前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人

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28.第二王子の入れ替わり 03

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 全ては今の王様ギルが誕生した時にさかのぼるそうだ。

 王様も生まれた時は獣の部分を多く持ち、獣性に支配された癇癪を兼ね揃えていたと言う。 双子と言う相方が居なかった分、いっそう扱いは難しかったと言う話だった。

 恐怖に生きるための世話だけをする大人達。

 そして友人としての世話役はなかなか決まらなかった。 大人ですら恐れる者の面倒を子供が相手できる訳もなければ、我が子を犠牲にしようと言う親もいなかったのだ。

 そして候補となったのは従姉弟であった女性。

『あの子は乱暴者過ぎて、世話役に向きません!!』

「逃げるための言いわけ?」

「いや、本当に乱暴者だったらしい」

『ソレがちょうど良いのだ』

 獣性に支配される王様を、殴り合い、蹴りあい、つかみ合い、喧嘩し触れ合いながら、人としての教育がなされたのだと言う事だった。

「それで、恋に落ちるの?」

「両親と兄弟以外は、自分を獣だと恐れているからね。 人として見てくれたと言うだけで、それだけで好意に変わる。 シア、君も俺を人として見てくれただろう?」

「だって、ラースは出会った時には、恩人だったし……人だったわ」

 ラースは静かに微笑んだ。

「それだけで……単純な俺達は恋に落ちてしまうんだ」

「大変ね」

「そうだね。 俺は運が良かった」

 そう言ってラースは私の額にキスをしてきた。



 王様と王妃様の結婚は、双方の獣の血の濃さから王様の叔父にあたる男性に激しく反対された。 だけど……当時の猛々しい2人に他の誰かが現れるはずもなく……結局彼等は、周囲の反対を押し切ってツガイとなった。

 長男を得た。

 2人の血統を考えれば、残念だと皆が言う。

 双子が生まれ……双子の母は出産の際に亡くなった。

『だから、ダメだと言っていたのに!!』

 そう言って生まれたラースとランディは殺されかけ、王は2人を奪い返し……。

『殺すなら俺を殺すといい。 この子達は俺と妻の子だ。 アンタの孫なんだ!! もし、この子達に何かしてみろ、オマエを殺す』

 こう言ったらしい。



「オヤジは、結局、半分殺されたらしい」

 軽く言うラースに私は苦々しく笑って返した。

「でも、今、その話をするって言う事は、済んでいなかったんでしょう?」

「あぁ……俺は5歳には人の姿を取る事が出来るようになり、戦場に出るようになった。 一人残されたランディは、かなり荒れていたらしい……。 世話役だった者を何人も殺し……そしてドーラが選ばれた。 彼女はとても頑丈だからね」

 私は苦笑いをし、そして首を傾げた。

「ドロテアではないの?」

「最初はドーラだったんだ。 その強靭さゆえに世話役を担わされたドーラだったが、毎日のようにもう嫌だと嘆いていた。 ある日、ドロテアがこっそりドーラに変わって出向いたのだそうだ」

「ドロテアは弱いのに、なぜ生きていたの?」

「気が合った。 とでもいうのかなぁ? 獣としての意識の中、ドロテアだけがしっかりと見えていたんだ」

「見えていた?」

「そう、ランディから獣性を受け取った時に見たものは……最初こそ、俺の知るものだったのだけど」

 物心ついた時。

 彼等二人は自分達以外を雑音として認識していたらしい。
 闇の中で認識できたのは双子であるお互いだけ。

 だけれどラースは、日々のご飯を美味しいと思ったし、やってくる世話役の匂いが1人1人違う事に気づいた。 雑音だと思っていた音は、自分に話しかけていたのだと知ったのだそうだ。

「そしたら、世界が一気に広がったんだ。 だけど、ランディにはソレが出来なかった。 自分達以外が怖いのだと泣いていた。 大丈夫だと、俺も一緒にいるからと声をかけていたけど、全然聞いてもらえずに……俺達は何時の間にか違うものになっていったんだ」

「そっか……ランディは私と一緒だったんだね」

 だから、ラースは私の特別になってくれた。 特別になるだろう選択を選んでくれたのか……そう思えば、少し、ほんの少し切なくて……ほんの少しだけランディに同情してしまった。

「ドロテアは……ランディを恐れてはいなかった。 それが、大きかったのかもしれない。 獣性がほぼない中で、家族からは弱者として扱われドーラのように期待を向けられる事がない生活をおくっていた」

「でも、あの家族は……差別をするようには見えないわ」

「与える側と受け取る側の認識が、何時だって一緒な訳ではないだろう? 家族は弱いドロテアに色々と手をかけて、強いドーラに期待をかけた。 そこに認識のズレがあったのかもしれない」

「そういうものなのね……」

「そういうものだよ……。ドロテアはドーラの嫌がり逃げ出したがっている事を成し得たかったのかもしれない」

 ランディは怯えないドロテアの強い希望野望や情熱を、とても暖かい熱として感知し懐いた。 だからと言って、亡くなった母のように全力でランディと向かい合う事が出来る訳でもない。 ただ、話しかけるだけ。

 ドロテア相手には暴れないと言うだけで、ランディは3年4年と月日が経っても獣のままだった。

「地道にやっていれば、時間はかかっても何時かは人になれただろうと、俺は思っていたんだが……ドロテアはそうは思わなかったらしい。 獣のままのランディに、獣として扱いながら人であることを要求し続けたんだ。 ランディは、なぜドロテアは急に怒り出したのだろう? と、タダ悲しみ……。 誰かがイジメたのかと彼女の身近な人を襲おうとしたんだ」

「襲うのは結局、耐える事はできたの?」

「ドロテアが慌てて止めた。 暴れ出した事に焦ったのか……ドロテアは、俺の母方の祖父にそそのかされたんだ」

「ランディを人にしてやるって?」

「そう、母方の祖父は先々代の王の弟だ。 儀式の広場の存在も使い方も知っている人物だったからな。 そして、叔父とドロテアはランディを人に、俺を獣に変えた」

 人の姿をした獣。
 獣の器に囚われ精神も獣に堕とされた人。

 状況の理解も追いつかず、暴れる双子をその身体を使って抑える王様。

「オマエも子供を失う苦しみを味わうといい。 そう言って嘲笑ったそうだ。 オヤジに噛みつき、ひっかき、暴れる俺達を必死に抑えるオヤジにだ!!」

「……それで、その人は?」

「殺されたよ。 慌てて駆け付けたジルに……」
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