前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人

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11.獣の国の三兄弟 02

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 王は、席についた息子達に穏やかに告げる。

「緊迫する状況下、呼び出してしまい申し訳なかった」

 言葉とは裏腹に、瞳には鋭さと、口元には皮肉的な笑みを浮かべ王は周囲を見回せば、長男ヴィズはうつむいた。

 長男ヴィズは居心地の悪さに視線をそらした。 獣としての負けである。

「優秀な部下がおりますので、問題はないでしょう。 ですが戦場は色々と大変なんですよ。人としての暮らしをする事で、他国の者達と比べ弱体化しているのでは? とかね。 色々と不安の声も上がっていて、早急な対処が必要と言われているんです。 どう、お考えでしょうか?」

「そう……その割にランディ一人戻す事が出来なかったようだが?」

 言えばランディを除く戦場帰りの二人の兄弟、三男の婚約者、ドロテアが、僅かに顔を歪めた。

「オレの力不足だ……戦況の悪化を招いてしまった。 大切な日に戻ってこられなかったのは悪いとは思っている」

「おや、ドロテアがケガをしたのでは?」

 周囲の者達が視線をそらし、ランディは一人王と相対していた。

「まさか、オレがドロテアにケガをさせる訳がないだろう?」

「ですよね……」

 視線を落とした王の口元だけが、微かに笑っているのに全員が息を飲んでいた。

「それよりも……こんな生活をしていて、獣としての性分を忘れる危険性をですねぇ~」

 フォークで行儀悪くカンカンと皿を叩きながら言い、フォークを放り出し、肉を手で食べ始める長男。 これでも、三兄弟の中では戦闘は劣るが知的と言われているのだから……王は溜息しか零せない。

「ヴィズ、オマエがそうしたいのなら。 そうするといい」

 そう言ったかと思うと、ヴィズに向かって王はフォークを投げた。 視線で追う事の出来なかったソレは彼の長い髪をかすり切り落とし、そして……柔軟な金属音と石が砕ける音と共に壁に突き刺さった。

「そこはだね。 今までのような肉体同士のぶつかり合いではなく、人の戦い方を取り入れていくのはどうだろうか? と、天使殿と話していたのですよ」

 隣に座る王妃は、給仕の者にフォークを手配し、そして王妃自身が王にフォークを手渡した。

「ありがとう」

 王は皿に取った肉をきれいにナイフで切り分け口に運ぶ。 たった6年前まで野生の生き物だった彼等は、焼いた肉は手にとりそのまま口に運んでいた。 それでもナイフを手に取った王の動作が無駄のない美しさを備えた動作だと言うことぐらいわかる。

 彼等の牙は鋭い。
 彼等の動きは速い。
 彼等の力は強い。

 だが、それら力のすべてを用いれば、フォークですら牙よりも、爪よりも、早く敵に届くだろう。

 戦場から引退して10年、王が穏やかに話すようになって6年。 落ちぶれたと噂するものもいるが、常に先を見据えたその考えに、兄弟たちは益々の強さを感じ取っていた。

『今戦ったら勝てるか?』

 それを想像すれば、ゾワリと背中が寒くなった三兄弟の表情は消えていた。 それが彼等の野性的本能なのだ。

「人間の生活からでも、私達は多くのことを学ぶことができるでしょう」

 そもそも彼等は戦闘脳である。
 そして、ヤルと決めたらルール無用で目的を達成する。
 本来なら、知識は……生活の変化は、そのまま力になるはずだと言うのが……シアの意見であり、王はソレを実践し彼等に見せたのだ。

「人間の意見など馬鹿馬鹿しい、彼等が僕たちに勝ったことがあると言うのですか!!」

 三男が不機嫌そうに言った。 それもまた、僕を否定しないで、と言う三男故の甘えで……王妃へとチラチラと視線を送り、擁護を求めていた。

 だが、王妃は食事に集中し応じる事はなく、王はセグの意見を無視して話を進めた。

「天使殿が言うには、人間が人獣に勝てる方法はある。 ただ、彼等はその方法に行きつかないだけ。 コダワリと言うのは可能性を途絶えさせ、それが人間の限界を作り上げているのだと言っていました。 人間との共存を受け入れた我々なら新しい力を手に入れる事も可能だろうと」

「父上!」

 次男ランディが声を上げる。
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