【R18】利用される日々は終わりにします【完結】

迷い人

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56.欠如した常識 01

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 一体、どっち……なのかしら?

 条件的に考えればシグルド様に間違いはない。
 何より姿が同じなのだから、疑う必要もないはず。

 な、の、に!! 私が悩まなければいけないのは、彼が人間の言葉を話さないから。

 昨日図書館で調べた内容には【獣化によって理性を失う】そうあった事を思い出せば、早い段階で、クロード様の元に連れて行って相談したほうが良いだろうと思う訳だ。

 理性を失い、昨日の夜から散歩を続けているなら、とても心配されている事でしょう。 もう宮殿には行きたくはないのだけど、こればかりは仕方がないと言うものです。

「あぁあああ!! もう!!」

 思わず湯舟の中で叫べば、部屋の方から騒々しい音が聞こえだす。



 ばたばたと歩き。
 がるうぅぅぅがるるるううるる。
 退きなさい!! と言うランバールの怒声。
 そして、家具が投げられ、生物が壁にぶつかり、倒れ込む。

 そんな音。

 喧嘩? 喧嘩かしら? これは、ユックリと風呂入って考え事をしている余裕なんて無いわね。

「いい加減にしなさい!!」

 私は、室内でバトルを行っている1人と1匹に声を大きく止めた。

 既に、ランバールは床に腰を落とし、犬が足でソファを蹴飛ばしランバールに向かって飛ばしながら、鏡台の椅子にかけられているガウンへと向かい、振り向きざまに私にガウンを投げて来た。

 ぶっ!!

 痛くはいなけど、顔面にヒット。

「何するのよ!!」

 がうがうがうがうぐあぐあう。

 なんだか、凄く怒られた。 だが、ここで終わりではなかった。

「わ、わかります!! 私!!」

 声を上げたのは、最近侍女として雇われたと言う、成人を迎えたばかり(15歳)の少女ホリー。 ホリーの大きな声と、向けられる同意、犬はビクッと驚き、説教を止め一瞬侍女へと視線を向け、そして戸惑っていた。

 侍女は犬から距離を取るようにしながらも、壁伝いに私の側まで来て、私が手に持ったままのガウンを奪い、私に着せようと袖を通させた。

「ねぇ、そんな事より、分かるって、この子の言っている言葉が分かりますの?!」

「いえ、わんちゃんの言葉は分かりませんよぉ~。 ただ、あぁ~、きっとこう言いたいんだろうなぁ~って」

「これ、およしなさい!! ホリー」

 屋敷内で最年長の侍女が声を荒げた。 年配の侍女であるが、ここに来るまで面識のなかった侍女。

「でも、お嬢様が知りたがっていますし、他所で同じ事をすると大変だと思うんですけど? お嬢様だって、他所で恥をかきたくはないですよね?」

「それは、そうですけど……何が問題ですの?」

「お嬢様は、余り他所の方々と関わった事がないでしょうし、貴族としてお世話を受ける事が当たり前になっているのでご存じないのでしょうが……」

「お嬢様に対して、なんて口をきいているの!!」

「ですが、お嬢様だって知っておくべき事です!! 一般的には、例え幼い頃から世話役をしているとは言っても、その方が将来を誓った方であっても。 いえ、誓いあった方であればこそ、そんな堂々とした佇まいで全裸を見せるものではありません!!」

「ぇ?!」

 年配の侍女を見れば、はぁ……と溜息と共に視線を逸らされた。

 えぇええええええ。

「でも、でも、子供の頃からそうですし」

「子供の頃から、同じように繰り返されていると言うのが問題なんですよ。 お嬢様、ランバール様との関係に何か進展がございましたか?! お嬢様がこんなにも美しい肢体を露わにしていると言うのに、その瞳に揺らぎ一つないのですよ?!」

「進展って言うと、エッチな事とか? そ、そういうのは、結婚もしていないんだから、する訳ないじゃない!!」

「普通は結婚していなくても、良い雰囲気になれば、何か変化って言うのがあるものですよ」

 ずいっと顔が寄せられた。

「まだ幼い無邪気さを持ちつつも、美しくて……触れて……見たくなるものですわ」

 壁に追い込まれた私の頬に指先が伸ばされれば、混乱と共に私は後ずさった。
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