【R18】利用される日々は終わりにします【完結】

迷い人

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60.変化に安堵し恐怖する 03

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 美しい花々が咲き乱れる庭を眺めるテラスで、貴族夫人たちはお茶をしていた。

「お待たせしました」

「あら、今日もとても素敵なドレスを着ておいですわね」

 ゆっくりと粘りのある声は、深く甘く、巻きつくようだった。

「そのドレスは、どのような仕組みになっておりますの?」
「その髪飾りに使われている花は、宮殿で飾られている物のように美しいですわ。 でも、花はすぐに衰えるでしょう? どのように維持されているのかしら?」

「十分な支度をできる間もなく、田舎者らしい恰好をお見せした事ご容赦くださいませ。 お見苦しいでしょう? ごめんなさい」

 私は、スカートを掴み、膝を少しだけ曲げて礼とした。

 彼女達の着ているドレスは豊かな胸を大きく開き、柔らかなウエストをコルセットで引き締めつけ、スカートは骨組みで大きく広げ重たそうだ。 それは、豊かさであり美の象徴。

 作業には不向きそうだなぁっと思った。

「いえ、とても可愛らしいですわ。 私ももう少し若ければ、是非、着てみたいですわ」

「そうですわねぇ。 皆様でしたら、胸元をもう少しセクシーにしてスカートの骨組みを無くし、ウエストから腰、足のラインを綺麗に見せた方が良いと思いますわ」

「それは、とても……奇抜ですわね……」

「うふふ、貴方方は、新しい物を求めていらっしゃるのでしょう? でも、そうやって新しいものを受け入れる事も出来ない方が、新しい物を受け入れ、時代を変える事ができるのかしら? 私達の会話は余り有意義ではないようですわね」

 空腹の私は少しばかり攻撃的だったかもしれない。

 言えば、ざわりと人々は騒めいた。

「あらあら、そんな事をきになさっているの」

 曖昧なウフフと言う笑いを浮かべるのは客人3人。

「とても面白くて、参考になるはなしですわ」

 でも動揺はない。

「もっと、お話を聞かせていただけないかしら? 私達には貴方が必要よ。

 嘘だ!! 早く帰って!! と言う脳内妄想を排除し、微笑みに微笑みで返した。

「こちら、お返しいたしますわ」

 そっとテーブルの上に置かれたのは、シルバーのブレスレットに美しい模様が描かれたもの。 美しさを作っているのは、色づき形作るように磨かれたガラス。

「そちらは、お持ちください。 もし、興味があればですが」

「そう言えば、ルドリュ伯爵家令嬢は、今の宮殿、王家の事を聞きたいと望んでいられると伺いました。 私達、令嬢のためにお教えする事ができましてよ?」

「いえ、もう結構ですわ。 私も都合がありますの」

「そうおっしゃらないで、私達は、貴方と仲良くなりたいの。 だから、貴方にお話しをするわ。 この国は選択の時が来ておりますの。 皇子達は戦を見据え、日々己を磨いておいでですわ」

「ソレは、どの皇子かしら?」

「全ての皇子が、です」

「まさか……」

 昨日の事を無かったことにするつもりなのかしら?
 薬漬けで、なんの鍛錬なのだろうか?

「自らの騎士団を作り、人の上に立つ決意をなさっておいでです。 そして、その力は日々力を増しておいでです。 どうか、その目で判断してください。 私共は、皇子の名の元に、可能性を持つ若者を集めたいのです。」

「私は、静かに平和な日々を送りたいの」

「そう、でしたら、貴方が貴方の望む世を皇子に伝え、導いて頂けるようお願いをするべきではないかしら?」

「ここで、安穏と生活していても、この国はいずれ割れるでしょう。 そうならないために私達は語り合い、心を一つにしなければなりませんの」

「ぇっ?」

 頭の中がぐらぐらとし、身体が斜めに倒れていく。

 気持ち悪い……。
 頭が痛い……。

 これは何?

 そして私は意識が朦朧とする中で、矢継ぎ早に語られる言葉に苦し気に伝える。

「止めて……」

「いえ、止めません。 大切な話なのです。 聞いて下さい」

 肩を掴まれ、抱きしめられ、甘ったるい匂いが鼻孔をくすぐる。

「ねぇ、私達は、知りたいの。 貴方がどんな世界を求めるのかを? 貴方が世界にどう貢献できるのかを? 我らの愛すべき皇帝と、その皇子達のために……」

 そして、私の意識は途絶えていた。
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