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婚約
10.交渉……であるわけがない 02
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そんな関係性をどうして婚約だと言える!! それはただの檻だ!!
私はディック様が好きなわけで、王太子殿下との間に真っ当な婚約を望んだ訳ではないけれど、目の前の男の余りの身勝手さに腹が立ってきていたと言うのは事実である。
私が睨みつけるようにすれば、ざわりと陛下の気配が揺れた。 ひぃいいと侍女が小さく悲鳴を上げた。
私が偉そうな口をきいたのは、彼が私を必要としていると分かったから。 短慮で争いを好むが、今この国の経済は破綻しかけている。 蛮族との争いとして公爵様が、日々戦場へ送り出されているが、それはただの侵略戦争。 そうでもしなければこの国は危うい。
「我が息子がソレほどまで気に入らないのか?」
顎が掴まれ上を向かせ、まざまざと顔が覗き込まれる。
交流が無い相手を、気に入るもいらないも無い。 それに私が好きなのはディック様なのだから。
痛い……。
怖い……。
「まさか……」
「ふんっ」
不快で身体を逸らそうとしたが、大きな手は想像していた以上に力が強く、痛みに私は顔を顰めた。
「子供は元気な方な方が良いと言うが、悪戯はほどほどにした方がいい。 痛い思いをするのはお前だからな」
「リーリヤ、準備は出来ましたか?」
そう言って、ノックと共に入ってきたのは王妃様。 悲鳴を上げ立ちすくむ。
「リーリヤ!!」
なぜ、私が怒鳴られる訳? と思い視線を向ければ、王妃様は私を陛下の手から奪い取るようにし私の頬を打った。
「あれほど可愛がってやったと言うのに、売女の娘は所詮は売女か!!」
王妃は私の肩を掴み揺さぶり、床へと投げつけ、私を見下ろす。 その瞳は怒りや嫉妬ではなく、必死過ぎるほどに必死に見えた。
私の上に馬なりに乗り、襟首をつかめば、背後から国王陛下が退屈そうに声をかけた。
「王妃よ。 余計な誤解をするな。 私がそんな鳥ガラのような雛鳥に興味を持つと思っているのか? 行くぞ、王妃よ……。 オママゴトはガキに任せておけばいい。 ガキにはちょうど良い仕事だ」
はぁ……と、王妃様は溜息を1度つき、立ち上がる瞬間私へと視線が向けられた。 僅かの間であるがその視線は同情や哀れみにすら見えて私は困惑する。
陛下は王妃に手を差し出し、私の上から立ち上がらせ、冷ややかな視線を向けた。
「いつまでも、床に転がっているつもりだ。 とっとと着替えろ。 この日のために、分不相応なドレスを揃えさせたのだからな」
「こんなことをされて、ありがとうございます。 と、涙を流し喜ぶと思っているの訳?!」
こんな事ではいけない。
冷静に考えなければ。
「何、やるべきことをやれば、自由にしてやる。 王室でお前のような生まれも分からぬ血を混ぜる訳がなかろう。 安心して私に尽くせ。 尽くせば……公爵は無事に帰ってくるだろう。 行くぞ王妃」
完全な脅しだ……。
婚約に了承しないだろうと理解した上で、ドレスルームと言う国力に似合わぬ贅沢を見せつけながら、甘言で手名付けようとし……無駄だと思えば、公爵様の命を掌に弄んだ脅迫だ。 最初から準備万全で脅そうと考えていたに違いない。
であれば、この場から逃げ出すのは不可能だろう。
不可能なように周囲を固めてあるだろう。
私は床に座り込んだ。
ディック様と連絡が取れれば、私の望まぬ婚約を成立させる事はなかっただろう……。 国王陛下にむざむざと私を利用させようなどとはしなかった……と、思う……。
その程度には情はある……と、いいなぁ……。
私はディック様が好きなわけで、王太子殿下との間に真っ当な婚約を望んだ訳ではないけれど、目の前の男の余りの身勝手さに腹が立ってきていたと言うのは事実である。
私が睨みつけるようにすれば、ざわりと陛下の気配が揺れた。 ひぃいいと侍女が小さく悲鳴を上げた。
私が偉そうな口をきいたのは、彼が私を必要としていると分かったから。 短慮で争いを好むが、今この国の経済は破綻しかけている。 蛮族との争いとして公爵様が、日々戦場へ送り出されているが、それはただの侵略戦争。 そうでもしなければこの国は危うい。
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痛い……。
怖い……。
「まさか……」
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不快で身体を逸らそうとしたが、大きな手は想像していた以上に力が強く、痛みに私は顔を顰めた。
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「リーリヤ!!」
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「こんなことをされて、ありがとうございます。 と、涙を流し喜ぶと思っているの訳?!」
こんな事ではいけない。
冷静に考えなければ。
「何、やるべきことをやれば、自由にしてやる。 王室でお前のような生まれも分からぬ血を混ぜる訳がなかろう。 安心して私に尽くせ。 尽くせば……公爵は無事に帰ってくるだろう。 行くぞ王妃」
完全な脅しだ……。
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ディック様と連絡が取れれば、私の望まぬ婚約を成立させる事はなかっただろう……。 国王陛下にむざむざと私を利用させようなどとはしなかった……と、思う……。
その程度には情はある……と、いいなぁ……。
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