦手で無い方は、お立ち寄りくださるとうれしいです。
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