51 / 75
05
50.新しい関係の始まり
しおりを挟む
そして食事と言えば、パンに具を挟んだだけのものをキッチンからクロード様が持ってきた。 そして、もう少しだけ勉強会を続け、空が黒く染まるのを待ち、人目を避けながら私は帰らせてもらえることになった。
「わざわざ送って下さらなくても……」
そう告げる相手は、未だ犬の姿のシグルド様。
『この方が早いし、人目を避けられる。 協力してもらったのに、これ以上の迷惑をかけたくはない。 できるなら、ゼーレン公爵家のパーティには他の奴を出して』
「うん」
犬の背に乗せられながら屋根の上を身軽にぴょんぴょん飛び回る。 乗り心地の悪さはあるが……貴重な経験ではあるなと思う訳だ。
「ぁ、迎えに来て……いる……らしい?」
同じように屋根の上にいるランバールとミランダを見つけた。 不機嫌そうなランバールと、取り繕っているかのようなミランダの姿。 決して良好な関係には見えないのに、2人の間には妙な気安さ、と言うか、親しみと言うか、私の知らない世界がそこにあるような気がした。
『あの、人影には、後でオマエが帰ったと報告しよう』
「なぜ?」
『その方がいい……』
「もしかして、屋敷まで来ようって?」
『そうだよ』
告げる声は、とても強く真面目だった。 ソレはソレでアッサリとしており拍子抜けと言うか……コレでは警戒し過ぎる私が馬鹿みたいだと思った。
最初に将来を約束した人がいると告げなかった私が悪いのでは? そう思ってしまう訳だ。
「ぇ、ううん……屋敷の近くまで送ってくれればいいよ。 その姿を人に見られるのは嫌なんでしょう?」
『いや、普通はそうらしいが。 俺はホルト帝国に生まれたせいか、この姿を見られて恥ずかしいと言う感覚が無いから』
「でも、ほら、全裸な訳じゃない?」
『……いや……この格好で服を着ている方がオカシイだろう?!』
困惑を露わにしたような様子に私は、笑って見せた。
『屋敷が、バレてイヤなら、誰かに迎えを頼むと良い。 遠くから危険がないよう見守るから』
「平気、屋敷まで送って行って。 屋敷は森の方よ」
夜の散歩の時間は少しだけ伸びた。
風は冷たく頬を撫でる。
『……悪い、何か上掛けをもってくればよかった』
「もう、屋敷まで近いから大丈夫」
屋敷の場所は帝都の中では不便な場所。
森から出た森の民が多く身を寄せているためか、妙に濃い魔力が漂っていた。 弱い人であれば、森に入った時点で方向感覚を失い、森の外に出てしまうだろう。
シグルド様は、私が案内をせずとも、道を走っていた。 ルドリュ伯爵家は爵位の割に広い屋敷を所有している。 驚くだろうか? と、不安に思ったがシグルド様は気にする様子はなく、速度を緩めながら私に聞く。
『えっと、何処に下ろせばいい?』
「そうですねぇ、バルコニーで」
私は自分の部屋を指さした。
『鍵をかけていないのか?』
「かけてはいますが、まぁ開ける事もできますから」
魔法で……。
『別にみられて不快と言う事は無いが、俺を見た奴が怖がって騒ぎになるのも問題だ』
「そうね、皇太子殿下は怖いわ。 多分、今の姿よりも」
『えっと、ソレは、少し複雑だ』
「殿下は、自分の立場と言うものを理解する必要がありますわ。 貴方はこの国にとって最も重要な方なのですから。 一挙手一投足が国を揺るがす事になると言う事をご理解された方が良いと思いますよ」
『分かった。 では、俺は行く。 世話になった……申し訳無いが、また力になってくれると助かる……』
「そうね……」
講師として中途半端に放棄してしまった責任はある……かも……。 私が、彼に余計な知識を与えなければ、自由に生きると言う選択も残されたのだろうから。
「次は行動する前に承諾を取ってください。 シグルド様」
『ぇ、あぁ……』
「ヴェルディ・ルドリュ。 ヴェルでいいですよ」
『ありがとうヴェル。 また、会いに来る』
「わざわざ送って下さらなくても……」
そう告げる相手は、未だ犬の姿のシグルド様。
『この方が早いし、人目を避けられる。 協力してもらったのに、これ以上の迷惑をかけたくはない。 できるなら、ゼーレン公爵家のパーティには他の奴を出して』
「うん」
犬の背に乗せられながら屋根の上を身軽にぴょんぴょん飛び回る。 乗り心地の悪さはあるが……貴重な経験ではあるなと思う訳だ。
「ぁ、迎えに来て……いる……らしい?」
同じように屋根の上にいるランバールとミランダを見つけた。 不機嫌そうなランバールと、取り繕っているかのようなミランダの姿。 決して良好な関係には見えないのに、2人の間には妙な気安さ、と言うか、親しみと言うか、私の知らない世界がそこにあるような気がした。
『あの、人影には、後でオマエが帰ったと報告しよう』
「なぜ?」
『その方がいい……』
「もしかして、屋敷まで来ようって?」
『そうだよ』
告げる声は、とても強く真面目だった。 ソレはソレでアッサリとしており拍子抜けと言うか……コレでは警戒し過ぎる私が馬鹿みたいだと思った。
最初に将来を約束した人がいると告げなかった私が悪いのでは? そう思ってしまう訳だ。
「ぇ、ううん……屋敷の近くまで送ってくれればいいよ。 その姿を人に見られるのは嫌なんでしょう?」
『いや、普通はそうらしいが。 俺はホルト帝国に生まれたせいか、この姿を見られて恥ずかしいと言う感覚が無いから』
「でも、ほら、全裸な訳じゃない?」
『……いや……この格好で服を着ている方がオカシイだろう?!』
困惑を露わにしたような様子に私は、笑って見せた。
『屋敷が、バレてイヤなら、誰かに迎えを頼むと良い。 遠くから危険がないよう見守るから』
「平気、屋敷まで送って行って。 屋敷は森の方よ」
夜の散歩の時間は少しだけ伸びた。
風は冷たく頬を撫でる。
『……悪い、何か上掛けをもってくればよかった』
「もう、屋敷まで近いから大丈夫」
屋敷の場所は帝都の中では不便な場所。
森から出た森の民が多く身を寄せているためか、妙に濃い魔力が漂っていた。 弱い人であれば、森に入った時点で方向感覚を失い、森の外に出てしまうだろう。
シグルド様は、私が案内をせずとも、道を走っていた。 ルドリュ伯爵家は爵位の割に広い屋敷を所有している。 驚くだろうか? と、不安に思ったがシグルド様は気にする様子はなく、速度を緩めながら私に聞く。
『えっと、何処に下ろせばいい?』
「そうですねぇ、バルコニーで」
私は自分の部屋を指さした。
『鍵をかけていないのか?』
「かけてはいますが、まぁ開ける事もできますから」
魔法で……。
『別にみられて不快と言う事は無いが、俺を見た奴が怖がって騒ぎになるのも問題だ』
「そうね、皇太子殿下は怖いわ。 多分、今の姿よりも」
『えっと、ソレは、少し複雑だ』
「殿下は、自分の立場と言うものを理解する必要がありますわ。 貴方はこの国にとって最も重要な方なのですから。 一挙手一投足が国を揺るがす事になると言う事をご理解された方が良いと思いますよ」
『分かった。 では、俺は行く。 世話になった……申し訳無いが、また力になってくれると助かる……』
「そうね……」
講師として中途半端に放棄してしまった責任はある……かも……。 私が、彼に余計な知識を与えなければ、自由に生きると言う選択も残されたのだろうから。
「次は行動する前に承諾を取ってください。 シグルド様」
『ぇ、あぁ……』
「ヴェルディ・ルドリュ。 ヴェルでいいですよ」
『ありがとうヴェル。 また、会いに来る』
0
お気に入りに追加
457
あなたにおすすめの小説
人形な美貌の王女様はイケメン騎士団長の花嫁になりたい
青空一夏
恋愛
美貌の王女は騎士団長のハミルトンにずっと恋をしていた。
ところが、父王から60歳を超える皇帝のもとに嫁がされた。
嫁がなければ戦争になると言われたミレはハミルトンに帰ってきたら妻にしてほしいと頼むのだった。
王女がハミルトンのところにもどるためにたてた作戦とは‥‥
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る
新高
恋愛
※第15回恋愛小説大賞で奨励賞をいただきました!ありがとうございます!
※※2023/10/16書籍化しますーー!!!!!応援してくださったみなさま、ありがとうございます!!
契約結婚三年目の若き伯爵夫人であるフェリシアはある日記憶喪失となってしまう。失った記憶はちょうどこの三年分。記憶は失ったものの、性格は逆に明るく快活ーーぶっちゃけ大雑把になり、軽率に契約結婚相手の伯爵の心を抉りつつ、流石に申し訳ないとお詫びの品を探し出せばそれがとんだ騒ぎとなり、結果的に契約が取れて仲睦まじい夫婦となるまでの、そんな二人のドタバタ劇。
※本編完結しました。コネタを随時更新していきます。
※R要素の話には「※」マークを付けています。
※勢いとテンション高めのコメディーなのでふわっとした感じで読んでいただけたら嬉しいです。
※他サイト様でも公開しています
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる