33 / 60
33.二面性
しおりを挟む
ラースは、危険を伝える意図を持って叫んだ。
「シアに近づくな!!」
殺気を孕んだ声に、一般市民は驚いたようにラースへと視線を向け、アズとセリアはシアを守るように、シアを間に入れて背中合わせに周囲に警戒を向けた。
敵である存在は、分かりやすかった。 大勢の者がラースへと視線を向けている中、獲物であるシアだけを見ていたから。 そして、膝を曲げ肩幅を隠すような恰好に、ストールを被っているとは言え……視線さえ合ってしまえば、意識さえ向けてしまえば、外見も匂いも男のものだった。
1秒もあれば、ラースはシアに最も近い男に手が届いた。 そして掴みかかり……手に取り人混みの外へと放り投げ、もう一度叫ぶ。
「散ってくれ!! 邪魔だ!!」
ラースの大声に、女性達はシアの側から走り去ろうとした。 ソレに紛れ込むように戦士達は逃げはじめる。 膝を曲げた不格好な走りであっても、興奮し混乱した女達に遅れたりしない……そう思っていた。
が……女達のとった行動は誰もが予想していたものと違った。 獣の因子が少ないとはいえ、ギルモアの民は獣だ。 獣の勇敢さと団結力を持っている。
「武器よ!!」
「武器になるものを寄越しなさい!!」
木の棒が投げられる。
包丁が投げられる。
箒が投げられる。
椅子が投げ込まれた。
武器を取った女性達は戦おうとした。
「姫様を守れ!!」
「私達の町を守るのよ!!」
怒りに満ちた女達に追われ戦士達は、驚き、走り逃げだし始めた。 なんとなく……母親を彷彿としたから余計に。 そして、逃げる戦士達のその背に向かって石が投げられる。
ラースは叫ぶ。
「ヴィズ、セグ、2人はシアとアズを守れ。 セリアは馬車から馬を外して王城に救援を求めろ!!」
バラバラで逃げ出す年若い戦士達の中で、最も強い匂いをする者を狙ってラースは追う。見逃さないギリギリの距離を取りながら、やがてラースが狙っていた男を中心に幾人もの戦士が集まってくる。
丁度いいとラースはほくそ笑む。
隠れ家を探すのにちょうどいい……そう思っては居たが、辿り着いた先は国が出来る以前、定期的に彼等が居住していた場所だった。 懐かしいと言うには……家と呼ぶにもお粗末な残骸は青々と伸びる木々に壊され、草がシアを隠すほどの背丈まで伸びている。
5歳から13歳の間……点々と移動していた拠点の1つでしかない……それでも郷愁がわいた……。 彼等の気持ちは、理解できない訳じゃない……。
「だが、俺のシアを狙った事は許されん」
ラースは無意識で笑っていた。
久々の人型での戦いだと。
セグ(13)と、セリア(17)が所属している諜報部隊は、身体的に未完成とされる幼い子が多い。 人獣族は幼少期の成長は極端に早く、5歳から成長が遅くなる……気持ちに追いつかない成長に、結果に、気が逸る子は多い……。
戦争逃亡者。
栄誉の機会を捨てた者達。
王家に対する反逆。
保守的なかび臭い連中。
身の程知らずの化石達。
俺が、俺達が制裁を加えてやる。
ここで、力を見せつけるんだ!!
成果を!!
セグやセリアと違い、未だ戦場に出た事もない者達。 そんな者達を連れて行くことにセリアは不安を感じたが、途中で出会った王様が彼等で十分だと笑いながら言った。
鼻の利く諜報の男にだけ分かる匂いを彼等は辿っていく。
やがて男は、ヘラリと笑った。
血の匂いに興奮を覚えた。
獣の本能が高まっていく。
早く、早く、早く、早く……。
男の走りはどんどん速度を増していた。
だが……彼等が見たのは、ラースの笑みだった。
「あぁ、遅かったな……」
ラースの眼下には、十数体の死体が倒れていた。
だが、ラースは返り血一滴浴びる事なくたたずみ微笑む。
「一応3人生かしてある。 生きている奴は城に運んでくれ。 死んでいるのは、そうだなぁ樽を準備するといい。 首が入る大きさの奴。 落とした首を樽にしまい腐らないように塩漬けにし奴等の実家に贈ってくれ。 出来るか? 無理なら……無理でいい、俺がやろう」
冷ややかな見下しがそこにあった。
むせるような血の匂いに、若い戦士候補は酔っていた。
強さに対する畏怖と憧れに薄く笑っていた。
「か、身体はどうします?」
一人の少年が聞けば、ラースは少し考え愛おしい人を思い浮かべながら微笑み伝える。
「シアの目に届かないような場所に捨ててこい。 悲しむのは見たくない……できるか?」
「で、きます」
「助かる」
ラースは短くいい、大切な人の元へと戻るために走り出す。 そしてラースが戻った先ではドロテアが見ていた事が伝えられた。
ただ、向こうの戦力が分からない以上は、シアを放置し追う事が出来なかったと。
その会話は、シアには聞こえない馬車の外で行われた。
「勘違いしているならソレでいい。 ドロテアはランディが居なければ無力に近い。 彼女はランディを手に入れるために訪れる」
顔をしかめるヴィズ。
そして、ウットリ微笑むセグ。
「……兄さん……血の匂いがプンプンするよ」
セグはラースの服を掴み引き寄せ、背の高いラースを見上げ高揚した様を隠す事無く微笑んでいた。
「落ち着け、そんな顔をしていては何があったかと心配させる」
「良く言うよ」
ヴィズはそんな弟2人に顔をしかめて命じた。
「2人とも馬車に乗れ、帰るぞ!!」
「シアに近づくな!!」
殺気を孕んだ声に、一般市民は驚いたようにラースへと視線を向け、アズとセリアはシアを守るように、シアを間に入れて背中合わせに周囲に警戒を向けた。
敵である存在は、分かりやすかった。 大勢の者がラースへと視線を向けている中、獲物であるシアだけを見ていたから。 そして、膝を曲げ肩幅を隠すような恰好に、ストールを被っているとは言え……視線さえ合ってしまえば、意識さえ向けてしまえば、外見も匂いも男のものだった。
1秒もあれば、ラースはシアに最も近い男に手が届いた。 そして掴みかかり……手に取り人混みの外へと放り投げ、もう一度叫ぶ。
「散ってくれ!! 邪魔だ!!」
ラースの大声に、女性達はシアの側から走り去ろうとした。 ソレに紛れ込むように戦士達は逃げはじめる。 膝を曲げた不格好な走りであっても、興奮し混乱した女達に遅れたりしない……そう思っていた。
が……女達のとった行動は誰もが予想していたものと違った。 獣の因子が少ないとはいえ、ギルモアの民は獣だ。 獣の勇敢さと団結力を持っている。
「武器よ!!」
「武器になるものを寄越しなさい!!」
木の棒が投げられる。
包丁が投げられる。
箒が投げられる。
椅子が投げ込まれた。
武器を取った女性達は戦おうとした。
「姫様を守れ!!」
「私達の町を守るのよ!!」
怒りに満ちた女達に追われ戦士達は、驚き、走り逃げだし始めた。 なんとなく……母親を彷彿としたから余計に。 そして、逃げる戦士達のその背に向かって石が投げられる。
ラースは叫ぶ。
「ヴィズ、セグ、2人はシアとアズを守れ。 セリアは馬車から馬を外して王城に救援を求めろ!!」
バラバラで逃げ出す年若い戦士達の中で、最も強い匂いをする者を狙ってラースは追う。見逃さないギリギリの距離を取りながら、やがてラースが狙っていた男を中心に幾人もの戦士が集まってくる。
丁度いいとラースはほくそ笑む。
隠れ家を探すのにちょうどいい……そう思っては居たが、辿り着いた先は国が出来る以前、定期的に彼等が居住していた場所だった。 懐かしいと言うには……家と呼ぶにもお粗末な残骸は青々と伸びる木々に壊され、草がシアを隠すほどの背丈まで伸びている。
5歳から13歳の間……点々と移動していた拠点の1つでしかない……それでも郷愁がわいた……。 彼等の気持ちは、理解できない訳じゃない……。
「だが、俺のシアを狙った事は許されん」
ラースは無意識で笑っていた。
久々の人型での戦いだと。
セグ(13)と、セリア(17)が所属している諜報部隊は、身体的に未完成とされる幼い子が多い。 人獣族は幼少期の成長は極端に早く、5歳から成長が遅くなる……気持ちに追いつかない成長に、結果に、気が逸る子は多い……。
戦争逃亡者。
栄誉の機会を捨てた者達。
王家に対する反逆。
保守的なかび臭い連中。
身の程知らずの化石達。
俺が、俺達が制裁を加えてやる。
ここで、力を見せつけるんだ!!
成果を!!
セグやセリアと違い、未だ戦場に出た事もない者達。 そんな者達を連れて行くことにセリアは不安を感じたが、途中で出会った王様が彼等で十分だと笑いながら言った。
鼻の利く諜報の男にだけ分かる匂いを彼等は辿っていく。
やがて男は、ヘラリと笑った。
血の匂いに興奮を覚えた。
獣の本能が高まっていく。
早く、早く、早く、早く……。
男の走りはどんどん速度を増していた。
だが……彼等が見たのは、ラースの笑みだった。
「あぁ、遅かったな……」
ラースの眼下には、十数体の死体が倒れていた。
だが、ラースは返り血一滴浴びる事なくたたずみ微笑む。
「一応3人生かしてある。 生きている奴は城に運んでくれ。 死んでいるのは、そうだなぁ樽を準備するといい。 首が入る大きさの奴。 落とした首を樽にしまい腐らないように塩漬けにし奴等の実家に贈ってくれ。 出来るか? 無理なら……無理でいい、俺がやろう」
冷ややかな見下しがそこにあった。
むせるような血の匂いに、若い戦士候補は酔っていた。
強さに対する畏怖と憧れに薄く笑っていた。
「か、身体はどうします?」
一人の少年が聞けば、ラースは少し考え愛おしい人を思い浮かべながら微笑み伝える。
「シアの目に届かないような場所に捨ててこい。 悲しむのは見たくない……できるか?」
「で、きます」
「助かる」
ラースは短くいい、大切な人の元へと戻るために走り出す。 そしてラースが戻った先ではドロテアが見ていた事が伝えられた。
ただ、向こうの戦力が分からない以上は、シアを放置し追う事が出来なかったと。
その会話は、シアには聞こえない馬車の外で行われた。
「勘違いしているならソレでいい。 ドロテアはランディが居なければ無力に近い。 彼女はランディを手に入れるために訪れる」
顔をしかめるヴィズ。
そして、ウットリ微笑むセグ。
「……兄さん……血の匂いがプンプンするよ」
セグはラースの服を掴み引き寄せ、背の高いラースを見上げ高揚した様を隠す事無く微笑んでいた。
「落ち着け、そんな顔をしていては何があったかと心配させる」
「良く言うよ」
ヴィズはそんな弟2人に顔をしかめて命じた。
「2人とも馬車に乗れ、帰るぞ!!」
14
お気に入りに追加
2,351
あなたにおすすめの小説
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません
しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。
曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。
ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。
対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。
そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。
おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。
「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」
時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。
ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。
ゆっくり更新予定です(*´ω`*)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる