前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人

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 王の私室に早朝から集められヴィズとセグは少しばかり不機嫌で、アズは苦笑交じりにそんな2人の後をついて歩いていた。

「それで、どうされたのですか!」

 扉を開くと同時にヴィズが聞く。

 3人は、目の前にいる王とラースへと視線を巡らせ、そして二人はシーと口元に指をあて声を抑えるようにと告げる。 王は、人獣らしくなく襟元を緩めた長袖のシャツ、ズボン、ズボンと同布で作られたベストを着ている。

「いや……俺達を集めて静かにしろと言うのは、色々と違うんじゃありませんか?」

 それでも声を控えながらヴィズは言い、床の上に敷かれた豪華な絨毯の上にヴィズとセグは車座になるように腰を下ろした。 そしてアズはと言えば立ったまま、部屋へと視線を巡らせた。

「どうしたのですか? アズ義姉様」

 セグが声をかけると共に見上げた。

「いえ、お茶をお入れいたしますね」

 アズが言えば、何時もならそう声をかける王妃が居ない事に気づいた。 ヴィズとセグが考えるのは王妃の立ち入れない話なのかな? と、言う事。 それにしてはアズが呼ばれたのは奇妙だと思いながら2人は視線を王とラースへと向けるのだった。

 お茶が入る頃にはジルも訪れ、つい先ほどあった事がラースの口から語られた。

「それは……共感能力なのか? いや、操っていると言った方が正しくないか?」

 顔をしかめ厳しい声でヴィズが言う。

 ヴィズ自身はドーラとは余り面識は無い。 だが、アズとドーラとは友人関係にある。 それを考えれば……アズを……いや、王城の人間を殺しまくる事だって出来る。 ゾッとする話だった。

「ドロテアの力は、共感だよ。 同じ力を持つ僕が言うんだから確か……と言いたいんだけど、僕には人を操るなんて無理だよ」

 答えるのはセグ。 この中では最も共感力が高く、彼自身がそれを理解して自身の武器として使っている。

「なら、ドロテアの力はなんなんだ?!」

 そうヴィズは言いながら、人を操る事が出来ないと言う弟の言葉に安堵しながらも無意識に詰め寄り、セグは上体を反らし兄から逃げていた。

「アナタは感情的になるのをおやめになって方が良いですわ」

 お茶を配り歩いたトレイでヴィズの頭をベシッと叩くアズ。

「……悪い……」

「謝る先が違います」

「……セグ、済まなかった」

「いえ、良いですよ。 それだけ異常で恐ろしい事なのはわかりますから。 そうですねぇ……」

 セグがそう言葉にした途端、その場にいた全員が出されたお茶を手に取った。

「このように、お茶を飲もうと言う意志がある人間に、それを促す事は可能です」

 そして次に、王がベストのボタンを外しだした。

「今日は、朝から少し暑いので、上着を脱ぎたいと言う思いを力に乗せてみましたが、父上しか脱ぎませんでした。 ようするに普通は本人が望む行動に対して背中を押す事が出来る程度なんですよ。 あくまで共感ですから、そしてソレは強い感情を起因とするので、僕自身が望んでいない事を人にさせる事もできません」

 なら、どうして! そう問いかけようとしたラースの言葉を遮ってセグは言う。

「普通は」

「その普通は、何を示していますの? ドーラがシア様を殺したいと、そう考えていたとおっしゃるのですか?」

「心の奥底にそういう願望があるのかもしれませんね」

「まさか?! ドーラは何よりもシア様を大切に思っているのよ!! それにドーラがランディ様に対して好意を抱いていた等とは思えません」

 セグがアズの勢いに押される形で、真顔となり苦笑いを浮かべ……悪気の無い子供らしい様子で語りだす。

「そうですね……意地悪な事を言ってごめんなさい。 シア様を殺したいと言うだけなら、ドーラはソレほどまでシア様を独占したいと思っていたかもしれないと思ったんですけど。 ランディ兄さんを独占したいと言うのはありえませんからね」

「なら、どうしてドーラが」

 アズはヴィズとセグの間に身を置き、セグに向かい座り責めるように言えば、セグは子供らしい癇癪を表情に浮かべ、唇を噛み、だけど言葉は静かに抑えていた。

「全てが僕を、僕の想像を超えている。 普通、嫌っている人間に自分の感情を上書きする事なんて出来ない!! それに、おかしいんだ!! もしドーラの行動が共感によるものなら、ランディが何処にいるか、今シア様の側にいるのがラース兄様だと理解しているはずなんだよ!! こんなの……共感じゃない!!」

「だが、シアの泣き声にドーラはこたえていた。 アレはドーラだ」

 ラースが語れば、セグが腕を組み考え込む。

「本人が知らないだけで、ドロテアの共感力は僕よりも強い……僕ではランディ兄さんを起こす事は出来ませんし。 それに起きていても、獣状態の兄さんの意識を人のものとして固定するなんて出来ないと思うんです。 ずっと、力を使い続けていたドロテアは、自分の力を知らないままに、新たな段階に進んでいたのではないでしょうか?」

「あの……」

 シアが、王妃に寄り添われて隣の部屋から顔を出した。

 目が赤く、目の周りが腫れ、泣いていたのが一目でわかる。 決して人前に出られるような顏ではなかった。

「大丈夫ですか?」

 そう言った王は、おいでおいでと呼び寄せ膝に座らせた。

「ちょっ、俺の」

「俺の……何でしょう?」

 改めて考えてみれば、今のラースとシアは護衛と護衛される者で、それはドーラとシアの関係と変わらず。 ラースは唇を噛み、そして……獣の姿を取った。

「ほ~ら、シア、コッチに来い」

 尻尾を揺らし、耳をぴくぴく動かし、肉球をアピールしながらラースがシアを呼べば、ぼふっと倒れ込むようにラースに抱き着き、ラースは父親である王にニヤリと笑って見せる。

「ラース兄様……もっと、こう立場をですねぇ……まぁ、いいです。 ドロテアには、僕の部下をつけてあります。 報告を待って、」

 ラースの尻尾がピタンッと大きな音を立て、一旦セグは言葉を止め、そして……セグは言葉を続けた。 早く殺してしまいましょう。 と言う言葉を。 そして……セグは言い換えた。

「行動を開始しましょう」

「私は、仲間にドーラに起こった状況を聞いてみる」

 賢者となって英知の塔を離れた者達は、二度と塔に入る事は許されない。 その代わりに、賢者達は精神の間と呼ばれる魂の集会場が与えられている。

「王城にはヴィズとジルが待機。 ドロテア探しはラースとセグが中心となって行え」

 王は、そう命じて家族会議は終わった。



***************



「どういう事だ?」

 ドロテアに気に入られた男は、目の前で堂々と戦士達の前に立つ女性に目を丸くしていた。 ソレは昨日までのドロテアとは違う。 いや、ドロテアと彼は認識はしていた。

 だが……昨日までのドロテアがどんな姿をしていたのか思い出せないのだ。

 男は、彼が見るドロテアの姿に違和感を覚え、そして彼女から感じる匂いが変わった事に戸惑い……彼女に熱中する若い戦士、王家打倒を叫ぶ声に狂気を覚えるのだった。

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