前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人

文字の大きさ
上 下
24 / 60

24.獣性 01

しおりを挟む
「哀れな子だと思っていたが……。 私が思っていた以上に……オマエは可哀そうな子だったようだね」

 王は静かにランディに向かっていい、深い溜息をついた。

 廊下からは床を踏む足音が数人分。
 ラースが前足で扉を開き、シアとアズそしてヴィズを出迎えた。

「お夜食持ってきました~」

 英知の塔で学んだ料理は多い。
 シンプルな親子丼に漬物と汁物付き。
 醤油と言うものは存在していないから、全て塩で代用している。

 視線が自分に集まるのを見て、シアは首を傾げる。

 思った以上に静かだし?

「どうか、されたのですか?」

「天使殿。 食事の後でいいので、少し手伝って頂きたい事があるのですがよろしいでしょうか?」

「どんな事ですか?」

 そう言いながらシアは、チラリと僅かな間だけランディへと視線を向けた。

 ランディがシアの言う事を優先して聞くと言う事で、ドロテアが消えたあの時から王様が訪れるまでの時間シアに預けられていたのだ。

 ドロテアの言う事は絶対で一番大切だと言う人が安全と言い切れるはずもなく、私の安全を守るためにラースが側にいたのだけど……数時間の間に2人が取っ組み合い、殺し合うのかと私を心配させたのは片手では済まない。

 用心深く問えば、王様はクスッと笑う。

「本当に大変だったんですからね!!」

「申し訳なかった。 信用できる人員が足りなかったんですよ」

 おいでと私に両手を向ける。

「子供じゃないのよ」

「私にすれば、まだまだ子供ですよ」

 そう言って膝の上に私を乗せるのだ。

 親と言うものを知らない私には……少しだけ……捨てがたい関係で……私は結局お願いを聞いてしまう。 そんな自分を思えばドロテアのお願いを聞いてしまうランディに同情を覚えるかと思えば、彼の父親は王様だし、母親は亡くなっているが、お爺様、お婆様、兄弟に、叔父、叔母もいるし……何より力もあってその力に周囲が膝をつくような環境に居たのだと思えば、同情する気にはなれない。

 だからと言って、ドロテアに返せば王位を奪うための旗頭と使われてしまう。 いっそ、他国に預けるのはどうだろうか? そんな事を考えながら私は王様に聞いた。

「それで」

「本来ならば、数十年の時をかけ魔力を集めて使う人獣だけの魔法があるんです」

「珍しいですね。 人獣の魔法だなんて」

「獣性に関わる魔法は、幾つか存在していますよ」

 ランディの表情が凍り付き逃げだそうとした。

 今まで、逃げる機会はいくらでもあったのに、なぜ、今?

 素早くラースが道を塞ぎジルが取り押さえ……そして王様は言うのだ。

「ヴィズ、儀式の準備をしておいてください」

「わかり……ました……」

 そう答えるヴィズもまた、顔色が悪かった。

 王族の中で力が劣ると言われるヴィズにとって、ドロテアと言う人間さえ抜きにすればランディは都合の良い人間だった。 ギルモアの戦士達には戦略等と言う言葉は存在しない。 いや時に人権すら与えられずヴィズは幾度となく惨めな思いをしてきた。

 ランディはそんなヴィズを良く助けてくれた。 本人に助けようと言う意識は無かったかもしれないが、だからこそ押しつけがましくも無く、助けられていた。

 ランディが居なくなれば……俺はどうなる。

 トンッと立ち止まる背中が押され、ヴィズは振り返る。
 ヴィズが見たのは満面の笑みをしたアズだった。

 彼女は優しい微笑みを湛えて言うのだ。

「また、余計な事を考えていらっしゃるのでしょう? 先ほども調理場で申しましたが、いざとなれば私が養って差し上げますよ。 ですからシア様から美味しいご飯の作り方を沢山覚えて下さいね」

 ははははは……ヴィズは情けなく笑う。





 人獣の関係性を決めるのはその身の内に潜む獣性にある。

 獣性が強いほど力が強くなるが、理性が欠けると言われている。 その獣性の操作が最も強いとされるが、現王の一族らしい。

 逆に庶民とされる者達の獣性は弱く、それはただ人と変わらない。

 人と変わらないが獣性の器は存在しており、そこに限界の獣性を注いでやれば、人は理性を失った獣へと変質し、死ぬまで暴れ続けるため、時折不死の戦士として戦争で使われる。

 ちなみに獣性の器は物理的に存在しており、死者から奪い。 麻薬代わりに使われる事もあるそうだ。

 そんな獣性を自らの力で操作し、理性で押さえる事ができるから、王は王なのだと言う。 そして耳と尻尾が露わになっているジルは王ではないのだそうだ。



しおりを挟む
AIイラストを、裏設定付きで『作品のオマケ』へと移動しました。キャラ紹介として、絵も増えています。お暇な方、AIイラストが苦手で無い方は、お立ち寄りくださるとうれしいです。
感想 198

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

処理中です...