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改革
24.兄と弟 01
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散々暴れまわり、陛下と公爵は謁見の間で仰向けにひっくり返り天井を眺めていた。
盛大な兄弟喧嘩は、定期的に行われるレクリエーションのようなもの。 王妃は妙に満足そうな表情で子供のように床の上にひっくり返るその姿が好きだと思いながらも、傷つけあうその姿が嫌いで、溜息をつきながら2人に近づいて行った。
「さぁ、立ち上がって、本当に会いたい方に会いに行きなさい。 貴方のような乱暴な方に、あの子を任せたくはないのだけど」
「アレは俺のだ」
「ソレは無理と言うもの。 だって、あの子は女ですもの。 どんなに可愛がっても愛しても、好きな男を作ってしまうわ。 私が陛下に出会ったように」
「俺を呪え」
ディックは王女に唸るように言えば、王女は笑いながら返した。
「嫌よ」
ディックの短刀を握った右手が嫌がらせとばかりに陛下の顔へと振り下ろされ、陛下はソレを遮る。
「妻が泣くから止めろ」
「ふん」
「風呂に入って着替えていきなさい。 ヘタレ、意気地なし、臆病者、軟弱者。 貴方の娘が待っているわ」
王妃が若い娘のように罵れば、ディックも子供のように顔を隠して泣きそうに、そして拗ねたように呟いた。
「うるさい」
声に出さず笑う陛下と王妃。 彼等は昔から虎の子のように派手なじゃれあいをしていた。 口汚くお互いを罵っていた。 まぁ……罵りあいは何時もディックが1人負けするのだが。
だけれど、いや、だからこそ彼等は自分達が対等な存在である事を約束している。 国を守るには彼等は完璧ではないからこそ、対等であるべきだと考えている。 王家と言う責務を3等分し、お互いの役割を果たそうと彼等は務めている。
王妃は陛下を起こそうと手を差し出し、陛下はその手を取って王妃を抱きしめた。
「ツマラナイ事に何時も付き合わせてしまうね」
「いいえ、貴方の側は何時もスリルがあって楽しいですわ。 好きよ」
「あぁ、私もだ」
そして年甲斐もなく甘く深い口づけを陛下と王妃が交わせば、ディックは舌打ちをし立ち上がり玉座の間を後にした。 白い王宮の中で黒い姿をした男は歩くが、誰も彼を見る者は無く、黒い影に気づく者なく通り過ぎていた。
そして、彼は彼のために用意された部屋で、風呂に入り身支度を整える。
鏡に映る白い衣装に身を包んだ自分を見て、溜息をついた。
「派手だ……これでは……」
戦うのに邪魔過ぎる。 屋敷で風呂に入り着替えてくれば良かったと思いながら、そうしたならきっとリーリヤを怖がらせる事になっただろう。 と、考え仕方がないと自分を納得させた。
不器用は自覚しているし、自分にできる事が多くは無い事くらいは知っていた。 そうやって3人の兄弟はずっと出来る事を行い、出来ない事を他の2人に任せ生きて来た。
「喋るのは苦手だ……」
ボソリと呟く。
もっと器用なら良かったのに……。 人をうらやむ言葉は飲み込んだ
愛情を表現するなどできない……いや、してはいけない。 してしまったら、独占欲であの子を閉じ込め、鎖でつないでおきたくなるだろう。 物理的に……。
自分なんかに愛されて可哀そうにと思う。 愛しているのに、幸せにしてやりたいとは思えない……。 あの子の幸せは自分の孤独のように感じてしまうから……。
部屋から出れば、侍女達が待っていた。 待っていた侍女の1人が、伊達メガネとレックス国の魔法士達が来ているローブを手渡す。
「閣下、陛下からのご伝言です。 未だ閣下は東方にいる事となっているから姿を隠すようにと、それと王妃様からは案内をするようにと申し付けつけられております。」
「あぁ」
今のディックは、髪を梳き、洗い、顔を洗い、髭を剃り、身体も洗って、準備された少しばかり派手過ぎる王妃好みの衣装を身に着けていた。 そのうえからローブを羽織り、フード部分を深くかぶれば、侍女達はディックの周囲をクンクンと匂いを嗅ぎながら回る。
不愉快だ……。
色んな意味で。
「何をしている」
顔を顰めて、低く唸るような声で言うが、侍女達は気にする様子はない。 むしろ、雄臭さに酔うようにうっとりとしている。 だから余計にディックは不快を見せつけた。
「近寄るな」
「王妃様が、におうようなら、念入りに洗いなおしておいてと言われましたので、問題なさそうですね。 残念です。 ですが、まぁ……」
そう言って香水を吹きかけられた。
「止めろ」
「王妃様の命令です。 リーリヤ様のお気に入りの香りですよ」
そう言われれば、怒る気もなくしたが……ぶつぶつと文句は続けた。
「勘が鈍る」
盛大な兄弟喧嘩は、定期的に行われるレクリエーションのようなもの。 王妃は妙に満足そうな表情で子供のように床の上にひっくり返るその姿が好きだと思いながらも、傷つけあうその姿が嫌いで、溜息をつきながら2人に近づいて行った。
「さぁ、立ち上がって、本当に会いたい方に会いに行きなさい。 貴方のような乱暴な方に、あの子を任せたくはないのだけど」
「アレは俺のだ」
「ソレは無理と言うもの。 だって、あの子は女ですもの。 どんなに可愛がっても愛しても、好きな男を作ってしまうわ。 私が陛下に出会ったように」
「俺を呪え」
ディックは王女に唸るように言えば、王女は笑いながら返した。
「嫌よ」
ディックの短刀を握った右手が嫌がらせとばかりに陛下の顔へと振り下ろされ、陛下はソレを遮る。
「妻が泣くから止めろ」
「ふん」
「風呂に入って着替えていきなさい。 ヘタレ、意気地なし、臆病者、軟弱者。 貴方の娘が待っているわ」
王妃が若い娘のように罵れば、ディックも子供のように顔を隠して泣きそうに、そして拗ねたように呟いた。
「うるさい」
声に出さず笑う陛下と王妃。 彼等は昔から虎の子のように派手なじゃれあいをしていた。 口汚くお互いを罵っていた。 まぁ……罵りあいは何時もディックが1人負けするのだが。
だけれど、いや、だからこそ彼等は自分達が対等な存在である事を約束している。 国を守るには彼等は完璧ではないからこそ、対等であるべきだと考えている。 王家と言う責務を3等分し、お互いの役割を果たそうと彼等は務めている。
王妃は陛下を起こそうと手を差し出し、陛下はその手を取って王妃を抱きしめた。
「ツマラナイ事に何時も付き合わせてしまうね」
「いいえ、貴方の側は何時もスリルがあって楽しいですわ。 好きよ」
「あぁ、私もだ」
そして年甲斐もなく甘く深い口づけを陛下と王妃が交わせば、ディックは舌打ちをし立ち上がり玉座の間を後にした。 白い王宮の中で黒い姿をした男は歩くが、誰も彼を見る者は無く、黒い影に気づく者なく通り過ぎていた。
そして、彼は彼のために用意された部屋で、風呂に入り身支度を整える。
鏡に映る白い衣装に身を包んだ自分を見て、溜息をついた。
「派手だ……これでは……」
戦うのに邪魔過ぎる。 屋敷で風呂に入り着替えてくれば良かったと思いながら、そうしたならきっとリーリヤを怖がらせる事になっただろう。 と、考え仕方がないと自分を納得させた。
不器用は自覚しているし、自分にできる事が多くは無い事くらいは知っていた。 そうやって3人の兄弟はずっと出来る事を行い、出来ない事を他の2人に任せ生きて来た。
「喋るのは苦手だ……」
ボソリと呟く。
もっと器用なら良かったのに……。 人をうらやむ言葉は飲み込んだ
愛情を表現するなどできない……いや、してはいけない。 してしまったら、独占欲であの子を閉じ込め、鎖でつないでおきたくなるだろう。 物理的に……。
自分なんかに愛されて可哀そうにと思う。 愛しているのに、幸せにしてやりたいとは思えない……。 あの子の幸せは自分の孤独のように感じてしまうから……。
部屋から出れば、侍女達が待っていた。 待っていた侍女の1人が、伊達メガネとレックス国の魔法士達が来ているローブを手渡す。
「閣下、陛下からのご伝言です。 未だ閣下は東方にいる事となっているから姿を隠すようにと、それと王妃様からは案内をするようにと申し付けつけられております。」
「あぁ」
今のディックは、髪を梳き、洗い、顔を洗い、髭を剃り、身体も洗って、準備された少しばかり派手過ぎる王妃好みの衣装を身に着けていた。 そのうえからローブを羽織り、フード部分を深くかぶれば、侍女達はディックの周囲をクンクンと匂いを嗅ぎながら回る。
不愉快だ……。
色んな意味で。
「何をしている」
顔を顰めて、低く唸るような声で言うが、侍女達は気にする様子はない。 むしろ、雄臭さに酔うようにうっとりとしている。 だから余計にディックは不快を見せつけた。
「近寄るな」
「王妃様が、におうようなら、念入りに洗いなおしておいてと言われましたので、問題なさそうですね。 残念です。 ですが、まぁ……」
そう言って香水を吹きかけられた。
「止めろ」
「王妃様の命令です。 リーリヤ様のお気に入りの香りですよ」
そう言われれば、怒る気もなくしたが……ぶつぶつと文句は続けた。
「勘が鈍る」
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