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王立オルセン学園の数少ない庶民枠を通った私ニーニャは、学園で初恋の相手と再開をした。 彼と出会う事を目的に学園に入学したわけではないけれど、私を見つけて駆け寄って来る彼が、子犬のようにクルンとした大きな瞳で見上げて来る彼に好意を抱かないなんて無理だと思うの。
王立オルセン学園3年……15歳の春。
私は、初恋の相手に告白された。
「大人になったら、僕のお嫁さんになって下さい」
1つ年上の彼は小さくて可愛い美少年。
「貴方様に、私のようなものは相応しくありません!!」
可愛い可愛い未来の教皇猊下。
幼い可愛さできゅるんと媚び売り、小さくてカワイイもの好きの私を刺激する。
「ぇっ? ニーニャは僕の事好きでしょう? ぇ? えっ? どうして??」
あり得ないと言うように彼は左右に揺れながら、媚び媚びの上目遣いに見上げて来る。
彼は1つ年上だけど、私よりチビッ子で私より美少女(?)だから。
「そりゃぁ好きですけど、友達としてと言うか?」
「僕、わかんない。 友達でもいいから大きくなったら結婚しよう!!」
大きくなるのだろうか? この人は?? なんて疑問は横に置き、もう色々色々とお断りなんですよ。
最低ランクの環境で生きて来た私も、入学から3年も経てば、貴族がどういうものか理解できます。 いえ……まぁ、色々誤解し血迷った次期もありますが……それは黒歴としていったん横に置いておくとして。
今の私は知っている!!
目の前の美少年に恋をしどっぷりとつかれば、攻撃魔法が降りしきる戦場を駆け巡るような人生を送らなければいけないと言うことを。
地味に穏やかに控えめにヒッソリ隠れて生きたい私にはありえない相手なのですよ。
「ですから、私のような下民は猊下にはふさわしくないと言っているのです」
猊下と言うのは目の前の少年のあだ名。
良くも悪くも彼はそう呼ばれている。
未来の教皇猊下候補の最有力候補だから。
「ぇ? 君ほど僕に必要な人はいないよ!! 諦めないで!!」
断られるなんて考えたことはなかっただろう? 彼はとても驚いた顔をしていた。 そして大きなくりくりの瞳で見上げて来た。 私よりも彼は少しだけ、少し多く背が低くて、彼は上目遣いで私を見つめて来る。
年齢よりも幼く見えるけど、彼は特別な存在なのだ。
何しろ彼は公爵令息『エドウィン・フォスター』次期教皇猊下に最も近いとされる男なのだから。
「でも、君……僕の事が好きだよね?」
彼は何時だって私を見れば、駆け寄ってきた。
それがとても可愛いと思った。
そして今日は、何時もより近い。
私の胴に腕を回し、幼く見える愛らしい顔で見つめて来る。
それに……過去の恩もある。
「でも、無理です。 私は貴方に相応しい女になれない」
「君でないと無理なんだよ。 僕は分け隔てなく人々に慈悲を与える者にならなければいけないんです。 庶民にも分け隔てなく手を差し伸べる者として……親もいないのに、身一つで実力を示してきた君は……僕の助けになる。 君が僕の婚約者となる事で僕は夢に一歩近づく事ができるんだ。 お願いだから、僕を助けると思って……婚約してよ!!」
エドウィンは、私を前に膝をついた。 そして、私の両手を小柄な体に反する大きな手で私の手を包み込み、そして……そっと祈るように口づけて来た。
あぁ……そうか、これは愛じゃないんだ。 そう思えば、どうして私なの?!と言う疑問は解決され……逆に告白をスッと飲み込む事が出来た。
彼は、私の心を助けてくれた事がある。
だから……彼を助けたい。
だけど、無理なものは無理!!
そりゃぁ、入学して彼がいると知った時には仲良くしたいと思った。 その気持ちに嘘はないですよ? でも、すぐに庶民と貴族の間には天地の差がある事を知った。
殆どの貴族が私達庶民を避ける中で、彼は私の元へと訪れる。 私が食べている物を食べ、飲んでいる物を飲む、ずっと好意を抱かれていると思っていた。
その微笑みを見るだけで嬉しかった。
それ以上の事は望んだ事はなかった。
だって、公爵家の跡取り、教皇猊下候補ですよ? 何か良い事があるだろうとか、人生が変わるのではないだろうか? そうやって甘い夢だって見た事もある!!
でも……私は……
「私は猊下の婚約者にはふさわしくありません」
「うん、それは分かっている。 それでも……君が良いんだ。 前向きに考えて」
『それは分かっている』
その言葉に、少し引っかかりを覚えた。
えぇ、まぁ……私って細かい性格なのよね……いえ、でも、どうせ断るのだから関係ないですよね。
前向きに考えてと言われた翌日、彼は別の女性と並んで歩いていた。
それを私は特待生に与えられた実験室から友人のジェシカと共に見ていた。
「あぁ~ぁ、ニーニャに告白した次の日にあれってなくない?」
「まぁ、ほら、彼は猊下だし、色々と相談とか持ち掛けられるだろうから。 それに私は断りましたし」
見ないふりをしていたけど、ツイツイ視線が追う。
深刻な表情で語る少女。
微笑みを向けるエディ。
少女はエディに抱きついた。
よくある事。
ハグなんて良くある事だし。
でも、私は気分が悪いって思ってしまう。
だから、私は彼の申し出を受ける訳にはいかない。
「でもさぁ、婚約を求めるなら配慮をするべきでしょう?」
彼を嫌えず、好きにもなれず、覚悟も決められない。 そんな私の変わりにでも言うようにジェシカは本気で怒っていた。
私は溜息をつきながら肩をすくめて見せた。
「彼女はと言うか……猊下の側にいる人は彼に救いを求めている人らしいわ。 女も男もね」
「救いねぇ~」
少女よりも背が低いエディが、ヒソヒソと語り笑いあい、顔を寄せ合う姿を、2階の実験室から見ていればキスをしているかのように見えた。 少女めいた風貌の彼は以前から人同士の距離が近く、彼女達の誰かと婚約すればどうかしら? と、嫌味めいて答えた事も考えたことがある。
『そんな彼が側にいるのが辛くて、あの距離感はどうなのかしら? 周囲の人がどう考えるか少しは考えた方が良いと思うの』
と、言った事がある。
そんな私に彼はこう返した。
『彼女達は違うよ。 彼女達は僕の支援者だ。 それに……女性と同じように男性も一緒にいるのが見えていなかった? 幾ら僕の事が好きだからって、そうやって独占しようなんてされるのは困るよ……僕は次期教皇なんだから……救いを求められれば、ソレに応えなければいけない。 それに君は僕を受け入れてくれているんでしょう』
拗ねたように言っていた彼は、艶めいた笑みを向けて来た。
私が……悪いの?
いえ、私が何かを言う権利はないわよね。
「いいえ……彼の申し出はちゃんと断ったの。 私とは関係ないこと」
そうボソリと呟きながら私は研究へと戻った。
王立オルセン学園3年……15歳の春。
私は、初恋の相手に告白された。
「大人になったら、僕のお嫁さんになって下さい」
1つ年上の彼は小さくて可愛い美少年。
「貴方様に、私のようなものは相応しくありません!!」
可愛い可愛い未来の教皇猊下。
幼い可愛さできゅるんと媚び売り、小さくてカワイイもの好きの私を刺激する。
「ぇっ? ニーニャは僕の事好きでしょう? ぇ? えっ? どうして??」
あり得ないと言うように彼は左右に揺れながら、媚び媚びの上目遣いに見上げて来る。
彼は1つ年上だけど、私よりチビッ子で私より美少女(?)だから。
「そりゃぁ好きですけど、友達としてと言うか?」
「僕、わかんない。 友達でもいいから大きくなったら結婚しよう!!」
大きくなるのだろうか? この人は?? なんて疑問は横に置き、もう色々色々とお断りなんですよ。
最低ランクの環境で生きて来た私も、入学から3年も経てば、貴族がどういうものか理解できます。 いえ……まぁ、色々誤解し血迷った次期もありますが……それは黒歴としていったん横に置いておくとして。
今の私は知っている!!
目の前の美少年に恋をしどっぷりとつかれば、攻撃魔法が降りしきる戦場を駆け巡るような人生を送らなければいけないと言うことを。
地味に穏やかに控えめにヒッソリ隠れて生きたい私にはありえない相手なのですよ。
「ですから、私のような下民は猊下にはふさわしくないと言っているのです」
猊下と言うのは目の前の少年のあだ名。
良くも悪くも彼はそう呼ばれている。
未来の教皇猊下候補の最有力候補だから。
「ぇ? 君ほど僕に必要な人はいないよ!! 諦めないで!!」
断られるなんて考えたことはなかっただろう? 彼はとても驚いた顔をしていた。 そして大きなくりくりの瞳で見上げて来た。 私よりも彼は少しだけ、少し多く背が低くて、彼は上目遣いで私を見つめて来る。
年齢よりも幼く見えるけど、彼は特別な存在なのだ。
何しろ彼は公爵令息『エドウィン・フォスター』次期教皇猊下に最も近いとされる男なのだから。
「でも、君……僕の事が好きだよね?」
彼は何時だって私を見れば、駆け寄ってきた。
それがとても可愛いと思った。
そして今日は、何時もより近い。
私の胴に腕を回し、幼く見える愛らしい顔で見つめて来る。
それに……過去の恩もある。
「でも、無理です。 私は貴方に相応しい女になれない」
「君でないと無理なんだよ。 僕は分け隔てなく人々に慈悲を与える者にならなければいけないんです。 庶民にも分け隔てなく手を差し伸べる者として……親もいないのに、身一つで実力を示してきた君は……僕の助けになる。 君が僕の婚約者となる事で僕は夢に一歩近づく事ができるんだ。 お願いだから、僕を助けると思って……婚約してよ!!」
エドウィンは、私を前に膝をついた。 そして、私の両手を小柄な体に反する大きな手で私の手を包み込み、そして……そっと祈るように口づけて来た。
あぁ……そうか、これは愛じゃないんだ。 そう思えば、どうして私なの?!と言う疑問は解決され……逆に告白をスッと飲み込む事が出来た。
彼は、私の心を助けてくれた事がある。
だから……彼を助けたい。
だけど、無理なものは無理!!
そりゃぁ、入学して彼がいると知った時には仲良くしたいと思った。 その気持ちに嘘はないですよ? でも、すぐに庶民と貴族の間には天地の差がある事を知った。
殆どの貴族が私達庶民を避ける中で、彼は私の元へと訪れる。 私が食べている物を食べ、飲んでいる物を飲む、ずっと好意を抱かれていると思っていた。
その微笑みを見るだけで嬉しかった。
それ以上の事は望んだ事はなかった。
だって、公爵家の跡取り、教皇猊下候補ですよ? 何か良い事があるだろうとか、人生が変わるのではないだろうか? そうやって甘い夢だって見た事もある!!
でも……私は……
「私は猊下の婚約者にはふさわしくありません」
「うん、それは分かっている。 それでも……君が良いんだ。 前向きに考えて」
『それは分かっている』
その言葉に、少し引っかかりを覚えた。
えぇ、まぁ……私って細かい性格なのよね……いえ、でも、どうせ断るのだから関係ないですよね。
前向きに考えてと言われた翌日、彼は別の女性と並んで歩いていた。
それを私は特待生に与えられた実験室から友人のジェシカと共に見ていた。
「あぁ~ぁ、ニーニャに告白した次の日にあれってなくない?」
「まぁ、ほら、彼は猊下だし、色々と相談とか持ち掛けられるだろうから。 それに私は断りましたし」
見ないふりをしていたけど、ツイツイ視線が追う。
深刻な表情で語る少女。
微笑みを向けるエディ。
少女はエディに抱きついた。
よくある事。
ハグなんて良くある事だし。
でも、私は気分が悪いって思ってしまう。
だから、私は彼の申し出を受ける訳にはいかない。
「でもさぁ、婚約を求めるなら配慮をするべきでしょう?」
彼を嫌えず、好きにもなれず、覚悟も決められない。 そんな私の変わりにでも言うようにジェシカは本気で怒っていた。
私は溜息をつきながら肩をすくめて見せた。
「彼女はと言うか……猊下の側にいる人は彼に救いを求めている人らしいわ。 女も男もね」
「救いねぇ~」
少女よりも背が低いエディが、ヒソヒソと語り笑いあい、顔を寄せ合う姿を、2階の実験室から見ていればキスをしているかのように見えた。 少女めいた風貌の彼は以前から人同士の距離が近く、彼女達の誰かと婚約すればどうかしら? と、嫌味めいて答えた事も考えたことがある。
『そんな彼が側にいるのが辛くて、あの距離感はどうなのかしら? 周囲の人がどう考えるか少しは考えた方が良いと思うの』
と、言った事がある。
そんな私に彼はこう返した。
『彼女達は違うよ。 彼女達は僕の支援者だ。 それに……女性と同じように男性も一緒にいるのが見えていなかった? 幾ら僕の事が好きだからって、そうやって独占しようなんてされるのは困るよ……僕は次期教皇なんだから……救いを求められれば、ソレに応えなければいけない。 それに君は僕を受け入れてくれているんでしょう』
拗ねたように言っていた彼は、艶めいた笑みを向けて来た。
私が……悪いの?
いえ、私が何かを言う権利はないわよね。
「いいえ……彼の申し出はちゃんと断ったの。 私とは関係ないこと」
そうボソリと呟きながら私は研究へと戻った。
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