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08.アナタとの結婚はありえません 勘違い男の現実(★ 後半部分)

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 全く手入れのなされていない鬱蒼とした敷地。 アッペル伯爵家の経済は困窮し、今ではフレッグとその運命の恋人アマンダとその家族以外の人は住んでいない。

 元は愛人たちが集い、先を争いながら人材、物資、金品を愛人たちが貢ぎに来て、賑やかで華々しかったアッペル伯爵家の屋敷は見る影もなく荒れ果てていた。

「これでいいのです」

 前当主であるヨハンは呟き、華やかな屋敷の面影を失った廃屋のような建物の玄関を打ち鳴らした。

「久しぶりです。 今日は話があってよらせていただきました」

 ヨハンの言葉に、フレッグは沈黙を通したもののその顔には分かりやすく、不愉快と書かれていた。



 ヨハンは、明かりも満足に灯さない埃っぽい部屋で、フレッグとシャルの間には何の関係も結ばれていないことを説明した。 同じ内容をフレッグが理解できるまで、ヨハンは言葉を選び、伝え方を選び説明し続けた。 それはとても気の長い作業で、身内だからできる事と言えるだろう。

「ですが!! 陛下がおっしゃったのですよ! 妻に迎えよと」

「だからソレは、オマエが頭を下げ、彼女に奉仕し、妻として迎え入れ、王国に富をもたらすように支えるようにと、お命じになられたのですよ」

 これも何度目でしょうね……ヨハンは薄暗い光に苦笑を隠した。

「でも!! 陛下は迎えよと言われたきり、何も言われなかった!! むしろアマンダとの生活を幸せか? 不自由はさせていないか? そう問われていたぐらいだ」

「それは、本当にアマンダに対する問いかけなのですか?」

「ぇ? ですが、結婚式をあげていないことを、陛下は何もおっしゃらなかった」

「それこそ、平民に挙式費用を払わせ、平民の生まれである娘を貴族に晒さない事は、彼女のためだと思われたのではありませんか? それに……陛下も平民の結婚式に出席なさると言うのは、なさりたいとは思われないでしょうから……」

 綺麗ごと大好きな言葉の裏などそういうもの。

「では、顔を合わせるたびに聞いていた、彼女の安否、幸福とは……」

「アマンダではなく、我が主であるシャル様との関係性を問われていたのでしょう。 陛下はそういう方ですよ。 言葉と身体を尽くして女性を魅了し、王家に優位をもたらせと考えられていても、決してソレをそのまま言葉になさいません。 王としての品位を大切になさり、遠まわしにこうしてはどうだろうか? と分かりにくい言葉で伝えられてくるのです」

「陛下は下賤の者を私に押し付けた事を、申し訳なく思われ、私とアマンダに気を使い優しい言葉をかけてくださっていたのではないのですか?」

 幾度かのかみ合わない会話を交わし、ヨハンは溜息と共にフレッグに問う。

「オマエの妻となるように話をつけてきた、下賤の者ではあるが才覚ある人材、正妻として迎え入れ、貴族としての名声をえれば、あの薄汚い錬金術師達も働きやすいだろう。 運命の恋人を持つオマエには苦労をかけるが、これも国のため耐え忍んでくれ。 そう言われていると思ったのですか?!」

 フレッグがコクリと大きく頷けば、ヨハンは再び大きな溜息をついた。

「王自らが、そのようなことに尽力するわけなどないでしょう? あの方は綺麗な言葉で自らの品位を保ち、人格を保ち、尊敬を獲得しながら、周囲が配慮し希望通り動いてくれることを待つだけですよ」

「そんなバカな……」

「陛下は……この国で一番偉い方です。 フレッグ、オマエのために労力を払うと言う方ではありませんよ」

「では、では、陛下の言葉を取り違えていた僕は……どうなるのですか……」

「陛下の義兄として、陛下を裏切ってしまった私は全てを奪われました」

 静かにヨハンはソレだけを告げた。

 フレッグは元から悪い顔色を一層悪くしながら、バタバタと着替えはじめた。

「何をするつもりですか」

「誤解を告げ、謝罪し、結婚を求める!!」

「お辞めなさい、見苦しい」

「ですが、このままでは僕はすべてを失うのでしょう。 父様が全てを失った日、母様は別の男の妻となった。 僕も、このままではアマンダを奪われてしまうと言うことでしょう!! アマンダを失わないためにも、あの下賤の者を組み敷かなければ……」

 ブツブツとフレッグは呟き目を充血させながら、身支度をする。

 ヨハンは心の中で深く謝罪した。

 我が息子は、状況を理解してはくれないようです。 お手数をおかけしますが、身の程を知らしめてやってください。



 フレッグは彼の持つ中で、一番高価で美しい服を着た。 食べるモノに困っても、アマンダが王子様の愛馬だからと言って手離すことを嫌がった白馬にまたがった。 プロポーズを行う時は、贈り物をするものだが……そんなものを準備する時間も金もない。

 僕自身が美しくて最も高価な贈り物になるだろう。 なんて、素敵な考えだ、彼女も喜んでくれるはずだ。 そう思った……。



 だけど……。



 シャルが住まいとする屋敷に辿り着き、彼を待ち受けていたのは、体躯の良い獣人男との情事。

 僕と言うものがありながら!! そんな腹立たしさを覚える余地など無かった。
 
 肉の塊とフレッグが野次った身体は、母性そのものだった。 まるで生母のような懐の深さをもって男を抱き抱き、その乳房を男に揉みしだかれ、甘くネットリと舐められ、乳首を美味しそうに吸われていた。

 甘い声が慈悲深く獣人男に愛を囁いていた。

「愛しい人、大好きよ」

 甘い甘い女の声にこたえるように、獣人男はうすら笑いを浮かべ、執拗に舐め吸い上げている。 固くなった乳首が赤い果実のように見え欲情した。

 フレッグが肉の塊と罵った身体は、エロスそのものだった。 与えられる快楽に反応し、熱を蓄え甘い朱色に肌を染め、汗をかく。  滲む汗、両足の間から太ももを流れる蜜を、獣人男は美味しそうになめ、両足の間に顔を埋め、ピチャピチャと音を立て舐めていた。 彼女の身体は嬉しそうに震え男に訴える。

「お願い、私の中にあなたのそそり立ったものを入れて」

「入れるだけでいいのか?」

 顔を上げた獣人男は女の耳もとに囁けば、少し拗ねた様子で女は耳にささやき返していた。

 フレッグは2人の行為に息を飲む。

 激しく体の奥深くを突かれ、規則正しい喘ぎと、甘い嬌声を繰り返し、愛を語り、愛を求め、甘い甘い声で2人は囁き求め合っていた。

 どこまでもフレッグの存在を無視して……。
 そこにいるのに、存在を許されなかった。
 フレッグは、その様子に射精していた。

 それは、何度も何度も抱いたアマンダとの行為よりも、見ているだけで欲情にたけり、そして絶望に震えたのだ。



 その日を境にフレッグは消えた。 彼と共に絶望の表情を浮かべ、情事を見つめていたネコ科の女獣人と共に……。



 時はシャルとヴィーゲルトがヨハンと別れて少したった頃に戻る。
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