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73.宣言
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強引と言えば、息子たちの死を悲しむ皇帝と第二皇妃に対するシグルド様の対応も、かなり強引なものに思えた。 正直言えば、その場にいる事を私は聞けんだと思った。
「陛下、皇妃、失礼します!!」
嘆き悲しみ、泣き叫び、抱きしめ合う。 そんな皇帝と第二皇妃の2人がいる部屋に、傍若無人に乗り込んで、彼は言う。
私は置いて行ってよ!!
と言う言葉は聞いてくれない……。
「俺は、愛する人を得た。 その人と共に生きたい。 俺の妻として迎える!!」
迎えてもいいでしょうか?
等の問いかけではない宣言。
「オマエは!! 弟達が死んだと言うのに何も思わないのか!!」
「思いますとも、俺はあの2人のように馬鹿な事はしませんが、人間等、いつ、どんな状況で死ぬか分からない。 なら、跡取りは作っておくべきだとね」
「ふざけるなぁあああ!! あの2人は、オマエとは違って完璧な人間だった!! オマエが死ねば良かったのに!!」
「ソレは無理ですよ。 俺は馬鹿な事をしない。 それに、あの2人の馬鹿は治らなかった」
シグルド様が2人に会うために向かった場所は、決して2人が共に使っているプライベートルーム等ではない。
この帝国の玉座。
不必要なほどに華美で美しく、重厚な場所。
玉座に座る皇帝と、その膝の上に座り、身を預け、顔を胸元に埋め嘆く第二皇妃。 余りにも哀れで人々の視線を釘付けにする。
どれだけ皇帝の地位にすがりついているのだろうか? この無能は……正直そう思った。
反面……2人は大勢の人に囲まれる事で、心の安寧を確保しようとした。 誰かが自分達を殺そうとしないように……彼等は心のどこかで、息子たちが殺されたと思っている。 そして、自分達も危険だと思っている。
誰が……息子たちを殺した。
誰が、私達を殺そうとしている。
息子の死を嘆きながら、彼等は未来に震えていた。
この帝国の民は2人の皇子の死を嘆かない。
2人の死の原因を追究し、仕返しをと望まない。
望むはずが無い。
それほどまでに2人の皇子は、身勝手で退廃した日々を送っていたから。
残酷で、冷酷、人を道具のように扱うような人達だった。 薬を使用し、どこまでも幸福を突き詰めていた。 なんの悩みも無く、不幸も、不安も、劣等感も無い。 反面……薬が切れれば反動が酷かった。
ただ歩いているだけで、押し寄せる不安、不快、憎しみ、恨み、妬み、嫌悪、怒り、止む事の無い心理的な苦痛。 人の顔を見れば、自分達を馬鹿にしているように見えていた。 聞こえない声が聞こえ、見えない嘲笑が見えた。
だから、第二、第三皇子達は意味もなく人を罰した。
とうとう死んだか……。
皇子達の死を望むもの。
皇子達の死を嘆くもの。
どちらも、そう考えていたが……その後の思いは違っている。
あぁ、良かった。
我々の未来は安泰だ……。
人々は、皇子達の死を喜び、冷ややかに、冷静に、皇帝と皇妃の悲しみを嘲笑い、時を狙う。
「あぁ、分かった……オマエが殺した。 そうだ、オマエが殺したんだ。 あの子達に嫉妬して」
「はっ、嫉妬するような立派な奴等か。 奴等が出来ただろう事は、俺が作り上げたものを横からかすめ取る事ぐらいだ。 そして、俺は、そんなものに未練はない。 王位なんていらない。 ただ……俺は愛した人と共に居たいだけだ……だから、俺は行く。 後は勝手にしろ」
シグルドは笑いながら言葉を残し、そして……ヴェルディとの婚姻を望むために、ルドリュ伯爵領へと向かった。
「陛下、皇妃、失礼します!!」
嘆き悲しみ、泣き叫び、抱きしめ合う。 そんな皇帝と第二皇妃の2人がいる部屋に、傍若無人に乗り込んで、彼は言う。
私は置いて行ってよ!!
と言う言葉は聞いてくれない……。
「俺は、愛する人を得た。 その人と共に生きたい。 俺の妻として迎える!!」
迎えてもいいでしょうか?
等の問いかけではない宣言。
「オマエは!! 弟達が死んだと言うのに何も思わないのか!!」
「思いますとも、俺はあの2人のように馬鹿な事はしませんが、人間等、いつ、どんな状況で死ぬか分からない。 なら、跡取りは作っておくべきだとね」
「ふざけるなぁあああ!! あの2人は、オマエとは違って完璧な人間だった!! オマエが死ねば良かったのに!!」
「ソレは無理ですよ。 俺は馬鹿な事をしない。 それに、あの2人の馬鹿は治らなかった」
シグルド様が2人に会うために向かった場所は、決して2人が共に使っているプライベートルーム等ではない。
この帝国の玉座。
不必要なほどに華美で美しく、重厚な場所。
玉座に座る皇帝と、その膝の上に座り、身を預け、顔を胸元に埋め嘆く第二皇妃。 余りにも哀れで人々の視線を釘付けにする。
どれだけ皇帝の地位にすがりついているのだろうか? この無能は……正直そう思った。
反面……2人は大勢の人に囲まれる事で、心の安寧を確保しようとした。 誰かが自分達を殺そうとしないように……彼等は心のどこかで、息子たちが殺されたと思っている。 そして、自分達も危険だと思っている。
誰が……息子たちを殺した。
誰が、私達を殺そうとしている。
息子の死を嘆きながら、彼等は未来に震えていた。
この帝国の民は2人の皇子の死を嘆かない。
2人の死の原因を追究し、仕返しをと望まない。
望むはずが無い。
それほどまでに2人の皇子は、身勝手で退廃した日々を送っていたから。
残酷で、冷酷、人を道具のように扱うような人達だった。 薬を使用し、どこまでも幸福を突き詰めていた。 なんの悩みも無く、不幸も、不安も、劣等感も無い。 反面……薬が切れれば反動が酷かった。
ただ歩いているだけで、押し寄せる不安、不快、憎しみ、恨み、妬み、嫌悪、怒り、止む事の無い心理的な苦痛。 人の顔を見れば、自分達を馬鹿にしているように見えていた。 聞こえない声が聞こえ、見えない嘲笑が見えた。
だから、第二、第三皇子達は意味もなく人を罰した。
とうとう死んだか……。
皇子達の死を望むもの。
皇子達の死を嘆くもの。
どちらも、そう考えていたが……その後の思いは違っている。
あぁ、良かった。
我々の未来は安泰だ……。
人々は、皇子達の死を喜び、冷ややかに、冷静に、皇帝と皇妃の悲しみを嘲笑い、時を狙う。
「あぁ、分かった……オマエが殺した。 そうだ、オマエが殺したんだ。 あの子達に嫉妬して」
「はっ、嫉妬するような立派な奴等か。 奴等が出来ただろう事は、俺が作り上げたものを横からかすめ取る事ぐらいだ。 そして、俺は、そんなものに未練はない。 王位なんていらない。 ただ……俺は愛した人と共に居たいだけだ……だから、俺は行く。 後は勝手にしろ」
シグルドは笑いながら言葉を残し、そして……ヴェルディとの婚姻を望むために、ルドリュ伯爵領へと向かった。
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