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50.新しい関係の始まり

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 そして食事と言えば、パンに具を挟んだだけのものをキッチンからクロード様が持ってきた。 そして、もう少しだけ勉強会を続け、空が黒く染まるのを待ち、人目を避けながら私は帰らせてもらえることになった。

「わざわざ送って下さらなくても……」

 そう告げる相手は、未だ犬の姿のシグルド様。

『この方が早いし、人目を避けられる。 協力してもらったのに、これ以上の迷惑をかけたくはない。 できるなら、ゼーレン公爵家のパーティには他の奴を出して』

「うん」

 犬の背に乗せられながら屋根の上を身軽にぴょんぴょん飛び回る。 乗り心地の悪さはあるが……貴重な経験ではあるなと思う訳だ。

「ぁ、迎えに来て……いる……らしい?」

 同じように屋根の上にいるランバールとミランダを見つけた。 不機嫌そうなランバールと、取り繕っているかのようなミランダの姿。 決して良好な関係には見えないのに、2人の間には妙な気安さ、と言うか、親しみと言うか、私の知らない世界がそこにあるような気がした。

『あの、人影には、後でオマエが帰ったと報告しよう』

「なぜ?」

『その方がいい……』

「もしかして、屋敷まで来ようって?」

『そうだよ』

 告げる声は、とても強く真面目だった。 ソレはソレでアッサリとしており拍子抜けと言うか……コレでは警戒し過ぎる私が馬鹿みたいだと思った。

 最初に将来を約束した人がいると告げなかった私が悪いのでは? そう思ってしまう訳だ。

「ぇ、ううん……屋敷の近くまで送ってくれればいいよ。 その姿を人に見られるのは嫌なんでしょう?」

『いや、普通はそうらしいが。 俺はホルト帝国に生まれたせいか、この姿を見られて恥ずかしいと言う感覚が無いから』

「でも、ほら、全裸な訳じゃない?」

『……いや……この格好で服を着ている方がオカシイだろう?!』

 困惑を露わにしたような様子に私は、笑って見せた。

『屋敷が、バレてイヤなら、誰かに迎えを頼むと良い。 遠くから危険がないよう見守るから』

「平気、屋敷まで送って行って。 屋敷は森の方よ」

 夜の散歩の時間は少しだけ伸びた。
 風は冷たく頬を撫でる。

『……悪い、何か上掛けをもってくればよかった』

「もう、屋敷まで近いから大丈夫」

 屋敷の場所は帝都の中では不便な場所。
 森から出た森の民が多く身を寄せているためか、妙に濃い魔力が漂っていた。 弱い人であれば、森に入った時点で方向感覚を失い、森の外に出てしまうだろう。

 シグルド様は、私が案内をせずとも、道を走っていた。 ルドリュ伯爵家は爵位の割に広い屋敷を所有している。 驚くだろうか? と、不安に思ったがシグルド様は気にする様子はなく、速度を緩めながら私に聞く。

『えっと、何処に下ろせばいい?』

「そうですねぇ、バルコニーで」

 私は自分の部屋を指さした。

『鍵をかけていないのか?』

「かけてはいますが、まぁ開ける事もできますから」

 魔法で……。

『別にみられて不快と言う事は無いが、俺を見た奴が怖がって騒ぎになるのも問題だ』

「そうね、皇太子殿下は怖いわ。 多分、今の姿よりも」

『えっと、ソレは、少し複雑だ』

「殿下は、自分の立場と言うものを理解する必要がありますわ。 貴方はこの国にとって最も重要な方なのですから。 一挙手一投足が国を揺るがす事になると言う事をご理解された方が良いと思いますよ」

『分かった。 では、俺は行く。 世話になった……申し訳無いが、また力になってくれると助かる……』

「そうね……」

 講師として中途半端に放棄してしまった責任はある……かも……。 私が、彼に余計な知識を与えなければ、自由に生きると言う選択も残されたのだろうから。

「次は行動する前に承諾を取ってください。 シグルド様」

『ぇ、あぁ……』

「ヴェルディ・ルドリュ。 ヴェルでいいですよ」

『ありがとうヴェル。 また、会いに来る』
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