20 / 35
20.犯人はここにいる!! そう、私です。
しおりを挟む
夕刻過ぎ……。
屋敷内に浮かばれぬ死霊のうめき声のようなものが響き渡り始めます。 それは1つ1つは小さい声なのですが、何しろ数が多く、大量の呻き声となっているのでしょう。
やがて、甲高い声が命令を下します。
「医師を、医師を呼んできなさい!!」
屋敷を仕切っているエミリーの声のようです。
呻き、様々な体液を駄々洩れにし転がる者達が、本来医師を呼びにいくはずの使用人達なのですから、なかなか状況は改善せず、這いずり回るナメクジのような使用人達の姿、悪臭、それにエミリーは溜まらず逃げ出してしまったようです。 叫び声、怒鳴り声、うめき声、現実の音と、使用人達の苦痛を訴える魔力の音で、状況は大まかながら理解できます。
『……何をした?』
部屋でお茶を飲む私に問うルーク。
『彼女達が私のために準備をした食事を、彼女達に御返ししただけですわ』
使用人達の食事は、パン、残りものの煮込みスープ、チーズが定番です。 スープで栄養の大半を取るために、その日の残り野菜、肉、等が入れられ、味の調整が行われるのですが、素材的には主たちと同じもの。 なので、そのスープに薬入りの食材を返させて頂いたのです。
味見をしていた料理人達が最も早く症状を発症させておりましたが、少量であったため、なんとなくお腹が痛いなと感じた程度で、体調が悪いようなので早めに休ませて頂きますと、部屋に戻ったようでした。
『容赦ないな』
『自業自得と言うものです。 それでも私1人に盛った薬を薄めて、大勢で接種しているのですから、殺そうとしていた薬であっても、命には別条はないはずですよ』
多分……ですけど……。
やがて、エミリーの
「誰か無事な者はいないの?!」
そんな声に、日ごろ家の者達の前に顔を出さない食事も満足に与えられない使用人達が現れ、医師を呼びだしに行ったようでした。 そんな相手では医師もわざわざ出向いてまで診療に来るのには躊躇うでしょう。 何しろ医師も慈善事業ではないのですから。 それでも深夜には何とか医師を連れてきたのですから、褒めてさしあげたいほどです。
医師もノルダン伯爵家と知り、不満、不快、軽度の怒りを奏でています。
各領地には、領民のために医師を確保する領主も存在しますが、王都の医師の大半は王族・貴族のための存在です。 十分な金銭を期待できない、反逆者の疑いのある今のノルダン伯爵家の命令では、使用人を治療しようなどとは思えないでしょう。
それでも、私は医師の元に出向きました。
「御無沙汰しております。 先生」
私が声をかければ、頭をさげて軽く挨拶を行う。
「やあやあご無沙汰しております。 アナタが塔から出ているなんて珍しい。 それに、アナタがいるなら、私など必要ないのではありませんか? これはどういうことなのですかね?」
私は魔術師の塔に売られた時点で、伯爵家とは本来縁のないものになっており、フィーアと言う名前以外を名乗った事はありません。 医師からは多少の好奇心が見え隠れしておりました。 何しろ病気がなければ医師は金にならないのですから、医師の中には情報屋を兼任する者も多いのですよ。
「そういうものではございませんわ。 だって、犯人は私なのですから」
「それは、余計に治療をするわけにはいかないというものですな」
「お姉様!! 何をお考えになっておいでなのですか!!」
「だって、日増しにアヤシイ食材が溜まっていくのですもの。 ずっと保管しておくわけにもいきませんし、お返ししたまでですわ。 解毒剤があるならお使いになればよろしいですし、むしろ私1人に盛った薬がズイブンと薄まっているのですから、そのうち収まるでしょう?」
「なるほど……魔術医の資格も持つあなたに喧嘩を売るとは、物を知らないというのは、何とも哀れですな。 あははっはははははは」
そう医師が笑えば、エミリーは走って使用人達の元へと向かっていった。 優しい子なのか、それとも薬を盛るように言ったのが彼女なのか……。
その答えは、ルークに様子を見に行ってもらわずともわかった。
「なんて馬鹿な事をなさいましたの!!」
何しろ、べしばしどすっ等と言う暴力に等しい音と共に、怒鳴り声が響いてきたのですから。 体液駄々流れる中にとどめを刺しに行くなど……存外愛情の深い子なのかもしれない……そう思ったりもした訳です。 まぁ、それはともかく、
「先生、診て頂きたい人がいるのですが」
「では、対価は身体でお願いできますか?」
なんて年の頃は30と少し、そこそこ顔の整った王都でも有名な医師が言えば、今まで傍観を決め込んでいたルークが叫びだした。
『フィーア!! 浮気はダメだからな!!』
『何を言っているんですか。 魔術医としての労働ですよ』
屋敷内に浮かばれぬ死霊のうめき声のようなものが響き渡り始めます。 それは1つ1つは小さい声なのですが、何しろ数が多く、大量の呻き声となっているのでしょう。
やがて、甲高い声が命令を下します。
「医師を、医師を呼んできなさい!!」
屋敷を仕切っているエミリーの声のようです。
呻き、様々な体液を駄々洩れにし転がる者達が、本来医師を呼びにいくはずの使用人達なのですから、なかなか状況は改善せず、這いずり回るナメクジのような使用人達の姿、悪臭、それにエミリーは溜まらず逃げ出してしまったようです。 叫び声、怒鳴り声、うめき声、現実の音と、使用人達の苦痛を訴える魔力の音で、状況は大まかながら理解できます。
『……何をした?』
部屋でお茶を飲む私に問うルーク。
『彼女達が私のために準備をした食事を、彼女達に御返ししただけですわ』
使用人達の食事は、パン、残りものの煮込みスープ、チーズが定番です。 スープで栄養の大半を取るために、その日の残り野菜、肉、等が入れられ、味の調整が行われるのですが、素材的には主たちと同じもの。 なので、そのスープに薬入りの食材を返させて頂いたのです。
味見をしていた料理人達が最も早く症状を発症させておりましたが、少量であったため、なんとなくお腹が痛いなと感じた程度で、体調が悪いようなので早めに休ませて頂きますと、部屋に戻ったようでした。
『容赦ないな』
『自業自得と言うものです。 それでも私1人に盛った薬を薄めて、大勢で接種しているのですから、殺そうとしていた薬であっても、命には別条はないはずですよ』
多分……ですけど……。
やがて、エミリーの
「誰か無事な者はいないの?!」
そんな声に、日ごろ家の者達の前に顔を出さない食事も満足に与えられない使用人達が現れ、医師を呼びだしに行ったようでした。 そんな相手では医師もわざわざ出向いてまで診療に来るのには躊躇うでしょう。 何しろ医師も慈善事業ではないのですから。 それでも深夜には何とか医師を連れてきたのですから、褒めてさしあげたいほどです。
医師もノルダン伯爵家と知り、不満、不快、軽度の怒りを奏でています。
各領地には、領民のために医師を確保する領主も存在しますが、王都の医師の大半は王族・貴族のための存在です。 十分な金銭を期待できない、反逆者の疑いのある今のノルダン伯爵家の命令では、使用人を治療しようなどとは思えないでしょう。
それでも、私は医師の元に出向きました。
「御無沙汰しております。 先生」
私が声をかければ、頭をさげて軽く挨拶を行う。
「やあやあご無沙汰しております。 アナタが塔から出ているなんて珍しい。 それに、アナタがいるなら、私など必要ないのではありませんか? これはどういうことなのですかね?」
私は魔術師の塔に売られた時点で、伯爵家とは本来縁のないものになっており、フィーアと言う名前以外を名乗った事はありません。 医師からは多少の好奇心が見え隠れしておりました。 何しろ病気がなければ医師は金にならないのですから、医師の中には情報屋を兼任する者も多いのですよ。
「そういうものではございませんわ。 だって、犯人は私なのですから」
「それは、余計に治療をするわけにはいかないというものですな」
「お姉様!! 何をお考えになっておいでなのですか!!」
「だって、日増しにアヤシイ食材が溜まっていくのですもの。 ずっと保管しておくわけにもいきませんし、お返ししたまでですわ。 解毒剤があるならお使いになればよろしいですし、むしろ私1人に盛った薬がズイブンと薄まっているのですから、そのうち収まるでしょう?」
「なるほど……魔術医の資格も持つあなたに喧嘩を売るとは、物を知らないというのは、何とも哀れですな。 あははっはははははは」
そう医師が笑えば、エミリーは走って使用人達の元へと向かっていった。 優しい子なのか、それとも薬を盛るように言ったのが彼女なのか……。
その答えは、ルークに様子を見に行ってもらわずともわかった。
「なんて馬鹿な事をなさいましたの!!」
何しろ、べしばしどすっ等と言う暴力に等しい音と共に、怒鳴り声が響いてきたのですから。 体液駄々流れる中にとどめを刺しに行くなど……存外愛情の深い子なのかもしれない……そう思ったりもした訳です。 まぁ、それはともかく、
「先生、診て頂きたい人がいるのですが」
「では、対価は身体でお願いできますか?」
なんて年の頃は30と少し、そこそこ顔の整った王都でも有名な医師が言えば、今まで傍観を決め込んでいたルークが叫びだした。
『フィーア!! 浮気はダメだからな!!』
『何を言っているんですか。 魔術医としての労働ですよ』
0
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
おっす、わしロマ爺。ぴっちぴちの新米教皇~もう辞めさせとくれっ!?~
月白ヤトヒコ
ファンタジー
教皇ロマンシス。歴代教皇の中でも八十九歳という最高齢で就任。
前任の教皇が急逝後、教皇選定の儀にて有力候補二名が不慮の死を遂げ、混乱に陥った教会で年功序列の精神に従い、選出された教皇。
元からの候補ではなく、支持者もおらず、穏健派であることと健康であることから選ばれた。故に、就任直後はぽっと出教皇や漁夫の利教皇と揶揄されることもあった。
しかし、教皇就任後に教会内でも声を上げることなく、密やかにその資格を有していた聖者や聖女を見抜き、要職へと抜擢。
教皇ロマンシスの時代は歴代の教皇のどの時代よりも数多くの聖者、聖女の聖人が在籍し、世の安寧に尽力したと言われ、豊作の時代とされている。
また、教皇ロマンシスの口癖は「わしよりも教皇の座に相応しいものがおる」と、非常に謙虚な人柄であった。口の悪い子供に「徘徊老人」などと言われても、「よいよい、元気な子じゃのぅ」と笑って済ませるなど、穏やかな好々爺であったとも言われている。
その実態は……「わしゃ、さっさと隠居して子供達と戯れたいんじゃ~っ!?」という、ロマ爺の日常。
短編『わし、八十九歳。ぴっちぴちの新米教皇。もう辞めたい……』を連載してみました。不定期更新。
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
異世界八険伝
AW
ファンタジー
これは単なる異世界転移小説ではない!感涙を求める人へ贈るファンタジーだ!
突然、異世界召喚された僕は、12歳銀髪碧眼の美少女勇者に。13歳のお姫様、14歳の美少女メイド、11歳のエルフっ娘……可愛い仲間たち【挿絵あり】と一緒に世界を救う旅に出る!笑いあり、感動ありの王道冒険物語をどうぞお楽しみあれ!
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
慟哭の時
レクフル
ファンタジー
物心ついた時から、母と二人で旅をしていた。
各地を周り、何処に行くでもなく旅をする。
気づいたらそうだったし、何の疑問も持たなくて、ただ私は母と旅を続けていた。
しかし、母には旅をする理由があった。
そんな日々が続いたある日、母がいなくなった。
私は一人になったのだ。
誰にも触れられず、人と関わる事を避けて生きていた私が急に一人になって、どう生きていけばいいのか……
それから母を探す旅を始める。
誰にも求められず、触れられず、忘れ去られていき、それでも生きていく理由等あるのだろうか……?
私にあるのは異常な力だけ。
普通でいられるのなら、こんな力等無くていいのだ。
だから旅をする。
私を必要としてくれる存在であった母を探すために。
私を愛してくれる人を探すために……
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】「聖女として召喚された女子高生、イケメン王子に散々利用されて捨てられる。傷心の彼女を拾ってくれたのは心優しい木こりでした」
まほりろ
恋愛
聖女として召喚された女子高生は、王子との結婚を餌に修行と瘴気の浄化作業に青春の全てを捧げる。
だが瘴気の浄化作業が終わると王子は彼女をあっさりと捨て、若い女に乗
り換えた。
「この世界じゃ十九歳を過ぎて独り身の女は行き遅れなんだよ!」
聖女は「青春返せーー!」と叫ぶがあとの祭り……。
そんな彼女を哀れんだ神が彼女を元の世界に戻したのだが……。
「神様登場遅すぎ! 余計なことしないでよ!」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿しています。
※カクヨム版やpixiv版とは多少ラストが違います。
※小説家になろう版にラスト部分を加筆した物です。
※二章に王子と自称神様へのざまぁがあります。
※二章はアルファポリス先行投稿です!
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて、2022/12/14、異世界転生/転移・恋愛・日間ランキング2位まで上がりました! ありがとうございます!
※感想で続編を望む声を頂いたので、続編の投稿を始めました!2022/12/17
※アルファポリス、12/15総合98位、12/15恋愛65位、12/13女性向けホット36位まで上がりました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる