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改革

27.それは愛か憎しみか?

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「ま、待って下さい!! お腹がパンクします。 破裂して中身が出てきます」

 ケーキは好きだが、これはなんのチャレンジなのか? と、4個目を目の前に突き出された時点でギブアップした。 これは……もしや、一周回って怒っているのでは?!

 でも、怒られるようなことはしていないよね?

 逃げようとすれば、頭を撫でていた手が素早く腹部に回され、食べ過ぎてぷっくりとなってしまったお腹がナデナデされ、ひぃいいいいいいいと必死で逃げ……たくても、逃げられない。

「な、何をするんですか。 ちょ、や、それはダメ、触れちゃダメ」

 必死になる私をディック様は楽しそうにしているのだけど、私は面白くないんだから!!

「カワイイな」

「何が!? 何が!! 私は恥ずかしいよ!!」

 涙ながらに訴えれば、反応に困ったディック様は頭を撫でてくる。

「で、殿下……助けて……」

 半分本気、半分冗談なのに、ディック様は不機嫌になった。

「なぜ、ヴァルナを頼る」

「ぇ?」

「婚約者を言い訳に、リーリヤに近づき過ぎだ」

「陛下から理由は聞いていないのですか? 婚約者となった人を大切にするのは当然です。 家族になるのですから」

「俺の大切な存在を気安く奪い語るな……」

「リーリヤが大切だ等とよくも語る事ができますね。 笑えない冗談ですよ。 いえ……むしろ叔父上がそのように語れば語るほど、リーリヤをどれほど憎んでいるのかと疑いたくなると言うものです」

「ふざけるな」

 珍しくヴァルナ殿下が感情的と言うか喧嘩腰と言うか……そっかぁ……私って憎まれていたのかぁ……。 まぁ、嫌われる事をした覚えが無い訳でもないし、貴族がどういう物かを知れば嫌われていたのかな? と考えなくも無かった。

 でも、自分が勝手に思うのと、自分に優しい第三者が言うのとでは重みが違う。

「ふざけて等いません。 なぜ、公爵家の娘として受け入れておきながら、彼女を放置していたのですか」

「放置? ちゃんと生きるに必要なものは与えていただろう」

 少しずつ2人は早口となり、声色が荒くなっていた。 逃げ出したい気分にディック様の膝の上から去ろうとしたが……ガッシリ腹回りを掴まれたままだった。

「年頃の女性が、親の膝の上に乗せられて喜ぶと思っているんですか? 嫌がらせでしかありませんよ。 気持ち悪い……」

 冷ややかなヴァルナ殿下の視線に、険の有る視線で返すディック様。

「俺が親だから気持ち悪いと言うなら、叔父にあたるお前はどれほど気色悪いか……」





 叔父? と言う疑問をこの時は聞き出す事はできなかったが、後で聞いた事情はこんな感じだった。



 国王陛下に一目惚れをした王妃は、身の回りの金品をもって家出。 かなり長い間、身分を隠し、陛下の押しかけ恋人をしていた。 だけれど、王妃の父であるレックス国の国王は王妃を見つけ出し無理やり連れ戻した。

 誘拐同然に連れ戻された時、王妃は綺麗な顔立ちをした1人の幼児を連れていた。

『この子から父親を奪うのですか!!』と、父王を責めたのだと言う。 で、その時の子が……国王陛下とディック様の末の弟ヴァルナ殿下だったと言う訳。

 無茶苦茶だ……。

 無茶苦茶だが……、ヴァルナ様はレックス国に滞在している間、レックス王との間に良好な関係を築き、最もお気に入りの孫となったと言う。 そこまでくると正直に話す事も出来ず、レックス国の支援のうまみもあり、ヴァルナ殿下は国王夫婦の子で通す事となったそうだ。

 ちなみに……国王陛下とディック様の末弟は死亡扱いとなっている。





「それに婚約者と言うのも国に必要な知識を持つ者を保護するためだと聞いたが? ソレも俺は認めていない」

「確かに最大の目的は保護ですが、私は叔父上とは違いリーリヤを昔から可愛らしいと思っていました。 物を知らずに王宮に訪れる彼女を、何も教えられていない彼女を可哀そうだとも思っていました。 出来るなら自分の手で大切にしたいと、どれほど思った事か……」

「だが、今までは何もしませんでした。 と?」

「当然でしょう。 リーリヤを守る準備もなしに彼女を感情のままに可愛がれば、彼女を危険にさらしてしまうのは十分に理解できましたからね。 そうでなくても……娼婦の娘が叔父上にいらぬ子を押し付けたと……食事の礼儀作法も知らず、下着姿だと誤解されそうな薄い布地で王宮に訪れたと笑い者にされていたのですよ!!」

 初めて呼び出されたのは、とても日差しの強い暑い日の事でした……。 だって!! 私の世界(下町)では、私の着ていた服は下着姿ではなくただのワンピースだし!!

「大切でなければ、家族として受け入れなどしない」

「……えぇ、叔父上の行動は確かに英断だと思いますよ。 リーリヤが持つ魔法薬師の知識を考えれば、叔父上が保護しなければ年齢に関係なく生贄とされていたでしょう。 そして、今日のように国を救うための道が生まれる事は無かった。 ですが!! 5年前と言えばリーリヤも子供……いえ、魔法薬師が血統であると言う事を考えれば、母親を亡くしたばかりの子供です。 もう少し思いやりをもって接する事が出来たのではありませんか?!」

「俺とリーリヤの関係、勝手に判断するな。 自分の想像に酔っているだけだろう。 お前がリーリヤの何を知っていると言うんだ。 この子は5年前にはもう一人前の魔法薬師だった」

「想像? 公爵家の食卓が携帯用野戦食中心と言うのは、事実でしょう」

「何の問題がある。 うちで使っている携帯用野戦食は、リーリヤの曾祖母によって考えられたもの。 栄養価は通常の食事よりも高く身体強化を行う際にも積極的に取り入れられている品だ。 それに無駄口、嫌味の応酬をしながらチマチマする食事に何の意味がある」

「……リーリヤは女の子ですよ!!」

「そんな事ぐらい知っている」

「公爵家の娘として受け入れながら、貴方は彼女を公爵家の娘として扱わなかった」

「くだらん」

「ですが、それでリーリヤは恥をかき、陰口をたたかれ、馬鹿にされていた」

「なるほど、誰に何を言われた?」

 突然に話を振られて焦りながらも、私は答えた。

「む、昔の事です」

「では、思い出せ。 公爵家を馬鹿にした者には相応の報いが必要だろう?」

「必要ありません。 相応の罰は与えました。 彼女はもう私の婚約者なのですから」

「認めてない」

「リーリヤも、もう大人です。 幾ら親だからと言って、叔父上の身勝手に付き合う必要はないはずです。 いいえ……婚約者として!! 阻止します」

「だから認めないと言っている」

「私は……リーリヤが可愛くて仕方がないんですよ」

「はぁ? ……殺されたいか?」

「脅しても無駄です。 貴方に私は殺せません」

「……何故、そう思う? お前がそれ以上干渉すれば、俺はお前を殺しリーリヤを連れて遠くに逃げるかもしれないぞ?」

「……狂っている……」

「こんなことになるなら、戦場にも連れて行くべきだった。 なぁ……そう思うだろう? リーリヤ」

 私は、何が間違っていて、何が正しいのかわからぬまま……殿下が語った、そこまで憎いのかと言う言葉だけがぐるぐると脳裏を巡っていた。



 笑えない……。
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