11 / 60
11.獣の国の三兄弟 02
しおりを挟む
王は、席についた息子達に穏やかに告げる。
「緊迫する状況下、呼び出してしまい申し訳なかった」
言葉とは裏腹に、瞳には鋭さと、口元には皮肉的な笑みを浮かべ王は周囲を見回せば、長男ヴィズはうつむいた。
長男ヴィズは居心地の悪さに視線をそらした。 獣としての負けである。
「優秀な部下がおりますので、問題はないでしょう。 ですが戦場は色々と大変なんですよ。人としての暮らしをする事で、他国の者達と比べ弱体化しているのでは? とかね。 色々と不安の声も上がっていて、早急な対処が必要と言われているんです。 どう、お考えでしょうか?」
「そう……その割にランディ一人戻す事が出来なかったようだが?」
言えばランディを除く戦場帰りの二人の兄弟、三男の婚約者、ドロテアが、僅かに顔を歪めた。
「オレの力不足だ……戦況の悪化を招いてしまった。 大切な日に戻ってこられなかったのは悪いとは思っている」
「おや、ドロテアがケガをしたのでは?」
周囲の者達が視線をそらし、ランディは一人王と相対していた。
「まさか、オレがドロテアにケガをさせる訳がないだろう?」
「ですよね……」
視線を落とした王の口元だけが、微かに笑っているのに全員が息を飲んでいた。
「それよりも……こんな生活をしていて、獣としての性分を忘れる危険性をですねぇ~」
フォークで行儀悪くカンカンと皿を叩きながら言い、フォークを放り出し、肉を手で食べ始める長男。 これでも、三兄弟の中では戦闘は劣るが知的と言われているのだから……王は溜息しか零せない。
「ヴィズ、オマエがそうしたいのなら。 そうするといい」
そう言ったかと思うと、ヴィズに向かって王はフォークを投げた。 視線で追う事の出来なかったソレは彼の長い髪をかすり切り落とし、そして……柔軟な金属音と石が砕ける音と共に壁に突き刺さった。
「そこはだね。 今までのような肉体同士のぶつかり合いではなく、人の戦い方を取り入れていくのはどうだろうか? と、天使殿と話していたのですよ」
隣に座る王妃は、給仕の者にフォークを手配し、そして王妃自身が王にフォークを手渡した。
「ありがとう」
王は皿に取った肉をきれいにナイフで切り分け口に運ぶ。 たった6年前まで野生の生き物だった彼等は、焼いた肉は手にとりそのまま口に運んでいた。 それでもナイフを手に取った王の動作が無駄のない美しさを備えた動作だと言うことぐらいわかる。
彼等の牙は鋭い。
彼等の動きは速い。
彼等の力は強い。
だが、それら力のすべてを用いれば、フォークですら牙よりも、爪よりも、早く敵に届くだろう。
戦場から引退して10年、王が穏やかに話すようになって6年。 落ちぶれたと噂するものもいるが、常に先を見据えたその考えに、兄弟たちは益々の強さを感じ取っていた。
『今戦ったら勝てるか?』
それを想像すれば、ゾワリと背中が寒くなった三兄弟の表情は消えていた。 それが彼等の野性的本能なのだ。
「人間の生活からでも、私達は多くのことを学ぶことができるでしょう」
そもそも彼等は戦闘脳である。
そして、ヤルと決めたらルール無用で目的を達成する。
本来なら、知識は……生活の変化は、そのまま力になるはずだと言うのが……シアの意見であり、王はソレを実践し彼等に見せたのだ。
「人間の意見など馬鹿馬鹿しい、彼等が僕たちに勝ったことがあると言うのですか!!」
三男が不機嫌そうに言った。 それもまた、僕を否定しないで、と言う三男故の甘えで……王妃へとチラチラと視線を送り、擁護を求めていた。
だが、王妃は食事に集中し応じる事はなく、王はセグの意見を無視して話を進めた。
「天使殿が言うには、人間が人獣に勝てる方法はある。 ただ、彼等はその方法に行きつかないだけ。 コダワリと言うのは可能性を途絶えさせ、それが人間の限界を作り上げているのだと言っていました。 人間との共存を受け入れた我々なら新しい力を手に入れる事も可能だろうと」
「父上!」
次男ランディが声を上げる。
「緊迫する状況下、呼び出してしまい申し訳なかった」
言葉とは裏腹に、瞳には鋭さと、口元には皮肉的な笑みを浮かべ王は周囲を見回せば、長男ヴィズはうつむいた。
長男ヴィズは居心地の悪さに視線をそらした。 獣としての負けである。
「優秀な部下がおりますので、問題はないでしょう。 ですが戦場は色々と大変なんですよ。人としての暮らしをする事で、他国の者達と比べ弱体化しているのでは? とかね。 色々と不安の声も上がっていて、早急な対処が必要と言われているんです。 どう、お考えでしょうか?」
「そう……その割にランディ一人戻す事が出来なかったようだが?」
言えばランディを除く戦場帰りの二人の兄弟、三男の婚約者、ドロテアが、僅かに顔を歪めた。
「オレの力不足だ……戦況の悪化を招いてしまった。 大切な日に戻ってこられなかったのは悪いとは思っている」
「おや、ドロテアがケガをしたのでは?」
周囲の者達が視線をそらし、ランディは一人王と相対していた。
「まさか、オレがドロテアにケガをさせる訳がないだろう?」
「ですよね……」
視線を落とした王の口元だけが、微かに笑っているのに全員が息を飲んでいた。
「それよりも……こんな生活をしていて、獣としての性分を忘れる危険性をですねぇ~」
フォークで行儀悪くカンカンと皿を叩きながら言い、フォークを放り出し、肉を手で食べ始める長男。 これでも、三兄弟の中では戦闘は劣るが知的と言われているのだから……王は溜息しか零せない。
「ヴィズ、オマエがそうしたいのなら。 そうするといい」
そう言ったかと思うと、ヴィズに向かって王はフォークを投げた。 視線で追う事の出来なかったソレは彼の長い髪をかすり切り落とし、そして……柔軟な金属音と石が砕ける音と共に壁に突き刺さった。
「そこはだね。 今までのような肉体同士のぶつかり合いではなく、人の戦い方を取り入れていくのはどうだろうか? と、天使殿と話していたのですよ」
隣に座る王妃は、給仕の者にフォークを手配し、そして王妃自身が王にフォークを手渡した。
「ありがとう」
王は皿に取った肉をきれいにナイフで切り分け口に運ぶ。 たった6年前まで野生の生き物だった彼等は、焼いた肉は手にとりそのまま口に運んでいた。 それでもナイフを手に取った王の動作が無駄のない美しさを備えた動作だと言うことぐらいわかる。
彼等の牙は鋭い。
彼等の動きは速い。
彼等の力は強い。
だが、それら力のすべてを用いれば、フォークですら牙よりも、爪よりも、早く敵に届くだろう。
戦場から引退して10年、王が穏やかに話すようになって6年。 落ちぶれたと噂するものもいるが、常に先を見据えたその考えに、兄弟たちは益々の強さを感じ取っていた。
『今戦ったら勝てるか?』
それを想像すれば、ゾワリと背中が寒くなった三兄弟の表情は消えていた。 それが彼等の野性的本能なのだ。
「人間の生活からでも、私達は多くのことを学ぶことができるでしょう」
そもそも彼等は戦闘脳である。
そして、ヤルと決めたらルール無用で目的を達成する。
本来なら、知識は……生活の変化は、そのまま力になるはずだと言うのが……シアの意見であり、王はソレを実践し彼等に見せたのだ。
「人間の意見など馬鹿馬鹿しい、彼等が僕たちに勝ったことがあると言うのですか!!」
三男が不機嫌そうに言った。 それもまた、僕を否定しないで、と言う三男故の甘えで……王妃へとチラチラと視線を送り、擁護を求めていた。
だが、王妃は食事に集中し応じる事はなく、王はセグの意見を無視して話を進めた。
「天使殿が言うには、人間が人獣に勝てる方法はある。 ただ、彼等はその方法に行きつかないだけ。 コダワリと言うのは可能性を途絶えさせ、それが人間の限界を作り上げているのだと言っていました。 人間との共存を受け入れた我々なら新しい力を手に入れる事も可能だろうと」
「父上!」
次男ランディが声を上げる。
18
お気に入りに追加
2,351
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる