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30.対面も叶わぬ相手の妻を望む妹
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『それは、大げさだと思いますわ。 ただ、血をお分けしただけですし』
人間の体液には魔力が宿ります。 では、その魔力は何処からくるか? と言いますと、それは分かっていません。
昔、私が塔に売られる以前、現公爵様は今のエミリーと同じように魔力が弱かったのです。 健康を気遣い、身体を鍛えていらしたそうですが、それで辿り着けるのはどこまでも人としての限界、それ以上を得ようとすれば魔力が必要となり、公爵家次期当主としては頼りない、足りないと言われるような方だったそうです。
この国の血、血統と言うものは、基本男系因子から引き継がれるのが一般的、例え現公爵の魔力が弱く、その妹君が化け物じみた魔力を持っていたとしても、当主となるのは男性である現公爵。 というような仕組みなのです。
現公爵が公爵であることはゆるぎないものではありましたが、身体に濃い魔力を宿す私の血をもって、公爵の魔力の泉を刺激すると言う方法が考えられたのです。
井戸から水を出すのに呼び水が必要となる事がある。 それと少しばかり似ています。 方法とすれば私の血を公爵様が接種すれば終わり。 そしてそれは成功し、公爵様は今の公爵様となられたのです。
「ぁ」
『どうした?』
「どうなさいました?」
「いえ……、エミリー様……」
私は、公爵が魔力を得た時の話をエミリーにしました。
「アナタも、私の血が欲しいと思いますか? 私の魔力はフリーダ様のものよりも、何倍も濃い魔力を含んでおりますよ?」
「ぁ……」
エミリーの喉がなり、唾を飲み込む様子が見えました……。
「な、何をおっしゃっておりますの、こんな時に……」
「いえ、ふと……公爵様を思い出し、そして思い至っただけですわ」
既に公爵家の門が見えている。
門をくぐってからも屋敷まで距離はありますが、それでもこの話はここまでとするべきでしょう。そして、私達は、公爵様との面会を待ち可愛らしい応接室へと通された。
正直、居心地が悪い……。
エミリーは喜んでいますけどね。 私も、嫌いではありません、白いレースに淡い色合いの花、好きと似合うは別物なんですよね。
『どうした? 眉間が寄ってるぞ』
『いえ、ずいぶんと可愛らしいお部屋だなと思いまして』
『好きだろう?』
『好きですねぇ……』
情報源はルークのようだ。
だからと言って……、豪華なビロードと黄金で彩られた部屋へ案内されるのも、自然が美しい木々の色をそのままに使った家具をあしらった部屋であっても、私に似合うはずもありませんからね。
自覚しているんです。 私が似合うのはこう悪い人間が悪だくみをしていそうな、血の似合う黒ベースの部屋とかだと……。 そんな部屋に通されればより憂鬱だろうと考えてしまう。
卑屈になってる……。
引きこもりが来るところではありませんわ。
一人ウツウツとしていれば、目の前にエミリーの手が延ばされていた。
「何をしておりますの?」
エミリー私の前に置かれた菓子を慌てて自分の口に放り込み、ごほげほと喉に詰まらせ、次は私の前にあるカップに手を伸ばしたのです。 流石に喉に詰まってピンチなようだったので、私は溜息と共に茶を譲ったわけです。
ふぅと息をつきエミリーが発した言葉は、
「お姉様のカップの方が豪華で、菓子も良いものが準備されています! 不公平ですわ!! 私とお姉様は、二人ともノルダン伯爵家の娘。 どちらも公爵の妻候補ですのに」
「エミリー様は、公爵様の妻になるつもりでしたの?」
「何度も言っているじゃないですか、フィーアお姉様は公爵のお子を産む役目を受け持ち、その他は私が引き受ける。 お姉様は魔術師に堕ちた半端者、私こそが公爵様に相応しい相手ですの。 ただ、私達は運命のいたずらで……いいえ、お姉様が公爵様に血を捧げた事で、私とツガウ事が出来なくなった。 全てがお姉様の責任なのですから、お姉様は責任をとって私と公爵様のために子を産めばいいのよ」
そういいながら、自分の前に置かれた菓子も食べ始めるから、呆れた視線で眺めてしまったわけです。
「そんなもの欲しそうな目で、行儀が悪いですわよお姉様。 仕方がありませんわ。 私のお茶を分けてさしあげますわ」
「祖母様が見ればお嘆きになられますわよ……」
「そんなもの、公爵様の妻となってしまえば、私がルールですもの。 問題ありませんわ」
お茶が行儀悪くテーブルの上を押され移動してくる。
私は、溜息と共にお茶を口にした。
『フィーア!! 辞めるんだ!! お茶なら新しいものを出してもらえ』
そう言われた時には、カップに唇はついており、水面ギリギリに唇を放した。
「お姉様、どうかなさいましたの?」
「いえ、公爵様がいらっしゃるわ」
エミリーは、私の言葉を全て聞き終える前に気絶した。
「馬鹿な子ね」
強い魔力量に耐える事ができず、気を失ったのだ。
なぜ、無能なフレッグが公爵の側付きになれたかと言えば、フリーダとの婚約が理由ではありません。 公爵の方になんらかの制限がなされない限り、魔力の弱い者は意識を保つ事すら出来ないからなのです。
戦場で力ある公爵の力を制限すると言うことは、死ぬ必要のない命まで失ってしまうことになる。 だから公爵は制限をしない、側でお世話をするためには公爵の魔力に耐えうる魔力量を持つ者でなければならない。 それが理由なのです。
ただ、今……公爵様が魔力を開放する理由など、ないはずなのですけどね。
扉に手をかけられた音が聞こえた。
私は席を立ち、公爵様が扉を開くのをまった。
人間の体液には魔力が宿ります。 では、その魔力は何処からくるか? と言いますと、それは分かっていません。
昔、私が塔に売られる以前、現公爵様は今のエミリーと同じように魔力が弱かったのです。 健康を気遣い、身体を鍛えていらしたそうですが、それで辿り着けるのはどこまでも人としての限界、それ以上を得ようとすれば魔力が必要となり、公爵家次期当主としては頼りない、足りないと言われるような方だったそうです。
この国の血、血統と言うものは、基本男系因子から引き継がれるのが一般的、例え現公爵の魔力が弱く、その妹君が化け物じみた魔力を持っていたとしても、当主となるのは男性である現公爵。 というような仕組みなのです。
現公爵が公爵であることはゆるぎないものではありましたが、身体に濃い魔力を宿す私の血をもって、公爵の魔力の泉を刺激すると言う方法が考えられたのです。
井戸から水を出すのに呼び水が必要となる事がある。 それと少しばかり似ています。 方法とすれば私の血を公爵様が接種すれば終わり。 そしてそれは成功し、公爵様は今の公爵様となられたのです。
「ぁ」
『どうした?』
「どうなさいました?」
「いえ……、エミリー様……」
私は、公爵が魔力を得た時の話をエミリーにしました。
「アナタも、私の血が欲しいと思いますか? 私の魔力はフリーダ様のものよりも、何倍も濃い魔力を含んでおりますよ?」
「ぁ……」
エミリーの喉がなり、唾を飲み込む様子が見えました……。
「な、何をおっしゃっておりますの、こんな時に……」
「いえ、ふと……公爵様を思い出し、そして思い至っただけですわ」
既に公爵家の門が見えている。
門をくぐってからも屋敷まで距離はありますが、それでもこの話はここまでとするべきでしょう。そして、私達は、公爵様との面会を待ち可愛らしい応接室へと通された。
正直、居心地が悪い……。
エミリーは喜んでいますけどね。 私も、嫌いではありません、白いレースに淡い色合いの花、好きと似合うは別物なんですよね。
『どうした? 眉間が寄ってるぞ』
『いえ、ずいぶんと可愛らしいお部屋だなと思いまして』
『好きだろう?』
『好きですねぇ……』
情報源はルークのようだ。
だからと言って……、豪華なビロードと黄金で彩られた部屋へ案内されるのも、自然が美しい木々の色をそのままに使った家具をあしらった部屋であっても、私に似合うはずもありませんからね。
自覚しているんです。 私が似合うのはこう悪い人間が悪だくみをしていそうな、血の似合う黒ベースの部屋とかだと……。 そんな部屋に通されればより憂鬱だろうと考えてしまう。
卑屈になってる……。
引きこもりが来るところではありませんわ。
一人ウツウツとしていれば、目の前にエミリーの手が延ばされていた。
「何をしておりますの?」
エミリー私の前に置かれた菓子を慌てて自分の口に放り込み、ごほげほと喉に詰まらせ、次は私の前にあるカップに手を伸ばしたのです。 流石に喉に詰まってピンチなようだったので、私は溜息と共に茶を譲ったわけです。
ふぅと息をつきエミリーが発した言葉は、
「お姉様のカップの方が豪華で、菓子も良いものが準備されています! 不公平ですわ!! 私とお姉様は、二人ともノルダン伯爵家の娘。 どちらも公爵の妻候補ですのに」
「エミリー様は、公爵様の妻になるつもりでしたの?」
「何度も言っているじゃないですか、フィーアお姉様は公爵のお子を産む役目を受け持ち、その他は私が引き受ける。 お姉様は魔術師に堕ちた半端者、私こそが公爵様に相応しい相手ですの。 ただ、私達は運命のいたずらで……いいえ、お姉様が公爵様に血を捧げた事で、私とツガウ事が出来なくなった。 全てがお姉様の責任なのですから、お姉様は責任をとって私と公爵様のために子を産めばいいのよ」
そういいながら、自分の前に置かれた菓子も食べ始めるから、呆れた視線で眺めてしまったわけです。
「そんなもの欲しそうな目で、行儀が悪いですわよお姉様。 仕方がありませんわ。 私のお茶を分けてさしあげますわ」
「祖母様が見ればお嘆きになられますわよ……」
「そんなもの、公爵様の妻となってしまえば、私がルールですもの。 問題ありませんわ」
お茶が行儀悪くテーブルの上を押され移動してくる。
私は、溜息と共にお茶を口にした。
『フィーア!! 辞めるんだ!! お茶なら新しいものを出してもらえ』
そう言われた時には、カップに唇はついており、水面ギリギリに唇を放した。
「お姉様、どうかなさいましたの?」
「いえ、公爵様がいらっしゃるわ」
エミリーは、私の言葉を全て聞き終える前に気絶した。
「馬鹿な子ね」
強い魔力量に耐える事ができず、気を失ったのだ。
なぜ、無能なフレッグが公爵の側付きになれたかと言えば、フリーダとの婚約が理由ではありません。 公爵の方になんらかの制限がなされない限り、魔力の弱い者は意識を保つ事すら出来ないからなのです。
戦場で力ある公爵の力を制限すると言うことは、死ぬ必要のない命まで失ってしまうことになる。 だから公爵は制限をしない、側でお世話をするためには公爵の魔力に耐えうる魔力量を持つ者でなければならない。 それが理由なのです。
ただ、今……公爵様が魔力を開放する理由など、ないはずなのですけどね。
扉に手をかけられた音が聞こえた。
私は席を立ち、公爵様が扉を開くのをまった。
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