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物語

17.王宮騎士の告白

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「別の部屋で、待たせて頂くわ……」

 冷ややかな声と共にティアが部屋を出ようとすれば、途切れがちの息と甘く乱れた吐息のままイザベルがティアを止めようとした。 その必死さにティアは嫌悪を隠す事なく扉に手をかければ、どうしてもティアを止めたいイザベルがジェフロアの手から逃れようとし、そんなイザベルをジェフロアは強く抱きしめる。

「ぁ、ああっ、あぁ、待っ、て、待ちなさい……お願い、私にはアナタが必要なのよぉおおおお」

 すすり泣くイザベルの声。
 ティアによって開かれた扉。

 ジェフロアは扉の前に立つ騎士に苦々し気な声で命じる。

「別の部屋で待ってもらってくれ」

 イザベルの声にならないティアを呼び止める叫び。
 重なるジェフロアの声は、苛立ちと疲れが帯びている。

 ティアはジェフロフの表情、声、その様子に覚えがあって、それは悲痛な記憶を呼び起こす。 ティアは顔を歪め逃げるように振りむくことなく足早に扉をくぐれば、そこに立っていた王宮騎士が頭を下げる。

 その人物には身に覚えがあった。
 ジェフロアの学友として共に学んだ事のある人物だった。

「申し訳ございません。 殿下の都合がつくまで少しばかりお待ちいただけますか?」

 話すべき事は沢山あったはずだった。
 だけど今のティアは疲れ切っていた。

 もう、安心できる所に帰りたい……ソレが全て。

「私の……騎士は何処かしら?」

「ご案内します」

 その王宮騎士の笑みは柔らかく、ティアを排斥する様子はない。

 幼いジェフロアは、学友として集められた者達を全て拒絶していた。 不安定を露わに悲痛な面持ちで泣きわめき暴力をふるっていた。 権力を持つ子供の横暴と暴力はティアを除き平等だった。 でなければティアは一瞬でも一時の間もジェフロアに恋心を抱く事はなかっただろう。

 ジェフロアの学友とは決して長い期間を共に学んだ訳で居た訳ではないけれど、ティアはジェフロアの過剰な暴力から学友を守る事はたびたびあり良い関係を抱いた人間も少なくはない。 そして目の前の王宮騎士もその一人だ。

「久しぶりですわね」

「覚えていてくださっており光栄です」

「ジェフロア様は、その、あの2人は何時もあんな感じなのですか?」

 ティアが問いかけた理由、ソレは魔力供給だったり、精神安定だったり、依存的行為だったり、確認的行為だったり、支配的行為だったり……様々な言いようがあるから。 ソレをしっているからこそ悲痛な表情をティアは浮かべていた。

 ソレを嫉妬や、裏切り等によってショックを受けたのだろうと勘違いしただろう王宮騎士は、戸惑いがちにティアと視線を合わせる事無く正面を向いたまま言う。

「私の口から言うべきではないのでしょうが、聖女様の精神は安定しておりません。 アレは薬の代替えでしかありません。 聖女様は、その力を発揮するための魔力量も集中力も不足しております。 薬による補助を継続的に行われているのは側に居る者であれば誰もが知っている事です……」

 僅かな躊躇いがあり、そして続けられた。

「聖女様の側についているものは、彼女が育った孤児院の者達。 それ以外の者達も……口の固いモノ達が揃えられていて、ジェフロア様へのアノ行為も秘匿されております」

 幼い頃、ジェフロアの横暴を共に受けていた同士とも言える相手ではあるが、その言葉はジェフロアに対して同情めいておりティアは嫌味のように言う。

「アナタが、ジェフロア様のフォローをするなんてね」

 苦笑交じりの言葉は、残念ねとでも言うように、信頼関係の終了を匂わせた。

「ティア様にはお気の毒だと思われます。 しかし、ジェフロア様も聖女様を支えるのに必死なのです。 あの方はきっと最初から聖女としての器ではなかったのでしょう」

 ティアは声に出す事なく肩をすくめて見せる。

 あの日、聖女としての華々しいデビューを見て、無邪気な笑顔を見て、誰が魔法薬によって作られた聖女モドキだと思うだろうか?! 

「ねぇ……今の彼女は聖女として機能しているの?」

「どう、でしょう……。 薬を使い能力を維持し、殿下が精神的に支えてこそでしょうか? 今のあの姿を見て、聖女様の代わりに奇跡を行おう等と言う神官も巫女もいないでしょう。 聖女様に求められる奇跡は特別ですから……」

 だから、奇跡の代わりに精神を向上させる中毒性の魔法薬が使われているのだろう。 イザベルを支える神官・巫女の予備軍とされる者達(王妃運営の孤児院の子供達)も、消耗品とされないように必死なのかもしれない。

「神の奇跡を失った。 そう……神聖皇国に訴え、聖女認定を解除してもらった方が良いのかもしれませんね」

「それが……、何度か認定解除のための手続きや、使者を送ってはいるのですが、その都度妨害が入っていると言う事です」

「誰がそんな事を?」

「……予測でしかありませんが……王妃様の孤児院では、奇跡を発動できる神官・巫女は多く、聖女候補とされる者も多く、他国にも派遣予定があるとか……そのため、多額の支援がなされているとかいないとか」

「曖昧ね……」

「えぇ、その通りです。 多くの命の対価としては……」

 よく、調べたと言える。
 よく、調べさせたと言える。

 聖女は、国家によって指名がなされる


“〇〇出身の誰ソレを、△△国の国家聖女に指名する”


 このような申請を国が神聖皇国に行う。
 これによって、神聖皇国と国は深く結びつく。
 それにより『侵略戦争』は行われない。

 神聖皇国のメリットは、聖女=王 として信仰で人を支配する。
 侵略戦争を行わずに、神聖皇国は属国を得る事となるのだ。

 申請がなされた後に、聖女は神聖皇国で聖女に相応しいかのテストを受け合格する事で、改めて国家聖女として任命がなされる。

 ジェフロアはティアの知らない所で

“イザベルは聖女の資格を失った”

 そんな書簡や使者を送り続けていたと言う事だった。

「……知らなかったわ……」

 同情ぐらいは覚える。

 だけど、自分が逃れるために私を犠牲にしようと言うなら……ムカつくだけだ……。

「だからこそ、聖女様達はティア様を必要としているのです」

 魔法薬として……
 依存先として……
 思考を精神を操る寄生生物のように……。

「アナタ達は、イザベル様が魔法薬を使っていた事を知っているのね」

「聖女様が魔法薬を利用している事は、いえ……聖女様のために魔法薬を準備し使わせている事は、側に仕えているものであれば誰もが知っている事です」

 この誰もがも、今となればイザベルとジェフロアの側にいる王妃が運営する孤児院出身の侍女と、一部の王宮騎士に限定されていると言う事だった。

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