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物語

28.彼は無力に嘆く……

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 何事も無かったかのような言葉に唖然とした。



 イザベルと顔を合わせるのは、5日ぶりになる。

 元気で良かった。

 そう気安く思えなくなっていた。

 魔力供給用の魔法薬が無ければ髪色が維持できないイザベルは、王妃に命じられた孤児院出身の侍女達によって連れ去られた。 イザベルが偽聖女であると言う事実を知られて最も都合の悪いのは母上……サンテだから、おかしな事だなどとは思わなかった。

 魔法薬の鑑定結果には驚いた。

 母上とイザベル、この2人の茶会に出た人間の異常なほどのポジティブさを見れば、向精神系の魔法薬を使っている事は想像できた。 想像できたが問題にしたこと等無かった。

 薬は使いようだと思っていた。

 だが、即効性のある麻痺と睡眠、それに継続使用による効果を持つ腐敗、血液凝固、筋肉硬化、等の魔法薬までも見つかったと聞き頭を抱えた。

 なにが、魔法薬ぐらいいいじゃないか?! だ。

 同時に王妃サンテとイザベル、孤児院出身の者達に恐怖を覚え始めていた。 それでも、自分はずっと彼女達の味方をしていたのだから、危険等ある訳無いと思っていた。

 当然、検査を行った王宮医師からは、聖女に対する疑問の声が上がった。 亡き実母も父上も治せなかった医師たちだ。 だからこそ王であった父上の症状を思い出せば真実の解明をしたいと思うのも当然だろう。

 それでも……僕は恐怖からこういうしかなかった。

『安易に決めつけるな。 状況は慎重に対処し、魔法薬が持ち込まれた事実を配慮し、対処しておくように』

 ソレが精一杯の言葉だった。

 今日、久々に聖女が茶会を開くと言う話を聞いた。

それは薬が再び持ち込まれたと言うこと。 イザベルの髪色が金色にならなければ人前に出る事等ないのだから……。

 いっそ、そのまま消えてくれたなら。
 後が無い状況だと理解しているのか?

 だが、現実は違った。

 仕事上ティアと交流のある文官達、幼い頃から交流のあった騎士達が次々に報告に訪れたのだ。

『加護無しのティアが、聖女様をねたんで罠に嵌めたと言う噂が広まっています』

 何処から出た話なのか、考えずとも分かると言うものだった……。 だからこそ、イザベルの言葉に気色の悪さを覚えた。



『何かあったのかしらないけど、元気を出して』



「どうしたの? ボンヤリとして、疲れているのね。 酷いわ。 自分のたくらみが上手くいかなかったからと言って、ジェフに全ての仕事を押し付けるなんて」

 なんの疑問を持たずにイザベルは言葉を続けたのだ。

「元々は、僕の仕事だから……」

 何をどう答えればいいのか、考えが巡らない。

「でも、顔色も良く無いわ。 そうだ、とても元気になるお茶がありますのよ。 特別のお茶をジェフに入れてさしあげて!!」

 イザベルは自らが連れて来た侍女にそう告げた。

 お茶を淹れ始めるのを待って、ジェフロアはイザベルに問いかける。

「それより、何か用事があってきたのではないのか?」

「えぇ、そうなの聞いて!! ティアが私達を罠にかけようとしたと言うのよ!! 酷いわ、自分が加護を持たないからって私を嫉妬するにしてもあんまりだと思いません!! ジェフ、ティアを捕らえて……。 私のために捕まえて。 彼女が居れば何時か私達はダメにされるわ」

 必死に語る様子は……もし、事実を知らなければ、なんと言う不幸なのだろうかと嘆く事が出来たかもしれない。 だけど今のジェフロアには安易に彼女を信用する事は出来なかった。 出来ないからと言って、ソレを口にする事も出来ない。

 敵と認識されれば……きっと僕も殺されるのだろう。

「彼女は大公の娘だ。 証拠も無しに捕らえる事等出来ない。 彼女に与えられた権限は僕とは変わらない。 それがどういう事か理解できるのか?」

 僕が死ねば、王位をつぐのは大公となり、ティナとなる。 これを理解すれば直ぐに殺される事は無いだろう。

「えぇ、出来るわ。 私の方が偉いと言う事よね。 神殿を持つ国は一国二制度が普通、私は信仰による統治の王よ。 私が命じるわ。 彼女を捕らえて、私のために罰して、地下に取られて飼殺すの。 私達を馬鹿にしていた者に痛い目を見せるのよ」

 キラキラとした瞳。
 無邪気に語る純粋さ。

 どう、答えればいい?

「そうだな。 だが、目の前の仕事が優先だ」

「コレは私と王妃様のお願いよ。 彼女を捕らえれば全ては良くなるの。 だって、彼女こそが諸悪の根源なんだから」

 そう言ってお茶を渡してきた。

 中に何が入っているか……。

「私は間違っていない。 悪いのはティアよ。 彼女が居なくなれば、ジェフの悩みも消えるわ。 この国は神の国になるの。 民に優しい、民主体の国、平等で、誰もが飢えず、美味しいものを食べる事が出来る国になるのよ」

 黄金の瞳に見つめられたジェフロアは、ユックリとお茶に口をつければ、イザベルは嬉しそうに、大輪の花が咲くかのように笑った。

「美味しいでしょう」

 甘い香り……。 命に係わる魔法薬は、身体に影響が出るまで数回口にする事が必要となる。 1度や2度飲む程度では影響はないはずだ……。

「そうだな……。 残りの仕事を片付けたい……。 コレからは僕1人で行わなければいけないんだろう。 仕事に慣れないと……」

 ジェフロアは静かに言った。

 どうすればいいのか分からない……だけど、これで時間は稼げたはず……。 ジェフロアはお茶の残りを解析に出し、飲んだお茶を吐きだし……ソファに横になる。



 どうすればいい……。
 頼る相手を失ったジェフロアは途方に暮れる。










【↓にAI制作によるジェフロアのイラストあり】



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